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第6話 門番さんの名前

前話のあらすじ

フィオのトラウマ事件がもうすぐ起こると気づきました。街デビューしました。門番さんに身分証を発行してもらうことになりました。


王都へ向かう準備を進めます。

 


 石造りの小さな部屋で、椅子に座って門番さんを待つ。しばらくすると、いろいろな物を抱えて戻ってきた。



「待たせたな。まずは、ポーションを売ってもらおうか。中級を10本だから、500ベルだな。100ベルは身分証発行の分として。はい、400ベル。」

「ありがとうございます。こちら中級ポーション10本です。」

「ありがとな、嬢ちゃん。じゃあ、身分証発行に移るか。この水晶玉に両手をかざしてくれ。」



 ポーションを売り終え、門番さんが取り出した水晶玉に両手をかざす。すると、水晶玉が青く光った。驚きながら、何も言われないのでそのまましていると、しばらくして光は消えていった。



「うん。問題はないな。この水晶玉はな、相手が犯罪者や失踪者だったりすると、別の色を放つんだ。あ!別に嬢ちゃんを疑ってた訳ではないぞ。新しい身分証を発行する前に、一応しておく必要があるんだ。」

「大丈夫ですよ。わかってますから。」

「はは、ならよかった。じゃあ次はこの台に両手を置いて。」



 犯罪者を見つける道具だったとは。あれも魔道具なんだろうか。この台も魔道具だろうし、身分証も魔道具なのかもしれない。そんなことを思いながら、私は目の前の台に両手を置いた。


 台は白い光を放ち、その光で小さなプレートを形作った。門で他の人達が見せていた物に似ている。光が収まり、白いプレートが目の前に浮いていた。



「それが嬢ちゃんの身分証だ。取っていいぞ。」



 恐る恐る身分証を手に取る。そこには私の名前と年齢が書かれていた。ちなみに、日本語ではなく、アストレア語であり、アストレア文字だ。種族によって、言葉は異なっている。



「これで街に入れるぞ。」

「ありがとうございました。」



 門番さんに礼を言い、外まで送ってもらう。ついに街に入れるのだ。緊張と興奮で、顔が強張ってしまう。



「嬢ちゃん、怖い顔になってんぞ。大丈夫か?」

「あはは、初めての街なので、緊張しちゃって。」

「そうか、レーベルは初めてか。緊張するほどの都会でもないから、心配しなくても大丈夫だぞ。」

「ありがとうございます。じゃあいってきます。」

「ああ。気をつけてな。」




 この街「レーベル」っていう名前なんだ、とぼんやり思いながら、門番さんと別れて、街の中心地へと歩き出す。まずは、ポーションを売る。そして、保存の効く食料と、王都で着られるような服の調達だ。




 早速薬屋を見つけた。一度深呼吸をして、中に入る。



「いらっしゃい。おや?若い魔女さんだ。ご用は何かな?」



 店の奥に座る優しそうなお爺さんが声をかけてきた。本日2人目の人間。まあ、街で他の人ともすれ違いはしたが。



「こんにちは。ポーションを売りにきたんです。買い取っていただけますか?」

「ポーションかい。もちろん、買い取らせてもらうよ。出してもらえるかな。」



 鞄からポーションを取り出す。持ってきたのは、中級回復ポーション20本、中級魔力ポーション20本だ。そのうち回復ポーション10本は、さっき門番さんに売ってしまったから、今あるのは合計30本だ。ちなみに、回復ポーションは、疲労回復や治癒に用いられ、魔力ポーションは、魔力回復に用いられる。



「中級ポーションばかりだね。質もいい。これなら1本60ベルで買い取ろう。」

「60ベルって、いいんですか?相場より高いと思いますけど。」

「質がいいからね。これで問題ないよ。」

「ありがとうございます。じゃあ、それでお願いします。」



 褒められた。すごく嬉しい。ポーション作りは、よく母にも褒められていた。懐かしい思い出に浸りながら、ポーションとお金を交換した。



「また売りにおいで。質が変わらなければ、同じ値段で買い取るよ。」

「ありがとうございます。また来ますね。」



 礼を言って店を出た。無事、ポーションを売ることができ、手元には400ベルに加えて、1800ベル増えて、2200ベル。これが多いのかどうかよくわからないので、とりあえず先に服を見ることにする。




 少し歩くと、服屋が見つかった。見て回るが、正直どんな格好をすれば目立たないのか、さっぱりわからない。ということで、思いきって店員さんに聞いてみた。



「すみません。王都で着るのにちょうどいい服ってありますか?」

「王都でですか。ならば、このあたりのワンピースはいかがでしょうか。品があって、見た目より動きやすいので、人の多い王都にはぴったりかと。」



 勧めてもらったのは、水色のワンピース。ウエストにリボンがついていて、とても可愛い。即決で購入した。他にも可愛いものはあったが、長年着てきた黒無地のワンピースも大切にしたいので、今回は止めておいた。


