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第2話 前世と今世の記憶

前話のあらすじ

事故って、目が覚めると、知らない部屋にいました。窓の外に黒いペガサスを見ました。髪の色と質が変わってました。

現状を受け入れられないので、とりあえず寝ました。


ここから、説明回が続きます。

 


 目が覚めると、一度だけ見た覚えのある天井。体を起こし、自分の髪や腕を見る。自分の体のはずだが、見慣れない。頰をつねる。痛い。やはり夢では無いらしい。


 ベッドから出て、窓に近づき、カーテンを開ける。窓の向こうには黒いペガサス。のんびり草を食べている。もう一度、頰をつねる。痛い。やはり夢では無いらしい。



 明らかにおかしい状況だが、とにかく受け入れるしかない。私は私ではなくなり、異世界にいるようだ。非常に、とてつもなく信じがたいが。



 とりあえず、部屋を調べることにした。何かこの状況を理解するためのヒントがあるかもしれない。といっても、この部屋にはベッドとクローゼット、机、椅子しかない。全て木製で、素朴な感じだ。ベッドはホテルのように真っ白なシーツで覆われている。机にはランプが置かれているだけ。では、クローゼットの中はどうか。


 クローゼットを開けてみると、そこには黒いとんがり帽子がぽつんと置かれていた。魔女の帽子みたいな。




 その帽子を見た瞬間、私は思い出した。私、リリアローズ・クラリティのこれまでの日々を。


 私の名前は、リリアローズ・クラリティ。ワインレッドのサラサラした髪に、黒い瞳をもつ、色白で細く、将来は美人間違いなしの、可愛くてか弱い少女。12歳にして、高度な魔法も巧みに操る、小さな魔女。




 ってこれ、「魔女ティア」の主人公じゃん!!




「魔女ティア」とは、私の大好きな恋愛小説「魔女の帽子と聖女のティアラ」の略称だ。「魔女ティア」の主人公は、純黒の魔女リリアローズ。美しい容姿と高度な魔法技術を持っており、森の奥深くに一人で住んでいた。16歳のときに聖女達と出会い、一緒に旅に出るところから物語は始まる。


 同姓同名だし、容姿は本の表紙の姿を幼くしただけって感じだし、魔法も使えるし、家は森の奥だし。やっぱり、私はあのリリアローズなのか?




 いやいやいや!


 って言いたいところだけど。ここが異世界であることは、ペガサスからして間違いないし。「リリアローズ」としての記憶が確かにあるんだ。少なくとも、私が「リリアローズ」という少女であることは間違いない。



 既にいろいろと驚いた後だったから、まだ受け止められた。初めにこれを思い出していたら、驚きすぎて、思考停止どころじゃなかったかも。




 でも、それなら今の「私」は誰?「魔女ティア」が大好きな「私」は誰なの?




 おそらく「私」は転生したんじゃないだろうか。交通事故で死んでしまって、リリアローズとしてこの世界に転生した。そして、何故か今になって、前世の記憶を思い出した。


 そう考えるとしっくりくるものがある。だって、今のリリアローズは、小説の中のリリアローズとは全く性格が違うんだもの。これは前世の「私」が「リリアローズ」に影響を与えてしまったからではないだろうか。




 一度「リリアローズ」の現状を整理してみよう。


 まず、「魔女ティア」の中での「リリアローズ」。街に出ることもできないほど、内気で人見知り。筋肉の付きにくい体質で、体力は全然無い。両親を10歳で亡くしてからは全く笑わなくなり、1人で引きこもりライフ。現実を受け入れられずに、いつか両親が帰ってくるのでは、誰か私を救ってくれる人が現れるのでは、と夢見がちな思考に拍車がかかってしまっていた。魔法は両親から教わっていたため、かなり高い技術を持つが、魔力が高すぎる弊害で、感情が高ぶると制御できずに暴走させてしまうことがしばしば。



 一方で、12年間「リリアローズ」として生きてきた「私」。内気でも人見知りでもない。むしろ社交的で元気は良すぎるくらい。筋肉が付きにくい体質ではあるが、身体を動かすことは好きで、体力はある。確かに10歳で両親を亡くしたが、1人でこの2年間頑張ってきた。無理はしてない。現実を受け入れて、マイペースにやってきただけ。想像力はかなり豊かだが、現実と妄想は分ける主義である。魔法も暴走させることがないよう、制御の練習は毎日欠かさずやってきた。おかげでもうめったに暴走することはない。




 小説内の「リリアローズ」と同じく、12年間で一度も街には出たことがない。両親の溺愛によるものが大きいだろう。しかし、両親が亡くなってからは、ずっと1人で生きていくのも寂しいので、街に出る準備を進めてきた。魔法の制御の練習も、街で魔法を暴走させないためだ。他人を巻き込むわけにはいかないからね。また、街でお金を稼げるように、母から教わったポーションを2年間で大量に作ってストックしてある。必要な時に売れば、生活費は十分にまかなえる。


 そして、転移魔法陣の開発。これは本当に苦労した。転移魔法は両親からも教わらなかったし、どの本にも載っていなかった。あくまで物語の中の魔法だったのだ。しかし、私はどうしても諦めきれず、2年かけてようやく完成させた。魔法陣を設置し、対となる魔法陣を持っておけば、設置した魔法陣まで転移できるのだ。これで、街に出ても一瞬で我が家に帰れる。街にも設置できれば、いつでも自由に街と家を行き来できる。


 そうやって、街に出る準備を進めて2年が経ち、ついに街に出るぞ!というところで、前世の記憶を思い出したらしい。きっかけはさっぱりわからないが。



 思い返してみると、やはり小説とは性格が全く違うようだ。今の「リリアローズ」は、前世の「私」の性格そのままだ。この世界が小説の世界とは言い切れないし、他のキャラクターがいるのかもわからないが、小説と全く同じということは無いらしい。それなら、今まで通り自由に生きていけばいいのだろう。




 だが、もしいるのならば、生イケメンクール王子に会いたい!あの可愛い聖女様にも会いたい!



 まあ、会うとしても16歳の時だ。まだまだ先の話。それまでは好きにさせてもらおう。




 クローゼットの中のとんがり帽子に意識を向ける。「リリアローズ」としての記憶を思い出させてくれた、とんがり帽子。私の母は、常に優秀な魔術師を輩出してきた名家である伯爵家の娘だ。その伯爵家で、代々魔女に受け継がれてきた帽子。母が常に身につけていて、大きくなったら私にくれるのだと、いつも言っていた。母が亡くなって、この帽子に勇気をもらいながら、母のような立派な魔女になろうと頑張ってきたのだ。私の目標を示す、大切な帽子。私の宝物。




 いつものように、髪を整えてからとんがり帽子を被り、庭へ向かう。私の大切な友達、ペガサスのライノボルトに朝の挨拶をしに。



タイトルにあるとんがり帽子登場。

そしてついに、ペガサスとご対面。

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