1話
初投稿。初長文。
誤字脱字その他もろもろご迷惑おかけしますが、何分ド素人に付き、温かい目で見て頂けると幸いです。
【レモネード:最終日。日曜20時から勢力戦あります。共和国の皆さん奮って御参加してください。】
【ヒロリン3世:30日20時、ラスト勢力戦!帝国軍ではまだまだ参加者募集中!Lv職不問。まだ人数たりてないので是非参加して!】
【ブランドル:30日20時より帝国Vs共和国勢力戦開催。共和勢力まだまだ人数不足につき、募集中です!貯め込んだアイテムも配布します。皆さんの参加待っています!希望者は闘争欄→勢力戦から申し込みクリック、よろしくです!】
【陣内:ラスト勢力戦30日20時。帝国のみんな。必要なアイテムはクラン『グランダム&ちょこちゃんランド』にて配布します。終了間際のラスト戦。勝利は俺たちの手に!参加待っているぞぉ】
モニター画面左下のチャット欄にはワールドチャットが延々と流れている。INしてから小一時間、それもずっと勢力戦の参加者募集ばかり。他のチャットは皆無に近い。
まぁそうだよねぇ。
一応気になってクランの画面を開いてみたものの、自分以外は全てグレー。要するに誰もINしていなかった。
しかしそれも今に始まったことではなく、彼此半年以上も前からこの状態が続いているわけで。何しろクランマスターですら、もう5か月以上前からお目にかかっていないのだから。
おかげでクランポイントも私だけがせっせと稼いで、そのポイントは何にも振れずに溜まっていく。実にもったいない話だが、一般メンバー故そういった権限も持ち合わせておらず、どうにもできないわけで。それが出来るんだったら『クランスキル:攻撃力5%増』に振りたいものだ。
あああ。この20万ポイントが実にもったいない。
「はぁ・・。どうするかなぁ」
トラ:主、俺頑張るからね。任せて!
とは言ったものの、どうするも何もないものだ。
多分ダンジョン募集かけても人は集まらないし、受けられるクエストももうないし、繰り返しクエストは飽きたし。というか、このキャラはとっくにカンストしていて経験値の必要性が全くないからね。
かと言って今更倉庫のセカンドキャラを始めるにも、すでに時遅し。
トラ:主ぃ!早く倒しに行こうぜ!俺様の活躍見せてやるよ!
「やっぱ、インスタントダンジョンだけかぁ・・」
トラ:任せろ主ぃ!俺様がやってやるぜ!
折角INしてきてもソロでやれる事はインスタDだけで、そして欲しいアイテムが落ちるのもそこのボスだけ。こうなるとただの作業で楽しくも何ともないのだが、それもまた仕方がない。
それにしても。
「はぁ・・」
思わず溜息が零れる。
折角集めて、折角作った無課金最強『神輝装備』の靴だけ、まさか成功率80%の強化+4で失敗して消失するとは。
「1年半もかかったのに・・。揃えるのに1年半も毎日毎日インスタントダンジョン通ったのに」
トラ:主ぃ!早く倒しに行こうぜ!俺様の活躍見せてやるよ!
PCの前で泣きそうな気分で文句を垂れる。
3日前に強化に失敗して靴が消えた時に、本気で引退を考えてしまった。とは言っても、放っておいても後5日程でこのゲームも終了なのだから「引退します!」というだけ無駄だし、当然その宣言を聞いてくれるクランメンバーもマスターもいない。
過疎というが、ここまで酷い過疎って見たことがない。
空しい。余りにも空し過ぎる。
おかげでほぼヤケクソになってINしてきているが、やることがなぁ・・。
結局、失った最終装備の靴のレアアイテムを拾いに行くしかない。
トラ:主、俺頑張るからね。任せて!
「また7色神鋼を全部揃えて、天空の欠片を集めて・・。そして天界のシンジョウ様に持っていって、それらを靴に」
トラ:主ぃ!早く倒しに行こうぜ!俺様の活躍見せてやるよ!
は。集める?また?
