2話
ちょっと長いです。
後で気が付きました。2つに分割すればよかった・・。
夕食時、目の前の息子が私の顔を見て少し睨んでいる。おかげで唯でさえ細い食、箸がなかなか進まない。
「まだゲームやってんだってな。もう年なんだし心臓だって悪いんだ。ずっと座ってゲームばっかやってたら、体に良い事なんてないんだぞ」
あ~あ・・。またその話かぁ。
「分かってますよ」
「母さんはそうやって、いつもいつも口ばっかりじゃないか」
「もうやめるって」
「本当かよ」
ったく。睨まれながらの食事はまるで砂を噛むようで美味しくないってば。
「貴方、お義母さんもこう言っているんだし。それに食事中に小言ばかりじゃ消化に良くないですって。ねぇお義母さん」
「分かったよ。母さんも自重してくれよ」
「はいはい」
「祖母ちゃん怒られてやんの~」
「そだねぇ」
「そーだぞー」
「だねぇ」
しかしまぁ。こんなバカ息子に、こんなにできた嫁さんがよく来てくれたもんだよ。奇跡に近いね。
自分で育てておいてなんだけど、本当に口煩い息子だよ。全くどうしてこういう嫌なところばっかり旦那に似てしまうんだか。
それにしても、ゲーム・・か。
今まで散々みんなから文句言われてきたからには、もう止めるしかないかも。
まぁ止めるも何も今日で終了なんだけど。ただ、その気になって探せば他にいくらでもあるかもしれないけど、さすがにこの年では新しいシステムとかにはなかなかついていけないかもしれない。
いい加減何か探さないと。
ゲーム以外でってなると、何がいいかなぁ。
ああ、そうだ。
もうそろそろ紅葉のシーズンだし、折角だから旅行でもしますかね。
美味しいものを食べて温泉にゆっくり浸かって、風光明媚を堪能するのも悪くない。
それに船旅なんかもいいかもしれない。国内を2,3日で巡る国内線とか。
「旅行三昧したいわねぇ」
「それいいですね、お義母さん」
「ええ」
食事も済んだし「今日は先にお風呂済ませてもいいかしら?」と尋ねると「どうぞどうぞ」と勧められ、早速入浴タイム。
「さてさて。食事もお風呂も早々に終えたし」
壁にかかっている時計に見上げ、現時点での時間を確認。針は19時10分を指している。まだちょっと余裕があるけど。
すでに所定位置に腰を下ろし、軽く両肩を回して準備運動をする。
今日の24時で終了かぁ・・。
「対人戦、ねぇ」
まだやはりどこかで抵抗感じるし、気が重くなるんだけど。
そう思いつつ、いつも通りに目の前のPCを起動し、立ち上げる。
私はヘタレなので、キャラの背後に生身の人間がいると思うと、例えゲームであろうと委縮してしまう。考えすぎだと笑われるがちょっとのことで精神的に傷つく人だっていると思うし、もっと好戦的になる人だって。何より恨まれたらどうしようとか無駄なことばかり考えるのでやる気がしなかったのだが、今回ばかりはしょうがない。
無理でもやる気を出そうと、両手を組んでストレッチ。
「おいっちに、さんしぃー」
こんな風にストレッチしないと、自由に身体を動かし難いから。本当、年は取りたくないものだ。というか。改めて今から参加するであろう勢力戦に意識を向けると。
「き、緊張してきたぁぁ」
ポンコツの心臓がバクバク言ってる。
ちょっと逃げ出したい気分が・・。いやいや、それじゃぁいけないでしょ、物だけ貰っておいてトンズラするなんて、人としてどうかって問題だろうに。
「INしますか」
まずダブクリをすると『ニールヘルム~暗黒の大地・天の階~』というタイトル画面が現れ、しばらくオープニング映像が流れた。これも最後だからしっかり見ておこうかな。
やはりカッコいいなぁナイト。いやぁアーチャーも素敵だ。それにプリースト、こうして見ると可愛いなぁ。あ、魔術師。大技カッコいい!てか、出番少ない。
でもこれを見て、魔術師にしようって決めたんだよねぇ~。
結構長いから普段だったらスキップしてしまうのだけど、やはり動き回っている絵が良すぎて、ゲームとのギャップが・・。何より耳に慣れ親しんだ音楽が心地いい。町でもこれ、よく流れているよね。
もう、これも見れなくなるのかと思うと一抹の寂しさが。
やがて、IDとパスワードを打ち込んでログイン。
ローディング中の画面を見ながら心臓あたりに手を置く。
「・・薬、もう一回飲んでおこうかねぇ」
画面はいつの間にか町の中でぼんやりと佇むキャラの姿があった。
『ブランドル:お。来た来た。こんちはっす』
『晴嵐:こんにちは』
げ、INした途端に耳打ちが来たぁ。もしかして見張ってた?
