尊厳破壊はもうやめてっ!
翌日、今度は服屋に連れて行ってくれた。
その店『ドレスコード・ゴシック』は、リリーナが着ているような、フリルやリボンで飾られた幻想的なドレスの専門店のようだ。
『ゴスロリ』というブランドらしく、夢見がちなお嬢様向け。
なんでも、リリーナがこの手の服を着て歩いているのは、このゴスロリブランドを宣伝するためでもあるらしい。
最近はかなり浸透してきたとか。
店長も、リリーナのおかげで儲けが上がっていると手揉みしていた。
オーナーとして、しっかり店の利益に貢献しているわけだ。
その後は、目を輝かせた店員と、鼻息を荒くしたリリーナの着せ替え人形にされて大変だった。
尊厳破壊はもうやめてっ!
それにしても、スイーツにブランドかぁ。
自分の好きなことに集中しているのは好感が持てる。
もしかすると彼女は、オーナーとしての威厳を保つために普段のような言動をとっているのかもしれない。
「今私が出資しているのは、昨日のカフェ・ハウルと今日のドレスコード・ゴシックの二店だけだ」
「そうなんですね。でも、店に出資するほどの資金をどうやって?」
どうしても不思議だった。
元貴族ということは、一度は資産を失ったはず。
いくら大きくない店とはいえ、経営を支えるほどの出資をするのには、膨大な資金がいる。
貧乏人の僕では想像もできないほど。
「それは、あの屋敷を担保にして、金庫番からの多額の融資を受けているからさ。不動産の担保があるだけで金利も安くなるし、店からの配当でカバーできる」
「そういうことだったんですか。しかし生活費の負担は厳しいのではないですか?」
当然の疑問だ。
高くはないとはいえ、自分への給料や二人分の生活費をまかなっているのだから、出費は少なくないはず。
もし僕の存在が負担になっているのなら、親切心から無理をして雇ってくれているのだとしたら……心から申し訳なく感じる。
それに、貴族の身分でない者が貴族になるには膨大な資産が必要だ。
まず最低条件として、侯爵や伯爵などの高位の貴族の持つ土地の一部を買わなければならないが、その資格として個人単位での莫大な富がなければならない。
土地を買ってすぐに破産したり、貴族としての金銭的余裕を持った振る舞いができなければ、爵位を授けた貴族の品位も疑われるからだ。
他にも戦場で武勲を上げたり、歴史に名を残すような偉業を成し遂げたりすれば、土地と爵位を与えられることもあるというが、あまり現実的ではない。
もし、自分を雇うことでその目標から遠ざかっているのだとしたら、もう彼女のそばにはいられない。
しかしリリーナは、表情を変えず淡々と答えた。
「大丈夫さ。金融商品や出資権の短期的な売買もしているから、君の想像以上に儲かっている」
彼女はそう言いながら、小さな店に入った。
個人で営んでいる情報屋だ。
「リリーナさんか、いらっしゃい」
「調べてほしいことがある」
「毎度どうも。今回はなにかな? 他国の金融相場かい? それとも商品の需要調査かい?」
「いいえ、アルゴス商会について知りたい」
「……え?」
僕は彼女の後ろで声を上げた。
アルゴス商会は僕をクビにした鉱石商だ。
彼女の意図が分からない。
金を払ってまで、無関係なアルゴス商会を調査するなんて。
「ほぅ、これはまた」
「主に直近の損失や人員の増減、商売に関すること全般で構わない」
そう告げると、リリーナは通貨の詰まった巾着袋をカウンターテーブルに置いた。
「へへっ、毎度ありー」
店を出た後、その真意を問うと彼女は不敵な笑みを浮かべて告げた。
「稼ぎ時だ」
と。





