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第35話 羞恥と終結

前話のあらすじ

言い訳しました。街に入りました。街の人達を治療しました。ゼフが敵に完全勝利しました。ゼフに抱きつきました。


相変わらず恋愛に疎い主人公です。

 


 …恥ずかしくて死にたい。




 ただ今、羞恥に震えて、広場の隅っこでうずくまっています。




 私は、冒険者パーティーとの戦闘で快勝したゼフに思い切り抱きついた。そして、安堵の声をこぼした。あたりは静まった。私は泣いていた。




 驚かせただろう。ゼフの強さは聞いていたし、小説でも彼らを倒していたし、信じてはいた。でも、それとこれとは話が別だったみたい。


 自分でも驚いた。まさかこんなに、戦闘を外から見るのが怖いなんて、知らなくて。もしも、の事を考えて、怖くて仕方がなかった。




 もしゼフが、あの剣を、魔法を、矢を、槍を、その身に受けていたら。




 幼い頃、両親が魔物を討伐する様子を見ていた時には、両親が死ぬかもしれない、なんて微塵も考えなかったし、ただカッコいい!って見てた。


 自分が戦う時も、自分と敵の力量差はわかるし、もしものための魔道具もつけてたし、いつもライがいたから、そこまで心配する事はなかった。



 初めて、両親以外の人の戦闘を見た。しかも、対人戦は完全に初めて。ゼフの強さが伝わってくる戦闘だったけど、私はただただ怖くて、不安でいっぱいだった。




 それで、つい抱きついて泣いてしまった。




 周りはかなりオロオロしていたように思う。ゼフはぎこちなく、でも優しく私の背中をさすってくれた。ゼフの心音を聞いて、少しずつ落ち着いてきて、我に返った。




 まあ、羞恥に震えるよね。




 だって、考えても見てよ。無傷で完全勝利を果たした仲間を見て、泣く、なんて。16歳の娘が、だよ。この世界、16歳で成人だから、もう未成年でもないし。このご時世、10歳から冒険者になれるくらいなのに。血も流れていない戦闘で号泣、ってどうよ。街の人達の前で。



 恥ずかしすぎて、顔真っ赤にして、即行で離れて、広場の隅っこでうずくまった。で、今ココ。




 あんなに泣いたのは、とても久しぶりで、自分でもびっくりした。まさかこんな事になるなんて。


 でも、本当に怖かった。たぶん、両親を亡くした時を思い出したのもある。フラッシュバック、は言い過ぎかもだけど、人の戦闘に慣れてなかったから、覚悟が全くできていなかった。


 でも、初めの戦闘がこれでよかった。森で泣き喚いて魔物を引きつけるよりかは大分マシ。まあ、街の人達に見られて恥ずかしすぎるけど。



「リリア、大丈夫?」

「…も、もうちょっと。」



 フィオが隣に座って、そっと私の復活を待ってくれている。本当に申し訳ないな。でも、変に突っ込んでこないのは、とてもありがたい。フィオの優しさに甘えて、しばらくうずくまっておく。




 といっても、ずっとそうもしていられないので、なんとか立ち上がる。オズとアレクが今頑張ってる所だろうし、私がこうしている訳にはいかない。



「ごめんね、ありがと、フィオ。」

「ううん。落ち着いたみたいだね。」



 後ろを向くと、皆の姿が。ゼフは、私の事を心配してこっちを見ていたようで、バッチリ目が合う。だけど、すぐにそらされる。その顔は真っ赤で、少し不安になる。



「あの、ゼフ。」

「ん、な、何?」



 近づいて声をかけても、こちらを見ない。目をそらしたまま、硬い声で応える。



「ごめんね、急に抱きついて、泣いて。困らせたし、その、迷惑、だったよね。ごめん。」

「え、あー、いや、別に…。」

「…本当に、ごめんなさい。嫌な思い、させて…。」

「え!いや、あの、嫌な思いとか、そんな!」



 ゼフと目が合わず、謝ることしかできない。抱きつかれて泣かれるなんて、嫌な思いをさせた。迷惑をかけた。合わせる顔がない。


 だけど、落ち込んで俯いていると、ゼフの慌てた声が耳に入ってきた。驚いて顔を上げると、赤面したゼフと目が合う。



「っ!あー、その、だな!嫌、とか、そういうんじゃなくて!むしろ、嬉しかったっつーか、なんつーか。変に我慢するより、そうやって頼ってくれた方が、その、俺も、嬉しい、し。」

「え、あ、えと、あり、がと。」

「おう。その、気にすんな。」

「…ん。ありがと。」



 まさかそんな事思ってくれてたなんて。すごく嬉しくて、テレてしまって、顔が熱い。上手く笑顔が作れない。ゼフも同じような感じで、2人してテレてしまった。


 そっか。ゼフもテレて真っ赤だったのか。そっか。よかった。嫌われたりして、なかった。


 ほっとして、そしたら、自然と笑顔になって、それから、泣いてしまって言いそびれた言葉を思い出す。



「ゼフ。さっき、すごいカッコよかった。守ってくれて、ありがとう。」



 ちゃんと笑顔で、そう言えた。ゼフは耳まで真っ赤になってる。ふふっ、テレてるのかな。


 でも、本当に良かった。泣いちゃったのは恥ずかしいけど、ゼフとは前より仲良くなれた気がする。嬉しいな。



 本当は、さっきの戦闘の事とか、抱きついた時に身体つきが良くて驚いた事とか、いろいろ褒めたかったけど、これ以上テレさせてもね。また今度、にしておく。




 そのあと、街の人達にからかわれたけど、軽く説明しておいた。「初めて見た対人戦で、怖くなってしまって…。」って感じで。まあ、この歳であの反応は、ね。本当に恥ずかしい…。