やばい。指先がプルプルしている。
『ブランドル:ありゃ?チャット遅くね?どうしたん?』
『晴嵐:緊張のあまり、指が‥』
『ブランドル:まじかぁぁーーwww』
『晴嵐:笑うなー!マジでビビってるんだからぁ』
『ブランドル:わりぃわりぃwww』
絶対悪いとか思ってないくせに。
大体そんなに草はやしてよく言うよ。
こうしてゲームの中にいると、私って少し人格変わるっていうか、若返るっていうのか。気が付くと周りに口調とか合っていくんだよね。いろんな単語も覚えていくし。
家族や知り合いの前じゃこんな言葉とか一切出さないのに。そういうところも何か不思議。
今度、息子辺りにゲーム用語とかネット用語とかバンバン使ってみたらどんな反応するんだろうか?
『ブランドル:公式発表見た?』
『晴嵐:いえ』
ああ失敗した。いつもならきちんと見て来ていたのに、今日は本当にグダグダだなぁ。
『ブランドル:まいいや。じゃぁ俺から説明すっから。いつもの勢力戦なら九重砦で集合してそのままそこから始まる。でもって大体中央の山岳地帯が決戦地になるんだけど』
『晴嵐:はい』
へぇ九重砦ってモンスターがうじゃうじゃいたけど。
『ブランドル:今回はメリアス平原の南端、リプラ遺跡集合、な』
『晴嵐:あ~メリアス平原いいですよね。一番好きです。特に春の夜が!すごく幻想的で。花畑を駆けずり回りたくなる』
『ブランドル:そそ。カップル御用達の告白場所人気No1ww 但しお邪魔なラットモンスもわらわら寄ってくるけどなぁぁ』
確かに、Lv10のラットが結構いたいた。攻撃されても全部MISSだから問題ないけど。
『晴嵐:でも今の季節、秋ですもんね~。残念だなぁ』
『ブランドル:まだ正式発表ないけどさ。運営が粋な計らいをしてくれるって話だぜw』
『晴嵐:ま、まさか・・』
『ブランドル:へへへ、そのまさかだったりするぞぉ!w』
『晴嵐:やばい、嬉しすぎるかも!フォトショ撮りまくらないと!』
『ブランドル:で、もうみんな集まりつつあるから、はよ来いや』
『晴嵐:了解です』
『ブランドル:後PT申請送っとくから。勢力戦は1PT10人編成な!』
『晴嵐:ありがとうございます』
PT申請を受理して、みんなが集まっているという場所に転送陣を使って飛ぶ。そこから平原まで駄馬で駆けていく。見れば、本当にもうみんな集まってきていた。
一体どこに隠れていたんだって思うくらい人がいる。そして、とにかく辺りは白チャットでワイワイと賑やかである。
とりあえず周りを見てみるがペット出している人はやはり課金ペットだけだったし、恥ずかしいので出さないでおく。さすがに無課金ペット出している人はいないもんね。
そうだ。
今のうちにちょっとフォトショを撮ったり・・。
「PTまだの人~まだ空きあるよぉ!」
「あ、お願いします!弓士です」
「俺もまだです!拳闘士です!」
「プリースト入れてください!」
「こっちまだ空きあります!」
「俺入れてください、魔術師」
「剣士です!空きありませんかぁ?」
「暗殺入れてください!」
「こっちのPT満ですぅー」
「ここまだ空きあるよ!@3」
賑やか通りこして賑々しい。というか煩い。
「お、晴嵐こっちこっち」
招かれて慌てて移動する。ここからはPTチャットを使う。
「こいつら全員ブランドル班な」
「皆さんよろしくお願いします」
うわぁ、私以外全員能力付きアバター着てる。やだなぁ、すごく目立つじゃん。絶対私だけ無課金だよ。
「よろしくねぇ~^^」
