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第24話 殿下との舌戦

前話のあらすじ

オズ様に認識していただきました。完璧な猫を被りました。再会した友達と、楽しい時間を過ごしました。


殿下とやり合います。

 


「それでね!アレクったら、私のクッキー食べちゃったの!ひどいと思わない!」

「お前が食べるの遅いからだろ。しかも、1枚だけだし。」

「1枚でもダメなの!」

「姉さんとアレクは、いつもこんな感じなんです。」

「ほんと仲良いよな。」

「「仲良くない!」」

「ふふっ。ケンカするほど仲が良い、ってやつだね。」



 途中からアレク様も会話に加わってきた。フィオがアレク様の意地悪話をたくさんするからかな。本当に仲良いな。でも、フィオは鈍感。アレク様の気持ちには気づかない。



「おい。暗くなってきた。そろそろ行くぞ。世話になったな。」



 突然かけられた、殿下からの言葉。今までの楽しい気持ちが一気にしぼんで、現実に引き戻される。確かに窓の外を見ると、辺りは夕焼けに染まっている。



「えー。まだ話し足りないよ!あ!ねえ、リリア。今日ここに泊めてよ!女子会しよう!」

「ダメだ。これ以上時間を無駄にはできない。さっさと行くぞ。」

「やだ!まだここにいるもん!」

「却下。わがままはやめろ。旅行じゃないんだぞ。」



 全く揺るがない、硬く冷たい声。殿下の言っていることは正論だ。この旅は遊びじゃない。寄り道する暇など無いのだろう。皆それはわかっているから、上手く反論できない。



「別にいいだろ、泊まるくらい。明日の朝、ここを出ればいい。その方が安全だし、フィオも納得するだろ。」



 ここでアレク様が、フィオへの援護射撃。フィオがヘソを曲げると面倒だから、とか言い訳は忘れない。ツンデレかわいいなこのやろう!



「ダメだ。まず、この女は信用できん。」



 はっきりと、絶対零度の言葉を言い放った。だけど、私はこの程度でへこまない。私は怪しすぎる。疑われて当然。



「ちょっと、オズ!今の、取り消して!」

「今のは聞き捨てなりません!」

「リリアになんて事言うんだ、オズ!」



 怪しまれるのはわかっていた。でもやっぱり、かばってもらえるのは嬉しいな。友達って感じ。私のために、怒ってくれた。それだけで、十分だ。



「ありがとう。でも大丈夫。逆にあっさり信用されちゃったら、こっちがびっくりだよ。…きっと、私が殿下の質問全てに正直に答えたとしても、やはり信用はできないでしょう。ですから…。」



 王族として、怪しい女を疑うのは当たり前。あの腹黒が特殊で例外なだけ。ならば、私がすべき事はただ一つ。



「ですから、契約はどうでしょうか。危害を加えない。皆様の不利益となる行為をしない。皆様と過ごす間は、魔法は許可を得てから使用する。など、ご自由にお決めください。」



 契約は絶対的な拘束力を持つ。無理に破ろうとすれば、痛覚に直接刺激が与えられ、どうすることもできない激痛が全身を襲い、最悪の場合、死に至る。


 だからこそ、信頼できる。もちろん、内容には細心の注意が必要だが。前世での契約書よりずっと恐ろしい物だ。一歩間違えば、奴隷にもなりうる。



「…そこまでして、ここに残るメリットは?フィオの機嫌だけだと言うなら、私達は街へ行く。」

「ちょっと、契約とか、やめようよ。リリアも、そこまでする必要ないよ?」

「ううん。大丈夫。私がそうしたいの。」



 フィオが心配してくれている。口は挟まないけど、テオとゼフも、心配そうにこっちを見ている。そう、私には友達がいる。躊躇う必要など、何もない!



「メリットは、最高のおもてなしを受けられる事。暗くなってきた森の中を、移動する必要がなくなる事。安全が保証されている事。何より…私という最強の魔女と関わりが持てる事!」



 ずっと無表情だった殿下だが、最後の言葉に眉がぴくりと動いた。キタ!



「私は、自分は世界有数の魔術師である、と自負しております。また、魔法はもちろん、植物や薬品、魔物についての知識は、貴方方よりはるかに多く持っているかと。魔物の討伐にも慣れていますし、新たな魔法の開発も行なっています。私は、貴方方の旅に必要な存在かと。それを見極めるためにも、こちらに泊まるのはとても良い事だと、私は思いますが?」



 少し挑発するように言ってやった。自分に酔ったナルシスト発言で恥ずかしいけど、だからこそ、殿下の注意を引ける。


 殿下は、急に自信たっぷりに、王族である自分に言いつのってきた私に、警戒と興味を持っただろう。この女は、放っておく方が怖い。そう思わせたら、こっちのものだ。



「…わかった。こちらに泊めさせてもらおう。」



 あまり顔に出ないようだが、少し顔がこわばっている。不本意なのだろう、挑発に乗らざるを得なかった事が。




 殿下に勝った!あのクールで賢いオズ様に勝った!