「てかぁぁー。トラ煩い!」
INするとつい癖で戦闘ミニペット出してしまうが、本当にこの定例文セリフがうざい。しかも足元や背後をちょろちょろしてて、見た目的にも十分邪魔。
「1種類作るためにID毎日20周して3,4か月かかったものを、このたった5日程度で集められるわけがないだろうにぃ~」
トラ:任せろ主ぃ!俺様がやってやるぜ!
「はいはい。お前役立たずだからやっぱしまっとくわ・・はぁ」
それでもやることないから。
気分はうんざり気味でやる気も出ないが、画面のキャラはさくさく移動している。
目的のインスタントダンジョンは成都ホウライの中にある。
その途中大広場があるのだが、数年前だったらびっしりと露店で埋まっていた場所だ。でも今では見るも無残なほどスッカスカ。ここを通るたびに『こんなにここって広かったのか』とびっくりするほど、広い。今なら好きな場所で露店し放題、間違いなし!
でも売るものがほとんどないので意味がないな。第一、無課金者の拾ってくるレアアイテムなんて、レアはレアでも見向きもされないゴミばっかりだもんなぁ。
それに一応4店舗は出ているが、これだって多分2PCとかで放置しているだけだろうし。
「でも、ちょっとだけ覗いてみるかな」
ふむふむ。
4店舗、売ってる物はほぼ同じだった。
それも、課金ガチャで引き当てたであろう戦闘ミニペットに騎乗ペット。能力付きオサレアバター。そして強化保護材。上位強化剤。早い話が全部課金のガチャ物。
「もうすぐゲーム終了だっていうのに、ガチャ物とか。買う人いるのかねぇ?」
しかも値段が全盛期の半額とはいえ、高額であることには間違いないし。
さらに人通りは一切ない。もうね、ゴーストタウンですよ、ここ。昔はどこもかしこも人だらけだったのに、なぁ。
「これ見てると、3年前ぐらいから始まった新ガチャが原因だよねえ、やっぱ」
あれが引き金になったとしか思えない。
運営サイドが阿保なのか。
新規一変した課金ガチャの中身が、超強力&めっちゃ可愛い戦闘ミニペットやスタイリッシュでありながら能力激UP付きのアバターとかやらが、いっぱい出始めてから一気に無課金者が減り、更にライト課金者も見かけなくなり、過疎が加速していったのだ。
本当、あれはいただけない。
余りにも重課金者に媚び売りまくったおかげで、無課金と課金のステータス落差が3倍以上とか、ゲームバランスを完全に崩壊した仕様。何しろライト課金者ですら「やってらんねぇーよ!」と吠えたのだから。
その残滓が今の露店売りの商品。
確かに魅力的だし今なら買えなくもないが、今更だよな。
そう思いつつも、アバター気になるけど!いいよなぁ・・あのアバター。かっこいいし、しかも全能力+5000UPって。
チ、これだから課金者は。
一応手持ち金額を確認して。う・・無理だ。全然足らん。辛うじて購入できそうなのはミニペットだけか。う~。麒麟可愛いからほしいような気もするけど、なんか今更だし、ねぇ。
「さて・・と。行きますか」
私の戦闘ミニペットは初心者救済用、キャラを作れば誰でも必ず貰えるデブい猫のような『白虎』(能力微妙)と、騎乗も無課金なら必ずクエストでGETできる能力皆無の駄馬だけ。そんな駄馬でもキャラで走るよりは早いし、騎乗のまま攻撃もできるからそれなりに便利なんだけど。でもやっぱりそこは無課金なわけで。
ほら、栗色の駄馬に乗って走る我キャラのショボさに哀愁漂ってるよ。
ああ。課金騎乗ペット、いいなぁぁぁ。
出来れば露店の騎乗ペット、後10万コイン下げてくれたら、即行買うのに!
「インスタントダンジョンだし、トラ出さないとね・・」
トラ:主、俺頑張るからね。任せて!
攻撃力はともかくアイテム拾いはしてもらいたい。
おっと、ID入り口前に来てみると誰か一人立っていた。
全身ギラギラで、もうどんな装備なのかすら全くわからない超ド派手な御仁が。
「こんにちは」
「よお!」
トラ:主ぃ!早く倒しに行こうぜ!俺様の活躍見せてやるよ!