「よろよろ」
「よろしこ!」
「よろしくお願いしますのじゃ」
「よろしく」
「こちらこそよろしくねえ」
「頑張ろうね!よろしく!」
「おお、魔術師2かぁぁ。俺もですよ、後方からガンガンぶちかましましょう!」
見た目女性キャラだけど、どうやら中身は9割がた男と見た!ってまぁそんなのどこも普通だろうけどね。かくいう私だって男キャラだけど中身は婆さんだし。
「ここのモンスターって、戦闘中邪魔じゃないですか?」
「ああ。勢力戦始まると消えるんだよ。だから問題なし!」
「なるほど」
初めて知った。それなら存分にやれるってことですね。
「さて勢力チャット使ってアイテム配布呼びかけますかね」
「さすがブラちゃん、太っ腹!」
「ブラちゃん言うなぁぁ!!!」
《ブランドル:共和国連邦の皆さん!今からアイテムを配布しますので、ブランドル、メイヴィ、紅の焼き豚、わんだふーるNo2、レモネード、の前に並んでください!》
早速私もブランドルの前に並び、早々にアイテムを頂いた。
そのどれもが課金アイテムの「HP2倍ポーション5分」とか「全状態異常抵抗飴玉5分」とか、ガチャでいうところのハズレ品だけど、露店やオークションで買えば高額商品ばかりだ。
それにしてもみんなに10個ずつ配布とか。どんだけ課金しているんですかぁぁ!びっくりだよ。
「わ~い、貰ってきちゃいましたぁぁ!あれ?リンネさん達は貰わないんですか?」
「腐るほど持ってるって・・」
「へぇ~」
「私もいっぱいあったりするね。だってレイドぐらいしか使い道なかったし」
「だよね。ガチャ回すと半分はこれだもんよ。いやでも余るって」
「へ、へぇ~・・・」
みんなきれいに並んで嬉しそうに受け取る人はきっと無課金者だ。あ、自分もだけど。
《ブランドル:みんな行き渡った?貰ってない人いないですかぁ?大丈夫?
では45分になったらGMから挨拶がありますので、皆さんそれまで寛いでいてください。以上》
その勢力チャットを皮切りに一般チャットと呼ばれる白チャでわあわあと騒ぎ出した。おかげでいつもなら全く流れないログがものすごい勢いで流れ去っていく。もう。文字も追うのも楽じゃないくらいだ。
その点PTチャットに切り替え、白チャを切れば少しはログも見やすい。これ、すごく便利だよね。
「いいですねぇ。そのアバターなんて期間限定品じゃないですか。すごく可愛い」
思わず隣に立つマジカル少女Aさんに話しかける。
「でしょーでしょー」
「あ~それを言うなら俺だってこの子のミニドレス可愛いだろう?スキル打ちすっとパンツ丸見えになるんだぜww」
「ミノルぅ!なんてこと言うんだぁぁ!お前絶対フォトショ撮ってるだろぁぁ!」
「自分のキャラだからいいんだよ!うっせぇなぁぁ」
更に横からミノル(見た目エルフ女性キャラ)が割り込んで阿鼻叫喚。思わず呆然と立ちすくんでいると、そこにアメコミ風ダイナマイトボディのお姉さまが。おお。竜騎士ってこういう感じになるのかぁ。
「ありゃりゃ、あの二人は置いとき。ところで晴嵐っちはアバター持ってへんの?」
「無課金ですから・・・」
「そんならこれあげるわぁ。露店出しといてもちーっとも売れへんし、今日の24時で消えるだけの運命やし」
「ええ?!」
「まだ腐るほどあんねん。せやから使うたってぇ」
「あ、ありがとうございます」
なんとマノンさんから未開封のアバターセット『アウトロー月仙』を頂いてしまった。
早速開封。
ああ、憧れの全ステ+5000UPの究極のアバターの一式だ!