 ざっと見た感じだと、ワンピースで500〜1000ベルが相場といったところか。私が買ったのは600ベルだったので、まだ1600ベル余っている。



 近くで干し肉などの保存の効く食料が売っていたので、いくつか購入した。残金1500ベル。これで、必要なものは全て揃った。




 お昼時だが、魔物もたくさん狩りながら来たのだから、外食はもったいない。昼食は我慢して、門へと向かう。すると、ちょうど空いていて、またあの門番さんと再会した。



「おお、嬢ちゃん。また会ったな。もう帰るのか?」

「はい。必要なものは買えたので。また来るつもりですし、今日はもう帰ろうかと。」

「そうか。次はせっかくだから、もっとゆっくりしていけよ。」



 そんな会話をしながら、身分証を提示して街の外へ出る。別れようと思った所で、ふと気づいた。王都への馬車のことを調べるのを忘れていたのだ。



「すみません。私、近々王都へ行くつもりなんですけど、王都行きの馬車って、どこから出てますか?」

「王都へねえ。乗合馬車なら、東門の方だから、門入って右へ塀伝いに進めばあるぞ。だが嬢ちゃん、1人で行く気か?あまりお勧めはできないが。」

「どういうことですか?」



 お勧めはできない、とはどういうことだろうか。王都へ行くには、馬車に乗るしかないと思うのだが。



「嬢ちゃん1人じゃ、変なやつに絡まれかねない。嬢ちゃん可愛いしな。ナンパがしつこいぞ。王都も人が多いし。護衛でも雇ったら安心だが、高くつくし。」



 そういえば、リリアローズは美少女なのだ。犯罪とまではいかなくとも、面倒なナンパには会うかもしれない。魔法で飛んでいってもいいのだが、私は高い所が苦手なのだ。できれば飛びたくない。歩くには時間がかかりすぎる。困っていると、門番さんが素敵な提案をしてくれた。



「そうだ!俺も王都へ行く用事があるんだよ。そのための馬車も王都から来るし、一緒に乗ってくか?」

「え!?いいんですか?」

「たぶん大丈夫だろ、1人増えるくらい。他のやつには俺から言っとくよ。あ。でも明後日の朝には出るんだが、大丈夫か?」

「構いません。それくらいには王都へ向かうつもりだったので。本当にありがとうございます。」

「良いってことよ。じゃあ、明後日朝9時にここに来てくれ。」

「わかりました。」



 本当に良い人だ。この人と出会えて良かった。これで王都へ行ける。



「それじゃあ、ありがとうございました。」

「おう。また明後日な。そうだ!嬢ちゃん、名前何だった?」

「リリアローズです。門番さんは?」

「俺はケイルだ。」




「ケ、イル…?」




 何かひっかかる。私の頭の中で非常ベルが鳴り響いている。門番さんの顔を凝視する。まだ10代だろうか。成人はしているだろうが、かなり若く見える。そして、イケメンだ。良い人だとは思っていたが、よく見ると、いやよく見なくてもイケメン。街に来た緊張で、気づかなかったようだ。そして、その整った顔に見覚えがある気がする。



「…嬢ちゃん?どうかしたか?俺の顔に何かついてるか?」



 門番さんが何か言っているが、私の頭の中では非常ベルが鳴り響いているため、聞こえない。必死に記憶を探った。会ったことがないはずの門番さんに、既視感を覚えるなんて、どうしてか。


 その時、わかった。誰に似ているのか。髪型が全然違うから、すぐに気づかなかった。こんなに似ているのに。




 門番さんは、ゼフ様にそっくりなのだ。あのイケメン、ゼフ様に。




 そして、同時に思い出した。ケイル。ケイルザッド・ギムルハートの名を。




 その名前を思い出して、私は固まった。ケイルザッド・ギムルハート。騎士団長の息子で、ギムルハート伯爵家の次男坊。その家で疎まれている末っ子の唯一の味方であり、その末っ子が14歳の時に、王都へ向かう道中で魔物に襲われて亡くなる人物。


 その末っ子こそ、「魔女ティア」人気ナンバーワンキャラクター、ゼフナートス・ギムルハート。




 いやいやいや!門番さんがまさかの、ゼフ様のお兄様じゃん!しかももうすぐ死ぬ人じゃん!というか、もしかして私が乗る馬車が魔物に襲われるのでは!?




 衝撃の事実に完全にフリーズ。門番さんは不思議に思って声をかけるが、たっぷり10分間、私のフリーズは解けなかった。



ただのモブキャラじゃなかった門番さん。

久しぶりのいやいやいや!出ました。

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