幼馴染との変わりゆく関係とその行く末
『ねー、タカくん』
『どうしたの、ひなちゃん?』
『わたしたちって、大きくなったらけっこん? するのかな』
『え、なんで?』
『このまえ、おかーさんとおばさんがいってたから』
『ふーん、けっこんって、おかあさんたちみたいにいっしょにいるってことだよね』
『うん』
『じゃあ今とあんまりかわらないんじゃない?』
『あ、そうだね! えへへ!』
あの時の俺たちはまだ幼すぎて、結婚というものがどういうものかはわかっていなかったし、そんなことでドキドキするような事もなく。
そもそも俺とひな……藤野ひなは家が隣で同い年だから、という理由でいつも一緒にいたし、男の子と女の子ということもあり、母さんたちがそういう話で花を咲かせるのも、まぁ仕方ないのかな? と、今なら納得もできる。
子供の俺たちはよく意味もわかっておらず、結婚、という言葉も「ただ一緒にいるだけ」程度にしか捉えていなかった。
そんな俺たちも少しづつ成長し、今では高校生になり。
学年が上がると次第に距離も離れていくかと思っていた俺たちふたりだったが、特に離れる理由もなかったと言うかなんというか、今でもひなとの交流は続いており。
高校進学とともに離れるかと思いきや、同じ高校へと進学が決まったためにやはりこれといって離れる理由もないと言う。
ただ、学年が進むにつれて周囲が恋愛ごとで色づき始めると、今度は母親たちではなく友人たちがニヤニヤと話すようになったのは本当に鬱陶しかった。
やれ、「お前は彼女がいていいな」だの、「独り身の気にもなれ」、だの。
知るかそんなこと。
そもそも、俺とひなは。
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「タカくん、おばさんから預かってきたよ、はいお弁当」
「あー……悪いひな、朝急いでて忘れちゃったんだよなぁ」
「もう、おばさんがせっかく作ってくれてるんだから忘れちゃダメだよ!」
「明日から気をつける、サンキューひな!」
「どういたしましてー、今度なんか奢ってね」
「って弁当持ってきただけで奢りになんのかよ!」
「ここまで持ってきてあげた手間賃ですよタカくんや……あ、もう教室行かないと、じゃあねタカくん」
「おー」
ぱたぱたと手を振って自分の教室へと帰っていくひなを見送ると弁当の包みを持って自分の席へと帰った。
するとそこに待ち受けるのは、やはりというかにやにやと笑いを浮かべた級友たち。
今から何を言われるのか、そんなことは分かりきっている、ひなとのことを揶揄われるのだ。
「おうおうタカさんや、愛妻弁当かい羨ましいねぇ」
「朝っぱらから嫁さんに弁当届けさせるとかなんなの喧嘩売ってるの」
「お前らは一体何を言っているんだ」
中学生ならともかく、高校生にもなってこういうことを言ってくる連中は本当になんなんだろう。
普段は悪い奴らじゃないんだけど、ひなが関わると途端にウザくなりやがる……。
「ひなは嫁じゃねーし、幼馴染だっていっつも言ってるだろ」
「あらやだ聞きました斉藤さんの奥さん、ただの幼馴染にお弁当なんて持って来させます?」
「いえいえ、普通はそんなことしませんわよねぇ佐々木さんとこの奥さん!」
「お前らそのキャラうざいからまじやめろ」
「ていうか幼馴染を名前で呼ぶのがなんかもうあれだよな、なんていうか……死ね?」
「名前で呼ぶだけで!?」
「あーあ! タカが羨ましいよ、俺もあんな幼馴染がほしかったー!」
「右に同じ、ていうか幼馴染って空想上の生物じゃなかったのか……!」
「いやいや、お前らにもいるだろ幼馴染くらい」
幼馴染は、幼い頃に親しくしていた友達を指していう言葉だ。
この幼い頃、というのがいつ頃までを指すかは諸説あるが、俺個人としては小学校1年生くらいまでは幼馴染に含めてもいいのでは? と思っている。
つまり同じ小学校に通ってた同級生はだいたい幼馴染、これな。
「タカ、お前はわかってない、わかってないんだよ……!」
「異性! お隣! 小さい頃から一緒に育った! これを内包した幼馴染はすでにそれらとは別格!」