う~ん。ちょっとばかり趣味じゃないデザインだが、貰った手前文句は言えない。早速アバターを差し込む枠に入れて、アバターONにすると。
「おおおおお!」
「結構似合うとるやん」
「ありがとうございますぅー!」
全身真っ黒で襟元にはもっこりしたファーと黒い羽根付きのひらひらしたロングコートと白のタンプトック。タイトな革っぽい黒ズボン。背中には銀で十字架+ウロボロスの刺繍入り。手甲もシューズも黒で渋いデザイン。
一見地味のようで派手。
これを着ている剣士とかはよく見かけたけど、さすがに魔術師ではあまり見たことがないな。アバターのおかげでキラキラ装備は隠れるけど、杖だけキンキラしてたらどうしたって怪しい似非魔王。
「魔術師ですけど、変じゃないですかね?」
「別に変やないと思うけど。ああ、あれや!杖のアバターがないから変に思えるんや」
「・・杖アバターですか・・」
確かにそういうものはあるが、武器アバターはかなり確率が低いらしく余りお目にかかったことがない。それほど希少性の高いアバターなのだ。
「俺持ってへんけど、そや!紅のー!お前杖アバター持ってたやろ?」
近くで別の人と話し込んでいる紅の焼き豚氏に話しかける。マノンさん、えらくマイペースな人だなぁ。
「ああ?杖アバター?持ってるけど。それが何?」
「どうせ残り数時間やし、もう売れへんやろ?もういらんのやろ?だったら邪魔やろ?それよこせや」
「マノン。おまあぁぁ・・。いいけど、ほら」
「あんがとさん、さすが太っ腹や、焼き豚やけど!ww」
「うっさいわぃww」
そのやり取り聞いてて肝が冷える。マノンさん・・・。
「ほら貰うてきたで!これ、装備するんや」
「あ、ありがとうございます」
PCの前で苦笑い。厚意には感謝するけどなんと言うか、かなり強引じゃないのでしょうか。
とりあえず折角頂いたのだから装備しますか。
「おおおおお・・・」
なんだこれは。黒くて禍々しいほどの装飾の長杖アバター。さてその基本能力は?何なに・・。。
攻撃速度100%UP 魔法攻撃力50%UP リキャストタイム30%削減って。鬼のような性能。
もう似非とは言えない魔王っぷりに苦笑い。
でもまぁ、いかにも強そうって感じがする。アバターのおかげで、実際凄く能力上がっているけど。
よし、これも記念にフォトショ撮っておくかね。ついでにアップも。
「こりゃ、よう似合うとるでぇ!なぁ、見てやブラさん」
「ブラさん言うな!って。おおお。晴嵐、めっさ良いじゃん!」
「ありがとうです」
「これで大活躍間違いなしだな!www」
「え~・・・」
まぁここまで皆さんに良くしてもらってしまった手前嫌とも言えず、これは頑張るしかないと腹をくくる。
ああああ。マジでやばいです。心臓が・・。期待が重いわぁぁ。
【GMライル:皆さんこんにちは!これが最後の勢力戦となりますが、こうしてたくさんの方にお集まりいただき感謝に堪えません。
そして皆さんのご要望にお応えし、今回限りではありますが、運営より皆さんに細やかな贈り物として。
この、メリアス平原を春の夜!にフィールド変更します!
では、3,2,1、ドーーーーーン!】
「「「「「おおおおおおお」」」」」」
GMの合図と共に、フィールドの仕様が一遍に変わった。画面の4分の1を埋め尽くす巨大な月と闇夜に淡く輝く薄紅の花畑。その花びらが風に舞い闇夜に乱舞する様は、まさに夢の如し。
おおお。これは凄いわぁぁ!・・と云うことで良いアングル狙ってつかさずフォトショ!カシャ
ついでにアップも。カシャ
「うわぁぁぁ」
「超サイコー!」
「マジかぁキタコレ!」
「うおおお、すごーい!」
「綺麗だぁ・・」
「運営やるじゃん!」
「分かってらっしゃる!サイコーだぜぃ!」
【GMライル:さて、このような中で最後の勢力戦を20時より開始いたします。今回は勝敗は別に全員に洩れなく「限定着ぐるみアバター:もふもふバニーOrもふもふプードルOrもふもふニャンコ」をランダムですがお送りします。どれも特製ダンス付きですので、勢力戦後、ラストダンスパーティとカウントダウン花火大会を行いたいと思います!
