第9話 旅と蛇、そして別れ
前話のあらすじ
王都へ向けて出発しました。4人乗り馬車に無理やり5人乗り込みました。ケイルさんに制裁を加えました。
ついに王都到着です。
その後、割とすぐにケイルさんは目を覚ました。かなりの電流だったはずだが。タフだな。
他の騎士達に説教され、私にもちゃんと謝ってくれた。これから気をつけるよう言って、皆で朝食にした。
そして、王都へ向けて出発。また馬車では、ケイルさんの膝の上。恥ずかしい。他の騎士達が、自分の膝の上に来るかと誘ってくれたが、さすがに会ったばかりの人達だ。もっと恥ずかしいので、丁重にお断りした。そのせいか、ケイルさんは機嫌が良く、若干シスコン気味だ。ゼフ様に会えていないから、私で補っているのだろうか。
落ち着かない中、様々な話を聞いて、情報を吸収した。私は世間知らずだ。世情などは、両親からたまに聞いた程度。王都まで馬車で1週間、という情報も両親からのものだし、王都がどこなのかは知らないのだ。この国のこと、国王陛下のこと、王都のことなど、たくさん質問した。新しい知識を得るのは、本当に楽しい。
この2年の間に新しく開発された魔法についても聞いてみたが、最近はあまり開発が進んでいないようだ。残念。
そうやって話していたら、あっという間に日が暮れてしまった。今日は野宿だ。と言っても、街道のすぐ側なので、心配はいらない。結界魔法を提案して、念のため見張りを交代ですることに決まった。私は見張りから外してもらったが。
夕食は、私が作ることに。料理ができる人がおらず、皆干し肉などで済まそうとしていたからだ。少し森に入れば、新鮮なお肉が手に入るのに。もったいない。
私は持ってきた調味料を用意し、たき火の準備。魔法でできるから便利だ。狩りも魔法でできたのだが、体を動かしておきたいようだったので、狩りは任せた。戻ってきた騎士達は、大きな猪を担いでいた。解体も任せて、御者の人とテントを張る。解体が終われば、料理だ。と言っても、調味料をかけて串焼きにするだけ。しかし…。
「美味い!猪肉ってこんなに美味かったっけ!?」
「美味すぎ。」
「本当に美味い!何なんだこれは!?」
「美味しい!臭みがまるでない!」
「嬢ちゃん!これは魔法か何かか!?」
想像以上の反応だ。皆の目を輝かせた様子に満足しながら、答えた。
「私の家に伝わる、秘伝の調味料です!かけるだけで、何でも美味しくなるんですよ!」
秘伝の調味料、とは言ったが、実はただ塩にポーションをかけて乾燥させただけだったりする。母が昔、無味のはずのポーションを料理に入れると、美味しくなることに気づき、それ以来我が家の塩は、ポーション漬けのものとなっているらしい。ポーションの効果も変わらない。ただ、これを広めてしまうと、ポーション不足に陥る危険性があるため、我が家の秘伝となっていた。
だが、1年ほど前に、ポーション用の薬草を大量生産できる魔道具が開発されたらしい。今はむしろ、ポーションが供給過多になっているようだから、広めてもいいかもしれない。まあ、王都に着いてから考えよう。ケイルさんと騎士達、そして御者の人には、小瓶2本ずつだけ分けてあげた。
皆で美味しく猪肉をいただき、テントでぐっすり眠った。ちなみに、テントは大きいものが1つと、小さいものが1つあったので、小さいものを使わせてもらっている。大きいものが男性用だ。12歳だし、一緒に寝るのは勘弁だ。
そんな風に、楽しく旅は続いた。
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「今日の夕方には、王都に着くぞ!」
ついに旅の最終日。特に問題もなく進んできた。だが、今日は蛇の魔物に襲われる日。そして、誘拐犯の潜む王都に到着する日だ。初めての王都にワクワクしつつ、1人緊張感を高めていた。
馬車は街道を進む。左右には、魔物の住む森。しかし、余程のことがなければ、魔物はわざわざこちらには来ない。だから、基本は安全だ。むしろ、盗賊の方を警戒すべきだ。まあ、盗賊なら騎士達がいるから、問題ないだろうけど。
私は蛇の魔物を倒すべく、密かに作戦を実行していた。周りにはバレないよう、いつも通りに振る舞う。
突然、馬車の外が光った。そして、すぐに雷鳴が聞こえた。
「何だ!?盗賊か!?魔物か!?」
「雷!?どこに落ちたんだ!?」
「今日は快晴…。」
「どうなっている!?」
馬車が止まり、騎士達は馬車の外へ。御者は恐怖で震えている。
やりすぎだよ、ライ。