 まあ、私は4年前あの腹黒と渡り合ったのだ。普通に押されてた気もするけど。


 とにかく!腹黒よりは断然やりやすい。完全勝利!これで信用してもらえるよう頑張れば、旅に連れて行ってもらえるかも!



 今さらだけど、オズ様ってかなり心広いし、クールだけど人情に厚いからなあ。不敬とか言わないんだよね。「殿下」なんてビビる事なかったや。オズ様はとっても優しい人なのだ!



「ご理解いただきありがとうございます。では、契約の内容はどうなさいますか?」

「いい。いらん。フィオ達の友人なら、問題ないだろう。」

「オズ!もう。それなら初めから言ってよー!」

「今までの会話で、そう思っただけだ。それにお前は人を信じすぎる所がある。騙されている可能性もあった。」

「ひどい!リリアはそんな子じゃないもん!私が騙されやすいのは、否定できないけどー…。」



 まさか、契約を拒否されるとは思わなかった。ある程度の信用は得られたのかな?まあ、フィオ達のおかげだけどね。


 張り詰めていた空気が緩み、皆ホッとした顔になっている。アレク様はすぐにツンとしていたけど。ツンデレかわいいな。




 急に5人も泊まる事になったので、大急ぎで客間を整え、夕食の準備をする。信用を少しでも得るために、全ての部屋を出入り自由にした。ちゃんと掃除しておいて良かった。ゼフに頭撫でて褒めてもらえたし。すぐ顔を真っ赤にして、やめちゃったけど。残念。


 この家は何故か客間が沢山あるので、5人にそれぞれ一部屋ずつ割り当てられた。まあ、フィオと私は2人部屋を使う事になったんだけどね。女子会ですよ!


 夕食の準備は、皆に手伝ってもらった。家の庭で野菜や果物を収穫。鳥を撃ち落とし、血抜きしてさばいて調理。魔法を多用していたら、皆が感心した様子でこちらを見ていて、ちょっと恥ずかしかったな。



 久しぶりの人との食事。ずっと1人だったからな。ライはいたけど、家の中にはあまり入ってこないし。世間話をしながら、王都の様子などの情報を集めた。もちろん、会話は楽しんだよ。大切な友達との、楽しい夕食だもの。情報収集は、ついでです。


 ポーション塩の話も出た。王宮での研究で発見された、としてポーションの供給過多問題を解決。まあ謎の小娘が提供した情報、とは発表できないからね。手柄は求めてないし。実際の手柄は私の母親だし。




 夕食の後は、浴場へご案内。全く使う事なく、たまに掃除魔法をかけるだけになっていた、大浴場。何故そんなものがあるのか。大浴場、といっても、一度に入れるのは5人までかな。それでも十分だけど。一部の人には、苦笑いされてしまった。フィオは目を輝かせてたけど。


 いつも私が使っているお風呂は1人用なので、今日はこっちの浴場で。男女で時間を分けて、ゆっくり楽しんだ。早速女子会もしました!のぼせそうだったから、早めに切り上げたけどね。




 そして、就寝。私達は、部屋でも女子会!日付が変わるまで、いろいろな話をした。恋バナもしたけど、フィオはオズ様の事は、特に何とも思っていないらしい。シナリオ変えちゃったからな。まあ、この先どうなるかわかんないけどね。という訳で、初恋もまだみたい。理想だけ語り合って終わった。



 お互いにかなり眠くなってきた頃、フィオが呟いた。



「リリアって、普段そんな格好なんだね。全身真っ黒。寝る時もだし。とんがり帽子だし。…ねえ、リリアが占いで言ってた私の運命の人だったり、する?」

「…どうだろうね。確かに、私はいつも黒いものばかり身につけてるから、『全身に黒をまとった魔女』ではあるよね。」

「リリアが、運命の人、だったら、嬉しい、な。」

「うん。私も、嬉しい。」

「…リリア。私の、聖女の、運命、変えて、くれる?」



 それだけ言うと、フィオは眠ってしまった。そっと布団をかけて、私は自分のベッドに戻る。



 フィオは、聖女だ。世界を救う旅に出る運命。それは、聖女にしかできない事だから。


 フィオが亡くなれば、他の人が聖女になる。しかし、新たな聖女が急にランダムで決まり、すぐに旅に出るなど無理な話。相当な覚悟が必要だ。その分、世界が救われるまで時間がかかる。世界が滅亡へと向かう。


 それを阻止するため、フィオは生きなければならない。フィオは、『世界の命運』という、恐ろしく重いものを背負う運命にある。誰かに代わってもらう事など、できないのだ。




 フィオは、私が守ってみせる!




 私は、フィオの心の叫びを聞いて、改めて決意を固めた。



心の声は「オズ様」呼びに。

本音がこぼれたフィオ。

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