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神法使いの薬大師 異界を往く  作者: 抹茶くず餅
異邦人~捨てる神在れば拾う神在りき~
16/49

16話

 教会にナル婆さんを運び込んで、すでに3日。

 日の出と共に起き出しては手早く朝飯を済ませ森の中で狩りをし、昼飯は現地調達で済ませて、更に午後からも日が沈む寸前まで狩りをしまくっていた。

 勿論トラが行うドロップ回収という裏技の使って、普通では考えられないほど状態の良い素材を町の雑貨屋に持ち込むのだが。

 やはり初夏という時期が悪くて、毛皮は特に買い叩かれてしまう。


「はぁ・・二日も頑張ったのに、たったの25000とか・・」


 トータルでなんとか8万。残り7万はかなりきつい。


「主ぃ。まだまだ頑張れるぜ、俺様は」

「うん・・」


 分かってはいるよ。

 でも、多分明日はさらに買い渋られ、更に買取価格は下がるだろうなぁ。

 まぁ、とりあえず手持ちのお金は神父に渡して、意識が戻ったという婆さんの様子を見に行こうと思う。


「ナル婆さん」

「婆ちゃん!」


 ベットの傍によると、ナル婆さんがこちらを向いた。

 本当に意識が戻っている。良かった・・。


「狩りに・・行ってたんだってねぇ」

「はい。結構な金額なんで苦戦してますが、大丈夫です!絶対何とかして見せますから。ゆっくり養生しててください」


 思わず胸を叩いて平気アピールをすると、婆さんは笑った。


「神気が、なかなか戻らなくて、ね・・。生命維持のために、代替えで・・勝手に消費しちまってるみたいなんだよ。やるせない話さ」

「でも顔色。だいぶ良くなってきてますよ」

「・・そうかい?」

「ここに来るまでは、本当に、やばかったんですから」


 何しろ、死相が出ていたもんなぁ。

 椅子に腰を下ろし、痩せて枯れた婆さんの手を握る。


「本当に良かったです」

「・・・?」


 何やら行き成りぎょっとした顔をした婆さんに、こちらもびっくりして手を離す。

 何?!

 何かあったの?


「セイラン。もう一度手を」

「は、はい?」


 言われてまた手を握ると、婆さんの顔がぱぁーっと明るくなる。しかもうへへうへへと気持ち悪い笑顔まで浮かべている。


「そうかいそうかい。お前のバカみたいな神気が私の方にまで流れてきているよ。こりゃ全く気が付かなかったねぇ」

「え?え?そうなの?」

「ああ、もう充分さ。御神名はジアリアス。天に座し光輝たる生命育む癒しの手、偉大なる時の再生噤む力。我名はレ・ナル。我手に宿りて彼の者に下り、現世にその名を示せ。ハイ・ヒーリング」


 行き成り詠唱を始めたかと思うと、全身が光に包まれた。


「いたたた・・・。でも、怪我は、すっかり良くなったみたいだ。さすがは私!ハハハ」


 自分で治癒して起き上がると、偉そうに踏ん反り返って高笑いをするババア。

 おい・・これはなんの謎現象だぁぁ?!

 其処へ「何事だ?」と慌てて飛び込んできた神父が、やたら元気そうな婆さんを見て驚きのあまり硬直していた。


「よ、クレイルの坊や。私しゃすっかり治ったよ。っていうか自分で治したんだがね」

「え?ええ?ですがまだ・・。もしかして自分で治されたんですか?!」

「そう云ってるじゃないか。何しろ、すっかり神気が戻ったからねぇ」

「ええ?だって・・かなり目減りしてて、それどころではなかったんじゃ・・・」

「なぁに、私にゃ優秀な弟子がいるからねぇ!」


 はしゃぐ婆に背中を叩かれ、思わず息が詰まる。

 それにしてもこの豹変ぶりに、どう対応していいものか。私もそこにいる神父も茫然自失状態。


「さて。帰るとするかねぇ~」

「婆ちゃん!よかったぁぁ、よかったよぉーー」


 浮き立つナル婆さんを、私は止めた。だってまだ、支払いがぁぁーーー!


「お金の心配なら、多分もう平気だろ?」


 そう言いつつ、ナル婆さんは神父を見やると、カクカクと頷いている。


「いやぁ、そんなわけないでしょ?だって15万ですよ15万!私が支払ったのはやっとこ8万で、全然足りてないんですってばぁぁ!」

「あ。いや。それは一応7日分の計算で・・。今日で3日ですから、足りてますよ」

「そ、そうなんですかぁ?」

「ほら、言ったろ。大丈夫だって」

「え?え?いいの?マジで?!」


 なんだか腑に落ちないが。これはこれでありなのだろうか?

