第11話 王都2日目の既視感
前話のあらすじ
王都を散策しました。人さらいに会いました。まとめて眠らせました。騎士団に通報しました。フラグを折り、決意を新たにしました。
新キャラ登場です。
目が覚めると、見たことのない天井。いや、見たことはありました。ここは宿。そう、私は今王都にいるのだ。
寝起きの頭を無理やり回して、昨日の事を思い出す。そういえば、ケイルさんとフィオのフラグを折ったんだったっけ?念のために、人さらいの方はちゃんと捕まったか、確認しておこうかな。ケイルさんにも会いに行きたいけど、いつにしようかな。
ぼんやり考えながら、身だしなみを整える。ライにも挨拶。帽子は被らないので、なんとなく違和感だ。馬車での1週間で、だいぶ慣れたけどね。
この宿には食堂があるため、そちらへ行って朝食をいただく。まだ朝早いのに、思いのほか人が多い。宿に泊まっていない人も来ているからだろうか。カウンター席が空いていたので、そこで朝食セットを注文する。値段も手頃だし、滞在中はここで3食いただいてもいいかもしれない。
そんなことを考えていると、急に後ろから抱きつかれた。
「嬢ちゃん!おはよう!こんな所で会うなんて、運命だな!」
とても驚いた。急に抱きつかれたことに。そして、ここ1週間で聞き慣れた声にも。
「!ケイルさん!?どうしてここに!?」
というか、相変わらずだな。運命、とか普通言う?サラッと言ってるし、ケイルさんだから、キザにも聞こえない。でも、もう少し周りの事を考えてから、発言してほしい。
ケイルさんのせいで、食堂がざわついてしまっている。ケイルさん、声大きいし。
「おう!俺、ここの常連なんだよ!まさか、嬢ちゃんに会うとはな!また会えて嬉しいぞ!」
「わかりましたから。とりあえず放してください。あと、耳元で大声出さないでください。」
「ああ、悪い悪い。ついテンション上がっちまったな!」
「あれ、ケイルだよな!?」
「あいつ、どれだけモテても、女に直接触れることは絶対なかったくせに!どうなってんだ!?」
「ああいう可愛い子が好みなの!?」
「運命とか言ってる!私は相手にもされなかったのに!」
とりあえず解放されたが、周りから小声だが聞こえてくる話から察するに、ケイルさんがロリコンだと思われているようだ。イケメンだからモテたが、ケイルさんも一応騎士だから、女性相手にゼロ距離なんてありえないことだったらしい。いや、私の場合、ただの子供扱いだと思うのですが…。
そんな周りの反応には、全く気づいていなさそうなケイルさんは、ニコニコしながら、普通に私の隣に座ってきて、朝食を注文している。そして、こっちを見て、イタズラっぽく笑って、爆弾を投下した。
「で、いつ俺ん家来てくれんの?早く親にも会わせたいんだけど。」
この人!何言ってんの!?言い方がまるで…。
「どういうこと!?まさかもう婚約!?」
「親に紹介するってことだよな!?」
「まだ若く見えるけど、もう結婚すんのか!?」
ああ、やっぱり。周りがさらにざわついている。何故この人は、このざわつきに気づかないのか。呆れも通り越して、怒りが爆発しそうだ。
「ケイルさん!家に行くのは、あくまで連絡を取るためであって、ケイルさんのご家族に会う必要はありませんよね!?」
「ん?確かにそうだな。でも、長い付き合いになるんだし、紹介くらいちゃんと…」
「ただの友人関係に、そこまで必要ないと思います!」
強めの口調で、周りにも聞こえるように言った。誤解されると面倒だし、ケイルさんがロリコン扱いを受けるのもかわいそうだ。
「はいはい、わかったよ。まあ別に必要はないしな。まあでも、せっかくだから遊びに来いよ!」
「時間があったら、にします。それに、ケイルさんがここの常連なら、また会うこともあるでしょう。わざわざ家に行くことはないかと。」
「それもそうだな!毎朝会えるなんて、嬉しいな!」
「ただの友人関係、なのか?」
「恋人では、なさそう、だな。」
「ケイル様の、片思い?いや、あれは、恋なの?」
周りはまだ若干疑い気味だが、さっきよりはマシだ。朝食セットも出てきたし、今はこっちに集中だ。
まあ、隣で満面の笑みを浮かべたイケメンが、こっちを見てくるんだけどね。旅の道中でも、よく私の食べてる姿を見ていた。初めは食べにくかったが、言っても改善してくれないので、諦めて気にしないことにしていた。
