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一等星<アストロ>が飛び交う叡智光蓄器<カンテラ> ━━OrigiN━━  作者: 嘉久見 嶺志
第二部 ━━第四章━━
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━━ 一節 ━━

━━「お前、いっぺん死ねば?」


頭のてっぺんが薄い中年オヤジに告げられる戦力外通告。


私、竹内 実。


21歳、彼氏募集中。


大学を中退し、地元のガソリンスタンドでスタッフとして働いている。


「一年以上経つんだよな?

何で仕事覚えられねんだよ」


現在、3ヶ月程先に入社した先輩(一応)から、理不尽なお怒りを受けている。


ホント、誰のせいだと思ってんだよ。


隣で、周りの先輩達には聞こえない程度に罵っているようだが、私は、なるべく聞く耳を持たないようにしている。


入社した当時は、初めての経験ばかりで他の先輩達に迷惑をかけながらも仕事をこなしていた。


レジ打ちやピット内の作業、接客対処法などをメモし、家に帰っては、その日の反省点をまとめる日々。


先輩達の動きや業務の手順は様々だが、教わったことの中で、良いところ取りしていき、自分が最もやり易い方法を作りあげた。


しかし、このオッサン、どうやら私のことを自分のやり方(オヤジルール)に染め上げたいらしく、車窓の拭き方からタイヤ交換、何から何まで口出しをするようになった。


私は、行動の一つ一つの利点を、他の先輩達から学んだことを説明するのだが、オレのやり方(オヤジルール)の方が効率が良いと言わんばかりに押し付けようとする。


仕方なく、言われた通りのことをすると、今度は、他の先輩達から何をやっているんだと叱られる始末。


その時のクソオヤジも、まるで他人事のような態度で、私に説教をしやがる。


客商売は、臨機応変に動かなくてはならないことは、学生アルバイトの時から理解していたことだったが、何が正解なのか分からなくなり、日に日に混乱していった。


そして、私は使えない奴だと、クソオヤジが先輩達、上司にまで陰口をするようになり、完全に孤立無援となってしまったのだ。


その頃から、私の心は狂い始め、職場に向かう度に、心臓が大きな手で握り潰されるような痛みに襲われるようにもなっていった。


終いには、電話の対応や初めて訪れる場所、久しぶりに会った友達、一人で電車に乗る時などに、手から足まで、異常に震える体質になってしまう有り様。


それからというもの、私は、精神安定剤を常備するようになり、飲酒の量も増えていった。


そりゃあ、自暴自棄になるし、人間不信にもなるでしょ。


あんな職場(はきだめ)に一年以上も浸かっていたら…。


社会の厳しさというか、世の中は、ろくでもない大人達が動かしてるんだなと、身をもって痛感させられた。




━━「ってなことがあってさァ」


深夜帯、私はやけ酒で泥酔し、路上でさ迷いながら、スマホで友人に今日の出来事を愚痴っている。


居酒屋を何軒もハシゴしたその足はぎこちなく、先程立ち寄ったコンビニで、つまみと缶チューハイを大量に買い込み、大通りの歩道橋を登っていた。


『そんなに嫌なら、大学辞めなきゃ良かったじゃん』


夜遅くまで延々と終わらない私の愚痴を、鬱陶しく思えてきたのか、友人は、投げやりに訊いてきた。


『学生の間、もっと遊べば良かったじゃん。

何でそんな後先考えないで辞めちゃったの?』


その言葉に、私は、返事を詰まらせてしまった。


私は、今まで目標を持たずに、周りの友人がそうするからと、場の流れに身を任せて生きてきた。


だが、ある日、気付いてしまったのだ。


それは、学生生活を送らなくても同じことなのではないかと。


高卒の奴等がすぐ就職するのと一緒で、大物になるとか、立派な夢を持とうとせず、何もすることがないのであれば、働いた方が良いのではないか、という結論に至ってしまったのだ。


