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第13話 花と涙と聖女様

前話のあらすじ

美人な男性と対決しました。嘘がバレました。ひどく消耗しました。テオ様のお父様だと気づきました。


次に登場するのは…。

 


 テオ様のお父様によってひどく消耗した私は、ベッドで休憩した後、夕食をとり、体を拭いて(お風呂は貴族くらいしか持ってません。でも、私の家にはあります。)、早めに寝た。今考え事をすると、ネガティブな方向に突き進んでしまいそうな気がする。とりあえず、考えるのは後回し。




 ----------------------




 翌朝。本当はすぐに朝食にしたい所だけど、それだとケイルさんに会うことになる。今は小説関係者に会いたくない。ということで、ベッドでゴロゴロ。



 今日1日はやることがない。ある程度街は見て回ったし、買い物は明後日、帰る前でいいだろう。あまり滞在したくないし、フィオを見守る任務を終えたら、さっさと帰る。


 となると、やりたいことは城の庭を見に行くことだけ。…余計な人まで思い出してしまった。なんとなく、城に行けば会ってしまいそうな予感がしている。だが、どうしても見たい。あいつを避けるために行かないのは、もったいない。負けた気がする。


 行くか。城。どうかどうか、小説関係者に会いませんように。




 その願いは、届かなかったようだ。



「おやおや、お嬢さん。また会いましたね。」



 にっこり、という音が聞こえてきそうな、全てを隠す笑みを浮かべて、あいつが近づいてくる。城に入る門で見つかってしまった。絶対待ち伏せてただろ。


 まあ、こいつから逃げるのは不可能だ。すぐに切り替えて、子供らしい笑顔で挨拶。



「せっかくですし、案内しますよ。さあ、行きましょう。」



 流れるように手を取られ、案内開始。私に拒否権など無い。そのまま庭へと連れて行かれる。周りから見れば、似ていないが仲の良い親子だろう。2人とも作り笑いなのだが。


 奥へと入っていくと、急に景色が変わった。目の前には、どこまでも続く花畑。色とりどりの花が咲いており、良い香りが風にのって私の鼻をくすぐる。



 想像以上の美しさに、私は言葉を失った。別世界に迷い込んでしまったかのようだ。隣にいる人のことも忘れて、しばらくその景色に見入ってしまった。



 前世でも、今世でも、見た事のない景色。小説内では、城に入る場面はあったが、庭のことは触れられていなかった。つまり、リリアローズは見られなかったはずの景色。その景色が、私の目の前に広がっている。




 王都に来て良かった。




 前世を思い出して、フィオを守るために街へ出て、旅をして、ここまで来た。だから、この景色が見られた。



 今、とても幸せな気分だ。



 だが、もし隣に大切な人がいたら、きっともっと、幸せだった。


 もし、両親がいたら。友人がいたら。



「…そんなに感動しましたか?」



 隣からそっと聞かれたが、何故そんなことを言うのか、意味がわからなかった。見ると、驚いた顔でこちらを見ている。


 この人の笑顔が崩れるなんて。どうしたというのだろう。



 そっと私の顔に手を伸ばしてきた。急なことで反応できず、固まってしまった。そこで、目元がぬぐわれた。




 私は泣いているらしい。




 気づかなかった。というか、何故泣いているのだろう。感動したから?それとも…。



 されるがままに涙を拭かれて、私はぼーっとする頭をなんとか動かし、冷静さを取り戻した。美しい景色に心を揺さぶられて、気持ちが溢れたのだろう。一応まだ12歳だしね。泣いても許される年齢だろう。


 涙を拭いてくれた礼を言って、再び庭に目を向ける。やはり美しいが、先程よりは落ち着いて見ることができそうだ。案内を頼んで、中へと足を踏み入れる。



 前世で見た事のあるもの。今世で見た事のあるもの。本でのみ知っているもの。初めて知ったもの。


 それぞれの花の名前や特徴などを教わりながら、庭を進んでいく。新たに得た多くの知識に、心を躍らせながら。



 そうやって進んでいたら、気づけば日は傾いていた。あれ?私朝からここにいるはずなんだけど。いつのまに夕方?



