第14話 聖女様のストーカーと護衛
前話のあらすじ
苦手なあいつと城の庭へ行きました。花畑に感動しました。涙が出ました。フィオと会っちゃいました。とりあえず寝ました。
フィオを見守るべく、いろいろ考えます。
いつも通り目を覚ます。ふと窓の方に目を向けると、私のハンカチを布団代わりにして、小さなライが気持ちよさそうに寝ている。
ライは基本的に、私の肩に乗っている。髪に隠れ、魔法で気配を消している。街中で話しかける訳にもいかないので、ほったらかしになっていた。ごめんね。側で私を見守ってくれているのだから、本当にイケメンだ。
私が体を起こすと、ライも気づいて目を覚ます。そして私にすり寄ってくる。かわいい。
今気づいたけど、ライがいるのだから、別に1人という訳でもないな。ぼっちじゃなかった!
身支度を済ませ、食堂へ。なんだか目線を感じる。しかも複数。そっと耳を澄ませると、ケイルさんの友人?として噂されているようだ。面倒な。
気づいていないフリをして、さっさと朝食をとる。今日はケイルさんは来ていないようだ。ここであのハイテンションで来られると、噂がもっと面倒な事になりそうなので、その方がいい。でも、会えないとなると、帰る前に家まで会いにいかないと。面倒な。
朝食もとり終えて、部屋に戻る。そして予定の確認。
まず、今日は祭り当日だ。フィオのトラウマの日。だが、人さらい達はすでに捕まっている。一応見守る程度で問題ないだろう。
しかし、本当にフィオは祭りにやってくるのだろうか。昨日、私に顔を見られたのだ。説教は受けているだろうし、警備が強化されている可能性もある。抜け出すのは無理では?
1番困るのは、小説とは違う場所を通って街に来てしまうことだ。そうなれば、見守るのは難しくなる。別の事件に巻き込まれる危険も出てくるし。
ということで、魔法に頼る事にした。直接会ってさえいれば、魔力パターンでどこにいるのかなどすぐにわかる。そこへと魔法で風の鳥などを送れば、簡単に見守ることができる。
これでストーカー行為も余裕だね!
まあ、本当に街に出てきたら、自分で行くけどね。場所さえわかればいい訳だし。魔法でストーカーするよりは、生身でのストーカーの方が怖くないでしょ。これもフィオを守るため!(※良い子は真似しないでね)
というわけで、とりあえず部屋で待機。まだフィオが街に出る時間じゃないし。暇だけどしょうがない。明日たっぷり買い物できるし。
トントントン。
ドアがノックされた。誰だろう?というか、私がこの部屋にいると知ってる?宿の人が教えたのか?ちょっと怖い。ストーカー行為をする予定の人が言うことじゃないが。
「はい。どちら様ですか?」
少しビビりながら、ドアの側まで行き、声をかける。まだドアは開けない。鍵はかかっていないが。
「すみません。私ですが、開けていただけますか?」
その声は、私の苦手なあいつ。まあ、私の居場所を突き止めるなんて、この人くらいだろう。予想はしていた。当たって欲しくなかったが。
諦めてドアを開ける。にっこりと読めない笑顔を浮かべている。相変わらずだ。まだ会って3日目のはずだが、すでに腐れ縁のようなつながりを感じる。いますぐ引きちぎりたい。
「すみません、朝早くから。少しお願いしたいことがあるのですが、上がらせていただいてもよろしいですか?」
わかっている。私に拒否権などない。何を言ったって、どうせ最後には言いくるめられるのだ。なら、あまり消耗したくないし、従うしかない。
「はい、どうぞ。」
「ありがとうございます。」
中へと招き入れ、椅子を勧める。座ったのを確認して、私も向かいの席に座る。話し始める前に、念のため防音の結界を張る。
「それで、お願いしたいこと、とは何でしょうか。私にも予定がありますので、了承できるかはわかりませんが。」
「実はですね。聖女様の護衛として、建国祭に一緒に来ていただきたいのです。」
…何!?聖女様ってフィオのことだから、フィオの護衛をしろと!?つまり、ストーカーしなくていいってことか!
