第31話 旅立ちの時
前話のあらすじ
素の笑顔に皆がやられました。3つのすごすぎる魔道具を紹介しました。皆フリーズしました。でも受け入れてくれました。
やっと旅立ちます。
持ってきた魔道具の使い方を教え、皆で軽く練習。上手く作動したし、旅の支度は完璧!かな。
「これでもしもの時には対応できると思うよ。この6人の秘密って事で!」
「はあ。わかった。皆もそれで頼むぞ。」
「私の方からは以上だけど、オズ達から何かある?街に着くまでに言っておきたい事とか。」
「はい!気になってたんですけど、リリアはその格好で旅をするつもりですか?」
テオからの質問。いい所に目をつけたね。そして、私もすっかり忘れてた。全身真っ黒で、とんがり帽子まで被って、明らかに怪しい魔女だ。浮いちゃうよ。
「ははは、ごめん、忘れてたや。今着替えるね。」
「え、ちょ、リリア!?」
ゼフの慌てた声が聞こえた気もしたけど、気にせず着替える。魔法使いの冒険者だから、動きやすい服装に紺色ローブだ。うん、いい感じ。
ちなみに、着替えは魔道具で。マジックバッグのように服を出し入れでき、一瞬で着替えができる優れもの!
私が作った魔道具は小型のものが多く、肌になじませてほくろのように見せるものばかり。なので、私の体にあるほくろは、実はほとんどが魔道具だったりする。
「きゅ、急に着替えとか!びっくりするだろ!」
「へ?あーごめんごめん。いつも着替えはこれだからさー。」
ゼフが顔を真っ赤にして怒っている。そんなに驚かせた?ここまで怒るとは…。
「絶対わかってないよ…。」
何故かフィオがため息をついている。どうかしたかな?オズもアレクも、呆れた様子。
「まあ、服装はこれで大丈夫だな。あとは、何かあったか…?」
「特に無いだろ。もう出発でいいんじゃね?」
「でも…。リリアは、ずっと住んでた家を離れるんだよね…。その、大丈夫?いいの?」
フィオの言葉で、皆が我に返って、心配そうにこちらを見る。
確かに、ここは大好きな家族と過ごした家で、とても思い出深い。あの王都へ行った時を除くと、この家以外で寝泊まりした事はない。
この家で魔法を学び、魔道具を作り、薬を調合し、料理を作り、両親やライと笑い合った。
私の16年間の人生が詰まった、大事な家。
それでも、私は…。
「行くよ!」
笑顔で、そう宣言する。
亡くなった両親にも、届くように。
「…次はレーベルだ。行くぞ。」
オズの言葉で、皆の気持ちが引き締まる。ついに、旅が始まるんだ。命がけの、世界を救う旅が。
皆、荷物や武器を持って、家の外へ。私は最後に、家に魔法をかける。
〔タイムカプセル〕
時空属性神級魔法〔タイムカプセル〕。
私がオリジナルで作った魔法だ。その名の通り、時を止めて封じ込める魔法。
魔法の美しい光に、家全体が覆われていく。
オズ達は、その幻想的な光景に目を奪われていた。フィオが特に目を輝かせている。
パンッ!
私は手を叩いて、にっこり笑う。
「じゃあ、行こっか!」
「いや待てよ!今のは何なんだ!?」
「アレク、世の中には知らない方がいい事もあるんだよ…。」
「何だよそれ!ごまかすな!」
「いいじゃん、知らなくても困らないんだし!まあ、かなり難しい魔法、とだけ言っておくね。さあさあ!早く街へ行こうよ!」
「はあ。ホントこいつ苦手だわ。」
アレクが疲れ気味だけど、気にしない気にしない。皆もぽかんとしているけど、気にしないのだ!
「ライ!行こ!」
ライが私のもとへと駆けてくる。相変わらず美しい毛並み。翼も日の光を浴びて輝いている。私が頭を撫でると、察したように光を放ちながら魔法で姿を変化させる。
手のひらサイズまで小さくなり、私の肩に乗る。街へ行く時のスタイルだ。髪で姿を隠すことができる。これでライの準備も万端!
「ライも一緒でいいよね!魔法も使えるし、とっても頼りになるんだよ!」
皆に笑いかけるが、反応なし。相変わらずぽかんとしている。オズは無表情だからわかりにくいけどね。アレクは、私の非常識っぷりに少し慣れたのか、額を押さえてため息をついている。
そういえば、ライの事はあまり説明できてなかったなあ。というか、旅の事とか聖女の事とか、まだまだ聞かなきゃならない事がたくさんある。
まあ、ゆっくりでいいか。
旅は長い。これから、いくらでも時間はある。
「という訳で、レーベルへ、レッツゴー!」
「〜〜〜っいろいろ説明しろ!」
アレクに怒られちゃった。てへぺろ。あ、ごめんなさい、調子乗りましたすみません。
「…リリアの説明を聞いていたら日が暮れる。とりあえず出発するぞ。」
「確かにな。聞きたい事が多すぎて、日が暮れかねない。はあ、行くか。」
「リリアは非常識の塊って感じだね!」
「フィオ…。そんな明るく言わないで…。自覚はしてるけど…。」
「なら自重しろ。」
「う、おっしゃる通りです。」
オズ、アレク、フィオの3人にディスられた。いやフィオはフォローのつもりか?
