閑話3-2 その後のお話
旅の後の聖女達、+α。
今代聖女達(13歳)の会話の順番。
フィオ→オズ→アレク→テオ→ゼフ
あれから1ヶ月。
旅を終えてしばらくは、パレードやお祭り、城での宴などで大忙しだった。まあ、この世界を救った英雄な訳だしね。もう大変だったよ。
そのあとは、1ヶ月の休暇をもらった。もちろん旅のメンバー皆ね。だから今は、テレサの実家におじゃまして、バカンスを楽しんでいる。
実はテレサ、伯爵令嬢だったりする。領地は海に面していて、リゾート地として有名だそう。そこで皆で夏を満喫しているところだ。
あと数日もすれば、休暇を終えて、皆ともお別れ。そうそう会えなくなってしまう。寂しいな。
「何してるんだ?1人じゃ危ないだろ?」
「ヨル。夜空と海見てるだけだよ。というか、別に危なくはないでしょ?」
そういえば、ヨルとは初め、ケンカばかりだった。強さのみを求めるヨルにとって、支援系の魔法は逃げであり、それしかできないのは無能だ、といつも嫌味を言ってきた。私もそれを黙って聞いているだけの女子じゃなかったから、頭の固い朴念仁、と嫌味を返していた。いつからだったかな、ヨルとケンカをしなくなったのは。
別行動中に街が魔物に襲われて、街の人を守ろうとしてピンチになった時、颯爽と助けてくれた。むかつくけど、ヒーローみたいでカッコよかった。
子供の頃、自分の弱さのせいで、唯一の家族である母に守られるしかなかった、と悔しそうに話してくれた。必死に努力して、今やSランク冒険者なのだ、と誇らしげだった。
魔物に不意打ちを受けて、ヨルを庇って大怪我を負った時、ずっと横で声をかけてくれた。それからすごく過保護になった。
懐かしい思い出ばかり。3年は、あっという間で、とても濃い日々だった。
「若い女が1人でこんな所にいるなんて、危ないだろ。いい加減自分が可愛いことを自覚しろ。」
…旅のことに思いを巡らせていたから、一瞬何を言われたのかわからなかった。わかってからも、空耳だと思ってしまって、ヨルを見る。
真っ赤な顔でそっぽを向いていた。
つられて私も赤くなる。
え?あのヨルが、強さにしか興味がなくて、戦闘狂で、頭の固い朴念仁なヨルが「可愛い」って言った?本当に?
「あの、ヨル…。」
「シホが言ったんだろ。『か弱い女の子に「可愛い」の一言も言えない男はモテない』って。」
「…モテたいの?」
「だから!」
どうしていいかわからなくなって、とりあえず声をかけると、言い訳するみたいに言ってきた。そんなことケンカの中で言ったかもしれないけど、よく覚えてたな。
根に持たれてる?というか、モテないって言われたの気にしてた?そう思って問うと、怒ったように声を荒げて、こっちを向いた。顔は真っ赤なまま。
「…『可愛い』の一言も言えなきゃ、シホにモテないんだろ?」
「…っな、な!?」
らしくない、不安げな様子で、ヨルは呟くようにそう言った。予想外すぎて、驚きすぎて、口をパクパクすることしかできない。顔が熱い。
そんなの知らない。聞いてない。初めはケンカばかりで、和解したあとも、ひとつ年上だからって、私を妹かのように世話焼いて、ただただ過保護だった。最初から最後まで、恋愛のれの字もなかった。
強さだけを求める。そんなヨルだったから、ずっと私は…。
真っ直ぐな瞳。月の光に照らされて、キラキラ輝く青い目。それから目が離せない。
「好きだ。一生大事にする。だから、俺のそばにいてくれ。」
その目に映る私の目は、虹色ではなく黒。城に戻ってすぐ、目の色が暗くなり始めて、1週間ほどで元の黒目に戻ってしまった。この方が落ち着くからいいんだけど。
ふと、ヨルの真剣な顔が緩んだ。初めの頃には想像もつかなかった、ヨルの笑顔。あの時、私は…。
「黒い目も、俺は好きだな。」
ヨルの口から「可愛い」とか「好き」なんて、本当に似合わない。きっと皆が聞いたら、からかいまくるだろう。私だって。
でも、今、私は…。
「好き。」
心から溢れてこぼれ落ちた、私の気持ち。
強さしか頭にない戦闘狂に、アピールなんてやりようがない。フラれても向こうは普通にしてくるかもしれないけど、私は普通になんてできない。だから、ずっと私は、この気持ちに蓋をして、必死に隠して、仲間として振る舞ってきた。