 でも、どこか周りの反応が変だった。拍子抜けしたような様子で、それからゼフの肩に手を置いていた。主に男性陣。謎。


 フィオとテオはわかっているようだったけど、教えてくれなかった。ゼフは顔真っ赤で、それどころじゃないっぽかった。まだテレてるのかな?




 そうこうして、少し皆落ち着いて、私は1人隅っこで皆を眺めていた。フィオ達は街の人達と楽しそうに話している。その時、突然ローブを引っ張られた。驚いて振り向くと、もっと驚いた。



「あの、お姉ちゃん。こっち、来て。」

「…うん。わかった。」



 そこにいたのは、1人の少年。私は、彼を探していた。彼こそ、この街の危機を救う鍵。



 小説で、何もできずに落ち込んでいた主人公に、声をかけてきた少年。主人公は、言われるがままについていくと、領主館の敷地内に入る、秘密の抜け穴を教えられる。この先に友達が人質として捕らえられているはずだから、助けてほしい、と頼まれるのだ。


 主人公は、自分には無理だ、他の人に頼むべき、と少年に言うが、少年は主人公の話を聞かないで、抜け穴へと入っていく。少年の身を案じて、主人公も後に続く。そして、ついに人質の捕らえられた、小さな倉庫にたどり着く。


 主人公は必死に魔法を行使して、見張りを撃退。中に入ると、傷つき衰弱した人質達。そして、そのままの勢いで人質達全員を包む治癒魔法を行使し、全員の命を救う。




 人質を助けるには、治癒魔法が使える私かフィオが行く必要がある。しかも、なるべく早く。そのために必要な、秘密の抜け穴の場所を知るためには、彼に聞かなければならなかった。だから彼を探していた。声をかけてくれて、本当に良かった。


 秘密の抜け穴を教えてもらい、一切躊躇わずに一緒に中へ入る。少年を守りながら適当に進むと、小さな倉庫を見つけた。見張り付きの。



 見張りは、さっさと眠ってもらう。魔法で眠らせた所で、中へ突入。中には人質達。少年が駆け寄る。


 たぶん、1ヶ月閉じ込められていた小説よりは、マシではある。それでも、ひどい扱いを受けたようで、かなり傷つき衰弱している。


 私も駆け寄り、治癒魔法をかける。人質全員を包むように。傷を癒し、体力を回復させ、精神を安定させる。皆の顔色が良くなった。これで安心だ。



「…お姉ちゃん、後ろ!」



 少年が突然叫ぶ。新手かと思って振り向くと、そこにはオズとアレクがいた。どこか呆気にとられたような、心ここに在らず、といった様子の2人。近づいて声をかけてみる。



「…オズ?アレク?」

「…今のは、リリアの魔法か?」

「うん、そうだけど。それより2人とも、ここに来たって事は、そっちはもう終わったの?」

「お、おう。まあ、終わったが。お前は何でここにいるんだ?」

「えっと、説明は後にしよっか。とりあえず、人質だった人達を、街に帰してあげないとね。」



 なんだかまだ2人とも、ぼーっとした感じだが、それよりもまず街の人達の事。領主館はすでに制圧されたようで、安全に人質達を解放できた。


 街に連れていくと、皆泣いて喜んだ。抱き合って、無事を確かめ合っていた。感動だ。



 私のせいで、つらい思いをさせた。何もできなかった。何もしなかった。




 少しは、贖罪になったかな。




 これから、旅の中で多くの人に出会い、多くの悲劇を目撃し、多くの人を救う事になる。小説で、そうだったから。


 最悪を防ぐために、ある程度の事はしてきたつもりだったけど、今回のように、最善を尽くせたとは言えない部分もあるだろう。私が勝手に諦めたせいで、結局苦しんでいる人達がいる。きっとこれから私は、旅の中でその罪と向き合っていく事になる。



 罪は消えなくとも、最後まで見届けよう。この旅の終わりまで。瘴気による悲劇の終わりまで。


 そして、私にできる事をしよう。旅の中で、少しでも多くの人の苦しみを、取り除けるように。少しでも多くの人に、希望を持ってもらえるように。




 頑張ろう。…皆で。




 肩を見ると、ライが満足気に笑っている。ライには心配かけまくりだな。私にはずっとライしかいなかったから、1人で抱え込んじゃう癖がついてる。いや、前世から、そうだったかも。



 でも、ゼフは私が泣いた事を、頼った事を、嬉しいと言ってくれた。嫌じゃないと言ってくれた。




 皆と頼り合える、そんな仲間に、なりたいな。




 喜びにあふれる街を見て、私は自分と仲間の未来に思いを馳せた。



自分の恋愛は考えられない主人公。

恥ずかしいのは泣いたこと。だけ。

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