5話
いつも読んで頂きありがとうございます。
ナル婆さんのボロイ山小屋の見取り図的な絵を入れたいと思いましたが、どうやら絵の才能は皆無のようで・・まるで小学生かよ!って感じで・・・ハハハ
開始早々、1分で挫折しました。
絵の上手い人がうらやましい。。。。。
しかし小屋すら描けないとは、ねぇ。自分でもがっくりです。
うん。もう、なんとなく気分で理解してください。お願いします!
あれからさらに4日が経過し、つかまり立ちを無事卒業。壁に沿って伝い歩きも進化し、かなり不安定だが、何とか補助なしで歩行可能にまで成長を遂げた。
まさに人類進化の軌跡を辿って来たわけで、僅か2週間足らずでの偉業達成に大いに感動した。
私的に。
これは成長記録を取ってアルバムに残しておくべき重大な出来事だろう!
私的に。
さぁお祝いしてくれていいんだよ、ナル婆さん。
例えば他に1品、肉とか魚とか・・。ほら色々あるじゃないですかぁぁ!
「結構歩けるようになったねぇ~。よく頑張ったよ」
もっと褒めてくれたまえ。
ただね、これだけはいただけない。
朝から晩まで毎日3食は確かにありがたいんだがその中身に問題がある。とにかく木の実を細かく砕いて蜂蜜で固め焼き菓子風にしたクッキーもどきと塩味だけのキノコや山菜のスープ。このセットだけって、いくらなんでも酷すぎじゃないですか?
「なんだよ、その不満げな顔つきは。文句があるなら食わなきゃいいんだよ」
「でも、ほら・・。飽きません?」
はっきり言って私はかなり飽きている。最初は結構おいしいと思っていたがさすがにこれを毎日では・・。
それにしても、この婆はずいぶんと歯が丈夫なのだな。
こんな固いクッキーぼりぼり食ってるし。昔の私だったら入れ歯や差し歯を気にして絶対食べれなかったって。
歯が丈夫ッて凄い嬉しい!自分の歯で食べれるって、本当に味すら変わるんだなぁ・・。
「飽きないねぇ!私しゃもう482年毎日同じもの食ってるが、全然、これっぽっちも飽きないねぇ」
「へ、へぇ・・」
ショックがあまりにもでかくて、持っていたクッキーが手から零れ落ちた。
・・・・マジですか。
500年近く、ずっとこればっかり食ってきたんですか?
それって本当なの?
ああ。なんだろう。目の前がいきなり暗くなっていく。
「それにしても何だい?飯がまずくて食えないって顔してんねぇ?只で食わせてもらって贅沢言ってんじゃないよ、クソガキ」
「べ、別に・・」
ああ。文句言いたいけど、目の前の婆さんが怖い。
「もう動けるんだから薪でも拾ってきな。いい運動になるだろう」
「・・はい」
逆らえないよなぁ。
あ、そうだ。
ナル婆さんなら、何か分かるかもしれない。
っていうか、排泄行為が全くないっていうことは、ずっと面倒見てきてくれたこの人だって知っているはずだし、そのことについての言及がないというのもおかしな話なわけで。
でも、食事中に話す内容じゃない、よなぁ・・。
どうしよう?
奥さん!どうしましょう!?私、私!一切・・・生理がこないんですぅぅぅーー!じゃないわ。
ああ、でももっと切実なわけで。
「あの・・」
「なんだぃ?薪拾いが嫌だっていうんじゃないだろうね?」
「いえ。そうじゃなくって、ですね・・」
「煮え切らない子だねぇ!言いたいことがあるなら、さくっと言やぁいいだろう!」
うわぁ。怒ってるし凄い剣幕だ。ますますこれは口に出し辛い。
「あの・・あのですねぇ」
「サッサと言いな!」
「その・・実は、あの。・・排泄が全くなくって・・ごにょごにょ」
「・・はい?」
聞き返すなぁぁ!恥ずかしいんですよ、こっちは!しかも生物やめてます自爆行為なんだからぁ。
「はっ、排泄・・が・・」
「・・・」
その単語一つで目の前のナル婆さんの態度が一変した。
恥ずかしがってるわけでも、赤面しているわけでもなく、顔色を失い頬を引きつらせて固まっている。
言った私のほうが顔が真っ赤なはずだ。
あれ?
なんでそういう感じになっているの?