「これで庭の全てを見終わりました。質問が途切れないものですから、休憩を挟みそびれましたね。お疲れ様です。」



 この人にも昼食抜きで付き合ってもらってしまった。ついテンションが上がって、周りが見えなくなっていたようだ。魔法の研究とかでも、気づけば夜、というのはよくあったが。迷惑をかけてしまった。



「すみません。興味があったものでつい。お時間大丈夫でしたか?」

「ええ。今日は特に用事はありませんでしたから。貴女のお話も興味深く、私も楽しませていただきました。」



 私の話?何かしただろうか。もしかして、独り言が漏れてたかな。まあ、薬効の事とかだと思うけど。



 最後に、城の近くまで行って、間近で城を見させてもらう。さすが王城だ。めちゃくちゃ大きいし、細かい装飾がとても綺麗だ。しばらく眺める。でも、花の方が断然好きなので、適当に切り上げて出口に向かうことにする。



 その時、ひらりと桃色の布が目の前に飛んできた。



「待ってー!」



 女の子の声。とっさにその布をつかむ。そして、声の方に目を向けると、そこには、可愛らしい女の子がいた。



 淡いピンクのふわふわした髪。キラキラした虹色の目。



「何故貴女がここに!?」



 そんな非常に驚いた声が後ろからするが、それも耳に入らない。門番さんがケイル兄さんだと気づいた時以上の驚き。




 私の目の前には、あのフィオがいた。




 間違いない。あの目は聖女特有のものなのだから。それに、トラウマの回想シーンには挿絵があった。その絵のまんまだ。そういえば、祭りでは桃色のスカーフで顔を隠していた。それが私の手にあるスカーフだろう。




 いやいやいや!なんで!?なんでここにいるの!?なんでもう会っちゃってるの!?ていうか、聖女様がこんなあっさり人前に出ちゃダメでしょ!




 フィオはびっくりして固まっていたが、すぐに私に目を見られた事に気づいて、すぐに手で目を覆った。今さらなのだが。


 さっとスカーフが取られた。後ろにいた人によって。そのままスカーフはフィオに返され、フィオは何か小声で言われた後、すぐさま立ち去っていった。


 そして振り返り、鋭い目が私を捉える。



「あの方が誰なのか、どのような身分なのか、ご存知ですか?」



 聖女様の目が虹色であることは、絵本の中では有名な話。だが、数百年の間、聖女様はいなかったため、聖女様なら必ずそうである、とは知られていない。


 この人は、彼女が聖女であることに私が気づいたかどうか、それを知りたいのだろう。気づいていなければ、聖女という単語を出さずに、口止めすれば良い。気づいてしまった場合は…。



 面倒な事になった。私はフィオが聖女であることを知っている。気をつけなければ、私の身柄は拘束されかねない。そこまでいかなくても、監視くらいはされるかも。私は自由を愛するのに。


 それに、1人で森に住んでいること、私のオリジナル魔法やライの存在が知れたら、私は必ずこの国に縛られる。利用される。それは嫌だ。



「あの虹色の目。聖女様、ですか?聖女様がいるなんて、聞いたことがありませんし、まだ隠された存在、とかでしょうか。」

「やはり気づかれましたか。その通りです。なので、この事は内密にしていただきたい。」

「はい。来たる日までは隠さなければ、聖女様の身が危険にさらせれますからね。誰にも言いません。」

「では、契約していただけますか?この件は口約束では了承できませんから。」

「構いませんよ。」



 何だか拍子抜けだ。もっと腹黒い応酬が繰り広げられるかと警戒していたのに。契約だけで済むなんて。


 契約とは、魔法による絶対的な約束。破ることのできない約束。契約によっては、どちらかが死んだ後も縛り続ける。だが、だからこそ信頼できる。



 胸元から取り出した紙に、魔法で契約内容を書いていく。内容は、聖女の事を誰にも言わない、的な事だ。というか、言おうとしても、魔法によって妨害されて、言うことができない。契約期間は聖女様の存在が世界に発表されるまで。


 問題なさそうなので、両者が魔法でサインする。紙は光り輝いて、2枚に分かれてそれぞれの目の前に。これで契約完了だ。



「ありがとうございました。ご理解いただき、感謝します。」

「いえ、こちらこそ。うっかり口を滑らせて、なんて事も起こらず済みますし。」



 何だか妙に腰が低い。そんなに聖女様を見られたのはまずかったのだろうか。まあ、あまり突っ込んで聞いてこないのは助かる。




 ハプニングはあったが、その後は普通に世間話をして出口へ行き、そのまま別れた。私は宿へ。



 フィオに会ってしまった。このことが、後々どう響いてくるのかは、わからない。




 まあ、いっか。明日考えれば。




 面倒なので、明日に回して、宿の食堂でたっぷり夕食をいただく。そして、さっさと寝る。


 とりあえず寝る。それが私だ。きっとなんとかなる、という楽観的思考のもとで、全てを後回しに。



 この行動のせいで、まさかあんな展開になるなんて、私はこの時、知る由もなかった。



次は、フィオでした。

とりあえず寝ちゃう主人公(再び)。

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