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第8話 馬車での旅

前話のあらすじ

フリーズが解けました。門番さん達を救うことにしました。作戦を立てました。王都へ向かう日になりました。


門番さんが大雑把です。

 



 いつもの街の門に着くと、騎士らしき人達がいて、側に馬車が止めてあった。その中にあの門番さんもいる。そういえば、名前を知っているのだ。おそらく他の騎士達も門番さんだから、ケイルさんと呼ぶべきだろう。



「ケイルさん。おはようございます。」



 近づいて声をかけた。しかし、他の騎士達と話していて、私に気づかない。むっとして、もう一度声をかける。



「ケイルさん!おはようございます!」



 しかし、反応がない。気づいていないのか?それともまさかの無視?イライラしてきて、ケイルさんの腕を掴み、耳元で大きな声でもう一度。



「ケイルさん!!」

「うわっ!何だ!誰だ!」



 ケイルさんは驚いて辺りを見回す。いや、目の前にいるのだが。


 そこで気がつく。そういえば、気配を消す魔法かけっぱなしだったっけ。


 すぐに魔法を解いた。すると、ケイルさん達からすれば、急に目の前に少女が現れたように見えたのだろう。ひどく驚いた。



「うわっ!」

「いつからそこに!?」

「誰だお前は!?」



 しかも、他の騎士達からすれば、見たこともない少女。本当に申し訳ないことをした。



「嬢ちゃん!?今急に出てこなかったか!?嬢ちゃんまさか瞬間移動でもできるのか!?」

「瞬間移動じゃありませんよ。すみません、驚かせてしまって。森を抜けるのに、気配を消す魔法をかけていたのを忘れていて。今ここで解いたから、急に現れたように見えてしまったんです。」

「気配を消す魔法?そんなのがあるのか。まあいいや。おはよう、嬢ちゃん。」

「おはようございます、ケイルさん。」



 ケイルさんもとても驚いていたが、すぐにいつもの調子に戻った。考え方が柔軟というべきか、単に大雑把というべきか。



「おい、お前ら。この子が言ってた嬢ちゃんだ。嬢ちゃん。こいつらが一緒に王都まで行く、俺の仲間だ。俺よりずっと紳士なやつばっかだから、心配しなくていいぞ。」

「ケイルさんも口調は荒いけど、対応は紳士ですよ?今回も助けていただいてますし。」

「そんなこと言われたことねえぞ。ありがとな、嬢ちゃん。」



 いつもの軽い会話が続く。ケイルさんは大雑把な割に、場を和ませたり、人の緊張を和らげたりするのが上手い。だから、話していて落ち着くし、楽しいのだ。



「はじめまして。リリアローズと申します。急にご一緒させていただくことになり、申し訳ないです。少しの間ですが、よろしくお願いします。」



 丁寧に挨拶をして、頭を下げる。挨拶は人としての基本だ。今世では初めてとも言えることだが。



「ああ。ご丁寧にありがとう。僕はルード。ケイルと同期の騎士だ。よろしくね。」

「同じく同期のエノン。よろしく。」

「俺も同期でベスだ。よろしく頼む。」

「はい。よろしくお願いします。」



 やはり、同期の騎士達だ。まだ若い、将来有望な騎士達。人数も合っているし、事件は起こると見て間違いないだろう。といっても、起こるのは王都近くだから、まだ先だが。



「よし。挨拶も終わったし、早速出発するか。荷物は邪魔なら馬車の上に乗せられるぞ。」

「じゃあ、お願いします。」

「はいよ。あと、こいつが御者な。」

「どうも。1週間よろしくお願いします。」

「はい。よろしくお願いします。」



 荷物を預け、御者にも挨拶した。そして、初めて馬を見た。馬といっても、魔物である。従魔契約を魔法で行うと、魔物がまとう瘴気が消え、魔物を従えることができるのだ。かなり高度な魔法だが、魔道具が開発されたことによって、既に従魔契約をした魔物相手ならば、誰でも簡単に主になることができるようになっている。