全行程終了は24時。皆さん今までありがとうございました。
それでは各班のリーダーは集まってください。
尚、帝国サイドにはGMベルベットがおりますので彼女の下にお集まりください。花火配布を致したいと思います】
ピッコーン♪
運営よりプレゼントが届きました
思わずカバンの中を覗いてみると、なんと着ぐるみセットの宝箱が入っていた。
「あ。私ニャンコ箱貰いました」
「自分もニャンコだった」
「あ~私は犬だね、プードル」
「俺は・・バニーだと?!やばい、嬉しい!」
「えっと俺は~」
みんなカバンの中身で大騒ぎだ。するとブランドルが戻ってきて「花火分けるぞーー」て言われ、みんなで円陣を組み、ブランドルから花火を受け取っていく。
「去年の新年カウントダウンで使った花火がまだ残ってるんだよね~」
「それも混ぜて使っちゃえww」
「あああ・・カバンから溢れる。入らんて、ブラさん」
「取引できん!マノン、カバン整理しろ!それからブラさんいうなぁ!」
「分かってるってぇ~」
そういえば自分もまだ残っていた。結構邪魔だったので今回は思いっきり使ってしまおう。
「大変ですねぇ~マノンさん。私なんてガラガラですよ」
「せや、晴嵐。それやったらこれ、邪魔やし、貰ったって。花火が入らん・・」
「えええええ?」
なんと『経験値2倍飴玉120分』という課金アイテムを100個1セットで50セット程貰ってしまった。経験値2倍って、今じゃなく1年前に欲しかったですよ。
ああ。カンストしているのによこすって、私は倉庫代わりですかぁ。まぁいいですけど。どうせ消えるだけだし。
「カバンあいたでぇー」
「よし、花火取引な!」
【GMライル:そろそろ時間です。開始1分前~】
「さて支援入れていきますかぁぁ!」
「よっしゃぁぁ!」
「バフよろしこ!」
「行きますー!ヘイストオール!グランシールド開放!」
「エンチャント、ファイアーオール!」
「剛力開放!」
「マジックアップ!」
「鷹の目!疾風の陣!」
全員から打ち出されるエフェクトで辺りが色とりどりに染まっていく。
但し。叫んでいるわけではなくポーズを取った途端に、エフェクトが発現。要するに該当するキーを押したに過ぎないので、所謂気分の問題です。こ~んな感じ、的な。
見れば敵陣サイドでも派手なエフェクトの乱舞が見て取れた。凄い。綺麗だ。
ああ。ついに始まる。
指が、ますます震えだす。治まれ、治まれ。
【GMライル:勢力戦開始まで 5】
【GMベルベット:4】
【GMライル:3】
ドキドキが止まらない。緊張で掌に汗がじっとりしてきて、思わず両手を服に擦り付ける。もうそろそろ始まる。何か忘れ物ないかなぁ?大丈夫かなぁ?アバターはONだよね、うん。
やばい、年甲斐もなく興奮してきている。
【GMベルベット:2】
【GMライル:1】
【GMベルベット:開始!】
「「「「「「うおおおおおおおおーーーー!」」」」」」
地鳴りのような雄叫びと共に、前衛職がスタートダッシュを決める。私も置いて行かれないように騎乗ではなく、テレポで間を詰めようと頑張るが、緊張のあまり蛇行してるじゃないかぁ。
勝敗はないというのに、どうやら皆さん嬉々として最上位スキルをガンガンぶっ放していくようだ。
ならば私も、と超広範囲極大魔法、天魔解放『真:飛翔メテオール〈烈〉』を打ち放つ。
1発のMP消費がすごいけど、出だしだけなら・・。
だってカッコいいじゃん?