「リリアは有能すぎるだけですよ。素晴らしい事だと思いますよ。びっくりはしますけど。」
「そうだな。頼もしくて面白い仲間が増えたもんだ。これからもいろいろ驚かせてくれそうだな。」
テオとゼフが、笑って励ましてくれた。うん、私のびっくりは、旅のスパイス。魔法が得意なのは、生存率を上げるのに役立つもの。自重はすべきだけど、悪ではないもんね!
いつでも前向きに!これ大事!
「あ!最後に、少しここから離れてもらえるかな?」
「…何をするつもりだ?」
「オズ、警戒しすぎ。家に結界を張るだけだよ。盗賊とかに荒らされたら困るからね。」
皆で森の方へ行き、家へと向き直る。思い出深いこの家が、私がいない間も守られるように。それに、国宝級の魔道具もごろごろあるから、盗賊に持っていかれたら大変だしね。〔タイムカプセル〕では、侵入は防げないから。
〔ミラージュプリズン〕
家の中の魔道具を発動する。目の前が森になる。もう家は見えない。これで安心。皆は固まっちゃってるけど。
これからの旅では、必要に駆られない限りは上級魔法までしか使わないつもりだから、こうやってフリーズする様子を見るのも、しばらくないのかな。ちょっと感慨深いかも。なんて。
「よし!いざ、レーベルへ!」
「よし、じゃねえーーー!」
アレクが何か叫んでいるけど、聞こえなかった事にする。
アレクにぐちぐち言われ、フィオがフォロー?し、テオとゼフがアレクをなだめ、オズが先頭を無言で歩いていく。私?私は笑ってます。もうとりあえず笑うしかないでしょ。
正直、〔ミラージュプリズン〕は私が生まれた頃からあの家にかかっていた魔法だし、私にとっては全く特別なものではない。ちなみに、この魔法をかけていたのはお母さんで、魔道具は私が8歳の時に作ったものだ。本の知識を応用したら、できちゃいました。
そんな魔法だから、上級魔法だし、本には載ってない魔法だけど、そこまで驚かれるものとは…。お母さんのオリジナルなのかな?お母さん、すごい魔術師だったもんなあ。
黙々と進むオズはもちろん、話しながらも皆周りを警戒している。いつ魔物に襲われるかわからないからね。
ここで、小説知識を整理してみる。世界の浄化のための旅を皆はしている訳だが、何故皆がここにいるのか。
実はこの森、魔物が大量に住む、割と危険な森だったりする。街の近くはともかく、奥の方は冒険者でもAランクじゃないと、1人で入るのは無謀だと言われてしまうレベル。
この森は「漆黒の森」と呼ばれており、黒い魔物しか出ない。また、他の森と比べて魔物との遭遇率が異常に高い。
まあ、強さはまちまち、かな。街近くは弱い。森の奥へ入るほど、魔物は強くなる。数が多いから、結構面倒。次々襲ってくる感じだ。
魔物が多く出る森。となれば、瘴気も溜まりやすい。魔物が倒される度に瘴気が増える訳だから。この森は瘴気で覆われているといっても過言ではない。だから、皆はこの森にいた。
ちなみに、瘴気は相当多くないと目には見えない。聖女様もそれは同じ。代わりになんとなく第六感で感じ取る事ができるらしいが。
浄化はもう終わってるみたい。目に見える程大量にあった瘴気がなくなって、視界がクリアになっている。浄化しつつ、魔物を討伐していたのだろう。これでこの森付近は安心だ。
だけど、ちょっと残念。もう浄化終わっちゃったのかあ…。
「ねえ、フィオ。浄化魔法ってどんな感じなの?」
「へ?」
「浄化は終わってる訳だし、見せて、とは言わないけど、気になるな!教えて!」
「…ちょっと待て。もう浄化は終わったって、お前に言ってたか?」
浄化魔法の話をフィオに振ってみた。だけど、…あれ?なんか皆の様子が。アレクが訝しそうに私を見る。フィオもどこか不思議そう。
なんで?
「…目に見えるくらいになってた瘴気が、きれいさっぱりなくなってるから。浄化は終わったんじゃないの?」
皆の目が見開かれる。驚きの表情。けど、ただ驚くだけじゃなくて、どこか警戒しているような、疑うような、そんな感じに見えるのは、私の気のせいかな?
「…リリアは、瘴気が見えるの?」
「えっと、濃すぎると見えるんだよね?5年前くらいから、なんとなく空気が淀んできて、辺りが黒いもので覆われてたから、それかなって。今は無いし。」
何なの?皆の目が怖い。いや、むしろ皆が私を恐れてる?
パニックに陥りそうな所で、我に返る。すぐさま後ろを向き、戦闘態勢。
魔物の登場だ。
アレクはツッコミ要員。
なんだか嫌な感じに。でも魔物は空気読まない。