 婆さんの足元には、しがみ付きながら泣いて喜ぶトラの姿があった。



「治ったとはいえ、失った血までは補完出来ないんですから、数日は出来るだけ安静にしていてくださいよ」


 心配性の神父にナル婆さんは「分かっとるわぃ」と元気良く手を振り、そんな婆さんの身体を支えながら、お世話になった教会を後にする。

 数日前のあの騒動はいったい何だったのかと思うくらい、今の婆さんははっちゃけている。

 俗にいう「テンションあげあげ~♪」状態。


「はぁ・・」

「ほら、さっさと帰るよ」

「はいはい。では転送」


 ゆらりと身体が揺れると、いつの間にか辺りは深い森に囲まれた、見慣れた小屋の傍に立っていた。


「こうして転送神法を施した玉は使えるんだ、神法開放まであと少しといったところじゃないか」

「本当ですか?」

「ああ。多分、チョットした切っ掛け、なんだろうよ」

「おおお。なんと、あともう一押しで魔法が使えるようになれる!」

「魔法じゃない。神法だつーの」


 小屋に入りながら頭を小突かれた。

 そのまま婆さん寝室へと思っていたのだが「椅子に座る」と言ってきかない。やれやれ。年寄りは頑固なのだから仕方がない。


「夕飯の支度しますね」

「お茶も入れとくれ」

「了解です」

「婆ちゃん、よかったねぇ」

「心配かけたね、トラちゃん」


 トラの奴め。ちゃっかり婆さんの膝の上で丸くなって寛いでやがる。こっちは帰って早々仕事だっていうのに。

 まぁ。猫の手並みに役には立たないからなぁ。煩く纏わりつかないだけでも助かるか。


 でもやっと、これでいつもの日常に戻れるわけで、心底ほっとしたよ。






 翌日。

 いつものようにいつもの日課を済ませ、汗を拭きながら昼飯を頂く時間。

 今日は婆さんが暇を持て余しているせいか料理担当を自ら買ってやってくれていた。

 普段通りの昼食を終え苦手なお茶を啜りながら、何やら畏まった面持ちのナル婆さんを前にして、私も少し座りが悪い。


「あんたはなんか色々ごっちゃになってるし、物事を知らないからね。いい加減に教えといてやらんと、どうにも危なっかしい」

「はぁ・・」


 まぁこの世界に疎いのはわかるけど、そこまで改まって話すことなのだろうかと、ふと疑問に思う。


「この世界の成り立ちと・・・この世界に起こっていることだよ」





「え?人間って、魔族?!」

「人間は知らんが、そこは人族。そして今話したように、上位魔族を生み出すために存在している『混沌の申し子達』が人族そのものなんだよ」

「・・・・」


 やはりここは地球じゃない。

 しかも、自分の知っている『人間』と同じものだと思っていたが、大分というか、相当違っているようだった。だが見た感じ、私の目にはごく普通の人たちに思えたんだけど・・。


「人族はこの世界の歴史から考えても、かなり最近になって出現した種族でね。まだ1万年も経っていない。これは神代エルフである浮邉衣良・・・ウ・ナ様から聞いたので間違っちゃいないさ。

 で、人族が言う亜人、所謂私らみたいな種は神代エルフが生み出したわけで、その歴史は古く、10万年以上昔と言われているからね。いかに短期間で、人族の拡散が物凄い速度で広がっているか、分かるだろ?」

「・・・たった1万年、で?!」


 さすがに進化論の不明瞭さについて是非を問うなどしないけど、それでも1万年足らずとかは想像できないな。それこそ、最初から人の姿で現れたといっても過言じゃないだろう。

 要するに、そこに「作為」が存在する。


「そうか・・。私が知る人間ではないわけか」


 彼らは人の皮を被った「魔族」なのか。

 ただ、町で過ごした3日というわずかな期間とはいえ彼らの人なりを見てきたわけだが、そこまで酷いというか魔族的何かを感じたりすることはなく、概ね善良な市民という感じだったので、話の内容との乖離が私を混乱させる。


「表面上はともかく、内面では魔族寄りだよ。そこだけはしっかり覚えときな」

「・・はい」


 納得はできないが、覚えておく分なら損はない。そういう事にしておこう。


「魔法なんだけど。

 あれの元は、邪神を中心に漏れ出る魔気を得て、魔族や魔獣が強化されていく。

 そして討伐すれば経験値と共に溢れ出た魔気を吸収することで、魔法も強化されていく。

 これは人族も同じ。ここまではわかるかい?」

「人は魔法を使う。という事ですよね」

「魔法は邪神によってもたらされる力だ。そこだけ切り取っても人間は魔族寄りなんだよ、判るね?」

「・・はい」


 なるほど。だからナル婆さんがしきりに「神法」だと言っていたわけか。

 神法の使い手は聖なる神寄りってことなわけで・・。


「もう2度と、あんたは魔法いう単語を口にしてはいけない。言霊によってセイランの魂まで穢れていくからね」

「はい。分かりました・・」


 そう言いきられたらナル婆さんの言葉に従うしかないが、でも。どっちみち魔法どころか神法だって使えていないんだからなぁ・・私は。

 情けない気分で、ぽりぽりと頬を掻く。


「とにかく。セイラン。お前さんの修業方法は私が見直そう。何とかしなくちゃねぇ」

「お、お願いします!」

「そこまで改まる話じゃないよ。何、毎日嫌っていうほど魔獣を倒してもらえばいいさ」


 いやらしい笑顔で笑い出すナル婆さんを唖然と見詰めてしまう。

 

「は?」

「毎日死ぬ気で狩りして来い。これが修行だよ!」

「はぃ?!」

「ここにはウ・ナさまの神気があふれているからね。そうすりゃ嫌でも使えるようになるかもしれんわ!ハハハ」


 この、くそばばぁぁぁ!


「狩りか?!主、この俺様に任せとけ!」

「はいはい。十分期待させてもらってるよ」

「さあさあ、二人ともグダグダ言ってないで、とっとと修行に行ってきな!」

「「はい」」


 ああ。

 ババア、お前一遍死んどけやぁぁ!



 そして新たなる一歩を私は踏み出すのであった。

 神法さま!お願いですから私に使われてくださいよぉーーー。

 本気で、そこんとこお願いしますから!




いつも稚文を読んで下さる皆様、ありがとうございます。

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