「来たぞーー!前衛カットしろぉ」
「食らいやがれ!」
ブランドルが呉羽を倒しました。 ポイント215000
マノンが自宅警備員Aに倒されました。 ポイント-215000
リンネが自宅警備員Aを倒しました。 ポイント215000
ミノルが神楽を倒しました。 ポイント215000
「うきゃーーー」
「なんか重い。動きが悪い・・」
晴嵐がアキバドールに倒されました。 ポイントー215000
マジカル少女Aが呉羽を倒しました。 ポイント215000
ブランドルが陣内に倒されました。 ポイントー215000
マジカル少女Aが陣内に倒されました。ポイントー215000
マノンが陣内に倒されました。 ポイントー215000
リンネが陣内に倒されました。 ポイントー215000
美穂りんが陣内に倒されました。 ポイントー215000
うう。行き成り範囲を食らってしまった。復活ポイントまで引き戻されてダッシュで戦場に戻る。心臓バクバクしてるわ、キーを押す手が小刻みに震えてて、思わず頬がひきつる。
早速死んじゃった・・。
「ミノル、右サイド!」
「復活してきたぁぁ~」
「晴嵐後方!」
「はいーー」
「バフ行きます!」
「やべ~重いわぁぁ」
チャットするのももどかしい。
とりあえず必死にキーをガチャガチャ叩く。
紅の焼き豚が陣内に倒されました。 ポイントー215000
「ああもう!陣内うざい!」
美穂りんが陣内に倒されました。 ポイントー215000
「誰か倒して!」
「カクカクするぅー」
ブランドルがアシュラを倒しました。 ポイント109000
ブランドルが自宅警備員Aを倒しました。 ポイント215000
マジカル少女Aが陣内に倒されました。 ポイントー215000
「陣内、なんでこっちばっかりに来るのぉーーー?」
「足止めスキルがウザァァ」
紅の焼き豚が呉羽を倒しました ポイント215000
「絶対ブラのせいや、ブラがおるからやぁ!」
「ブラ言うなぁぁーー!」
マノンがやったね!を倒しました。 ポイント108000
マノンが神楽を倒しました。 ポイント215000
晴嵐がガッデムを倒しました。 ポイント215000
晴嵐が陣内を倒しました。 ポイント215000
晴嵐がアストリアを倒しました。 ポイント189000
紅の焼き豚がアキバドールを倒しました。 ポイント215000
やった・・。ついに倒せた!気が付けば指の震えも取れてきた。よし!これならやれる、はず。額から汗が流れ落ちた。
「ナイス晴嵐!」
「今のうちに稼ぐぞーー」
「やば。俺も重いわぁ」
ひたすら逃げながらスキルを打ち込む。みんなや敵が放つド派手なエフェクトのせいで、地図に浮かぶ敵の居場所が見えにくい。
あれ?キー押してもスキルが発動しないぞ?なんでだ?
ああ、MP切れじゃないかぁぁ。スクロール回してポーションキーを押す。
やばいやばい、頭がパニック。キャラ以上に私が混乱しててどうする。
ブランドルがアッサムを倒しました。ポイント108000
翁がジョーイに倒されました。 ポイントー215000
ブランドルがジョーイを倒しました。 ポイント215000
晴嵐が小太郎を倒しました。 ポイント19800
ミノルが帰宅警備員Aを倒しました。 ポイント215000
「うひゃ・・」
相手の攻撃1発で持っていかれたぁ。あの人やばい、一応晴嵐のHP30万超えてるのにぃ。
みんな其々が回り込むように散開して移動しながら打ち込んでいるのに、気が付けば陣内に背後を取られて範囲で殲滅を食らう。
晴嵐が陣内に倒されました。 ポイントー215000
美穂りんが陣内に倒されました。 ポイントー215000
翁がアッサムを倒しました。 ポイント215000
ミノルが陣内に倒されました。 ポイントー215000
おおい!陣内さん、復活ポイントからの戻りが速いよ!早すぎだってばぁ。
必死で離れようとしているのに、一瞬で目の前とかやめてよぉーー!
おかしいなぁ。暗殺の縮地ってテレポ以上に優秀なものなの?
