第22話 会いたくなかった人
前話のあらすじ
16歳になりました。鍛錬中に森で毒霧が発生しました。解毒しました。フィオとゼフの声がしました。
ついに再会です。
結界の前に出てきたのは、この4年ですっかり大人っぽくなった、2人の友人。小説の挿絵と同じ姿。背も伸びて、顔つきも変わって。
きゃー!!あの「魔女ティア」のキャラが、今目の前に!やばい!
4年前会った時もやばかったけど、今は完全に小説のまんまだから、もっとやばい!もう、やばいしか言えない!
結界で私の姿が隠されているのをいい事に、興奮して飛び跳ねて、2人の姿を焼き付けようとガン見する。完全にやばい人だ。
でも、しょうがないと思う。ファンならこんなの当たり前でしょ!フィオの美少女っぷりに磨きがかかってる!ゼフ様のイケメンっぷりもだ!
2人は私には気付かずに、結界を通り抜ける。そして、私の後ろへ。
この結界は、家の存在を隠しており、触れると反対側へと転送される。結界内から見ると、手を入れれば、その手が反対側から出ている、といった感じだ。どういう仕組みなのかよくわからない。しかも、結界外では結界に気付かない。ただ森の中を歩いているようにしか感じない。不思議だ。
つまり、私が結界から出るか、結界を解かない限りは、2人は結界に気付かずに通り過ぎるだけ。これじゃあ再会が果たせない。
でも、いますぐ結界を解くのは無理だ。まだ興奮が抑えられない。ああ、2人が行っちゃう。
なんとか気持ちを落ち着かせる。まだ2人はそう遠くへは行っていない。大丈夫。まだチャンスはある。
だが、気になることがある。2人しかいない。他の3人がいないのだ。解毒はしたはずなのに。
小説では、毒があまり回っていないフィオとゼフ様が、3人を置いて人を探しに行く。そこで主人公と出会う。そして、解毒剤を受け取るのだ。
しかし、解毒はすでに終えたし、全員動けるはずだ。何故2人しかいない?二手に分かれた?魔物に襲われたばかりなのに、そんな危険な事する?というか、2人は人を探しているようだったけど、何故?何が目的なの?
わからないことだらけだ。頭パンクしそう。まだあまり冷静になれていない。深呼吸だ。スー、ハー、スー、ハー。
落ち着いた所で、状況を整理する。さっき毒霧が発生した。小説通りに。私は解毒剤を風で送った。毒霧は解毒された。おそらく、毒霧を吸った人達も解毒された。そして、何故か人を探しにきた2人。他の3人は見ていない。
毒や怪我で、動けない人がいるのか。ただ情報を得るために人を探しているのか。
どちらにせよ、この森に私と聖女達以外はいないだろう。二手に分かれて戦力の落ちた所を、魔物に襲われることもありうる。早く2人の前に出て行くべき。
でも!緊張する!興奮する!まったく心の準備ができてない!なんで今日なの!?早すぎるよ!
…はあ。いろいろ考え込んじゃうのは、私の悪い癖だ。どれだけ考えたって、結局答えはとっくに決まっているんだから。さっさと腹括ろう。
〔マジックキャンセル〕
そっと唱えて、結界を解除する。周りからすれば、急に森の中に家が現れた感じ。気づいてくれるかな。
「すみません!誰かいませんか?」
フィオだ。気づいてくれた。戻ってきてくれた。ついに、会える。再会の時だ。
フィオと、ゼフ様、いやゼフが、森から出てくる。小説のキャラではなく、私の大切な友達が。
2人が出てきて、目が合う。そして、見開かれる。とても驚いた顔。何が起こっているのか、理解できていないような。
ああ。覚えていてくれたんだな。
「フィオ。ゼフ。久しぶり。」
私が声をかけると、さらに目が見開かれる。口も開いている。小説の挿絵にはない間抜けな顔に、つい吹き出してしまう。可愛い所は、全然変わってないな。
「…リリア、なの?」
「うん。フィオ。」
「…本当に、リリア、なのか?」
「うん。ゼフ。」
覚えていてくれた。それだけで、胸がいっぱいになる。本当に嬉しい。
残したのは手紙だけ。4年も消息不明。一緒に過ごした時間は、1日にも満たない。だけど、友達と呼んでくれた。とてもとても、大切な人。
2人の驚き呆けた顔が、だんだんと泣きそうな顔に変わっていく。いや、2人の目から涙が溢れた。
「「リリアー!!」
2人が私のもとへと駆け出し、抱きついた。涙でぐしゃぐしゃになりながら、力強く私を抱きしめた。私がここにいることを確かめるみたいに。
私の目からも涙がこぼれた。会いたかった。ずっとずっと、会いたかった。
「…会いたかった!」
3人で抱き合って泣いた。ここにテオもいてほしかったな…。
「…あ!2人とも!テオは!?どうして人を探していたの!?」
そうだ!2人は人を探していた。つまり、残りの3人に何かあった可能性があるんだ!再会に喜んでいる暇はない!
