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第20話 別れと帰宅 / 宰相の思い

前話のあらすじ

それぞれ占ってもらいました。お別れの時間になりました。なぜか3人は顔を真っ赤にして固まってしまいました。


可愛い3人とお別れです。

後半は宰相視点です。

 


 友達だと言ってくれた。


 私とフィオは同い年だし、テオ様は1つ下、ゼフ様は2つ上だ。年長のゼフ様が言うなら、呼び捨てでも構わないだろう。私は貴族じゃないので、本来は呼び捨てなんて完全アウトだ。でも、そんなの寂しい。私も友達として、対等でありたい。そう思って、呼び捨てで呼んでみた。


 だが、なぜか3人は、顔を真っ赤にして固まってしまった。



 …さすがに貴族様に平民が呼び捨てはまずかった?怒らせた?



「あ、あの。やっぱり、元に戻しますね。私、平民ですし…。」

「え?いや!そのまま!フィオって呼んで!嬉しかったから!」

「僕もです!戻さないで!」

「敬語とかいいから!平民とか、関係ないし!」



 私が敬語に戻すと、3人は焦った様子でそう言ってくれた。そこに嘘はなくて。お言葉に甘えさせてもらうことにした。なぜ固まってしまったのかは謎だが、なんとなく聞かないでおいた。特にゼフ様とか、まだ顔赤いし。



 別れの挨拶をして、馬車から降りる。そのとき、フィオが私の耳元で囁いた。



「さっきね、リリアの笑顔がすごく可愛かったの。だから、固まっちゃったの。また見せてね。」



 フィオはいたずらっぽく笑った。可愛いのはそっちだろ!と叫びたい所を我慢して、笑顔で頷く。




 城内へと入っていく馬車を見送り、ゼフ様と帰路へ着く。送ってくれるらしい。さすが紳士だ。


 でも、世間話でもしていたら、宿へもあっという間に着いてしまう。楽しい時間は、過ぎるのが早い。



「送ってくれてありがとう。今日は楽しかったよ。」

「こっちこそ、ありがと。すげえ楽しかった。その、本、取れなくてホントごめん。」

「もう、気にしないで。このぬいぐるみ、大事にするね。」

「っおう!」



 ゼフ様とも別れの挨拶をして、私は宿へ。自分の泊まっている部屋に入る。そのまま机に向かい、便箋を取り出して、思いのままに書き出す。


 必要な事を全て書き終え、それぞれ封筒に入れる。便箋や封筒は、なんとなく持ってきておいたんだよね。できた手紙は机の上に置き、帰り支度を済ませる。準備万端!って所で、帰る前に夕食をいただきに食堂へ。



 夕食を済ませ、部屋に戻り、取り出すのは一枚の紙。そこには私が開発した魔法陣が刻まれている。



「ありがとう。さようなら。またね。」



 魔法陣に魔力を流し込む。魔法陣の光が、私と肩に乗っているライ、そして私の荷物を包み込む。結局何も買わなかったから、荷物は行きと同じ。買いに行けばよかったかな?まあ、いろいろ見て回ることはできたから、いいか。


 光が消えれば、部屋には誰もいない。あるのは、机の上の手紙と、魔法の残り香だけ。




 家に帰ってきましたー!ただいまー!




 そう。あの魔法陣は、私が頑張って頑張って開発した、転移魔法陣なのです!あれさえあれば、どこからでも一瞬で家に帰れる!しかも、消費魔力は中級魔法程度!


 ちなみに、魔法は消費魔力や発動・制御難易度などによって、階級が決められている。初級、中級、上級、特級、覇級、神級、と分かれており、転移魔法は魔法陣さえあれば誰でもできる、初級魔法だ。コスト削減、頑張りましたから!



 1週間かけて王都へ向かったのに、ほんの数秒で帰ってくるというあっけなさ。まあ、転移魔法は魔法陣をあらかじめ設置しておく必要があるから、王都に戻ることはできないんだけどね。


 まあ、さすがに魔法陣無しでできるようになれば、犯罪に使われて面倒な事になりかねない。便利になりすぎるのも良くないのだ。開発するのが大変すぎるから、やる気が起こらない、っていうのが、開発しない1番の理由だけど。




 帰ってきたので、ライには庭でのんびりしてもらい、私は荷物を整理。そして机に向かい、王都で思いついた新たな魔法のアイデアを紙に書き出していく。


 日常に戻ってきた。明日からはまた、魔法の研究に明け暮れることだろう。もう趣味みたいなものです。



 アイデアを全て書き出し、ライにおやすみの挨拶をして、眠りにつく。やはり家は落ち着く。今日はぐっすり眠れそうだ。




 *ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー*




「ふむ。行動に移った瞬間に、強烈な眠気、ね。」



 報告書に目を通し、1人ため息をつく。報告内容は、聖女様達の祭りでの様子について。そして、護衛兼ゴロツキ役の者達について。宰相である私には、関係のない報告に思えるだろう。