ヨルの過去を聞いたあの日、心を開いたヨルの緩んだ笑顔。いつもの少し怖いくらいの顔が、子供っぽくなって、可愛くて、キュンときた。あの時、私は恋に落ちた。止めようがなかった。
ヨルに似合わない言葉。でも、今、私はそんなことより、この先歳をとっても「お婆さんになっても、俺は好きだな。」と言ってくれる、なんて想像してしまった。そんな妄想をしてしまうほどに。
ヨルが、好き。
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「この聖女様!異世界から来たんだって!」
「ああ、聖女シホのことか。」
「聖女がこの世界に生まれなかったから、異世界から召喚したんだったな。」
「すごいですね、異世界人だなんて。」
「本当だよな。異世界から来て、この世界を救ってくれたんだもんな!」
「『そして、世界を救った聖女シホ様は、仲間の剣聖ヨル様と末永く幸せに暮らしました。』だって!素敵!」
今代の聖女フィオナストーン・マクガーレンは、これから共に旅をする仲間達と共に、1000年も昔の聖女シホの話で盛り上がっていた。
聖女シホは、歴代の聖女の中でも異例の異世界人であり、最も瘴気が暴走した時代の聖女として有名である。そして、瘴気の浄化はもちろん、活発化して凶悪化した魔物の討伐を行い、悪感情を煽られ荒廃した国や街の復興にも尽力した、として最も人気な聖女でもある。
聖女の仲間達も同じく人気で、とても有名だ。
「剣聖ヨル様は、とっても強かったんだって!Sランク冒険者だなんて、すごいよね!」
「引退後はギルドマスターとして、後進者を育成し、ギルド内の治安向上にも努めた、とあるな。」
「聖巫女ヘレナ様は、教会を正しく導き、傷ついた民に寄り添った、と讃えられてるよな。」
「聖魔女テレサ様は、歴代最強の宮廷魔術師、でしたよね。」
「聖騎士アロン様も、歴代最強の騎士として知られてるな。」
「でもやっぱり、聖女シホ様!浄化の旅を終えてからも、剣聖ヨル様と一緒に各地へ出向いて、土地の浄化や病人の治癒をして回ったって!美しい黒髪黒目は、異世界人の象徴で、皆の憧れだよね!」
1000年という時を超えて語り継がれる、聖女一行の数々の逸話。それらは本となり出版され、皆楽しげに語り合うが、裏では美化された話に悶える聖女達がいたとか…。
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「ん?何これ?『日記』って、日本語!?」
黒い霧を吹き飛ばした際に荒れてしまった部屋を、頑張って掃除していたら、見覚えのない本発見。薄めの本だから、見逃してたのかな?薄汚れてるけど、表紙に「日記」と漢字で書かれている。
この世界は、言葉も文字も前の世界とは違う。なのに、この本には確かに漢字が使われている。日記を読むのは良くない気もするけど、気になる。
えい!読んじゃえ!
…ほとんど読めない。
かなり古い日記みたい。所々漢字が使われてるのはわかるけど、文章としては読めないや。残念。
ぺらぺらとめくっていくと、最後のページに紙が挟まれていた。そこには絵が描かれていた。色素薄めで細マッチョなイケメンと、髪も目も黒く塗られた日本人っぽい顔立ちの女性、そしてその腕には赤ちゃんが抱かれている。
あくまでペンで描かれた白黒の絵だけど、とても上手で、彼女が日本人であることは容易に推測できる。赤ちゃんの目も黒い。皆笑顔で、とても幸せそうな家族だ。
彼女は何者だろうか?日本人がこの世界にいたなんて、考えもしなかった。もしかして、今も日本人がどこかにいたり…?
まあ、考えても仕方ない。とりあえず、掃除を終わらせてしまおう。
その後、歴代聖女について調べた際に、日本から召喚された聖女シホのことを知り、その日記が家にあったことを疑問に思って調べだすのだが、それはまだ少し先の話。
「さあ!掃除するぞ!」
また機会があればシホ達も登場予定。
1話完結のはずが、収まらず…。
第2章の続きは、今しばらくお待ち下さい。




