まあでも、美味しそうだからいっかぁ
翌日、これから仕事だというリリーナに連れられ、とある店を訪れた。
『カフェ・ハウル』という喫茶店だ。
「「「いらっしゃいませ~」」」
店員たちの声が重なる。
猫耳を生やした獣人の女の子たちがフリフリのエプロンを着けていた。
「どうだい、可愛い制服だろう?」
「え? ま、まぁ……」
なぜかリリーナが誇らしげだ。
彼女が店員にヒソヒソとなにかを耳打ちすると、窓際の席へ案内される。
渡されたメニューを見ると、リリーナは頬が幸せそうに緩んでいた。
しかし、それは僕も同じで――
「――す、凄い……どれも美味しそうです!」
「うん、いい反応だ。好きなのを頼むといい」
さすがはリリーナさん、太っ腹だ。
せっかくなのでお言葉に甘えさせてもらおう。
「ありがとうございます。そうですねぇ、どれも凄く美味しそうで、迷ってしまいます」
「それなら、これはどう?」
彼女が顔をほころばせながら見せてきたページに描かれていたのは、生クリームを挟んだ大きなマカロンだった。
僕が目を輝かせて頷くと、リリーナの分もあわせて注文する。
まだ見ぬ極上のスイーツに思いを馳せて待っていると、周囲の女性客の声が聞こえてきた。
「ほら見て、あちらのお二人」
「まぁっ、お二人ともとてもお美しいわ」
「ええ、向かい合って座っているだけ絵になるわね」
「もしかして、昨日噂になってた、凛々しくて美しい謎の令嬢って……」
「リリーナさんもいらっしゃいますし、おそらく」
「きゃーっ、素敵~」
なんだか落ち着かない。
とはいえ、内装は淡い桃色基調で統一されたオシャレなカフェなので、若い女の子の客が多く、あまり気にはならなかった。
リリーナなんて、ゆったりと優雅に紅茶を飲んでいる。
あれ? 仕事をするって言ってなかったっけ?
まだなにもしていないどころか、スイーツを注文しちゃってるよ。
まあでも、美味しそうだからいっかぁ。
しばらくして念願のマカロンが運ばれてきて、僕はそれに夢中になった。
「――美味しかったぁ……」
あっという間に食べ終わってしまった。
こういうオシャレな店は、男の僕じゃ入る勇気がないから、内心かなり興奮した。
対面のリリーナも満足そうに頬を緩ませている。
やっぱりスイーツを楽しんでいるときは、年相応の女の子らしくて可愛い。
それからすぐに、店員がやって来てリリーナへ何事かを耳打ちした。
「……それじゃあ、行くか」
「へ? どちらへ? というよりもお代はどうされるんですか?」
「ついて来れば分かるよ」
そう言われてついて行った先は、店の奥の応接室だった。
ここは店内のような甘い雰囲気ではなく、シックで上品な感じだ。
ソファに座っていた柔和な中年の男が立ち上がり、リリーナへ頭を下げた。
リリーナは「どうも」と会釈して彼の向かいに座る。
「え、えっと……」
僕が戸惑っていると、リリーナが紹介してくれた。
「ルノ、こちらはカフェ・ハウルの店長のケイトさんだ。ケイトさん、彼女はルノ・カースト。私の護衛をしてくれています」
「へぇ、とてもお綺麗な方ですねぇ」
え? この店の店長さん!?
確かにそんな雰囲気はあったけど、リリーナといったいどんな関係が?
と混乱していると、彼女が目でなにかを訴えかけてきた。
おっと、いけないいけない。
「リリーナさんの護衛をしております、ルノ・カーストと申します。ケイト店長、どうぞよろしくお願い致します」
「はい、よろしく」
ケイトは優しげに微笑むと、リリーナへ向き直った。
二人はすぐに商談らしきことを始める。
内容はよく分からなかったので、僕は護衛としての役目に徹することにした。
長いこと数字の話が続き、僕のまぶたがヒクヒクし始めた頃、リリーナが突然興奮して大きな声を上げた。
「な、なんですって!? アイスクリームにコーヒーをかけるぅっ!? なんて大胆な発想……」
「はい、これがとても美味しいんですよ。間違いなく流行ります」
「ふむ……少し動揺してしまいましたが、いいでしょう。追加出資の件、前向きに検討します」
「おぉ、さすがは我らがオーナー様! 良いお返事をお待ちしております」
どうやら話は終わったようだ。
ケイト店長が立ち上がって深く頭を下げると、リリーナは「お邪魔しました」と言って部屋の扉を開ける。
僕は慌ててそれについて行った。
どうやら彼女は投資家だったようだ。
この店の出資者として出資し、利益の一部を配当として還元してもらうことで、稼いでいるらしい。
店側としても、リリーナのアドバイスは若い女性客の人気を得る上で非常に参考になるのだとか。