「背後に回られた!誰か行って」
「了!」
マノンが陣内に倒されました。 ポイントー215000
「おいーい・・マノン!www」
「ごめん、あかんてあれは」
ブランドルが陣内に倒されました。 ポイントー215000
翁が陣内に倒されました。 ポイントー215000
マジカル少女Aが陣内に倒されました。 ポイントー215000
リンネが陣内に倒されました ポイントー215000
紅の焼き豚が陣内に倒されました。 ポイントー215000
「ぐはぁ・・おい!陣内強すぎだろーー」
マノンが陣内に倒されました。 ポイントー215000
「やっと戻ってきたと思うたらぁ・・即死ですかぃ」
「ブラさん止めてよぉ!ライバルなんでしょ?」
「ブラさん言うなぁぁ!」
魔術師には自分のみだけど回復魔法はある。「癒しの風」というHP比例の瞬間回復が。なのにそれすら使っている暇がない。対人戦じゃぁこれは使えないスキルだったのか。
だって使ってもHP減るほうが早くって・・・。
美穂りんが陣内に倒されました。 ポイントー215000
紅の焼き豚が陣内に倒されました。 ポイントー215000
翁が陣内に倒されました。 ポイントー215000
晴嵐が陣内に倒されました。 ポイントー215000
「相手はサバ1の使い手だぞ!」
「初年度から3年はブラさんTOPやったやん」
ううう。まさかテレポした先に陣内がいようとは!私のバカぁぁ!
周りをよく見ようよ!
・・・・混戦してて見えないけど。またマラソンかぁぁ・・・泣きたい。
マジカル少女Aが陣内に倒されました。 ポイントー215000
「ここ最近はあいつには追い付けないって。陣内のPSはマジでバケモノなんだよ」
「ブラでも駄目かぁ・・」
「PCの性能差じゃね?ww」
「だ・か・ら!ブラ言うなぁぁ何回言わすじゃぁボケェーー!そして略すなぁぁ!」
そうか。いくら課金して装備を揃えようが結局上限は存在していて、ほとんど横一列状態だもんね。そこから頭一つ抜けるってことは、謂わば「プレイヤースキル」の違いってことになる。
そして今、サーバーでTOP張ってるのはこの陣内っていう人だってこと。そりゃ、ボロカスにやられちゃうわけだね。
全員壊滅で復活ポイントから猛ダッシュ。
「陣内狙うぞー!」
「ちょ。重すぎだってぇ」
「かましたれーーー」
「「「おおーー」」」
本当だ。私だけじゃなくみんなも重いのかぁ。
「バフ掛ける」
「動き悪いから置いて行っていいよ~」
「チャット打ちづらーい」
「バフ掛けたよぉー」
楽しいなぁ。すごく興奮している。こんなにも対人戦って面白いんだ。勿論倒すよりも倒されてばっかりだし、死んで楽しいわけじゃないのだけれど、でもみんなでやるっていうのが楽しい。
それに結構必死だ。ああ、ドキドキわくわくが加速していく感じ。頭は相変わらずパニックだけど。
ブランドルが呉羽を倒しました。 ポイント215000
リンネがバナナマンを倒しました。 ポイント198000
リンネが陣内に倒されました。 ポイントー215000
晴嵐が陣内に倒されました。 ポイントー215000
うわーまた戻りだぁ。泣きたい。なんかマラソンの時間のほうが長い気がする。ここはまた貰ったアイテム使ってHPの底上げをするしかないよね。
自分で掛けられるバフをしてから大急ぎで戻る。
その間にもみんなが陣内の餌食になっているぅ~。
マジカル少女Aが陣内に倒されました。 ポイントー215000
ブランドルがアッサムを倒しました。 ポイント215000
ブランドルが陣内に倒されました。 ポイントー215000
美穂りんが陣内に倒されました。 ポイントー215000
ミノルがバナナマンを倒しました。 ポイント198000
マノンがジョーイを倒しました。 ポイント215000
紅の焼き豚が陣内に倒されました。 ポイントー215000
「あークソクソクソぉ!」
「早く上がれ上がれ!」
凄い光の乱舞。スキルの放つエフェクトが眩しすぎるし、相当重たい。
