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第25話 餌付けと私の情報

前話のあらすじ

殿下に疑われました。殿下とやり合って、勝利しました。お泊まりが決まりました。フィオの本音を少し聞きました。


美味しい料理でおもてなしします。

 


 いつもより遅めに起きた。女子会で夜更かししちゃったからね。フィオは隣でまだ夢の中だ。


 遅め、といっても、私はいつも6時起きで、今7時だから、そう遅くない。夜更かしだって、1時くらいまでだったし。フィオはすっごく眠そうだったけど。いつももっと早寝なんだろうな。




 フィオを起こさずに、そっとベッドから出て身支度を済ませる。とんがり帽子をかぶり、庭へ行ってライに挨拶。昨日の事のお礼も言っておく。ライがいなかったら、あんなに早くアレク様を助けられなかったからね。ライは本当に頼りになる!




 それから、朝食の準備。6人分だ。木の実をたくさん採り、ついでに野菜も収穫。少し鶏肉を調達して、早速お料理です!


 いつもは木の実だけで済ませるんだけど、今日は男性が4人もいるんだし、「最高のおもてなしをする」って言っちゃったから、頑張らないと!


 ついでに、好感度アップもねらう。いや、そっちが主目的かな?



 野菜と鶏肉のスープを作り、パンと木の実をテーブルに出す。気づけば8時だ。そろそろ皆起きてくるだろうか。私はこの世界においては世間知らずだから、こういう常識はよくわかんないんだよね。ちょっと不安。



「おい。」



 びくっ!急に声をかけられ、驚いて振り向くと、そこにはオズ様がいた。私が驚いた様子に驚いたようだ。目が丸くなっている。レアな顔が見れた。



「す、すみません、気づかなくて…。」

「いや、突然声をかけた私も悪かった。すまない。」



 とっさに謝るが、向こうにも謝られてしまった。少し気まずい空気が流れる。



「…その、何をしていたんだ?」

「ええと、朝食の準備を。出来上がりましたので、皆様をお呼びするつもりでしたが、食べられますか?」

「ああ、助かる。男達は起きているから、私が呼んでこよう。フィオは頼めるか。」

「はい。ありがとうございます。」



 変わらない表情。さすがクール王子。まあ、笑顔を直に見たら、キュン死にする恐れがあるから、むしろ助かるんだけど。



 オズ様が他の3人を呼びに行き、私はフィオのもとへ。寝起きが悪いのか、「あと5分…。」と言って布団をかぶろうとするフィオから布団を奪い、無理やり起こしてリビングへと連れて行く。


 行くとすでに全員がそろっていた。席について、早く食べたい、といった様子で朝食を見ているゼフとテオ。アレク様もチラチラと見ている。オズ様は変わらず無表情だ。



「これ、リリアが用意してくれたの!?ありがとう!美味しそう!」



 フィオも完全に目が覚めたようで、キラキラと目を輝かせてこっちを見ている。可愛いな。


 私はスープをよそって配り、席に着く許可をもらって、皆と一緒に食事を始める。フィオ達が、昨日だけでは話し足りない、と言わんばかりにいろいろな話を聞かせてくれた。朝食を食べ終わっても、話は続いた。



「あとねー、そうだ!建国祭の話!2年くらい前にね…。」

「おい、フィオ。そろそろやめろ。」

「えー!まだまだ話したい事たくさんあるのに!」

「僕もまだ話したいです!」

「俺も!まだ午前中だぞ?いいだろ?」

「すでにお昼時だ。とりあえず昼食にすべきだし、さすがに夕方には次の街に着いておく必要がある。」

「そんなー。」



 気づけばもう12時になろうとしていた。楽しい時間はあっという間に過ぎるな。アレク様も加わりながら、楽しく話していたけど、オズ様は何も言わなかった。正確には、フィオ達が話を振った時に一言話すだけ。ずっと話を聞きながら、こっそり私を監視している感じ。



「それに、さっきから自分の話しかしていない事に気づいていないのか?相手の話を聞こうとは思わないのか?」

「え!嘘!そういえば…。」

「僕達ばかり話していましたね…。」

「悪い、リリア!お前聞き上手だから、ついこっちばっか話しちまった。」

「ううん、気にしないで。私が聞きたいから聞いていただけ。面白い話ばかりで、聞いていてとても楽しかったわ。」

「リリアー!大好きっ!」



 確かに聞きっぱなしだったが。私はとても楽しかった。だが、それでは私の情報が集められず、オズ様は困るだろう。だから、あんな言い方をしたのだ。私を気遣って、ではなく、私の話を聞く(情報を得る)ために、だ。




 とりあえず、お腹も空いたので昼食の準備をすることに。魔物狩りはお願いした。鶏肉ばかりじゃ飽きるからね。狩りたての肉を手に入れ、魔法でミンチにしてハンバーグを作る。ふわふわパンに、私のお手製ピクルスとシャキシャキ野菜、特別な手作りソースをハンバーグとともに挟めば、美味しい美味しいハンバーガーの出来上がりだ!