 聖女様は、ひと月ほど前からずっとあるわがままを言い続けていた。それは、普通の子供ならわがままではなく、当たり前にできること。



「お祭りに行きたい。」



 聖女様は、生まれた時から隠されて生きてきた。城から出たことはなく、関わる相手はごく少数。狭い世界で、自由がほとんどない生活を、余儀なくされていた。聖女様は幼い頃から聡明で、わがままはめったに言わなかった。


 そんな聖女様の願い。叶えてあげたかったが、最適な護衛が見つからなかった。厳重に守りたい所だが、そうしてしまえば、聖女様の願いを本当に叶えた、とは言えないだろう。



 聖女様を守るためには、それなりの実力者が必要だ。そして、口が固くなければならない。聖女様、という秘密を厳守できる、腕の立つ者。何より、聖女様が安心して楽しめるように、取り計らえる者。


 実力者、という時点で、聖女様の隣に立てる者は限られる。明らかにいかつい者が多いのだ。だが、若い者だと経験不足が心配だ。


 条件に合う護衛が見つからず、聖女様のわがままは叶えられそうになかった。皆が諦めて、聖女様を説得していた。




 まさか、直前になって、出会えるとは思わなかった。腕が立ち、賢く、ちょうど良い年齢と性別の者に。




 店に入ってきた時から、予感はしていた。とんでもない魔力量と、心の内を隠すポーカーフェイス。とても子供には見えない。私と渡り合ってみせた。宰相として、口には自信があったのだがね。


 とはいえ、信用が置けなければ意味がない。彼女に興味を持ち、次の日も関わってみた。まさか、涙を見る事になるとは思っていなかったが。



 とてもきれいな涙だった。そして、悲しい涙だった。何を思っての涙なのかは分からなかったが、拭わずにはいられなかった。私への警戒を解いて、ただ涙を流す様は、彼女らしくないと思った。まだ出会ったばかりだというのに。



 その後は、何もなかったかのように、年相応にはしゃいでいた。私の事は苦手そうだったのに、普通に話しかけ、次々と質問をしていく。呟いた独り言は、専門家のような知識ばかりで、全く子供らしくはなかったが。


 どこかちぐはぐな彼女に興味が膨らみつつ、あとは城の門へと送るだけ、という所で、聞こえるはずのない声が聞こえた。




 彼女は聖女様に出会ってしまった。




 私は珍しく焦っていた。聖女様は国家機密とも言える存在。知ってしまっただけで、罪にもなりうる。


 だが、彼女のポーカーフェイスは崩れていなかった。聖女様だと当て、『隠された存在』である事までも見抜いた。こちらの事情を察して、あっさりと契約を交わしてくれた。この秘密で脅す事もできるのに。




 彼女は信用できる。そう思った。




 建国祭前日だったが、大急ぎで準備をする。聖女様にも伝えると、大喜びだった。2人きりでは緊張するだろうと思い、息子にも事情を説明して、一緒に行かせる事にした。内気な性格で、友人が少ないので、ちょうど良いだろう。息子も楽しめたら尚良い。


 なぜか彼女は断らないだろう、という予感があった。そして、その通りに依頼を受けてくれた。



 彼女は期待以上の働きを見せてくれた。聖女様も息子も、とても満足げに帰ってきて、友達ができた、と自慢してきたのだ。馬車ではかなり緊張した様子だったのに。何があったのだろうか。


 報告は、とても微笑ましいものだった。十分に皆楽しめたようだ。そして、彼女を試すためにゴロツキ役を用意して、帰る直前に襲うよう指示を出しておいたのだが、襲おうと動き出した直後に、全員が強烈な眠気に襲われたのだとか。おそらく魔法だろう。動いた瞬間に無力化できるようにしていたのだ。



 熟練の宮廷魔術師なら可能だろう。だが、まだ子供なのに、共にいた3人には気づかせずに、おそらく私の差し金だと分かった上で、一瞬にして無力化したのだ。恐ろしい実力だ。




 彼女を手放すわけにはいかない。国にとって、聖女様にとって、彼女は必要な存在だ。




 翌日、宿を訪ねると、すでに彼女はいなかった。あるのは手紙だけ。逃げられたのだ。彼女の方が一枚上手だった。


 一応彼女の捜索を指示して、手紙を見る。聖女様、私の息子、ギムルハート家の末の子息、近衛兵のギムルハート殿、そして私。5人それぞれに宛てられた手紙がある。まさか私にも手紙をくれるとはね。



 手紙をそれぞれ届けるよう、側にいた兵に言って、城に戻る。仕事は後回しだ。さあ、何が書かれているのやら。とても楽しみだ。



主人公の笑顔も、殺人級か?

さらっと帰宅する主人公。


宰相視点、長めに入れてみました。

主人公をかなり気に入っています。

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