頭上の名前を見てあれ?と思ったが一応挨拶は礼儀だし。しかもチャット打ちながら片手をあげるアクションまで出来るって、どんだけ器用なのよ。
「ねね、晴嵐さんはこれからここ潜るの?」
「はい」
トラ:任せろ主ぃ!俺様がやってやるぜ!
く。煩い。会話に割り込むこの定例文が本当に邪魔だよ。消えろ、ボケぇ。ぽちっとな。
「毎日まだINする?」
「ええ、まぁ」
何となく嫌な予感がする。
「最終日の30日も来るんだよね?」
「まぁ、そうなりますかね」
「勢力戦出たりなんかしない?」
やっぱりそう来ると思ったよ。だって、さっきやたらワールドチャットで叫んでいたブランドルが、そこにいるんだもん。
「対人苦手なんですよね」
「そういう人結構いるよね~」
「ええ、まぁ」
「でも最後のお祭りみたいなものだから、全然気負わなくてもいいし!」
「はぁ」
「みんなでワイワイやるのって楽しいぞぉ!」
「・・はぁ・・」
対人苦手だと言ってるのにも関わらず、ブランドル氏はガツガツと攻め込んでくる。
「でもほら、私装備が揃ってないですから」
しょーもない言い訳をする。
「あ~神輝だっけ。不足はどの部位?」
「後、靴だけなんですけどね」
「へぇ!それ揃ったら参加できるよね」
「え?」
「そかそか!では」
行き成り取引の窓が開くと、ずらっと靴が作れるだけのレアアイテムが並んで表示される。
「ほら、受け取って!これで靴作れるだろ?」
「え、いや。その。いくら払えば」
「金は要らん!てかもうカバンにMAX入ってるんで受け取れないし。どうせ余ってるんだからもらったって」
「は、はい・・・ありがとうございます」
なるほど。ここで網張ってたわけか。
「これで靴も作れるし、だから勢力戦参加よろしく!」
「しかし・・その。対人やったことないし、そういうスキルもあまり取っていないわけで」
敢えて対人系スキルは無視してきた。だってスキルポイントが足らないんだもん!
それにアイテム貰っておいてなんだが、足を引っ張りまくって迷惑かけるだけのような気がするんだが。
「気にしない気にしない、ただのお祭りだから!後、倉庫の中にいいものあるから後で送るんで友録しよう!」
「・・はい」
友録申請の窓が現れ、嫌々ながら承認のクリックを押す。
ピロロ~ン♪
ブランドルとお友達になりました
う。何かやっちまった感が・・。仕方がないか。
「ところでクラン『精霊の守人たち』だろ?誰か誘える人とかいない?」
「ああ。もう半年ぐらい前から私しかINしてないですね」
「そっか。残念。そこって結構中堅どころでそこそこ有名だったのになぁ~」
「そうですねぇ・・」
クランのみんなでダンジョン回ったり、クエストやったりしてたのが懐かしいわ。ただ、クラン名がいかにもどこからか引っ張ってきた的な安直さが堪らんけど。
しかし、付けたのは私じゃないから。マスターが好きだっていうだけだから。私はただの一般メンバーだから!
