第15話 赤面少年との出会い
前話のあらすじ
フィオのストーカーになることにしました。でも、フィオの護衛に任命されました。テオ様フラグ立ちました。ゼフ様登場しました。
ついにゼフ様とご対面です。
「兄ちゃん!やっと追いついた!忘れ、も、の…。」
少年が、お弁当らしき包みを抱えて、こちらへ走ってきていた。だが、私に気づいて、驚いたように足を止めた。
「おう!ゼフ!届けてくれたのか!ありがとな!」
そんな少年の様子に構うことなく、ケイルさんは少年へと駆け寄り、声をかける。だが、少年の目は私から離れない。
ゼフ様、だよね。面影はあるが、幼くて可愛い!今13歳のはずだけど、身長とかはまだまだかな。これから成長して、あの皆のイケメンお兄ちゃんになるのか。将来が楽しみである。
しかし、何故そんなに私を見る?初めまして、だよね?驚いた表情のまま固まってるけど、どうしよう。
「どうした、ゼフ?ん?嬢ちゃんに一目惚れでもしたか?」
「…え、いや、え!?っ違う!そうじゃなくて!えっと、その、あの。」
ケイルさんはやっとゼフ様の様子がおかしい事に気づいたようで、こちらを見て変なことを言っている。いや、そんな設定無いから。まあ、ケイルさんは小説の設定なんて知らないんだけど。
何故かゼフ様は焦った様子で、真っ赤になって俯いてしまった。さっぱり意味がわからない。
「っとにかく!これ!渡したから!じゃあ!」
「おい、ゼフ!?」
真っ赤な顔のまま、ゼフ様はケイルさんにお弁当を押し付けて、走り去っていく。
「待って!」
つい、引き止めてしまった。私の声に反応して、ゼフ様が止まる。振り向きはしない。
せっかく会えたのに、なんだかもったいない気がした。次いつ会えるかわからない。なら、話したい。仲良くなりたい。
そう思って、ゼフ様の元へと駆け寄る。ゼフ様はそれに気づいて、肩をびくりと動かした。ガチガチに固まっている。何故だ?
「あの、ケイルさんの弟さん、ですか?」
「…はい。」
「えと、初めまして。私はリリアローズです。その、よろしくお願いします。」
ゼフ様はこちらを見ないが、そのまま声をかけた。そして、挨拶をして、握手を求めた。
しばらく沈黙が続いたが、ゼフ様は恐る恐る私の手を取った。私はすぐに握って、笑顔でしっかりと振る。ゼフ様に触れてしまった!とか思いながら。
「良かったな、ゼフ!嬢ちゃんと友達になれて!」
「っ!友達って!」
「ケイルさん。せっかく今から距離を縮めていこうと思っていますのに。ゼフ様が緊張してしまうではありませんか。」
「そうか!悪い悪い!」
「え!距離を…!」
「はい。仲良くしていただけますか?」
「えと、はい!あの、こちらこそ、よろしくお願いします!」
ケイルさんが余計な事を言うから、ゼフ様がより固まってしまったが、なんとか仲良くできそうだ。まだ顔は赤いし、ガチガチだが。
なんか小説と印象が違うな。年齢の問題か?なんだか調子が狂う。
というか。
今あのゼフ様が目の前に!超絶イケメン、皆のお兄ちゃんの、ゼフ様が!「魔女ティア」ファンの皆さんに大声で自慢したいよー!
つい興奮して、ゼフ様を見つめていると、みるみるうちに顔が真っ赤に。何故?ゼフ様って、割とキザなところもあったし、フィオにもリリアローズにも全く赤面する事は無かったはずだけど。
赤面シーンは、実は料理が下手、という意外な一面がバレた時くらいかな。あれは本当に可愛かった。挿絵あったらもっと良かったのに。
「ははは!顔真っ赤だな!嬢ちゃん可愛いし、仕方ないか!」
「っ!そんなんじゃねーよ!」
ゼフ様って、旅の時は物腰柔らかな雰囲気だったけど、今は普通の中学生男子って感じだな。元高校生からすると、微笑ましく思ってしまう。
ゼフ様は怒り気味に返しているが、本気でない事は見ていてわかる。軽い兄弟喧嘩みたいな。
前世も今世も一人っ子なので、少し羨ましい。兄や姉がいたら、甘えさせてもらえたかな。弟や妹だったら、逆に甘やかしちゃいそう。
そんな事を考えながら2人を見ていると、城の方から馬車がやってきた。門で手続きを終えて出てきた馬車が、私達の前に止まる。
「おやおや、お嬢さん。お一人ではないようで。」
「あ!あんた、宰相様じゃないですか!お勤めご苦労様です。」
馬車から出てきた腹黒が、私に声をかける。それに対して、私より先にケイルさんが反応した。一応敬語だし、敬礼してるけど、宰相相手に「あんた」って。
宰相様は特に気にしていなさそうだ。ただ、私と一緒にいた事に、単純に驚いている様子。別に私にだって、友人の1人や2人いるし!いや、友人と呼べるのは、まだケイルさんだけか?