「幼馴染・ザ・幼馴染! これは古事記にもそう書かれている純然たる事実……っ!」
「いや書いてないから、ていうかなんだその古事記」
社会科と古語の先生に怒られろ、アホどもめ。
「しかも幼馴染で彼女ってなんだ、リア充は死ね、悉く死に絶えろ」
「呪われろ、30代までにハゲる呪いにかかれ、リア充」
「呪いの内容が陰湿すぎる……ていうかいっつも言ってるけどさぁ」
はぁ、これをいうのも一体何度めか。
いつも言っている一言を、俺は口にする。
「ひなは彼女とか、そういうんじゃねぇから」
「はいはいワロスワロス」
「な、これだからほんと、な? ジュース買うとき全部100円玉でお釣りが出る呪いにかかれ」
「だからいちいち陰湿なんだよなぁ!?」
「ていうか、ほんとに藤野と付き合ってねぇの、タカ?」
「付き合ってねー、俺らの間でそんな話になったこともねーよ」
「部活の帰りとか、よく一緒に帰ってるの見るけど、あれでも付き合ってないの?」
「いっつもじゃないだろそれ、お互いに帰りの時間が合う時だけだし」
「うーん……?」
というか、一緒に帰っているというそれだけのことで付き合ってる、となるのだろうか。
そんなことなら、部活帰り女子と一緒に帰っている連中は全員付き合っていることになるんじゃないだろうか。
駅まで話しながら帰る、とか割と普通じゃないか?
俺とひなの場合は、家が隣だから最後まで一緒にいるだけだし。
それに俺とひなの場合はいつも一緒にいるのが当たり前というか、まぁそう言う感じなので、今更彼氏彼女、と言うのもなんというか。
もう家族も同然と思っているので、恋人、なんて言われてもピンとこないと言うか……。
そんな風に、いつも通り悪友たちとグダグダと話す朝。
だと、思っていたのだが……。
「なぁタカ、ほんっとに付き合ってないんだとしたら――――」
「俺にもまだ、藤野さんにアプローチするチャンスがあるってことかな?」
「……あん?」
俺たちの後ろから、いつもは聞こえてこない声が聞こえてきた。
一体なんだと見上げてみるとそこにいたのは、普段会話をすることもないクラスメイト。
クラスカースト上位に君臨するまさにリア充の代表、池上が俺を見下ろしていた。
まぁ、それはいい。
それはいいとして、アプローチ? なんのことだ?
俺の表情から疑問を読み取ったのか、池上が口を開いた。
「ああ悪い、アプローチってのは、幼馴染の藤野さんについてだよ、付き合ってないっていうなら、俺にもチャンスがあるってことだろ?」
「まぁ、確かに付き合ってないけど」
「うん、それだけ聞ければ十分、実は付き合ってたのにーって後から恨み言とか言われるの、嫌だからさ」
それだけ言うと、池上が俺たちから離れて行った。
……なんだ、あれ?
池上はひなに気があったのか? そんなこと、初めて知ったんだけど。
ふぅん、ひなに、ねぇ……。
「お、なんか気分悪そうな顔してるぞタカのやつ」
「ふむふむ、ナイスフォローでしたな、池上氏」
「うっせ、そろそろHRの時間だぞ、席に帰れ席に」
しっしっ、とふたりを追い払うと、先ほど受け取った弁当箱をカバンの中へと入れ、モヤモヤとしたものを抱えながら担任教諭がくるのを待つのだった。
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その日の夜。
「タカくん、何か食べたいものある?」
「んー、特にない」
「もーっ、特にない、って言われるのが一番困るんだよー?」
「ひなの作るもんはだいたい美味いからなんでもいいよ、まじで」
「思い付かない言い訳っぽーい」
明日から連休と言うこともあり、うちとひなの両親は、揃って温泉旅行へと出かけてしまっていた。
しかも、子供をほったらかしにして、だ!
数年ほど前から稀によくある出来事だったので、もはや俺とひなが何かを言うこともなかったが、最初のうちはふたりして両親の悪口を言ったものだ。
そしてそういう時は、決まってひながうちに来て、夕飯を作るようになっていた。
鼻歌を歌いながら料理をするひなを見ながら、俺は今日の池上のことを思い出す。
アプローチ、ってあいつ本気なのかな?
