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捕まった私

 私を見下ろして、意地悪く笑っているマリオン殿下。

 普段の人懐こく弟ような感じとは全く違う姿に私は言葉が出ない。

 これ以上、マリオン殿下に地味な顔を見せるのはいたたまれなくなり、私は視線を床に向ける。


 どうして私をこの部屋に? マリオン殿下に何かした覚えはないのに、どうして?


 疑問ばかり膨らんでいくけれど、マリオン殿下は一向に口を開かない。

 どういう目的なのか分からない私は、広間に帰りたかったこともあって意を決して聞いてみることにした。


「あ、あの、私に何か用がお有りなのでしょうか?」

「あれ? 分からない?」

「皆目見当もつきません」

「本当に? 全く? 人の邪魔をしといて、それはないんじゃないかな?」


 私が何かをしてマリオン殿下の邪魔をしていた?

 ……全然、記憶にないわ。

 何かしていたのなら、周囲の人達の反応で分かるはずだもの。

 だって、相手は王族、それも第二王子。

 絶対に何かしらの反応はあるはずよね?

 私は学院や今日のパーティーでのことを思い出してみるけれど、そういった反応をしていた人は、どれだけ記憶を遡ってもいなかった。

 だけど、マリオン殿下がそう言うのなら、きっと何かを私はしたのだ。

 分からないけれど、ご本人が言っているのだもの。謝罪はしなければならない。

 私は、マリオン殿下にぶつからないよう気を付けながら、頭を下げる。

 

「申し訳ございません……! 私が何をしてしまったのか存じ上げませんが、私の行動がマリオン殿下の邪魔をしていたのなら、謝罪致します」

「へぇ? 本当に分かってないんだね」


 どうしよう! これは絶対に怒っているわ。

 私ったら、何をしたのよ!


「じゃあ、教えてあげるよ。貴女はソフィーを焚きつけて兄上と上手く行くように取り計らってしまったんだよ」


 え? でも、それはソフィー様が望まれていることでしょう?

 邪魔ということは、王太子殿下がそれを望んでいなかったということ?


「兄上に協力してロゼッタ嬢と二人になれるようにしていたのに……貴女のせいで台無しだよ」


 マリオン殿下の言葉に、顔を上げてた私はルーファス様が以前言っていたことを思い出す。

『別の思惑で動いている人がいる』


 これは、もしかしてマリオン殿下のことだったでは? 

 だとするなら、納得がいかない。だって、それで傷つくのはソフィー様だもの。

 どういう意図で動いていたのか気になり、私は口を開く。


「お待ち下さい。マリオン殿下は王太子殿下とロゼッタさんに協力していたのですか? なぜです? あのお二人が恋に落ちて、ソフィー様と婚約破棄するなどということになったら、大問題ではありませんか」

「婚約破棄? 違うね。ソフィーは婚約破棄なんてされない。彼女から婚約を破棄をするんだ」

「……意味が、分かりません」


 それのどこに違いがあるというの?

 首を傾げている私に向かって、少し体を離してくれたマリオン殿下は小馬鹿にするような笑みを浮かべた。


「兄上がロゼッタ嬢を選んでソフィーが婚約破棄されたら、彼女は捨てられた側として周囲から哀れまれる破目になる。でも、相手に重大な過失があってソフィーから婚約破棄を申し出れば、彼女は被害者のまま潔く身を引いた慈悲深い女性となるんだ。彼女の評判は落ちるどころか上がるよね」


 その些細な違いが大きな違いになると聞いて、私は衝撃を受けた。

 確かにその通りになるとは思うけれど、マリオン殿下はどうして……。


「なぜ、マリオン殿下が協力しているのですか? 揉め事を起こしてどうしようというのです」

「あれ? これだけ言ってても分からないの? ……まあ、良いか。あのね、俺はソフィーのことが子供の頃から好きなんだよね。だから、兄上との婚約を破棄して自由になったソフィーの愛を手に入れたいんだよ」


 愛!? というかマリオン殿下はソフィー様のことが好きだったの!?

 兄の婚約者を好きになるなんて、現実でもあるのね。

 驚いたけれど、だからってお二人の仲を裂くような真似をするなんて。


「愛していらっしゃるからといって、ソフィー様の気持ちを無視なさるのは」

「最初にソフィーの気持ちを無視したのは兄上だよ。俺は幼い頃からソフィーのことが好きだったから、兄上の婚約者になったときはショックだった。でも、ソフィーが嬉しそうにしていたから身を引いたんだよね」