そう。あの雷はライが放ったもの。蛇の討伐は、ライに頼んだのだ。ライは雷魔法が得意だし、私が目立たずに済むと思ったのだ。
だが、蛇を倒して、としか言っていないのに、何故あそこまでの魔法を放ったのか。それほどに蛇は強かったのか。
皆、警戒しながら進み、私と御者、護衛としてルードさんを街道に残して、3人は森へ入っていった。入れ違いで、小さくなったライが私の肩に戻ってくる。誰にも気づかれていない。
しばらくして、3人は戻ってきた。蛇の死体を見たようだ。魔物であれほどの魔法を使えるものは、聞いたことがないので、すごい魔術師が倒したのでは、と話していた。これで死亡フラグは折れた。もう安心だ。
1人満足感に浸りながら、皆馬車に戻り、王都へ向かった。
「王都の門が見えてきましたよー!」
御者が王都が見えたことを知らせてくれた。急いで窓の外へ顔を出す。
大きな門に、人と馬車の大行列。門の奥には、活気ある街並みが見える。遠くに王城もある。ついに来たのだ、王都に。
そんな興奮気味の私を馬車の中へ引っ張り、抱きしめてくるケイルさん。
「嬢ちゃん、危ないぞ。もうすぐ入れるから、落ち着け。」
「わ、わかりました!わかりましたからっ!」
別の意味で落ち着かない。ケイルさんは、ゼフ様に似ていることから分かるように、イケメンなのだ。その顔が私を覗き込んできて、笑いかける。まぶしい。真っ赤になって顔を背け、速くなった心臓を抑える。
どうかゼフ様には、女性と適切な距離をとれる人になってほしい。頼むから、ケイルさんには似るな。
なんとか心を落ち着かせる。馬車は列に加わり、ゆっくり進む。もう王都は目の前なのに、すぐに入れないのがつらい。まだかまだかと待つ。
そして、やっと私達の番がやってきた。ルードさんが対応してくれた。私のことも説明してもらった。
身分証を提示して、門を通過。王都に入った。そして、近くに一度馬車を止め、皆馬車から降りた。
「嬢ちゃんはこれからどうするんだ?俺達はこのまま馬車で城に向かうが。」
「そうですね。私はもう降りますね。一緒に城に行く訳にもいきませんし。」
「そうか。もう降りるのか。寂しくなるな。」
ケイルさんが、眉を下げて名残惜しそうに笑っている。私も別れを惜しむ気持ちはあるが、いつまでも馬車に乗っている訳にもいかない。
「そうだ!ちょっと待ってろ!」
急にケイルさんが声を上げ、メモとペンを取り出して、何かを書き始めた。不思議に思いながら見ていると、そのメモを私の手に押し付けて言った。
「これ、俺の実家だ。これからはここか城にいるから、何かあったら来い。いや、何もなくても来い。これっきりとか、薄情な事するなよ。」
家までの地図を書いてくれたのだ。ケイルさんは私の家を知らないし、このまま王都に残るのだから、会うことはなくなる。そんなの寂しい。せっかく出会えたのだから。
「ありがとうございます!絶対遊びに行きますね!」
「おう!待ってるからな!」
最後にしっかりと握手を交わした。他の騎士達や御者の人とも握手した。別れの言葉を告げ、私は1人王都の中心地へと足を運んだ。
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「行っちまったなー。」
「すごく良い子だったね。」
「魔法も上手かった。」
「12歳だが、しっかりした子だったな。」
王都の中心地へと歩いていく嬢ちゃんを見ながら、俺は嬢ちゃんとの思い出に浸っていた。
初めて会った時は、丁寧に受け答えできているが、不安と緊張で固くなっている様子で、とても良い子だなと思った。見た目より大人びていたが、子供らしい所も見てみたくて、馬車に乗る時はついからかってしまった。真っ赤になった顔が可愛くて、でもすぐに馬車から見える外の景色に目を奪われて。俺のことなんか見てくれないから、密着してまたからかって。
子供相手に何をしているのか、とも思った。しかもまだ12歳だから、末の弟よりも幼い。だが、赤く染まった顔や満面の笑顔が可愛くて、もっと見たいと思ってしまった。
恋はしたことがないが、また別物だと思う。きっとこれは、妹に対する愛情のようなものだ。出会って10日ほどしか経っていないのに、どうしようもなく、彼女がいとしい。
初めての感情に戸惑いつつ、でもなんだか嬉しくて、ついニヤついてしまった。同期達が怪訝な顔でこっちを見ている。
適当にごまかして、馬車に乗り込んだ。膝が寂しいが、きっとまた会える。その時を楽しみにしておこう。
存在感の薄いライ。ごめんね。
蛇あっさり退場。
ケイル視点も少し入れてみました。
主人公を溺愛しちゃってます。