だって、ひなだぞ? ちょっと料理ができて、勉強も……それなりにできるけど、なんか鈍臭くて、体育なんて全くダメダメで50mも走ると肩で息をするような、あのひなに?
一体あいつ、どこまで本気であんなことを言ったんだろう。
ひなは?
……ひなは、池上に告白、とかされたら、どう思うんだろう。
「なぁ、ひ――――」
「ねぇ、タカくん」
ひなに話しかけようとしたところ、逆にひなから話しかけられた。
危ない、俺は一体、何を言おうとしていたんだ……?
ゴクリ、と唾を飲み込むと、平静を装いながら、ひなに返事を返す。
「んー? どした、ひな?」
「タカくんのクラスに、池上くんっているでしょ」
「……おー、いるな、あんま話すことないから、どんな奴かはよく知らないけど」
危うく、変な声が出るところだった。
なんで今、このタイミングでひなの口から池上の名前が出るんだよ!
おのれひなめ、もしや読心術でも習ったのか!? ひなのくせに生意気な……!
などと思っていたのだが……。
「今日ね、放課後に池上くんに告白されたんだ、付き合ってくれーって」
「!? ……ふ、ふーん?」
あ、の、や、ろ、う!
今朝あんなこと言ってもう放課後にはそれかよ!
あーやだやだ、これだからチャラ男は! ……って、そんなこと言ってる場合じゃなくないか、俺。
え、ひなが告白された?
ナンデ!?
ぐわんぐわんと頭が揺れる。
なんで、そんな状態になっているのか、自分でもわからない。
それだけ、ひなが告白されたと言うのがショックだった。
『それで、どうしたんだ?』
この一言が、喉を通らない。
言ってしまうと、何かが決定的に変わってしまう、そんな予感がする。
俺が戸惑っている間に、ひながあれこれと話し出した。
いわく、放課後に急に呼び止められたと思ったら告白された、いきなりでびっくりした、告白なんて初めてされた、等々。
そんなちょっと嬉しそうなひなの様子から、なんとなく察するものがあった。
ああ、ひなは俺から離れていってしまうのか、と。
その時、はっきりと自覚した。
俺は――――……。
「もうっ、聞いててるのタカくんっ」
「え? あー、うん、聞いてる、うん、聞いてる、告白されたんだろ、おめでと」
「うん、それでね、タカくん」
「おう」
覚悟を決めろ、俺。
ぎゅっと一瞬目を瞑り、次のひなの言葉に備え……。
「どうすればいいかな、私」
「……はぇ?」
変な声が漏れた。
……。
…………うん?
こいつは一体何を言っているんだ。
「どうすればいい、って何がだよ」
「え、だから告白されたんだけど、どうすればいいかな、って」
「え、いやどうすれば、って告白されたんだよな、ひな?」
「されたけどー、ほら、やっぱりこういうのってタカくんに相談しなきゃー! って思って」
「思って?」
「池上くんには、タカくんに相談します、お返事待ってくださいごめんなさいって」
「は……はぁぁぁぁぁぁ!?」
え、いや何言ってんだこいつ。
そう思った俺を、誰が責められるだろうか。
どこの世界に、告白の返事を幼馴染に相談する奴がいるんだよ!
……いたわ、まさに今、俺の目の前に!!
先ほどまで揺れていた世界が定まっていくと同時に、ものすごい脱力感が体を襲う。
俺は……俺はこんな奴のために、さっきまでガチ凹みしてたのか……!
しかも、俺はこんな奴を……っ!
はぁー、と深いため息を思わずついてしまった。ああ、幸せが逃げていく。
「ね、どうしたらいいかなタカくん」
「……ちなみに、なんですぐ答えを返さなかったんだ?」
「うーん、なんかね、その時ふーっと頭にタカくんが浮かんだんだよね、『あ、タカくん泣いちゃうかも』って」
「泣かねぇし、お前の中の俺はなんかちょっとおかしいぞ」
「そうかなぁ? ……あとは、池上くんと付き合うーって考えた時に、あんまりしっくりこなかったから、かなぁ」
「じゃあもう結論出てんじゃねーか、断れそんなもん」
「そっかー…じゃあ、そうしようかなぁ」
「なんだそれ、俺が言った通りにすんのかよ、ひなは」
「えぇ……別にそういうわけじゃないけどさぁ」
ぐだぐだと言い訳を募るひなを見ていて思った。
こいつはダメだ、なんていうか、ダメだ。
これ以上放っておいたら、碌でもないことになる気しかしない。
だから、こう言うのだ。
「なー、ひな」
「んー、どしたのー? なんか食べたいものできた?」
「俺と付き合うか」
「うーん……うん!? うぇ!?」
ガシャンッ!