「ならば、なぜ、今になって……。それに最初に無視なさったのは王太子殿下とは、どういうことなのです?」


 一瞬目を閉じたマリオン殿下は、怒りを抑えるように唇を噛みしめている。

 私は、王族に対して失礼な口の利き方をしてしまったから怒っていると思って、縮み上がった。

 そんな私の様子を見たマリオン殿下は、すぐにいつもの人懐こい笑みを浮かべて首を振る。


「ああ、違うよ。今の怒りは貴女に対してじゃない。兄上に対してだよ」


 私に向けられた怒りではないと知って、胸を撫で下ろした。

 でも、王太子殿下に対してって、一体どうして。

 疑問に思っていると、マリオン殿下が口を開いた。


「俺はね、前からソフィーに対する兄上の態度が気に入らなかったんだよ。話しかけられても適当に相槌を打つだけで話しかけようともしあい。何かあってもソフィーを心配する様子もない。だから、兄上に言ったんだ。『もっとソフィーを大事にするべきだよ』ってね。そうしたら、何て言ったと思う?」


 聞かれても、私には分からない。

 だから素直に分からないとマリオン殿下に答えた。

 すると、彼は私の答えが分かっていたのか、だろうね、と口にする。


「兄上はね、こう答えたわけ。『ソフィーと一緒にいると疲れる』ってね。ふざけてるよね。俺が欲した人を手に入れているっていうのに、王太子としてこうあるべきという理想を押しつけてくるソフィーが嫌なんだってさ。そんなもの、王太子なんだから期待されるのは当たり前だと思わないかい? それで、ソフィーに対して不満を口にするなんて贅沢だよね? だから、俺はもう我慢をしないことにしたんだよ。で、都合良く、兄上はソフィーとは正反対のタイプのロゼッタ嬢と知り合って、仲良くなったのを見て利用できると思ったんだ」


 う~ん。ソフィ様を好きなマリオン殿下には我慢ができなかったのだろうとは思うけれど、それでもやり方に私は納得がいかない。

 ソフィー様が知ったら傷つく方法だ。

 でも、それをマリオン殿下に言うことはできない。疑問を口にするときとはわけが違う。

 王族に対して反論するなど、私みたいな中位貴族がやってはいけない。

 それぐらいは分かっている。


「何か言いたそうな顔をしているね。別に言っても構わないよ? 俺が貴女を無理矢理連れ込んだんだし。今は無礼講。暴言もある程度は聞き流してあげる」

「……それは本当ですか?」

「あ、やっぱり言いたいことがあったんだね。いいよ。俺が王族だってことは忘れて、貴女と同じ立場の人間だと思って言ってみてよ」

「ですが、この場には私達しかおりません。証言して下さる方がいらっしゃらない以上、殿下が訴えれば、レストン伯爵家が罰を受けます」


 そう言うと、マリオン殿下は満足げに微笑んだ。


「アメリア嬢って意外と頭は悪くないね。心配しなくても、この部屋には他にも人がいるよ。ちょっと周囲を見てご覧」


 他にも人がいたの!? 気配がなかったのだけど。

 驚いて周囲を窺ってみると、ソファにルーファス様が静かに座っていた。

 

「ルーファス様!?」


 声を上げると、ルーファス様は嫌そうに表情を歪ませた。


「見ての通り、ルーファスが証人だ」


 いえ、見ての通りって言われても、マリオン殿下とルーファス様は友人だったはず。

 いざというときにマリオン殿下の言葉に同調するのは明らかだわ。


「マリオン殿下側の方が証人では不安です」

「大丈夫だよ。彼は貴女の後を追いかけていた俺を捕まえて説教するくらいだしね」

「マリオン殿下!」

「ソフィーの友人の貴女が心配だったみたいだよ? 俺の性格を知っているから余計にね。それに、貴女と二人になると知って、同席することを頼んできたくらいだし。ね?」


 マリオン殿下は後ろを振り返ったが、私には分かる。絶対に今の殿下は笑顔だ。

 人懐こくて弟みたいなマリオン殿下が、実は真っ黒なお方だったなんて驚きだわ。

 あの笑みを向けられたルーファス様のお気持ちが私には分かる。

 今なら、どんな暴言を吐かれても、同族意識を持ってしまいそう。

 ルーファス様、お可哀想に、と私が思っていると彼は顔を真っ赤にさせていた。

 

「僕は姉さんが心配なだけ! 別にそいつがどうなっても構わないけど、姉さんが悲しむと思ったから来ただけじゃん! それに、僕だってマリオン殿下のやっていることは反対なんだからね!」

「だってさ。これでルーファスが俺の味方じゃないって分かってくれたかな? それに、俺が兄上に協力していたことを貴女からソフィーに言われたら、俺は疑いを持ったソフィーに距離を置かれる。結果的には俺にも不利なんだよね。だから、この場限りとしてあげる。ほら、言って」