あまりに予想外な事を言ってくるものだから、固まってしまった。だが、これは私にも好都合。フィオが祭りにやってくるとは思わなかったが、堂々と守れるのなら、それに越した事はない。だが…。
「何故、私ですか?護衛ならば他にいらっしゃるでしょうし、私では力不足ですよ。」
「そう謙遜しなくてもよろしいですよ。貴女の魔力の高さには、店は入ってこられた時から驚いておりました。それに、先程の結界。素晴らしい魔法技術ですね。その年齢に似合わぬほどに。」
やはり魔力量はバレていたか。結界はかなりこっそり張ったつもりだったが、この人相手なら仕方がないだろう。
「それに、護衛となるとどうしても聖女様と年が離れてしまうのです。それでは聖女様は楽しめない。貴女ならば、口は堅いですし、護衛として十分な力を持っている。聖女様の護衛には適任だと判断した訳です。」
なるほど。確かに、護衛の任のみを果たす者が側にいても、フィオも楽しめないだろう。口が硬い、というのは契約のことだ。あれは聖女のことが言えなくなる、っていう内容だったから、今回の事も含まれる。初めからそれを見越して契約させられたのか?
どちらにしろ、裏は無さそうだし、私にも助かるものだ。小説シナリオとは乖離することになるが、今更だろう。ということで。
「わかりました。お受けいたしします。」
「ありがとうございます。そう言っていただけると思っていました。」
笑顔が若干柔らかくなった気がする。気のせいかな。
「ああ、そういえば、誰かと建国祭を回られる予定だったのでは?その方も契約をしてからならば、ご一緒でも構いませんよ?」
うん。柔らかくなった気がしたのは、気のせいだな。そのまま爆弾ぶっ込んできたし。絶対わかってて、このタイミングで言ってきた。すっかり忘れてたよ、その設定。
「…いえ、大丈夫です。いろいろと事情が変わって、今日は聖女様の護衛についても問題はないんです。お気遣い感謝します。」
嘘はついてない。かな。もう追及しないで。
「そうですか。では、護衛の件、頼みましたよ。1時間後に城の門前にいらしてください。ちなみに、私の息子も一緒ですので、3人で仲良くお楽しみになってくださいね。それでは。」
軽く会釈をして、立ち去っていく。私は完全にフリーズ。
は?今なんて言った?
私の息子、ってテオ様!?
いやいやいや!テオ様って聖女の旅までは、フィオと接点無かったよね!?何でこんなことに!?
あの腹黒宰相め。さらっと爆弾落としやがって。うん。これからはあいつのことは腹黒と呼ぼう。
とにかく、テオ様も一緒に行く事になった。ほぼ初めましてなのに、ちゃんと楽しく過ごせるかな。護衛は問題ないと思うけど。
でも、よく考えたら、まだ幼いフィオとテオ様を間近で見られるってことだよね。
なんという幸運!フィオは昨日見たけど一瞬だったし。テオ様は過去編が無かったから、挿絵でも見たこと無いんだよな。絶対可愛いでしょ!楽しみ!
あの天使2人と祭りに行けるだなんて。小説ではありえなかった事。私が動いたからこそだ。私結構頑張ったもんね。これは天がくれたご褒美に違いない!
幸せに浸りながら、ベッドでゴロゴロ。そうしているうちに、あっという間に待ち合わせの時間に。急いで城の門へと向かう。
なんとか間に合った。まだフィオ達は来ていないようだ。息を整えて、はやる気持ちを抑える。どれだけ2人が可愛くても、急に抱きついたりしないよう、気をつけないと。
「嬢ちゃん!」
「きゃっ!」
後ろから突然抱きつかれた。びっくりして、女の子らしい声が出た。前世では絶対出なかった声だな。転生効果か?
というか、この声、この感じ。覚えがある。
「ケイルさん!」
「はは、悪い!びっくりさせたな!」
振り返って見上げると、やはりケイルさんだ。謝ってはいるものの、反省の色は全く無いし、私を放す気も無さそうだ。
「とりあえず放してください!これじゃ話もできませんよ。」
「ん?別にこのまま話せばよくないか?」
「は、な、し、て、く、だ、さ、い!」
「わかったよ。そんな怒るなって。」
相変わらずその笑顔が崩れることは無い。あの腹黒とは別の意味で。そこがケイルさんの良い所ではあるのだが、どうしても顔が赤くなってしまうので、勘弁してほしい。
なんとか速くなった脈を落ち着けて、ケイルさんと向き合う。
「…ケイルさんは何故こんな所に?お仕事とかは?」
「仕事は今からだ。祭りのパトロールだな。俺の隊はここが集合場所なんだよ。ちょいと早く着きすぎたが、まさか嬢ちゃんと会うとはな。嬉しい偶然だな!」
「そうですね。まさかケイルさんに会えるとは。お仕事頑張ってくださいね。」
笑って喜んでもらえると、こちらも嬉しくなって笑ってしまう。ケイルさんと仲良くなれて良かったな。
そうして笑いあっていると、ケイルさんの後ろの方から声がした。
「兄ちゃん!」
こちらへ走ってくる少年。ゼフ様だ。
ストーカー予備軍な主人公。
ゼフ様まで登場!