目もちかちかするけど、何度もキーを押す指も釣りそう。反応が悪いってぇ~。
「動き悪いんだってぇ」
「マジ、俺もカクカク」
「やば・・俺も」
【GMベルベット:終了5分前です】
「時間ないぞぉー」
慌てて画面上の総合得点を見る。かなりの速度で変化しているが、こっち側が5000万ポイント程押されている。
「いけいけーー!」
紅の焼き豚がやったね!を倒しました。 ポイント125000
晴嵐が自宅警備員Aを倒しました。 ポイント125000
晴嵐が陣内を倒しました。 ポイント125000
「晴嵐さすがぁぁ!」
「HPがぁぁHPがぁぁぁ」
うへ~1発で45万も持ってかれた。危なかったぁ。もしHP2倍使ってなかったら絶対やられてたわ。
それに、ブランドル氏が褒めてくれたけど、みんなが削ったところにうまく範囲魔法メテオールがヒットしただけだから苦笑しか浮かばない。実際ずっとそんな感じだし。
大体、晴嵐が自力で倒せるのはレベル100以上、低い相手だけだしなぁ・・・。
同じカンスト相手だと課金者と無課金者の間には絶対超えられない壁がある。今の晴嵐は貰い物のアバターという課金アイテムがあるけど、地金の装備ではガチャ装備『天神シリーズ』に敵う筈もないからね。
「回復ですよぉーー」
「ありがとう」
それにしてもプリーストの美穂りんさんは逃げるのが上手ですよねぇ~。是非、見習いたい。というか絶対陣内に目をつけられてるよ私。
やだなぁ~。あの青い装備っていうかアバターを見ただけで心臓が痛くなる。
絶対『青い悪魔』とか『青い死神』とか言われてそうで怖い。
「嘘。もう戻ってきたよ陣内!?」
「散開しろーーー!範囲で持ってかれるぞぉ」
うわぁ。私も動き悪い。タイムラグがぁぁ。
「やっべーー!アルベルトまできやがったぁぁ!」
「マジ?No1とNo2のコンボかよ!冗談だろぉーー」
ブランドルがアルベルトに倒されました。 ポイントー215000
マノンがアルベルトに倒されました。 ポイントー215000
紅の焼き豚が陣内に倒されました。 ポイントー215000
美穂りんが陣内に倒されました。 ポイントー215000
ミノルが陣内に倒されました。 ポイントー215000
「逃げろーーー!」
「すぐ戻る!」
「ラジャ」
よし。私も少し下がって、あの遺跡の柱の陰に隠れよう。あそこから範囲バカスカ打ち込んでやる。
よし、ここだ。ここなら・・・。
「あれ・・?」
行き成り手が止まった。
息ができない。意識が混濁する。
苦しい。
痛い。心臓が痛い。
「カハァー・・・」
肺に貯まっていた息が漏れていく。
歪んだ視界にどんどん近づくキーボード。
苦しい。いくら口を開いても空気が入ってこない。呼吸ができない。痛い、苦しい。心臓が万力で締め付けられているようだ。
なんで?
なんで今、発作が。
薬きちんと飲んだのに。
そ、そうだ。ニトロはどこだ?あれさえあれば。どこに置いて。ああ、ロケットの中だ。手が思うように動かせなくて、取り・・出せない・・。
末端がしびれてもう、意識が・・。
モニターの中の晴嵐は棒立ちのまま、迫ってくる陣内を迎えることになる。
動け。動け指。頼むから・・。
折角使ったHP2倍ポーションの効果も1発目でHP半分以下。2発目は耐えられない。
あああ・・・青い悪魔め。
「お祖母ちゃ~ん。向かいのおばちゃんから舟田屋の芋よぅ・・おば・・たぃ・・」
だめだ。孫の声も深い水底から微かに届くような感じで、もう何も聞こえてこない。何とかピクリと動いた指先が晴嵐の姿を少しだけ回転させ、こちらを見るようにして止まった。
死んじゃうよ晴嵐。ほら背後に・・。
死んじゃうって。
青い悪魔が・・死神が・・。
最後に見えた景色はド派手なエフェクトに包まれ、茫然としたままの晴嵐の姿だった。
ああ・・・もうだめだ。
もう何も映さない瞳の奥で晴嵐の悲しげな顔だけが浮かんで消えた。
死んだ・・・。
駄作な上に長いものを読んでくださり、誠に感謝でございます。
ゲーム内の雰囲気が少しでも出ていればいいのですが・・・。
次からは長すぎないよう気を付けます。