 言ってと言われても……。

 でも、マリオン殿下の言う通り、ルーファス様は殿下のしていることは良いことではないと言っていたわ。

 私に忠告もしてくれていたもの。

 それに、顔を真っ赤にさせて、プリプリと怒っていた彼の言葉に嘘はないように思える。


「本当に、この場限りにして下さるのですね?」

「貴女も疑り深いよね。まあ、誓ってもいいよ。本当にこの場限りにしてあげる。なんなら、紙に書く? 別に構わないよ。ルーファス、紙と羽ペンを持ってきてくれるかい?」

「……分かったよ」


 ルーファス様が持ってきた紙にマリオン殿下がサラサラと文字を書いていく。

 そこには、この場で言ったことは不問にする、と書かれていた。

 彼は紙を私に押しつけるとニッコリと微笑んだ。


「そこまでして、私から本音を伺いたいのですか?」

「肯定意見ばかりじゃ、人はダメになるからね。否定意見も聞いて判断しないと。俺は、おだてられて調子に乗る人間になりたくないから。まあ、最大の理由は、王族を前にしても受け答えがしっかりとしている貴女に何を言われるのか興味があるから、かな?」

「そのような理由でですか?」

「そのような、じゃないよ。普通の令嬢は、僕と二人っきりだと知ったら頬を染めて媚びてくるのに、貴女はそんな様子もない。まるで俺に興味がないって感じじゃないか。だから、意見を聞くに値する人間だと判断したまでだよ」


 それは、絶対に選ばれることはないと分かっているから、落ち着いていられるだけです。

 見た目に自信があれば、普通のご令嬢と同じ反応をする自信があるわ。


「過大な評価です」

「そうかな? 俺としては意外だったけれど。で、言う気になったかな?」


 柔らかく聞いてはいるが、目がさっさと言えと言っている。

 こうして紙に書いてもらったことで、いざというときは言い訳ができるし、やっぱりマリオン殿下のやったことは許容できない。

 言ってもいいということなら、遠慮なく言わせてもらいます。


「では、お言葉に甘えまして……。マリオン殿下はソフィー様のために王太子殿下に協力をしてロゼッタさんと上手く行くようにしているのですよね?」

「そうだよ」

「でしたら、それはご自身の願いを叶えるために、ソフィー様のためという理由を免罪符にしているだけです」

「ちょっと!」


 マリオン殿下の背後で慌てるルーファス様を手で制したマリオン殿下は、真面目な顔のまま私に続きを促した。

 私は、彼が許可したことで続きを口にする。


「まず、王太子殿下がロゼッタさんを好きになることで、ソフィー様は傷つきます。実際に傷ついて悩んでいらっしゃいました。本当にソフィー様を愛していらっしゃるなら、王太子殿下に協力するなどもってのほかです。なのに、ソフィー様が傷つく方法を取られたのは間違っています」

「じゃあ、どうすれば良かったのかな?」

「正々堂々とソフィー様を手に入れたいのであれば、回りくどい策など講じずに、ご本人に好かれるように行動された方がよろしいかと思います。仮に、マリオン殿下のなさったことがソフィー様に知られたら、好かれるどころの話ではございません」

「ソフィーに知られないようにしているから、貴女の心配は杞憂だよ」


 妙に自信満々だけれど、果たして本当にそうだろうか。

 最初の数年は気付かれないかもしれないが、何かの拍子でバレる可能性は十分にある。


「たとえ秘密裏に行ったことでも、いずれは表にでます。マリオン殿下は、ご自分のなさったことが正しいと胸を張って仰れますか? ソフィー様に対して罪悪感をお持ちではないと言い切れますか? もしもそうでないのなら、聡いソフィー様はマリオン殿下の些細な変化に絶対に気付きます。気付いて調べて悲しむでしょう。それこそ、愛情がなくなってしまうかもしれません。結婚なさったとしても、最悪、拒絶されることになるかも」


 しれませんよ、と言いかけると、マリオン殿下が聞きたくないと言わんばかりに両手で耳を押さえた。

 ということは、罪悪感はあったのね。

 私から視線を逸らしているマリオン殿下に、わざと視線を合わた。

 後ろからルーファス様が無理矢理マリオン殿下の腕を掴んで、耳から手を離させているので、続けさせてもらう。


「想像して下さい。ソフィー様が『貴方なんて大嫌いよ!』と仰る姿を」


 想像したのか、マリオン殿下の顔は一気に青ざめた。

 

「本当にソフィー様をお慕いしていらっしゃるのなら、余計な小細工などなさらずに正面からぶつかって下さい。あの方は誠実な方です。ご自分を手に入れるために、なさったことだと知ったら、どうなるか。私よりも付き合いの長いマリオン殿下なら御存じのはずです」