「そ、そそそそりゃぁ~おまえ。・・べ、便利な話じゃなぁいかぁ」
「いやいやいや、便利とかいう前にいろいろとおかしいじゃないですか!」
「ほ、ほら、寝たきりのあんたの世話だって非常に楽できたしぃおしめがいるとかケツ拭いたりする必要もなかったしぃお前だって不快な思いもしなくて済んだわけだしぃ良いこと尽くめだろ。何か問題でもあるっていうんかね?!」
おい、つば飛ばしながら非常に早口で、何言ってるの。息継ぎなしでそこまで言い切れる長セリフが、感心するほどすごいよ!年寄りとは思えない肺活量でびっくりですよ!
で、なんで私から目をそらすんだ?
なんで額に汗がびっしり浮かんでいるんだよ!
「なんか知ってるんですよね!?」
「は・・?なななな何言っているんだぃ!クソガキ!」
「何か知ってるんですよね!!!!」
思わず立ち上がって婆さんににじり寄る。
「えっと、ほら、あれだ。生き返らせる術、あれ、確かに成功したんだよ。念入りに3回もかけなおしたし!」
「・・で?」
「成功はしたんだけど、まぁなんだ・・。ちょっとばかし不具合が・・」
「ふ、不具合ってなんですかぁぁ?!」
ずいぶん腰が引いてるナル婆さんに飛び掛からんばかりで、覆いかぶさる。机に両手で支え、ほとんどつま先立ちだ。
それにしても不具合だぁ?!
何言ってんの、このくそババア!
ふざけんなよ!
「さぁ吐け!何を隠してやがる!!」
ナル婆さんの両肩をつかんで激しく揺さぶる。さあ吐くんだ!御天道様が許してもこの私が許さんぞ!
吐け!吐け!吐け!
「こら、放せ。痛いって。だからぁぁ、その、あれだ。か、下腹部の一部が。・・う、うまく、接続、できなくって、だなぁ。多分、その影響で、は、排泄が・・なんだ、うん」
「だぁぁーーーー!?マジですかぁ、それ!?」
では、もし仮に、本当に、完全に「反魂の術」とかが成功していたら、ゲームキャラだった晴嵐もきちんと生物的なものになれたというのか?!
こんなふざけた何かじゃなくって・・。
「ど、どんだけ悩んだと思っているんだぁぁ!くそババア!」
「あだだだ。何するんだよ!殺す気かぃ!?私しゃ命の恩人だよ!?死んでたやつに文句言われちゃ堪らんね!わ、私が生き返らせてやったんだ!それこそありがたく思えってんだよ!!このクソガキ!」
「生物的欠陥残しておいてありがたく思えるかぁ!このくそババア!」
キスでも出来そうな距離で掴み合い、睨み合う。
だが、ここで引いてはいけない。
「・・し、仕方がないだろ。だから置いてやってるんだ。そのくらいは責任感じているさぁね・・」
要するに謝罪を兼ねてこうして助けてあげていると言いたいらしい。思わず眉間に皺が寄る。
「こ、ここ片づけたら薪拾い、忘れるなよ!」
結局ナル婆さんはドアの向こうに逃げて行ってしまった。
「はぁ・・」
なんてこった。
もしかしたら、ゲームキャラである晴嵐も生物として存在できたかもしれない可能性があったのか。
でも・・。脱力。
「元々ゲームキャラだし。それに、生き返らせてもらったのは事実だし・・。そうか。縁がなかったんだ。きっとそういう事なんだろう」
ちょっとだけ謎が解明した。
もうそれで十分なような気がする。
ただ・・。
気が抜けてへたり込みテーブルに額を押し当てたまま、深い深いため息をついた。
「もう、治せないんだろなぁ」
3回も掛けなおしたと言ってたし。
それでも不具合が解消されなかったのは、元々晴嵐の存在が生物じゃなかったせい、ということも考えられるわけで・・。
「ああ。もう、気にしない気にしない!さっさと洗い物済ませよう!」
椅子を跳ね上げるように勢い良く立ち上がると、テーブル上の皿をかき集めて炊事場に行く。その隅に水瓶があり、そこから木杓で水を汲み上げ桶を満たした。
「これも、魔法で生み出した水なんだよねぇ~・・」
魔法、かぁ。あれ?神法だっけ?
ま、いいか。どっちも似たようなものだろうし。
兎に角!元々このキャラは魔術師だったから、絶対私も魔法を使えるようになれるはず。
そうだ、いつまでも後ろ向きでいたって良い事など一つもない。それなら未来に向かって明るい展望を描くほうがずっと良い。
「よし!」
ポジティムシンキング晴嵐、ここに爆誕!
「魔法だよ、魔法!わっはははは」
あれ・・?