学生という保守的な立場に居続けている私みたいな奴は、変わりなどしない。


夢があり、人生設計のゴールまで考えている者が、進学すれば良いのだ。


「アハハッ、確かにその通りか、も?」


とりあえず、愛想笑いをしたら、急にスマホのノイズが酷くなった。


何が起こったと思いながら画面を見直し、何度も友人に話しかけるが応答がない。


相手に通じているのかも分からないまま、自動的に電源が切れてしまった。


「あ~あ」


フリーズしちゃった…。


深いため息を吐き、袋からチューハイを取り出しては、一気に飲み干す。


「何がこの仕事向いてないだッ。

何が辞めちまえだッ━━」


昼間の出来事を思い出す度に、怒りが湧き出てくる。


「テメェが元凶だろがハゲェ!!」


力一杯、腹から声を張り上げるが、通行する車のエンジン音によって掻き消されてしまう。


「ハッ」


70億分の一人である私の小さな叫びなど、周りからしたらちっぽけな存在すぎて聞く耳を持ちやしない。


壊れてしまいそうで、笑えてくる。


歩道橋を渡り終えると、階段の真下に綺麗な女の子が立っていた。


「HEY、そこのお姉ちゃん」


呼び止められた私は、つい足を止めてしまう。


前髪パッツンの滑らかな金髪ロングに、丸いレンズの眼鏡。


タートルネックの黒い長袖、ミニスカートにロングブーツをはいて、ガードレールに寄っ掛かりながら、こっちを見つめている。


「なァに? 可愛い子ちゃん。

逆ナン? いいよォ~。

今の私は、未成年だろうと相手してあげるゥ~」


上着のファスナーを開け、シャツの第2ボタンまで外してみせる。


「ん~、それも良いけど、聞こえちゃった。

さっきのお姉ちゃんの心の叫び」


…いたよ、こんなところに。


「あれ、聞こえちゃったの?

そうなんだよォ~、ウチの職場のハゲがさァ~」


照れ臭そうに話を聞いてもらおうとしたとき、彼女は、すぐそばに設置されてある折り畳みの椅子と、小さなテーブルへと向かって行った。


「可哀想なお姉ちゃんのために、占ってあげよっか」


「占い?」


クスッと笑い、何処から出したのか、見慣れないカードの山札をシャッフルし始める。


「あ~悪いんだけど、私、霊感商法とか興味ないから」


「違う違う、そんなんじゃないから。

それに、お姉ちゃんのために、タダで占ってあげるって言ってんの」


そう言っている間に一枚めくり、感慨深そうにじっと見つめる。


「何何? 何が出たの?」


興味がないと言っておきながら、結局気になる私。


「━━“世界(ザ・ワールド)”。

お姉ちゃんって、特別な人間なんだね」


「ブッブー! 残念でしたァ!!

私は生まれた時から平凡なとぅえんてぃ~ずですゥ!!」


変なテンションで両手で×(ペケ)を作るが、少女は、落ち着いてカードを引き続ける。


“鎧を身に纏った骸骨”の絵と、

“誰かが10本もの剣に刺されている”絵。


そして、最後のカードをめくると、“建物に雷が落ちる”絵が表示されていた。


「これ、どういう意味?」


「…全て上手くいくって」


そう言って少女は、カードを片付けはじめ、これから楽しいところに行こうと私を誘う。


普通に考えたら、こんなおいしいシチュエーションはないことくらい分かってはいたけど、構いやしなかった。


どっかで男達が控えていようが、怪しい店に連れて行かれようが、どんな結末になろうと、今の私は、羽目を外したいのだ。


私は、上着の裏ポケットから錠剤を2錠取り出し、チューハイと共に喉の奥へと流し込む。


そして、連れて来られた場所は、とある呉服店。


一見、中は真っ暗で、ドアに“close”の看板。


店の前には街路樹があり、街灯も交通量も多い。


自分が予想していた展開とは大きく異なり、拍子抜けしてしまう。


「ねェ、コレどう思う?」


ライトアップされているショーウィンドウに向かって、少女は、藪から棒に尋ねる。


えッ? 展示されている服のデザインについて言ってんの!?


楽しいところってコレのこと!?


期待を裏切られた感が強かったが、仕方なく私は、眠そうな目でガラス越しのマネキンを品定めする。


「ん~、上品すぎて気疲れしちゃいそう。

こういう服が似合うのは、余程美人でスタイルが良くないとね。

私には無縁だよ」


すると、一瞬ガラスが水面のように揺らぎ、うっすら頭の無い鎧が透けて見えた。


これは、ちょっと飲み過ぎたかな。


「いや、お姉ちゃんは美しい(・・・)よ。

だって━━」


目を軽く擦っていると、少女は、私の背中を押した━━。


「“完全な存在(・・・・・)”なのだから」


私は、ガラスの中にのまれた。


首の無い鎧に腕を掴まれ、引き摺り込まれていく私。


その様子を少女は、先程の4枚のカードを扇子のようにあおぎながら、不敵な笑みを浮かべている。


この時から、私の人生は、更に狂っていった。


未踏の地を荒らす“開拓者(・・・)”として、新たな世界を創造するための大きな歯車となるのだった。

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