でも、ブランドル氏の頭上のクラン名『茨十字黒騎士団』は中二病丸出しで、あれよりははるかにましだと思う。
結局友録までして、参加は決定。
仕方がない。
それにしてもメールで何か送ってくれるらしいが、なんだろうなぁ。
「じゃぁ晴嵐は参加ということで。よっしゃー後6人!」
「大変ですね・・」
「まあね!人少ないし、大変っていや大変だけど。よし!また叫ぼう!」
後6人、後6人!と一般チャットで喚きながら去っていくのを見て、私はPCの前で苦笑いをしていた。
さて、転送陣に移動してちゃちゃっと靴でも作りに行くか。てか、もうそれしかやることがない。
【ブランドル:30日20時より帝国Vs共和国勢力戦開催。共和勢力@5名募集中です!貯め込んだアイテムも配布します。皆さんの参加待っています!希望者は闘争欄→勢力戦から申し込みクリック、よろしくです!】
【ヒロリン3世:30日20時、ラスト勢力戦!帝国軍ではまだまだ参加者@2募集中!Lv職不問。まだ人数たりてないので是非参加して!】
【陣内:ラスト勢力戦30日20時。帝国のみんな。必要なアイテムはクラン『グランダム&ちょこちゃんランド』にて配布しますぞ。@1名募集!奮って参加してくれぇ!】
【レモネード:最終日のラスト勢力戦、共和国サイド、参加者まだまだ募集中!@4名様、お待ちしております!ブランドルが一杯アイテム放出するそうなので集ってください!w 耳ヨロです~】
【ブランドル:レモはああいってますが、俺だけじゃないんで、放出!@4名。誰でもいいから来てくれぇ】
【レモネード:ブラのバァカ!本当細かい野郎だね!だからあんたはモテないの!】
【ブランドル:ブラ言うなぁぁ!そして略すなぁぁ!】
相変わらず賑やか。世界チャットだけ・・。しかも世界で言い合いしてるよ。そういうのは個人同士でやってほしい。耳打ち機能だってあるんだから。
こんなんだから帝国サイドの人から「共和ってマナーなっていないよね」って嫌味いわれちゃうんだぞ。本当、自由過ぎるよ共和国。
でも共和サイドだって真面目でしっかりした人もいっぱいいるから、そんな阿呆ばっかりじゃないから!単に目に付きやすいだけだからね。
ブランドル氏、折角友達になったのに恥ずかしいよ~。
基本、良い人なんだろうけど・・。
「おおーー。靴もできたし!」
これでドロップ品のショボい白装備靴からおさらばである。この3日、足元だけ、デザインも色合いも全く違う装備だったからね。本当ダサくって。
「ああやっぱ神輝装備いいわぁ~。能力値もがっつり上がったし!あとは強化だけど。確実に上がる+3まではやっておこうかなぁ」
もう+4はやらない。成功率80%だって失敗するときは失敗するのだ。これでまた消えたりしたら泣くに泣けない。
ピロローーン♪
ブランドル様からメールが届いてます
「ん?メール?」
一旦成都ホウライに戻って近場のポストをクリック。
「うがぁぁぁーーーーなんじゃこりゃぁぁ」
かのブランドル氏からのメール、その数なんと42通。そのどれもが添付付き。中身は。
「上位強化剤、強化保護材・・って全部課金物じゃん!」
半端ない数がどっさり張り付けられている。
「ううう・・。もしかして強化して勢力戦がんばれと?」
しかも、一番最初のメールだけ『在庫処分放出。倉庫入りきらんからぁwwもち手伝ってくれるよな?ww』から始まり『在庫処分その2』『その3』に続き、終には数字だけ。そりゃ、この数のメールだし、面倒になっていくのはわかるが。
それにしてもすごい課金の山だ。ブランドル氏、一体どれだけ課金してきたんだ?!
