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第12話 私の苦手な人

前話のあらすじ

朝からケイルさんに絡まれました。王都散策中に、小さな店で美人な男性と出会いました。嫌な予感がしました。


対決スタートです。

 


「とりあえず、座ってください。」

「…はい。ありがとうございます。」



 とりあえず、勧められるままに椅子に座る。男性は向かいに座って、私が話し出すのを待っている。


 読めない美しい笑みを浮かべる男性を前に、私は笑顔を貼り付けて、必死に考えた。


 困りごと。この人が何者かわからない状態で、何なら話してもいいか、判断が難しい。小説関係は絶対ダメだし、私の素性が知れることもやめておいた方がいい。私の魔力の高さはバレてる可能性があるから、そこも考慮に入れて…。



「…私、初めて王都に来たんですけど、行っておいた方がいい場所とかってありますか?」



 ここは無難に王都のことを聞いてみる。困りごとは思いつかなかったってことで。この人について探るのは危険な気がするし。


 自分で思っているよりも混乱しているようだ。全然いい話題が思いつかない。ついこの崩れない笑顔も深読みしてしまう。



「観光ですか?なら、お城はどうでしょう。お城の庭は一部開放されていて、サリティア城を間近で見ることもできますよ。」

「お城のお庭!素敵です!見てみたいです!」



 子供らしくはしゃいでみる。というか、実際興奮している。城の庭なんて、絶対素敵に決まっている。森で暮らしていたから、植物系はかなり詳しいし。城は遠くから見ても美しかったから、間近で見られるのは嬉しい。



「喜んでもらえてよかったです。城の辺りは衛兵も多くて、警備がしっかりしていますから、1人でも安心ですよ。」

「…そうですか。でも、兄と一緒に来ているので。さっきはぐれてしまいましたけど。」



 1人と言い当てられて、少し動揺してしまった。顔には出していないが。何だか嫌な予感がしたので、衛兵に言った設定を使って、少し困ったように笑ってみせる。



「兄が探しているでしょうし、もう行きますね。お城、また行ってみようと思います。ありがとうございました。」



 椅子から立ち上がり、軽く会釈をする。この人が何者かは知らないが、それよりも今は離れる方がいい。これ以上話すのは危険な気がする。流れるように外へと向かう。



「嘘はいけませんよ、お嬢さん。」



 私が扉に手をかけたところで、背中に声がささった。さっきよりも鋭い声が。私は固まる。


 嘘、とはどういうことか。どこからバレたのか。兄のことを指していると考えていいのか。



「何のことですか?」



 そっと振り返り、笑顔でそう応える。男性は笑顔のままだが、目が笑っていない。鋭く光っている。私を警戒するように。試すように。



「君に兄などいない。違いますか?」



 何を考えてこの発言をしているのか。知っているのか、カマをかけているだけか。こんな店、入らなきゃよかった。


 そんな私の動揺などお構いなしに、言葉を重ねてくる。



「私は人を見る目には自信がありましてね。嘘や演技を見抜くのは得意なんですよ。何故そんな嘘をついたのか、教えてもらえますか?」



 確信を持って言っているようだ。疑問形で聞かれてはいるものの、言わないという選択肢は無いだろう。そんな威圧感がある。私の精神年齢は多少高いが、それでも普通に怖いし、逆らえそうにないんだけど。



 諦めて、一度深呼吸。そして、男性としっかり向き合う。この男性が貴族である以上、子供だからと甘えてはいられない。両親から礼儀作法は教わったことがある。とても久しぶりだが、ここは誠心誠意対応して、信用を得なければ。じゃないと、後が怖い。



「嘘をつきましたこと、謝罪致します。誠に申し訳ありませんでした。」



 きっちりと謝罪し、頭を下げる。貴族としての礼儀作法なんて知らない、と言ってしまって、後からバレてはもっと面倒な事になる。キャラ変わりすぎって感じだけど。



「私の年齢で王都に1人で来ている、というのは珍しいことだと思い、それによって警戒されるのを恐れて、このような嘘をつきました。ですが、特別な事情などない、ただの小娘です。両親から礼儀作法は一通り教わりましたが、身分も高くはありません。どうか、お許しいただきたく。」



 少しやりすぎたかな。嘘はついていない。演技といえば演技かもしれないが、礼儀作法の範囲内だろう。王都に来た理由としては、小説という特殊な事情がある。だが、1人で王都にいることについては、ただ家族や友人がいないから、というだけ。そう。ぼっちだから、というだけ。