「何故か目から汗が・・・・」
このセリフ一回言ってみたかった。言える状況ができてよかったです、ははは・・・。
洗い物も済んだし、薪拾いという名の小枝集めに行きますか。
初、外界。
小屋の扉を開けて、辺りを見渡す。
「おお・・・なんか、本当に山の中だ。目の前を埋め尽くす草と低木と木々、溢れる緑~スッゴイ、田舎・・?」
そう言いながら少しテンション上げつつ足を一歩踏み出し、じゃりっという音とともに勢いよく足をひっこめた。
「いたたたた・・・!」
ゴロゴロと角の立った小石を踏んだため、足の裏に思わぬ激痛が。
「裸足だったぁぁ!」
とは言っても。扉の横の木製の棚の中を調べるが、そこにあるのは何かを漬けた蜂蜜酒とか、保存用の木の実の入った瓶、クッサい臭いの得体のしれないもの。何かの工具とか・・。靴がない。
「裸足で薪集めるの?」
ここは若者っぽく「マジかよ!」と言ってみる。
しかしこれは困ったなぁ。
私は残念なことに、裸足で平気で歩ける原始人ではないのだ。
現代人の足裏の脆弱さをなめてはいけない。靴下を履いてても靴の中の僅か1mmの小石すら感知し、痛みと違和感から慌てて靴を脱ぎ、ぶんぶん振るなど日常茶飯事だ。
ましてここは舗装されているわけじゃない。山の岩が砕けて小石化しただけの、ほぼ凶器だ。
「言いつけ守らないと、またナル婆さんにどやされるしなぁ・・」
仕方なしにそろりそろり足を踏み出す。
「痛っ・・!」
なるべく落ち葉とかが溜まっている場所を狙う。
「いたた!・・痛っ・・」
だめだ!枯葉の下には見えないところに朽ちた小枝とか尖った石が潜んでいる。
ただでさえ、まだ歩き方が不安定なのだ。
時折ぐらっと傾み体重がかかるたびに、足元でパキパキとかピシっとか擬音の嵐が私の柔肌の足裏ちゃんに襲い掛かり、そのたびに軽く飛び跳ねる。
おっととと・・。
「うぎゃ?!」
痛い!痛い。痛い。
「今!ぐさって言った!絶対に何か刺さった!」
痛いよぉー。
傍の木に寄りかかりながらなんとか片足をあげて足の裏を確認すると、やっぱりそこになかなか立派な棘がついている小枝がしっかり食い込んでいた。
「コノヤロウーー!」
腹立ちまぎれに抜いたそれを投げるが、一回でも傷を見てしまうと痛みは倍加する。しかも土塗れで汚いところに血で真っ赤に染まり、黴菌が入ったかもしれないと思うと慌てて小屋に戻る。
だがその道のりはあまりにも遠かった。
「うひゃ・・」
「いたたたた」
「ああ!」
その間、激痛と焦りで頭からすっころんで額に擦り傷を作り、更に慌てて立ち上がる際、長いスカートの端を踏んでずるずる滑って、前転一回転付きで更なる顔面強打。
この、長い丈のワンピも登山向きじゃないよ!
「あぅあぅ・・」
大体、小屋の周り以外に平地がないのだ。
軽く傾斜角度50%はありそうな急斜面。まともに歩くには登山シューズが必要だろう。そんなところで裸足は無謀!
「痛いよぉ・・」
何とかドアを開けて中に入った私は服のアクセントになった枯葉を落としつつ、特に傷の深そうな左足を流しの中に入れた。
「服までデロデロ~・・」
これは背が高くて股下が長いからできる行為。
いやぁ~足が長いっていいよなぁ。
早速、流し横の小さな水瓶のほうから水を掬い上げ、とりあえず汚れた傷口を清める。
「ぐ。しみるぅ・・」
とにかく今痛いのは我慢しよう。
ああ、見れば掌にも擦過傷が。
顔も洗わなくっちゃなぁ。洗いながら視界の隅に枯葉がくっついているのが見えて、脱力しそう。てか。前髪伸びたなぁ。額がひりひりする。
あっちこっちをザバザバ洗っていると
「お前はぁ!どんだけバカなんだ!常識も知らん阿呆め!」
いきなり背後から怒気を含んだ声と、柄杓で後頭部を連打される。
「いたっ、いたっ、イタッ、イタッ・・」
ぽこぽこぽこぽこ。私は木魚じゃないつーの!
