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第7話 「私」というイレギュラー

前話のあらすじ

街でお買い物をしました。門番さんと王都へ一緒に行くことになりました。門番さんはただのモブキャラじゃありませんでした。


小説知識が追加されます。

 


 門番さんの衝撃の事実から10分後。門番さんに肩を思いきり揺すられて、ようやくフリーズが解けた。



「嬢ちゃん!本当にどうした!?死んだか!?」

「ハッ!って、死んでませんよ!」

「はぁー。よかった。嬢ちゃんが生き返った。」

「いや、本当に死んでませんからね!」



 門番さんをかなり心配させてしまったようだ。「死んだか!?」はないと思うけど。



 それにしても、まさかこんな所に小説の関係者がいるとは。完全に油断していた。しかも、小説では会うはずのなかった人物。ゼフ様が過去を語ってくれたことがあって、その時に出てきたんだよね。ケイル兄さんって。


 確か、ゼフ様が14歳の時に、地方にいたケイル兄さんが王都へ帰ってくることになって、ゼフ様は楽しみに待っていた。しかし、ケイル兄さんはその道中で、高ランクの魔物に襲われて亡くなってしまった。魔物と戦った騎士達は死に、生き延びたのは、先に逃がされて、助けを呼びにきた御者のみ。応援が駆けつけたときにはもう遅く、魔物にも逃げられた。御者から提供された情報から捜索されたが、魔物は見つからなかった。


 ケイル兄さんは、魔法が苦手なことから家で疎まれていたゼフ様の、唯一の味方であった。そんな兄を失って、ゼフ様は魔物を憎むようになり、兄の仇を討つことを決意する。そして、聖女達と旅に出るのだ。



 5巻でついにその魔物を見つけ、討伐する。そして、涙を流して笑顔で言うのだ。




「やったよ、ケイル兄さん。強くなったな、って褒めてくれるかな。」




 もう号泣必至だ。本が涙で濡れてしまったので、新しく買い直した。なんとなく泣きたい時は、何度も読み返した。普段は泣かないゼフ様の涙。尊い。




 そんな、ゼフ様の大切なお兄様が、目の前の門番さんだ。場所的にも、タイミング的にも、すごい偶然だ。これは、天が助けろと言っているに違いない。




 素晴らしい偶然に驚きつつ、助ける決意を固めていると、再び大きく肩を揺すられ、我に返った。



「嬢ちゃん!死ぬな!」

「ハッ!って、死にません!確かにぼーっとしてましたけど、死んだ訳じゃありませんから!勝手に殺すな!」

「はぁー。やめてくれ。心臓に悪い。」

「いや、さすがにこの状態で急死する訳ないでしょう。」



 冗談か本気かわからない会話をしながら、心を落ち着かせていく。不審な行動をしてしまったが、まあこの人なら適当に流してくれるだろう。



「すみません。なんとなく聞いたことがある名前な気がして。でも、気のせいでした。もう大丈夫です。」

「そうか?ならいいが…。えっと、リリアローズだったな。というか、どうせ嬢ちゃんって呼ぶから聞く必要無かったな。」



 予想通り、適当に流して、豪快に笑っている。性格はゼフ様より大雑把なようだ。だが、やはり似ている。本当に何故すぐ気づかなかったのか。



 改めて別れの挨拶を告げ、森へと戻る。帰ったら、ケイル兄さんの事件のことも確認しておかないと。




 森に散乱している大量の魔物の死体。そして、新たに現れ、私の魔法で死体となっていく魔物達。風魔法で血抜きや死体運びを行い、水魔法で即座に魔物を仕留めていく。並列して別の魔法を発動するのは難しいが、両親は4,5個同時に出来ていたので、頑張った。まだ3個並列までだが、それでも12歳の域を超えている。たぶん。


 淡々と魔物を処理して進む。側から見れば、少女が歩いているだけにしか見えない。詠唱も省略しているし、手を動かしたりもしていない。頭の中のイメージだけで、命令式を構築する。2年間1人で修行してきたのだ。元から才能もあった。難しいことじゃない。



 1時間後、家に着いた。そこで私の髪の中からライが飛び出す。正直存在忘れてた。ライは元の大きさに戻ったが、拗ねているようだ。ごめんねと謝って、ライを構いながら、片手間に魔物の解体を進める。あっという間に大量の魔物が解体され、食料、肥料、物作りの材料、売れそうなもの、ゴミに分けられる。ゴミは燃やされてなくなる。他は倉庫へ運ばれる。全て魔法だ。普段は体力づくりも兼ねて自分の手で行うが、今日くらいいいだろう。お腹も空いたし。