「別に責めてはいませんよ。ただ何故そんな嘘をついたのか気になったもので。そこまでかしこまらなくても構いませんよ。」

「ありがとうございます。」



 まだ目は鋭いが、声は元の柔らかい感じに戻った。まだ油断は禁物だが。



「しかし、確かに貴女の年で1人で王都にいる、というのは珍しいことですね。どうやってここまで来たのですか?乗合馬車では危険かと思われますが。」

「たまたま街の門番さん達が王都に行くということで、ご一緒させていただきました。」

「なるほど。その門番さん達とは別れて、今は1人。そういうことですね?」

「はい、そうです。」



 どこか緊張感のある空気の中、私はにこりともせずに淡々と答える。男性は笑顔を崩すことはない。



「王都には、どういった目的で来たのですか?1人でいるということは、誰かに会いに来た訳ではないのでしょう?」

「いえ、人に会いに来ました。祭りの時に会う予定です。」



 嘘ではない。フィオに会いに来たのだ。約束などはしていないし、こっそり見守るだけだが。



「そうですか。では最後に。何故そこまで態度を変えたのですか?やはり私が怖いですか?」

「…貴方様は、貴族ですよね。立ち振る舞いが上品ですし。気づいている中、不敬な態度を取る訳にはいきませんから。」



 怖い、はスルーしておく。いや、本人に面と向かって怖いとか言える訳ないし。直接聞いてくるあたりが怖いし。



「やはり気づいていましたか。ですが、ただの侯爵ですし、気にしなくてもいいのですよ?」



 にっこり笑ってそんなことを言ってくる。いや、上級貴族な気はしていたけど、侯爵様でしたか。宰相とかやってそう。マジでやってるかも。やっぱり怖い。



「本当はもっと貴女の事を知りたい所ですけれど、これ以上聞くと嫌われてしまいそうですね。やめておきましょうか。」

「お気遣い感謝します。」



 すでに苦手意識は持っているけど。嫌いというより苦手。極力関わりたくない。でも、無理な気がする。



「またぜひ、いらしてください。もてなしますよ。不敬にも問いませんから、楽にしてくださって構いません。相談にも乗りますから。」


 訳:「また来いよ。たっぷり可愛がってやる。不敬には問わないから、全てを嘘偽りなく教えろ。それが自分のためだ。(逃げられると思うなよ。)」



 なかなか的確に表現できているんじゃないだろうか。恐怖に震えながら、それを表に出さないようにして、笑顔で応える。



「ありがとうございます。また機会があれば来ますね。」


 訳:「(ありがた)迷惑。機会なんてつくる気無いし。(もう会いたくない!)」



 黒い笑みを浮かべて2人で笑い合う。この人がどこまで私の恐怖や動揺に気づいているのかは謎だ。一切気づいていなければ嬉しい所だが。無理だろうな。



「それでは、失礼しますね。」

「また会えるのを楽しみにしていますよ。気をつけて、王都を楽しんでくださいね。」



 こうして私は恐ろしい店から脱出。HPはほぼ0だ。疲れた。



 時間にしたら、10分程度のこと。だが、何時間も魔王と睨み合っていたかのような消耗。相性が悪いのだろう。もう関わりたくないが、どうなることか。




 なんとか疲れた体を引きずって、宿に戻る。まだ日は出ているが、もう休もう。明日も1日時間はある。無理をすることはない。


 そういえば、あの既視感は何だったのだろうか。途中から余裕が無くて、すっかり忘れていたが、やはり小説と関係あるのだろうか…。




 あ。




 水色の髪。中性的。美しい笑み。侯爵。宰相。




 これらから導かれる人。すなわち…。




 テオ様。




 つまりあれは、テオ様のお父様。この国の宰相。




 いやいやいや!てか何故すぐに気づかなかった!?そっくりじゃん!テオ様の方は美人というより可愛い系ではあるけど!




 テオ様は、宰相である侯爵の子息で、水色の髪を持つ癒やし系天使である。そして、たまに美しい黒い笑みを浮かべる。


 気づかなかったのは、テオ様はあそこまで得体の知れない恐ろしさを持っていないからだろう。あの男性、テオ様のお父様は、全く読めない笑顔をしていた。テオ様は基本的には素直だから、あんな笑顔はできない。


 テオ様は天使なのだ。あんな真っ黒なやつとは全然違うのだ。気づかなくても無理はない。そういうことにしておく。



 テオ様のお父様と図らずも接触。もしかしたら、テオ様と会う日も近いかも…?




 次々と小説関係者とのつながりができていることに、何とも言えない不安を感じながら、私はベッドに倒れこんだ。



ゼフ様のお兄さん。テオ様のお父様。次は…。

蛇や人さらいより断然手強い相手。

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