「下半身だけじゃなく、脳の一部まで不能かぃ!」
「やめて!痛いってば、やめてよ」
「足洗うなら大瓶の水だよ!大瓶!流しの横の小瓶の水は調理にも使う飲料水!毎朝、わざわざ沢から汲んできている貴重な水だ!それを足洗うのに使うとは、どんだけバカなんだよお前はぁぁ」
「知らかなったんだって!痛い、痛い痛いって」
当然だが、そのあと一般常識というものを延々聞かされる羽目になる。
「いいかい!何度でもいうが、神法で生み出した水っていうのは大気中にある水の気を集めることで出来る純粋なる水。味もそっけもない水。対して沢の水は大地の気を大量に含んだ水って事さぁね!さすがにもう覚えただろ!」
「それって、ミネラルとか?」
「ミ、ネラル?・・ま、何でもいいさ、飲み比べてみな」
言われて出されたコップの水を飲み比べる。
今の私は椅子に座って、雑巾みたいな小汚い布で手足や顔を拭いて(なんか異様な臭いがしてるんだけど・・)大人しく小言を聞いていた。
「ん・・。あれ?こっちのほうが美味い」
「そういうこった!」
やはり沢の水のほうがおいしい。
「料理に使うとさらに良く判るんだ。深みがあるというか。だから魔法で作った水は飲んでもいいが、できれば沢の水。そういう事。私にだってそのくらいの配慮をするさぁね。誰だってうまいほうがいいってもんじゃないか」
「はい・・そうですね」
うむ。魔法は便利なんだけでやはりそこそこ不便なんだね。
まぁ緊急回避としては使えそうだけど。
「そういうわけで!お前はこれを使った罰として、沢に水を汲みに行くこと!」
「ええええええ?!」
「なんだい、文句があるのかぃ?!」
「裸足は無理です!見てくださいよ、これ!もうすでに傷だらけで、ほら、まだ血だって・・」
「本当に面倒ばっかりのガキんちょだねぇ!煩い煩い!」
思いっきり足裏を婆さんに見せながら不貞腐れていると、口の割には困った顔をしたまま、何かごにょごにょ呟いてる。
「・・ヒーリング」
「おおお?」
体全体に淡い光が灯り、なんかあったかい感じがすると痛みがすうっと消えていく。
「おおおおおお、すごい!」
魔法だよ、魔法!いや、神法?もうどっちでもいいか。
「はいはい。治してやったんだ、感謝は?」
「あ、ありがとうございます!」
「よし。じゃぁ、ちょっと待ってな」
そう言って奥の婆さんの私室に入っていくと何やらごそごそ音がし、私はテーブル越しにじっと暗がりの部屋を見ていた。
なんだかとても狭そうだし。物が氾濫してて更に堆く積み上げてあって。
地震でも来たら崩れそうですよ、大丈夫なの?
まぁこのDKも相当狭いしなぁ・・。4畳半もない、きっと。
そんな狭い台所に無理やり私のベットを入れてあるため更に狭く、テーブルと壁の棚の隙間は何とかやっと人一人通れるだけのスペースしかない。正に極小住宅だな。
というか、この環境って。朝起きたらすぐ仕事しろ。夜寝るまでずっと仕事が出来る、まるで下僕のような・・。
うん、気が付かなかったことにしよう。
そういえばトイレってどこにあるんだろう?
・・・今まで一度もお世話になったことがないんで、その存在忘れてたわ。ハハハ・・。
「ほら。これでも使いな」
戻って来たナル婆さんがテーブルの上に置いたのは、でかいなめし革2枚と革紐。
え~・・と。今からこれで靴でも作れと?
「こうやって、足に巻いて・・・紐でこういう風に、縛っておけば・・」
一人では出来ないので私も手伝う。
何しろでかい革はかなりの厚みがあるせいか、油断するとすぐ広がろうとする。
「ほら。これで十分だろ」
「・・はぁ、まぁ」
超簡易、な~んちゃって革靴の完成。
え~・・。ただ革で足を包装しただけですよ、これ。
どんだけ原始的なんだぁ。
「さぁ、今日は忙しいよ!薪拾いと水汲みだからねぇ!あ、桶は小屋裏に置いてあるからそれ使いな。2個だぞ、2個分」
真面目そうに言ってる割に目が笑ってるよ。それにしてもさっさと外に出て行ってしまったけど、毎日婆さんって何してるんだろう?
本当に謎多きババアだなぁ。
「さて。一応靴もどきも履いたし・・・やるかなぁ」
そして私は「現代って素晴らしかったんだ!」という認識を新たにした。
ああ、靴って本当に良いものだったんだね。
いくら厚めのなめし革とは言っても、痛いんだよ!靴底欲しいよ!痛いんだってぇーーーーー!
駄文を読んで頂き、誠に感謝に堪えません。