「1週間よろしくね。」



 ライ以外の馬形の魔物は初めて見る。嬉しくなって、馬にも挨拶をする。周りが微笑ましそうに見ていて、恥ずかしくなってきた。



「は、早く。馬車に乗りましょう。」

「はいはい。わかったよ、嬢ちゃん。そんな恥ずかしがるなって。」



 笑いながらそんな風に言われ、自分が子供っぽく感じられ、余計に恥ずかしくなり、ケイルさんの背中を押して、馬車の中へ向かわせる。そして、馬車に乗ったが…。



「うん。こりゃ4人乗りだな。」

「どうしましょう。私乗れませんね…。」



 馬車は明らかに4人乗りだったのだ。私が乗るスペースなど無い。諦めて乗合馬車で行くしかないのか。



「いや、乗れるだろ。」



 ケイルさんはそう言って、馬車に入って座り、膝を叩く。



「ほれ。ここに来い。」

「えっ?ここって…。」

「おう。膝に乗れば5人いける。嬢ちゃん軽いだろうし。」

「って、えぇー!?膝って!無理ですよ!私もう12歳ですよ!?」

「気にするな。てか、ここ以外に選択肢無いぞー。」

「そんな横暴な…。ケイルさんが、1人増えても大丈夫って言ったんですよ!?」

「ああ、大丈夫だ。だから、早くここに来い。」



 ひょうひょうと言ってのけるケイルさん。未成年といっても、もう12歳。前世年齢は17歳。18歳のお兄さんの膝に乗るのは、羞恥プレイでしかない。しかし、それ以外に選択肢が無いのも事実だ。


 私は諦めて、ケイルさんの膝の上にお邪魔した。恥ずかしすぎる。穴があったら入りたい。他の騎士達も苦笑いを浮かべながら乗ってくる。馬車が動き出した。もう逃げられない。だが、1週間も耐えられる気がしない。


 ケイルさんは私の腰に手を回して、シートベルト状態。私の頭に顎を乗っけてくる。私が折れたためか、割と上機嫌なようだ。



「ケイルは本当に。相変わらずっていうかなんていうか。」

「ケイルが悪い、お嬢さん。」

「申し訳ない。ケイルもちゃんと謝らないか。」

「ええ?俺が悪いのか?ぴったり収まってるし、いいだろ。なあ、嬢ちゃん?」

「…よくないです。」

「うーん。じゃあ、悪かった。そうか、12歳は年頃か。じゃあ俺の弟も、反抗期になってたりして。」



 他の騎士達は本当に紳士だ。ケイルさんの問いに顔を真っ赤にしながらも答えると、ケイルさんはすぐに謝ってくる。こういうところは良いよな。でも、体勢は崩さない。どうにか慣れるしかなさそうだ。


 しかし、弟というワードが出てきた。きっとゼフ様だ。聞きたいような、変なフラグが立つ前にやめておいたほうがいいような。


 だが、話は別の話題へと移り、その後もゼフ様の話は出なかった。少し残念だ。




 時々休憩を挟み、改めてケイルさんの膝の上に座りなおす度に恥ずかしい思いをしながら、馬車は進んでいった。そして、1日目の宿泊地に到着する。



「今日は宿に泊まれるな。」

「今日はってことは、泊まれない日もあるんですか?」

「ん?言ってなかったか?宿に泊まるのは2日程度で、他は野宿だぞ。」

「聞いてないですよ。」

「そっか。悪い悪い。」



 悪びれもなく言うので、すこし恨みがましい視線を送る。まあ、野宿自体にはそこまで抵抗は無いのだが。結界魔法があるから、危険にさらされることはないし、森に住んでいたから、夜の森もあまり怖くない。しかし、12歳の少女に軽く言っていいことではないだろう。普通はそうとわかれば、乗合馬車をとるぞ。


 説明不足をケイルさんの代わりに他の騎士達が謝ってくれた。ケイルさんは基本、こんな感じらしい。怒る気もなくなる。


 宿を取り、一緒に夕食を食べ、明日に備えて早めに寝る。ライのことも構っておいた。念のために、部屋に結界魔法をかけておく。私は初めて、家のベッド以外で眠った。




 ----------------------




 翌朝。いつも通り眠れた。気持ちのいい朝だ。結界も触れられた形跡は無いし、問題なかったようだ。身だしなみを整え、朝食をとりに部屋の外へ。出ようとしたところで、急に扉が開いた。



「はよー!起きてるかー!」



 現れたのはケイルさん。いつも通りの明るい笑顔で、部屋に入ってきた。しかし…。



「あばばばばばば!!」



 部屋にはまだ結界を張っていた。侵入者を雷魔法で痺れさせるものだ。ケイルさんは見事に引っかかった。だが、当然の報いだ。もし私が着替え中だったら、どうするつもりだったのか。いや、ケイルさんなら気にしないかもしれないが。さすがに、ノックもなしに女性の部屋に突入するのはアウトだ。私は冷めた目でケイルさんを見ていた。しばらくすると、魔法が止まり、ケイルさんは気絶していた。



「どうしたんだ!?変な声が聞こえた、が…。」



 騎士の1人、ルードさんがやってきた。気絶したケイルさんを見て驚き、言葉を失っている。



「ノックもなしに部屋に入ってきたので、制裁しました!」



 私が強い口調で言うと、ルードさんは苦笑い。私が被害者であることは、わかってくれたようだ。その後、エノンさんとベスさんもやってきて、ルードさんからの説明で、私に同情の目を向けてくれた。




 ゼフ様。ケイルさんのようにはならないでくださいね。


 かなり切実に思った。



全く紳士じゃないケイルさん。

18歳のはずが、オヤジくさい。

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