12話 ある冒険者と上位種
こんなはずじゃなかった。
冒険者にとって始まりの町であるリベリアの範囲内にあるこの森は、Dランクのグリーンオークや同じくDランクではあるが少し強めのレッドオーク、最下級のゴブリンが住んでいる。
新人冒険者には厳しいだろうが、先日Cランクに昇格した俺たちの敵ではない。
実際に、この森についたとき冒険者見習いのような少年も助けている。確かに、フミヤと言ったはずだ。
事実そいつらには苦戦もしていない。
用事があってリベリアに戻ってきていて、元の町に戻るついでに受けた依頼だから、当然だ。
冒険者は何が起こるか分からず危険な職業だ、というのはよく言われている。
もちろん俺達も身をもって体感したことは、何度もある。
たが、こんなことは誰が予想し、対策できたのだろうか。
初心者の町の近くで、ハイオークが出現していることを。
実際に見るのは初めてだが、名前は知っていた。Bランクの魔物だ。
一般的に「ハイ」が名前につく魔物は、上位種とされている。通常種よりランクが2つほどあがる。
魔力の濃い地域で低確率で発生すると言われている。
この辺りは大陸の中央よりの地域なので、そこまで魔力は濃くないはずだ。
それでも、一匹くらいは出現することもあるかも知れない。
それなら、俺達も逃げるくらいは出来ただろう。
剣を構え、そいつらと再び向き合う。
まず俺の目の前に2匹、ルルとリーランはそれぞれ別のハイオークに連れ去られた。
それと、もう1匹奥でセシルを喰っているやつを合わせて、合計5匹だ。
あり得ない数だ。
逃げる間もなく、パーティー分断され、既に立っているのは俺だけになってしまった。
悔しいがセシルは、もう助からない。ルルも片腕を落とされているので、長くは持たないだろう。リーランもやつらに連れていかれたおり、どうなるか分からない。
生きている仲間だけでも助けに行きたいが、腕に力が入らない。
血を流しすぎたようだ。
今もやつらの攻撃を交わし続けているが、だんだんと避けきれなくなっている。
「くそっ!なぜだ、こんなはずじゃ。」
それは、多くの冒険者が死の間際に感じる感情と同じであった。
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オークの巨木林が見えてきた。
相変わらず、でかい木だ。何で、あの森はあそこまで成長したのだろうか。他の森は普通だったのに。
その森へ向かって、先日購入することが出来た、ルカギアスとエルギアスを担いで歩く。
途中まで馬車に乗せてもらうことが出来たので、リベリアの町を離れて1日程で着いた。
そして、そのまま森の中へ入っていく。
前回同様に、辺りは巨木により日光が遮られているので、薄暗くどことなく不気味だ。
軽く探索しながら、森の奥へと進んでいく。
少しすると、近くから聞き覚えのある声が聞こえてきた。
木に隠れながら覗くと、そこには6匹のグリーンオークがいた。今は、手下のゴブリンを連れていないようだ。
新しい槍の試運転にちょうどいいだろう。
4又のエルギアスを構える。あれくらいなら、こっちだけで十分だ。
構えたエルギアスに、魔力を流す。すると、4又に別れた先端部分が徐々にうねりながら伸びだした。
物陰から出たそれは、そのままオークに向けて伸び続ける。
「グガァ?」
一匹のオークが、不思議な動きをするそれに気がついた。
しかし、次の瞬間ゆっくりと伸びていたエルギアスは、急加速をし、オーク達を突き刺した。
エルギアスをオークから抜き、縮めて元のサイズに戻す。
支えを失ったオーク達は、その場に崩れた。
「一撃か。さすが、強力な縛りのある呪い武器といったところか。」
エルギアスの能力は、先端に魔力を通すことで自在に伸縮し、今回は使ってないが形も変えることができる。
さらに、ある程度のサイズまでであれば、ほとんど魔力を使わないのもすごい。
扱いにはクセがあるが、槍術補正の適応範囲内なのか、意外と扱えた。
俺には関係ないが強力な能力な分、縛りも中々にヤバいと思う。
それは、エルギアスを持っていると保有魔力が0になるというものだ。
当然、エルギアスの能力を発動することはできないし、魔法など、魔力を使うものはすべて使えなくなる。
メリットを打ち消した上に、デメリットを上乗せしてくるのだ。
壊れた中古の武器と同じ値段で売られるだけある。普通の人からすれば、ゴミのようなものだろう。
もうすぐ、例の集落に着きそうなくらいは進んだはずだ。
木の上に登って確認しようか。エルギアスを使えば、簡単に昇れそうだ。
最初にオークを倒した後、何度かオークに襲撃されたが、エルギアスが強力過ぎてもう一方のルカギアスの出番がない。
こちらも、エルギアスに負けないくらい強力な能力を持っている。
お披露目が楽しみだ。
森の奥へ向かって歩いていると、急に大きな音が聞こえてきた。
重いものを叩きつけたような音だ。集落の方から、聞こえてきた。
もしかして、まだルーク達が戦っているのかと思い、速度を飛ばした。
前回集落の場所を教えてから、まだ戦っていると言うことは苦戦しているのだろうか。
彼らはかなり強そうに見えた。
でも、今の俺なら多少は役にたつはずだ。