「そうだった!大変なの!お願い、リリア!力を貸して!」
「怪我人がいるんだ!治癒魔法が効かなくて。リリア、頼む!」
怪我。それに、治癒魔法が効かないとは。怪我の具合にもよるけど、想定していた中で1番悪い事態だ。
「わかった!ライ!」
すぐにそばまで駆けてくるライ。2人は初めてみるペガサスに驚きの表情だ。
「ライ。怪我人をここまで連れてきて。お願い。」
ライにお願いすると、「任せろ。」とでもいうかのように少し鳴いて、2人を魔法で自分の背に乗せ、すぐさま飛び立つ。2人は急に空へと連れていかれ、そのスピードに絶叫。…ファイト!
怪我人の方はライに任せて、私は治療の準備。家に入り、ずっと使っていない客間を整え、治療に必要なものをそろえる。そして、ライ達を迎えるために外へ出る。
すぐにライ達が空からやってきた。ライの背にはテオとアレク様。怪我人はアレク様のようだ。テオが付き添い、残りの3人は後から来る感じかな。
「リリア!」
「テオ!久しぶり。その人が怪我人?」
「はい。魔物にやられて。血が止まらないし、治癒魔法が効かなくて。」
「わかった。そのままついてきて!」
テオとの再会は嬉しいが、今は治療だ。アレク様の顔色が悪い。かなりの量の血が流れている。ライに2人を乗せたまま、家の中へと向かう。
客間に着き、アレク様をそっとベッドへ下ろす。腕に噛み付かれた跡がある。そこから毒が侵入し、出血しているのだろう。すぐさま治療を開始する。
液体状の解毒剤を怪我にかける。そして、治癒魔法で怪我を治す。出血も止まった。意識が朦朧としているアレク様に、無理やり増血剤と上級回復ポーションを飲ませる。再び治癒魔法をかけ、ポーションの効果がすぐに出るように調整する。
すぐにアレク様の顔色は良くなった。意識もはっきりしてきたようで、自分の身体の変化に驚いている。隣で見ていたテオも、とても驚いている。
「なんで…。治癒魔法は、効かなかったのに…。」
2人の呆然とした様子がなんだか可笑しくて、笑いそうになる。こんな顔、かなりレアなんじゃないかな。フィオとゼフの驚いた顔も見れたし、なんだか平和だなあ。
「もう大丈夫ですが、一応安静に。急いで治したので、まだポーションが身体に馴染んでいないでしょう。お疲れでしょうし、ゆっくりしていってください。もちろん、テオも。」
「あ、ありがとう。助かった。」
「リリア!本当に、ありがとうございます。それに、また会えて、嬉しいです。」
アレク様はまだ呆けた様子で、でも感謝を伝えてくれた。テオ様は、目に涙を浮かべて、笑ってくれた。
「…会いたかった!」
思わずフィオやゼフの時と同じように、抱きついてしまった。テオは驚いたようだったけど、抱きしめ返してくれた。また泣きながら、再会を喜んだ。
そっと抱擁を解き、2人で笑い合っていたが、なんだか外が騒がしい。テオとアレク様に断って、外へ出ると、何故かライが3人を家の中へ入れまいと、3人の前に立ちふさがっていた。
「頼む!中に入れてくれ!アレクが心配なんだ!」
「ねえ、お願い!ペガサスさん!」
ゼフとフィオが必死に頼んでいるが、ライが引く様子はない。どうしたのだろう。
「ライ!」
私が声をかけると、ライはこちらに駆け寄ってきた。ゼフとフィオはホッとして、こちらを見ている。
「ライ、どうしたの?あの人達が何かした?別に家にあげても良かったのに。」
ライに話しかけるが、ライは私をじっと見つめるだけ。何かを訴えているようだ。
ライはとても賢い。そして、人の機微に敏感だ。きっとこれは、私を思ってしたことに違いない。違いないのだが…。
「おい。早くしろ。アレクの状態はどうなんだ。」
突然かけられた声。聞いたことのある声。何度もアニメの予告編を見て、すっかり虜になってしまった声。脳内で繰り返し再生した声。
声がした方へ顔を向ける。フィオとゼフの後ろに、彼はいた。
…会いたくなかった。
会うべきじゃなかった。少なくとも、会うなら主人公として会うべきだった。ファンとして、いや違う、1人の恋する乙女として、会ってはいけなかった。
小説の登場人物ではない。アニメのキャラでもない。前世とは違う。確かにこの現実に存在する人。
オズ様。
私がこの世界で、最も会いたくて、最も会いたくなかった人。
3人と感動の再会。
初恋の君、登場。