「ギムルハート殿、でしたね。この前、近衛兵に任命された。そういえば、1番隊はこれから建国祭のパトロールでしたね。」
「はい。ここで集合なのですが、早めに着きました所を、この、えっと、そう!リリアローズ!に、会いまして。」
「宰相様。前にお話ししました、王都へ来る際にご一緒させていただいた方の1人です。偶然お会いしたものですから、少しお話していたのです。」
「そうでしたか。まさかギムルハート殿とお嬢さんがお知り合いだったとは。いえ、リリアローズ嬢、とお呼びした方がよろしいかな?」
「お好きにどうぞ、宰相様。」
ケイルさんって近衛兵になったんだ。すごいよね、まだ若いのに。エリートかな。まあ騎士団長の息子だし、スペックは高いか。
さらっと名前を明かされてしまったが、まあ聖女様に挨拶する時にはバレただろうし、いっか。というかケイルさん、私の名前忘れてたな?
名前を知られた代わりに、私は「宰相」という腹黒の情報を得た。これで呼びやすい。まあ、小説知識で知ってたけど。
「そちらの方は、確かギムルハート家の末のご子息様ですね。」
「はい。えと、俺はもう用事済んだんで。失礼します。」
腹黒がゼフ様の方へ目を向ける。ゼフ様は緊張気味で、会釈をして走り去ろうとする。しかし、そこで腹黒の目がキラリと光った。背筋がゾクっとする。
「いえ、お待ちください。もしよろしければ、お時間をいただけませんか?今日一日。」
「え、はい?」
あー。やっぱり。いや、私はいいんだけど、そんなあっさり聖女様の存在バラしちゃっていいのかな。いや、まだバラしてないけど。もしかして、バラさずどうにかするとか?
「ではギムルハート殿。弟君はこちらでお預かりしますね。任務、よろしくお願いしますね。」
「はい。ありがとうございます。弟をお願いします。じゃあな。ゼフも嬢ちゃんも気をつけてな。」
ゼフ様はまだ了承していなかったが、もう決定事項になっていた。さすが腹黒。ケイルさんもサラッと流して、いつもの笑顔で別れを告げて立ち去る。少し離れた所に同じ隊の人達がいたようだ。
そして、次に腹黒の目は私に向けられる。
「それでは、今日の予定を確認しましょうか、リリアローズ嬢。」
「はい、そうですね、宰相様。」
お互いにっこり。新たに得た情報を強調して。ゼフ様は完全無視されて、状況がわからずオロオロしている。悪いことしたな。
早速私達は、馬車の中へと案内された。私が王都へ来た時の馬車より大きいから、6人乗りとかかな?
腹黒の手を借りて馬車の中へ入ると、そこには真っ黒のローブで顔まで隠した人が2人、並んで座っている。フィオ様とテオ様かな。私に続いて、ゼフ様と腹黒も入ってくる。そして、馬車が動き出す。
「まずは、ゼフナートス・ギムルハート殿。今から得た情報は一切他言しないことを、今ここで契約していただきたいのですが、よろしいですか?」
「え!?えと、あの、どういうことですか?」
ゼフ様はまだ状況が飲み込めていない様子。そりゃ勝手に腹黒が決めちゃったからね。ここは私が。
「ゼフナートス様。私は今日一日、こちらのお二人と建国祭へ行く予定なのです。ですが、お忍びなので、ここだけの秘密にしないといけなくて。もちろん、用事があるのでしたら、降りられても構いませんよ。」
「…えっと、つまり。今日の事を誰にも言わないって契約したら、俺も一緒に祭りに行ける、ってことですか?」
「ええ。そういうことです。」
ケイルさんとのやりとりでは、子供っぽく感じたが、冷静に物事を見て考える姿は、小説内のゼフ様を思い出すな。真剣に迷って考えている横顔は、誰もが見惚れてしまうカッコよさだ。
「やります。契約。俺もご一緒していいですか?」
「私は構いませんよ。宰相様、そういうことでよろしいですか?」
「はい。ご説明ありがとうございます、リリアローズ嬢。では、こちらにサインを。」
腹黒はすでに契約書を用意済みだ。いつのまに。さすが腹黒。ゼフ様がサインして、契約完了。
これで、今回の祭りのメンバーは4人になった。
私、フィオ、テオ様、ゼフ様。
いやいやいや!どうしてこうなった!?あと2人で旅のメンバー揃っちゃうよ!
改めて見ると、ありえない光景。会うのは4年後のはずだったのに。私、王都に何しに来たんだっけ?
フィオを守りに来たはずが、何故か4人で仲良くお祭りへ。こんな展開、聞いてないよー!誰かこの先のシナリオ教えてー!
赤面ゼフ様、可愛い。
主要キャラが次々登場。