台所から、ものすごい音と、ものすごい声が出た。
ひながあんな声を出すところ、初めて見たかもしれん。
「お、おいおい大丈夫かよひな」
「だ、大丈夫っ! 大丈夫でございますっ、ちょっとびっくりしただけでございますっ!!」
「何だその話し方」
「も、もーっ、タカくんがびっくりさせるからじゃん! やめてよねそう言う冗談っ」
「いや、冗談じゃないんだけど」
「はぁっ!?」
ガタン!!
またも台所からひなの奇声が響く。
「な、な、なんでそうなるかな!?」
「なんでって言われると、すげー困るんだけど」
「やっぱり冗談なんじゃん」
「いや、まー、あれだ、うん……ひなが告られたって聞いて、すげー嫌な気分になったから……かな」
「な……なん……」
「やっぱ、嫌か?」
そう問うと、視線をキョロキョロと彷徨わせたあと、耳を真っ赤に染めながら俯き加減にポツリ、と。
「……嫌じゃない、ケド」
「けど?」
「けどやだ」
「やだ!?」
嫌がられた。
え、なんか俺フラれたんですけど、ウケる。
いやウケねーわ。
そっかー、嫌かー……そっかー……。
池上の時はとりあえず俺に相談しよう、と保留していたのに、俺の時は即嫌とはどういうことだ。
やはり顔面か、顔面偏差値の差か! 幼馴染としての10年以上の付き合いより顔面偏差値の高さが大事なのか! これだからリア充は俺の敵なんだちくしょう!
「あ、や、違う、違うの、やだってのはそう言うんじゃなくて!」
「……あ?」
「そのー、なんて言うか、笑わないでよ!?」
「おう」
「やじゃない、んだけど、もっとこう……その、雰囲気とかあるじゃん!?」
「雰囲気」
「そう! 流れで付き合おうかーとかじゃなくてもっとこう、そう言うシチュエーションとかあると思うの!」
「はぁ」
こいつは一体何を言っているんだ、本日2回目。
そう思いよくよくひなを見ると、その顔は耳まで真っ赤に染まっていた。
「も、もーっ! タカくんのばかっ! あほっ!」
「なんだよその言い方! 誰がアホだ、誰がっ!」
「あーもうっ! ほんと恥ずかしいんですけどっ!」
「俺だって恥ずかしいよ! ――――それでどうなんだよひなっ」
「ど、どうとはっ!?」
「だから、俺と付き合うかーって話!」
「き、急にそんなことを言われても……ってか、タカくん、別に私のこと好きじゃ――――」
「好きだよ」
「あぅ……」
「正直ひなとは小さい時からずっと一緒だったし、家族みたいなもんだーって思ってたけど、今日はっきりわかった、俺はお前を、誰にも渡したくない」
「……タカくん、意外と独占欲強い……」
ジトーっとした目でひなが俺を見るが、耳まで赤く染めてそのセリフは、なんというか。
思ったよりも可愛いな、と思ってしまい、ついにやけてしまった。
そんな俺に、「何よ」と言いたげな視線をさらに向けるひな。
長く一緒にいたけど、ひなをこんなふうに思ったのは初めてかもしれない。
いや、俺が俺の気持ちに気づいていなかっただけか?