「チクショー!羨ましくなんかないもんね!全部使い切ってやるさぁぁ!」
自棄になった私はその場で強化作業突入。
【晴嵐様が神輝天蓋伯上位衣 強化+10成功しました】
【晴嵐様が神輝天蓋伯上位衣 強化+11成功しました】
【晴嵐様が・・
強化+10より上は成功する度こうやってワールドログが流れる事は知っていたが、こんなにも静かなチャット欄でずらずらっと流れていく様は、異様だ。
絶対「終了間際だっていうのに今更強化?www」と笑われているのがオチだろうなぁ。分かっていたけど、自分で自分を晒し者にするってどうなのよって感じ。
すると真っ先に反応したのは件のブランドル氏。早々に耳打ちが飛んできた。
『ブランドル:お。強化やってるね!全部最低でも+15目指してくれ!』
『晴嵐:あはは・・。すごく目立ってて恥ずかしいですが、頑張ります(絵柄文字)』
たまには使わないとね、絵柄文字。
無課金でも1種類だけ使える絵柄文字がある。子豚・・。その中から汗を流す困った顔の絵柄を入れてみたわけで。
その点、課金絵柄文字だと可愛いうさぎとかおどけた狸とかいろいろあって、そのどれもが非常に凝った仕様で目や耳、顔を動かしたりするわけだ。それに比べたら無課金のは、はっきり言ってやっつけ仕事的な感じなのが悲しい。それでも使うけどね。
『ブランドル:不足だったら耳くれればメールで追加送るよ(可愛い亀の絵柄が頷いている)』
『晴嵐:ええ?そこまでしなくてもいいですって、もう充分ですって(子豚の泣く絵を入れてみた)』
『ブランドル:気にしない気にしない。どうせ取っといても終了で消えるだけだから』
『晴嵐:うう。ありがとうございます』
こうして奇しくもブランドル氏の多大な御好意によって、無課金の私が煌くエフェクトに包まれた強化+15の装備で、最後の勢力戦に臨むことになった。
まぁ杖だけ+17まで成功しちゃったけどね!うはははは。
ちなみにブランドル氏は全装備(アクセサリーまで含む)強化MAX(要するに+25)だそうで、道理でキャラが埋もれるくらいギラギラに輝いているわけだ。しかも武具その全てがガチャ産だっていうからね。
「ガチャから出るという最強神装備。しかも能力アバターまで持ってるって。あははは・・」
聞いた私がバカだった。アバターまで身に着けたら攻撃防御etc。頑張って強化した私の2倍、いやいや限りなく3倍?
あほくさ・・。
さて。
今日も今日とてINしたものの、ブランドル氏のおかげでID巡りはしなくていいことになってしまった私は、キンキラキンに光り輝く強化+15という憧れの装備で、今やいろんなフィールドを駄馬を駆って走り回っていたりする。
要するに最後の記念に、フォトショットで残しておこうという魂胆。
「ここの景色、結構好きなんだよねぇ~」
良さげなアングルを探して、まずは風景だけ、カシャ。
晴嵐の立ち姿を真ん中にして更にカシャ。ついでにアップをカシャ。
「いいじゃんいいじゃん~♪」
晴嵐のイケメンっぷりに頬が緩む。
やっぱ晴嵐カッコいいよね。もうとっくに亡くなった旦那の遺影と見比べ、苦笑する。
「まぁ理想を追求した結果だからねぇ~」
白髪、否、銀髪にほんの少し眼尻の下がった優しげでありながらきりっとしたアイスブルーの瞳。細身であまり背が高くないけど。
一見優男風だけど、まぁ職業は魔術師だしね。さすがに筋肉マッチョな魔術師なんて・・。
「ああ、きらきら輝くローブにこの杖の豪華さ。たまらんわ~」
あっちもこっちもフォトショしまくり。
ここから望む巨大な月と夜桜も最高!カシャ
「おばあちゃん~、お風呂空いたよぉ~」
本日撮りためた画像を確認していると、孫の浩太がドアの向こうからわざわざ顔を覗かせて「お風呂だってばぁ」と不貞腐れている。
一旦ファインダーを閉じ、ゲーム画面に戻す。
「はいはい・・。ちょっと待っててね。ここに放置しておくとモンスターに集られちゃうから、街に戻しとかないとね」
「またゲームしてるの?体に毒だって父さん言ってたぞ」
「はいはい。分かってるって」
キャラを町に置いてログアウトをし、PCの電源を切る。
「さぁて。お風呂行きますかね~」
「早く早くー、俺その後なんだからな!」
「はいはい」
どっこい正一!という掛け声とともに立ち上がると、おもむろに入浴のための支度にとりかかる。そのまませっつく孫に背中を押され、苦笑しながら居間を望む廊下をもたもた歩く。
「ゲームってボケ防止にはちょうどいいんだよねぇ。若い子たちに囲まれていると気も若くなれるし」
「そういうもんなの?」
「そういうものなの」
このゲームに嵌って約7年。年金生活を有意義に過ごす私、大空房子。
もうすぐ終了なんだけど、この先どうしたものか。悩める元乙女71歳。
「でも父さん、よくないってさ!」
「だよね~。はぁ・・」
溜息ごと洗い流してきましょうかね。
稚拙なものを読んで頂き誠にありがとうございます。
3月30日 タイトル変更