第19話 それぞれの占い結果
前話のあらすじ
尾行連中を監視しつつ、演劇を見ました。射的をしました。占いテントに入りました。嫌な予感がしました。
それぞれ占ってもらいます。
この世界での占いは、魔法の一種だ。水晶玉などの特別な道具や、占い師の才能がないとできない、特殊な魔法。私は才能がないからできない。才能ある占い師は、国や貴族に囲われることもある。結構貴重な存在なのだ。
占い師の才能とは、占い道具との相性の事を指す。占い道具に魔力を流すのだが、相性が悪ければ、何も見えてはこない。または、見えてもさっぱり当たらない。私は才能がなさすぎて、道具に弾かれてしまう。静電気が発生したかのように、バチっと。
いいもん。占いなんて自分でできなくても困らないもん。ぐすっ。
そんな訳で、目の前にいるのは、その貴重な占い師の1人。しかも、よく当たるのだから、かなり評判が良い。そんな人の商売道具を壊したり、その人を傷つけたりしたら、大問題だ。私達の後ろにもまだまだ並んでいる人達がいたし。
つまり、嫌な予感がしていても、私にこの占いを止める事は不可能。占い道具と相性最悪の私が無理に止めようとしたら、面倒な事になりかねない。
ただ見ている事しかできず、とっさの時に3人を守れるようにだけ、準備をしておく。何の予感なのかわからない以上、何が起きても対応できるようにしておかないと。
「…はい。わかりましたよ。貴女の運命の人。」
「本当ですかっ!?」
水晶玉の光は消え、占い師が話し始めた。フィオの目も輝いている。私は警戒を怠らない。
「はい。ですが、運命の人、というだけで、貴女の未来の旦那様、という訳ではありません。」
「どういう事ですか?」
「貴女の運命の人は、全身に黒をまとった魔女です。その方が貴女の運命に大きく関わってくるでしょう。」
「魔女?」
…それって、私じゃね?
占い師とフィオの会話を聞いて、私は普段着を思い出す。昔から、魔女の正装だから、と黒いワンピースを着てきた。両親が亡くなってからは、形見の黒いとんがり帽子もかぶってきた。今は町娘風の服装だが、普段は完全に「黒い魔女」である。
そういえば、小説内でリリアローズは「純黒の魔女」と呼ばれていた。
つまりは、私がフィオの運命の人?
確かに、小説ではフィオは今日一人で祭りに来ていた。城の庭で人と会う事も、私がいなければ無かったはずだ。私はフィオの運命を変えている。
これが嫌な予感の正体?これによってもたらされる私の不利益とは一体何だろう?
あまり腑に落ちないが、まあとりあえず良かった。面倒な事にならなさそうで。
フィオは恋占いではなかったため、少し不満げだった。まあ、ここでオズ様が運命の人、ってわかっちゃうと、オズ様とギクシャクしてしまう可能性があったし、良かったのかも。
「では、次はどうなさいますか?」
「テオ様。どうされますか?」
「僕ですか?えっと、僕は…。」
次はテオ様の番となった。ゼフ様がそっと促す。テオ様は考え中。私も何を占ってもらうか、考えておかないと。
「…父上と、どうやったら仲良くなれますか?」
「お父上と仲良くなりたい、ですか。では、占いますね。」
テオ様。あの腹黒と仲良くなりたいとは。まあ、あれでも父親だもんね。というか、あまり上手くいってないのかな?あいつ、テオ様を悲しませるとは、許せん!
