怪談絵本コンテスト応募作品「マトリョーシカ」
「おもしろいね、このおもちゃ。なまえはなんていうの」
「マトリョーシカっていうロシアのおもちゃだよ」
マトリョーシカをあけると なかからちいさなマトリョーシカがでてくる そのマトリョーシカをあけると もっとちいさなマトリョーシカがでてくる
それがマトリョーシカにんぎょう
タイシくん ともだちのマトリョーシカが ほしくなっちゃった
「じゃあマトリョーシカかえすね」
だれもきづかない
タイシくんが そとがわのマトリョーシカだけを かえしたことに
タイシくんが マトリョーシカのなかみを ぬすんだことに
「バイバイ。ケイくん」
「バイバイ。またあした」
タイシくんは なにごともなかったように いえへかえった
つぎのひ
「タイシくん、ぼくのマトリョーシカがぜんぶなくなったんだけど、しらない?」
ケイくんが はなしかけてきた
「え、なくなっちゃったの?ぼくしらないよ」
タイシくんは うそをついた
うまくごまかした
あれ そういえば おかしなことがあるね
マトリョーシカ ぜんぶなくなったんだって
いちばんおおきなマトリョーシカは ぬすんでないのにね
おかしいね
このひのよる
ピーンポーン
だれかがうちにきた
ドアホンのがめんをみると ケイくんがうつっていた
ガチャ
「どうしたの?」
「……」
ドアをあけると ケイくんはなにもいわずにいえへはいってきた
「ねえ!どうしたの?」
カツン カツン カツン
ケイくんは くつをはいたまま タイシくんのいえへはいってくる
なんだかおかしい
ケイくん なにかをさがしているみたい
マトリョーシカをさがしているのかな
「マ、マトリョーシカなら2かいにあるよ」
タイシくんがそういうと ケイくんはなにもいわずにかいだんをのぼっていく
カツン カツン カツン
すこしすると 4にんのケイくんが かいだんからおりてきた
でも みんなにせものだ
かんじょうがない
やっぱりおかしい
こわいよ
ケイくん こわいよ
「かえ……り…たい」
なにかいってるけれど
うまくききとれない
「か…え…たい…か……えり」
カツン カツン カツン
うえから いちばんおおきなケイくんがおりてきた
カツン カツン カツン
5にんのケイくんがそろった
すると
パカン
ケイくんのおなかが おおきくひらいた
おなかのなかはまっくろ
ゾロゾロ ゾロゾロゾロ
みんなのおなかのなかから ちいさなケイくんがどんどんでてくる
どんどんでてきて ぼくをとりかこむ
ゾロゾロ ゾロゾロゾロ
こわくてからだがうごかない
ぼくのまわりに たくさんのケイくんがいる
もうにげられない
「ごめんなさい!ごめんなさい!」
カシャン
たくさんのケイくんはいっせいにマトリョーシカに かわった
カツン カツン カツン
ちかづいてくる
ちかづいてくる
ちかづいてくる
ちかづいてくる
パカン
マトリョーシカたちの おなかがひらいた
マトリョーシカのなかにマトリョーシカが どんどんはいっていく
カシャン
カシャン
カシャン
カシャン
どんどんはいっていく
カシャン!
とつぜん あたりがまっくらになった
カシャン…
…カシャ…ン
……カ……ン……
おとがどんどん とおざかっていく