朝食をとり終え、私はさっさと街へ繰り出す。ということで。
「ケイルさん。私はもう行きますね。お仕事頑張ってください。」
「え!もう行くのか?さみしいな。」
何故かとてもシュンとしている。昨日別れた時よりも、テンションが下がっている。
「また会えますよ。王都を出る時は、ちゃんと言いますから。」
「あー、王都を出る、か。なあ、どうしても帰るのか?王都に残らねえか?俺ん家に住んでくれてもいいぞ!」
「いやいやいや、そんな訳にも行きませんよ。私にもいろいろ都合がありますし。王都にはあと3日ほどしかいるつもりはありませんよ。」
「そうか。やっぱさみしいな。また来いよ。てか、俺も行くから。」
「はいはい。とりあえずまだ会う機会はあるんですから。今落ち込まないでください。」
なんとかケイルさんをなだめて別れる。あんな面倒くさい性格だったっけ?まあ、あっさり「じゃあな」で済まされるとさみしいので、嬉しいことではあるのだが。
気持ちを切り替えて、私は今日の1つ目の目的地へと足を運んだ。
「すみません。」
「あ!君は昨日の…。」
「はい。あのあとどうなったか気になって。」
やってきたのは、交番だ。街の治安を維持する騎士達がいる場所である。ちょうど昨日会った人が入り口近くにいたので、声をかけた。
「うん。君のおかげで、無事子供は家に帰れたし、犯人も捕まったよ。ありがとう。」
「そっか!よかった!じゃあね!」
「気をつけてね。」
大丈夫だったようだ。安心できたので、もう用はない。早々と立ち去る。
次は、昨日あまり見られなかった市場でお買い物。見たことのない食べ物や植物、斬新な服やアクセサリー、最新の魔道具など、様々なものがある。食べ歩きをしながら、何を買って帰るか考えた。あまり大荷物になると困るからね。この3日間でよく吟味しないと。
今日一日を全て使って、王都にあるほとんどの店を見て回った。まだ買う物を絞りきれていないので、宿でじっくり考えたいと思う。
そんなことを考えていると、少し入り込んだ場所に小さな店があることに気がついた。何の店かわからないが、隠れ家のようにひっそりと佇んでいる。
なんとなく惹かれて、その店に吸い込まれるように入った。そこには、机が1つと椅子が2つあるだけである。小さな部屋で、奥へと続く扉がある。この部屋には誰もいないし、商品もない。本当に何の店なのか、さっぱりわからない。
すると、部屋の奥から物音がした。かなりドタバタしているが、大丈夫だろうか。そして、突然奥の扉が開いた。
「…おやおや。久しぶりのお客さんですかね?」
出てきたのは、水色長髪の男性。キレイ系イケメンだ。20〜30代だろうか。魔術師っぽい、黒のローブを着ている。慌てて出てきたせいか、髪や服が少し乱れており、色気がやばい。
「えと。すみません。ここどんなお店ですか?なんとなく入ってしまって。」
「ああ、そうですか。紹介とかではないんですね。よく見つけましたね。場所を教えてもたどり着けない人ばかりなのに。この店は、何でも屋、相談屋、なんて呼ばれていますよ。お嬢さん、何かお困りごとはありませんか?」
素敵な笑顔で、私の問いに答えてくれた。見つけてもらえない、というのはわかる。入り込んだ場所だし、本当に小さな店で、看板も何も無い。これでは気づかれなくて当然だろう。
それにしても、美人だ。男性に対しての褒め言葉としては、どうかとも思うが、やはり美人だ。性別関係なくモテそう。中性的な感じ。
そして、なんとなく既視感。
これは嫌な予感がする。絶対に初対面なのに、既視感を覚えるなんて。既視感=小説関係者、という図式が頭に浮かんだ。
いやいやいや!何故こんな所で!?というか、マジで誰!?こんな色気半端ないキャラ、いた!?
パニックだ。誰なのかわからないまま、会話を続けるなんて無理。変にフラグが立っても困る。だが、初対面の人になんて言えば。まだ既視感程度だし。
しかも、立ち振る舞いが上品。これは絶対貴族だ。魔力量もかなり多い。私だと、相手の魔力量は見ただけで大体わかるのだが、両親に近いものを感じる。つまり、宮廷魔術師になれるレベルだ。そんな人がこんな小さな店にいるなんて、絶対やばい。
私は、そんな動揺を一切感じさせないよう、必死に愛想笑いを顔に貼り付けた。
ケイルさんの溺愛、加速中。恋か?
異世界ならではの水色長髪。