「…はい。そうですね。お父上が家へ帰ってきた際に、玄関で出迎えて、花を渡してみてください。毎日続ければ、きっとお父上の考えにも気づけるでしょう。」
「出迎え。お花。はい、やってみます!ありがとうございます!」
テオ様は、きっと背中を押してもらいたかったのだろう。出迎えはきっかけづくりにはぴったりだし、これからは良い関係を築いていけるはずだ。テオ様の顔も晴れやかだ。
「リリア、何占ってもらうか決めたか?」
「ごめんなさい、まだ。お先にどうぞ。」
「そうか。じゃあ、俺は、自分に足りないものを補うために、何をすればいいか、占ってください。」
「わかりました。」
ゼフ様は、やはり、といった感じだな。騎士家系の身としては、1番に求めるのは強さなんだろう。
「…はい。貴方は、女性との会話に慣れた方がいいですね。」
「はい!?」
「誰とでも潤滑に話ができる力は、将来的にとても重要なものとなります。今のうちから多くの方と触れ合って、経験を積んでおくのがいいでしょう。特に女性の扱いは、誰かから教わっておくべきですね。」
「女性の、扱い…。」
ゼフ様って、小説では皆のお兄さんで、街の人との交渉とか上手かったよな。女性の扱いも、相手の機嫌をとりつつ、いつも一線を引いていた。今は全然だもんな。すぐ赤面するし。可愛いけど。これからあの人気ナンバーワンキャラに成り上がるのか。
小説のゼフ様は、キザではあったけど紳士だったし、4年後が楽しみだ。でも、ケイルさんみたいな鈍感女たらしにはならないでほしいな。人との距離感、大事だよ。
そしてついに、私の番になってしまった。どうしようかな。
「リリアは何を占ってもらうの?あ!好きな人の事とか?」
フィオがキラキラした目でこちらを見てくる。残念ながら、ひきこもり魔女を12年間してきたので、色恋はさっぱりだ。
「好きな人は思い当たらないので、別の事ですね。では…。私の『居場所』がどこか、占っていただけますか?」
フィオは残念そうだ。そして、3人で首を傾げている。かわいい。
『居場所』だなんて、カッコつけすぎただろうか。抽象的だし、この言い方では「居場所がない」と言っているように聞こえるかもしれない。
あまり深い意味はない。ただ、私がどこにいるべきか、誰のそばにいるべきか、それを決める材料になれば、と思ったのだ。
すでに私は、小説のシナリオから外れている。つまり、16歳まで1人で森にいる必要はないのだ。だが、そのせいで小説知識が生かせずに、誰かが犠牲になったら…。
あー、やめやめ!ネガテイブ思考になると、止まらないからなー私。不安な気持ちを抑え込んで、占いの結果を待つ。
「…はい。出ました。これは…光、ですね。」
「光?」
「ええ。貴女の『居場所』は、『光』のそばです。貴女が努力した分、『光』は輝きを増します。そして、貴女が『光』と出会うのは、およそ4年後。『光』はきっと、貴女に幸福をもたらすでしょう。決して手放してはいけませんよ。」
…光?
ん?結局、どういうこと?
4年後っていうのは、きっと小説の始まりのことのはず。つまり、『光』っていうのは、聖女達5人のこと?もしくは、その中の誰かのこと?
4年後に出会う。なら、すでに出会っている人は『光』ではない。つまり、
オズ様かアレク様。
そのどちらかが私にとっての『光』で、その人のそばが私の『居場所』ってこと?
「…4年後が楽しみです。それでは、ありがとうございました。」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございました。」
「ありがとうございました。失礼します。」
予想外の結果だったが、なんとか動揺を隠してお礼を言う。3人も続けてお礼を言い、お金を払ってテントの外へ出る。
まだ明るいが、そろそろ時間だ。馬車へと向かう。
「すごく楽しかった!リリア、テオ、ゼフ、ありがとう!」
「僕も楽しかったです!リリア、ゼフ、ありがとう!ね、姉様も…!」
「えへへ。このまま弟でいてほしいなぁ。」
「…弟でいていいかはわからないですけど、きっと遊びに行きます!」
「うん!楽しみに待ってるね!」
…はあああ。2人が可愛い。可愛すぎてため息が出る。幸せなため息だ。ついにやけそうになるのを抑えて、2人を見守る。気をつけないと、変態チックなにやけ方になってしまう。この天使達に引かれたら、心折れちゃうからね。
「2人が楽しめたようで良かったです。俺も楽しかったし、ありがとう!リリアも、ありがとな。」
「こちらこそ、とても楽しいひとときでした。3人とも、ありがとうございます。」
みんなでお礼を言い合って、笑い合う。とっても幸せ。王都に来て良かった、って心の底から思う。
そうして、馬車に着いてしまった。あとは帰るだけ。もうすぐお別れだ。それを感じて、みんな少し寂しそう。
馬車に乗り込み、城へと向かう。他愛もない話に花を咲かせていると、行きはそれなりに長く感じた道のりも、あっという間だ。
フィオとテオ様は、このまま馬車で城内へと入っていく。ゼフ様と私は、ここでお別れだ。
「楽しかった!ありがと、リリア!ゼフ!いや、リリア様とゼフ様、かな。」
「私は貴族ではありません。リリア、で構いませんよ。」
「俺もゼフでいいです。変な感じするし。友達なら、様付けは変でしょう?」
「友達っ!そうだよね。友達だもんね!」
「ぼ、僕も、いいですか?」
「ああ、もちろん!年も近いし、様付けも敬語も無しでいいだろ!…いいよな?」
「うん!嬉しい!」
「僕も、嬉しいです!」
「…じゃあ、私も。今日はありがとう。フィオ。テオ。ゼフ。」
初めに馬車で、友達になったんだった。なら、対等だもんね。
嬉しくなって、私も調子に乗って、敬語をやめて、呼び捨てにしてみた。
すると3人は、顔を真っ赤にして固まってしまった。なぜ?
嫌な予感の正体わからず。
ゼフ様だけでなく、フィオとテオ様も赤面。