 実は、この魔物はお肉が生臭くなりがちで、調理法が限られているのだが、ハンバーグ、特にハンバーガーにすると、格別に美味しいのだ。何故かは不明。でも、美味しいからいいのだ!美味しいは正義!



 テンションおかしくなってたけど、すました顔で皆に勧める。食べ方がわからなかったようなので、かぶりついて見本を見せる。自然と頰が緩む。皆も食べると、顔をほころばせていた。オズ様?無表情だけど、なんとなく美味しい、っていうのは伝わってきました。餌付け成功!なんちゃって。



「おい。昼食も終わったし、本題に入るぞ。聞きたい事は山ほどある。」

「ちょっと!その態度はリリアに失礼でしょ!それに、おい、じゃないよ!リリアにはリリアっていう可愛い名前があるんだから!」



 フィオが可愛い。可愛すぎないか。睨んだ顔さえ可愛いとか。天使かよ。



「…リリア嬢は、何故ここに1人で住んでいるんだ?親は?何故街に住まない?」



 オズ様に「リリア嬢」と呼ばれてしまった!小説ではずっと「お前」とか「おい」とかで、途中から「リリア」になるんだよね。なんだか新鮮だな。



「…両親は不慮の事故で亡くなりました。ずっと過ごしてきたこの家を捨てられず、ここでライと共に暮らしてきました。」

「そんな…。じゃあリリアはずっと1人だったの?」

「ライがいたから、寂しくはなかったわ。」



 咄嗟に声をあげたのはフィオだけで、他の皆は言葉を失っているようだった。16歳の少女が、天涯孤独の身で、この広い家に1人で住んでいるなんて、そりゃ悲劇だよね。


 まあ、ライのおかげで両親の死からも立ち直れたし、今は何も気にしてないんだけどね。



「両親の職業は?何故家族で森の中に住む?何か特別な事情でも?」



 1人だけ、表情を変える事なく、淡々と話を進める人が。フィオ達に睨まれているが、どこ吹く風だ。



「…両親は、街での暮らしは肌に合わなかったらしく。外へ働きに行っていましたが、自然に囲まれたこの家を気に入っていたようです。」

「両親の職業は?」

「…国に仕えていた、と聞いております。2人とも魔法が得意でしたので。」



 職業の話題を避けた事に気づいたようで。すぐさま切り込んできた。「国に仕えていた」という言葉に、王族貴族である皆は反応した。ただの門兵などならともかく、宮廷魔術師団に所属する者だとしたら、ただの平民とはいえない。


 基本スペックは、貴族であろうと平民であろうと、大して変わりはない。しかし、平民は十分な教育を受けられないため、宮廷魔術師になる事は非常に難しい。


 つまり、もし私の両親が宮廷魔術師だったならば、私は貴族であるかもしれないのだ。



「…両親は、宮廷魔術師だったのか?」

「いえ、両親から『宮廷魔術師』だと聞いた事はありませんね。ただの一兵卒かと。」



 そう。両親は自分の『職業』について、私に語った事はない。自分の『仕事ぶり』や『武勇伝』はよく語っていたが。それを聞く限り、ただの一兵卒ではない気がする。が、言わない。


 宮廷魔術師ではない、とわかり、張り詰めていた空気が緩んだ。実際は、はぐらかしただけなんだけどね。これ以上突っ込まれたくないし。



「…では、次の質問だ。4年前、リリア嬢は何故王都にいたんだ?どういう経緯で、フィオ達と関わる事になったんだ?」



 両親の話から、私の王都での話に移った。ズバリ聞いてくる。きっとあの腹黒宰相からすでに聞いているだろうから、矛盾がないように気をつけないと。




 …もう4年も経つんだな。早いな。


 フィオ達と別れて、この家に戻ってきて、私は毎日修行に明け暮れた。大切な友達を守るための力を、大切なキャラ達を幸せに導けるだけの力を、私は求め続けた。


 魔法はもちろん、護身のための体術や剣術、情報収集のための話術、王族貴族と渡り合うための礼儀作法など、様々な技術を身につけた。そして、街に出た際は一般常識や世情を街の人から聞き、料理や薬、魔物の事などを本で調べて、多くの知識を身につけた。



 といっても、知識は隣町で手に入るもののみなので、いろいろ不安。自分の強さは特に、客観的に測る機会がなくて…。ライは別格だから、比較対象にならないし。ペガサスだしね。




 4年前に王都へ来たのは、フィオがトラウマ事件に遭うのを防ぎたかったから。あわよくばフィオをひと目見たかったから。


 フィオ達と関わる事になったのは、偶然が重なった結果、としか言えない。たまたま宰相に会って気に入られて、たまたまフィオと会っちゃって、宰相の誘いに乗ったらたまたまフィオとテオとゼフの3人と一緒に祭りに行く事になっていた。ゼフなんて急に巻き込まれただけだしね。



 って説明しても、納得しないよな。まず初めの時点で、この世界が小説の世界である事を説明しないといけなくなるし。さあ、どう説明したものか。




 私はオズ様と改めて向き合い、真剣な表情で話し始めた。



嘘はつかないけど、はぐらかしはする。

4年間鍛えた話術は、王族にも負けない。

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