 昼食を済ませ、書斎へ行き、小説の内容を書き出した紙を見る。ケイル兄さんについて、書かれているはずだ。まだいまいち、ケイル兄さん=門番さん、の図式が私の中で成り立っていないが、あの顔はゼフ様と無関係な訳がない。本当に似ている。



 ケイル兄さんは、王都へ向かう道中で、巨大な蛇の魔物に襲われる。少なくとも全長10mはあったらしい。その蛇は過去に20人以上の騎士と魔術師によってなんとか倒された、と文献にある蛇だったのではないかと言われている。襲われた際、ケイル兄さんの他に、同期の3人の騎士達がいたが、いくら彼らが強くとも、騎士4人で敵う相手ではなかった。



 そんな高ランクの魔物を倒さなければ、ケイル兄さんはそこで命を落とし、ゼフ様が傷つくことになる。そして、私も死ぬことになる。




 そんなことになってたまるか!ゼフ様を傷つけさせはしない!私もまだ死なない!フィオを救う使命があるのだから!




 それに、門番さんはとても良い人だ。あの人を死なせたくはない。




 私はイレギュラーである。シナリオを変える存在。街に出たことで、門番さんを救うことで、フィオを救うことで、シナリオは変わってしまう。そのせいで、4年後の私は役立たずになっているかもしれない。


 それでも、今救える命を、心を、救いたいのだ。平凡な女子高生だった私だが、今はあの両親の娘。その誇りを胸に生きたいのだ。それに、楽しい人生を勝ち取るため、何だってするって決めたのだ。




 決意を固めて、蛇を倒す方法を考える。できれば、あまり目立ちたくない。目立てばその分、フィオを守りづらくなるからだ。しかし、あれだけの魔物を倒してしまえば、目立たざるを得ない。ならば、どうするか。


 確か、ゼフ様の仇打ちの際、あの蛇には雷魔法がよく効いていた。ゼフ様が唯一得意な魔法だ。




 雷魔法!なら作戦はこれしかない!




 私は、自分が目立つことなく、魔物を倒す作戦を思いついた。ほっとした私は、明後日に向けて準備を進め、いつものように魔法の練習やポーション作りをして今日を終えた。




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 ついに、王都へ向かう日となった。昨日はまた街に行ってポーションを売り、魔物の肉や魔石も売った。ちなみに、魔石とは魔物が体内に持つ命の源であり、魔道具の材料として利用されるものだ。魔物関係のものを売るのは冒険者ギルドらしかったので、ついでに冒険者登録もした。売れるものはまだまだあるので、またポーションと一緒に持ってこよう。


 あと、街に行くようにして気づいたのだが、この世界には空間魔法が無い。転移もだし、いくらでも荷物が入るマジックバッグ!のようなものも無い。だから、ポーションはたくさん家にあるのに、あまり多くは街へ持っていけないのだ。転移魔法は、安全で機密性の高い場所じゃないと使えない。存在がバレたら面倒だし。非常に便利だが、勝手に広めれば、かなり目立ってしまう。あまり目立ちたくはない。マジックバッグをどうにか、開発するしかなさそうだ。魔法の開発は残念なことに簡単にはいかないので、諦めて王都から戻った後にしようと思う。



 いつもより早く起き、朝の日課をこなし、小さくなったライと共に街の門へと向かう。服はこの前買った水色のワンピースだ。とんがり帽子は、被るか迷ったが、どうしても目立つので、小さくたたんで鞄に入れた。置いてはいきたくない。


 1時間森を歩く。朝から魔物の死体は見たくないので、今日は魔法で気配を消しておく。おかげでスムーズに進める。これからもそうしようかな。



 森を歩きながら、これからのことを考える。まずは蛇の魔物を倒す。作戦通りにいけば、何の問題もないはず。そして王都では、裏路地や倉庫などを探り、人さらいを見つけ出す。無理だったら、非常に申し訳ないけど、フィオを囮にして捕まえる。でも、絶対にフィオは守る。あの子の優しく繊細な心に傷はつけさせない。守りきってみせる。


 かなり無茶な作戦ではある。しかし、私には魔法がある。きっとできる。そう確信している。




 そうして歩いていると、いつもの門が見えてきた。これから、初めての馬車に乗って、初めての王都、大都会へ行くのだ。自分の使命に燃えつつ、これからできるであろう未知の体験に想いを馳せ、私は心を躍らせた。



小説キャラを救うことに使命感を燃やす主人公。

初めての旅にワクワク。

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