「うっせ、でも本気だぞ俺は……嫌だったか?」
「……嫌じゃない……っもーっ! なんでこんな話になってるんだか!」
「それはまぁ、池上がひなに告白なんてしたから?」
「あー、恥ずかしい……これまでの人生で一番恥ずかしかったっ」
パタパタと手で顔を仰ぎ、顔の温度を下げようとするひなだがこれでは終わらない。
まだ、俺はひなから肝心な言葉を聞いていない。
「ひな」
「……何」
「俺は、ひなが幼馴染としても、女の子としても好きだ」
「そ、それはもう、さっきからの話でよくわかったからいちいち言わなくていいしっ」
「こう言うのはちゃんと言っとかないとな。ひなは、俺のこと好きか?」
「い、言わなくてもわかるでしょ……」
「いーやわかんないね、だってお前、さっきから嫌じゃない、しか言ってないじゃん」
「そ、そうだっけ?」
「そうだよ」
そう言いながら、台所に立つひなのところまで歩いていくと、わかりやすくひながキョドりだした。
その様子に苦笑しながら、徐々に近づいていく。
視線をあちらこちらへとうろうろとさせるひなの正面に立つとその肩を掴む。
どちらかというと普段俺の姉かのように振る舞うひなの動揺する姿というのも、可愛いものだ。
「好きだよ、ひな」
「…………うん、私も、タカくんのこと、好き……」
そう呟くと「うぅ……」とうめき声を上げながらぽふっ、と俺の胸の中に顔を埋めたひなを抱きしめた。
「ねぇ、タカくん」
「うん?」
「小さい頃、私とタカくんが結婚するのかなーって話してたの、覚えてる?」
「……なんとなく、微かに覚えてるような気がしないでもない」
「ふふ、このままだと本当にそうなっちゃうかもね」
「おう、ばっちこいだ」
「言い方がちょっと古臭いよタカくん」
「うるせ」
そう言いながらクスクスと笑うひなを見下ろしながら、なんとなく。
小さい頃からのぼんやりとした、俺とひなの関係にはっきりしたイメージができた気がする。
これまでのひなと俺の間に当たり前のようにあった「幼馴染」という関係が変わっていく。
今日、突然気がついたように思えるこの感情は、きっとずっと前から持っていたんだろう。
それに気づけたことが今日、たまらなく嬉しかった。
「って、それより晩御飯の準備しないと!」
「色気ねぇなぁ……」
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『ごめんなさい、池上くんとは付き合えません……私、好きな人がいるから』
そう言って俺の目の前を小走りで去っていく藤野さんの姿を見送るとひとつ息を吐き出して、ボソリと呟いた。
「はぁ、フラれたかー」
「いや当然だろ」
「告白の成功率1割もなかったよな」
「あ、やっぱりそう思う?」
そんな俺の後ろから男子ふたりの声がかかった。
見なくてもわかる、俺のクラスメイトの斉藤と佐々木だ。
人が傷心中だというのにこの態度、だからモテないんだこいつらは。
「今池上がものすごい失礼なことを考えた件について」
鋭い。
「それにしても、やっとあの二人くっついてくれたんだな」
「今日の昼なんて、俺らとの飯を断って藤野さんとこ行きやがったからなあいつ! くっ、俺らの友情はなんだったんだ!」
「いや彼女ができたら男より彼女の方取るでしょ普通」
「男の友情とはかくも儚きものなのだなぁ」
そう言いながら、3人の男が並んで空を見上げる。
うん、気持ち悪いなこの光景、離れてくれないかな。
「それにしても、池上は損な役回りだったな」
「うん?」
「あの2人にハッパかけようとしたんだろ? わかってるっつーの」
「……まぁ、きっかけ程度にはなればいいな、とはちょっと思ってたけどね、でも藤野さんいい子だし、あわよくばーとは考えてたよ」
「いやいや、あの2人は最初から相思相愛状態だったし、他所から割り込む余地なかったでしょ」
「やっぱそう思う? 俺、ノーチャンスだった?」
「むしろチャンスがあったとかどこで判断したのか理解に苦しむレベルでノーチャンス」
「マジかー……」
いや、わかっていた。
藤野さんは常にあいつしか見ていなかったし、俺が声をかけた時も、俺の名前なんて知りもしなかった。
それにしても「幼馴染に相談したいから」なんて断られ方をしたのは生まれて初めてだ。
そんなに好きなら、さっさと付き合えばいいのに、と思っていたらこれだ。
「幼馴染ってのは、面倒くさいもんなのかもしれないなぁ」
「俺らにはいないからわかんないけど、距離が近すぎるとそういう感情がわかんなくなるのかもな」
「どうして俺には可愛い幼馴染がいないのだろう」
「それな」
男3人の笑い声が屋上に響く。
願わくばあの2人が、これからも末長く仲良くできますように。
間男になり損ねた俺より、と。
なおタカくんがひなちゃんの「どうしよう」に対してツンデレしていたらひなちゃんルートは消滅していた可能性が高い模様。
幼馴染からの恋愛って何かきっかけがないと動かないイメージありますよね。
動けよ。