「姉さんは嫌悪感を持つんじゃない? 絶対にマリオン殿下を拒絶するね。賭けてもいいよ」


 ルーファス様の言葉が止めになったのか、マリオン殿下の表情は青を通り越して白くなっている。

 やっぱり、好きな人から嫌いだと言われるのは王族でも嫌なのね。

 無言で呆然としていたマリオン殿下は縋るような目を私に向けてくる。


「じゃあ、どうすればいいの? 同じ顔じゃないけど、兄上と俺は似ているのに、どうしてソフィーは兄上を好きになったの?」

「それは……」


 言われた私は言葉に詰まる。

 ソフィー様が王太子殿下を好きになったのは、大人っぽいとか頼りになるからという理由だったはず。

 自分を守ってくれそうとか、男らしいとか、そういうことだったと過去に本人から聞いている。

 弟のようなタイプのマリオン殿下には、さすがに言えないわ。


「俺だってソフィーに好かれるように頑張った。でも、彼女が選んだのは兄上じゃないか。兄上の婚約者になった彼女と出掛けることもできないし、二人でゆっくり話をすることもできないんだよ。好きになってもらうためには、ソフィーと会わなければならないのに、それが無理だよね? なら、俺はどうすれば良かったの?」


 聞かれても解決策など思い当たらない私は、そっとマリオン殿下から視線を外した。

 誰も何も喋らず、静寂が続く。

 無言の状態に気まずくなりかけたとき、マリオン殿下は何か閃いたのか、そうだと声に出した。


「貴女がいればいいんだよ。貴女がいれば、他の人に疑われずに済むよね」

「え? 私ですか?」

「そうだよ。俺とルーファス、ソフィーと貴女の四人で出掛ければ、途中で俺はソフィーと二人になれるよね。うん。これは名案だよ」


 名案じゃないですよ!

 どうして、私が組み込まれているのですか! 行動を共にしたら目立つじゃないですか!

 嫌ですよ!


「ちょっと待ってよ! それだと、僕がこいつと二人になるじゃない! 嫌だよ!」


 そうよ、ルーファス様! 頑張って!


「でもさ、兄上はロゼッタ嬢に惹かれている。兄上の初恋になるし、初めての恋に兄上はのぼせ上がってしまうに決まっている。彼女と結婚するって言い出しかねない状況だよね? ソフィーが婚約破棄される可能性が高いなら、そうするのが一番だとは思わない? もう後戻りはできないんだよ?」


 その通りだったのか、ルーファス様が口を噤んだ。

 ちょっと、ルーファス様! もう少し頑張って下さいよ!


「ということで、協力してくれるよね?」


 すっかり回復したマリオン殿下に笑みを向けられ、私の表情は強張る。


「……私は、ソフィー様の望みを叶えたいので」


 震える声で口にすると、マリオン殿下は笑顔のまま目を開いた。

 怖い怖い怖い。


「第二王子の俺の頼みを断るんだぁ」


 本来、王族の方の命令を断るなどしてはいけないのは重々承知だ。

 でも、私はソフィー様の願いを叶えたい。

 王太子殿下に愛されたいというソフィー様を見て力になりたいと思っている。

 だから、マリオン殿下の命令には頷くことはできない。

 

「申し訳ございません。できません。私はソフィー様のお力になりたいのです。ソフィー様が笑顔でいられる方を私は選びます」


 しっかりとマリオン殿下の目を見て、私は言い放つ。

 まさか断られるとは思ってもいなかっただろう、マリオン殿下は驚いたように目を見開いた。

 しばらく考え込んでいた彼は、息を吐くと何かを確認するように頷いている。


「考えてみれば、ここで簡単に俺の案に乗る人なんて信用できないか。貴女はバーネット侯爵家のおこぼれに預かりたい友人達とは違うみたいだね。そこはちょっと安心したよ」

「ありがとう、ございます……」

「でも、俺も諦められない。だから、交換条件を提示するよ。俺はもう、ロゼッタ嬢と会う兄上のアリバイ作りに協力しない。二人から一切手を引くよ。誓って何もしない。だから、貴女は俺がソフィーと二人になれるように、隠れ蓑になって欲しいんだ」

「……具体的には?」

「さっき言った通りだよ。俺とソフィーが二人になれるように、出掛けるときに一緒についてきて欲しい。協力すると言っても、貴女達がやろうとしていることは邪魔しないよ。これで兄上がソフィーを好きになって丸く収まっても構わないし、そうなったら今度こそ潔くソフィーは諦めるよ。ソフィーの考えを尊重する。彼女の幸せが何よりも大切だからね」


 吹っ切れたように、マリアン殿下は笑っている。

 もしかしたら、彼の中で気持ちの整理がついたのかもしれないわ。

 でも、ソフィー様の意志を尊重するとは言っても、これで私がマリオン殿下に協力してしまったら、二重スパイになるじゃない。それはちょっと……。

 とは言っても、これ以上王太子殿下とロゼッタさんが親密になられても困るし。

 マリオン殿下が手を引けば、少なくともお二人が会える時間は減るはず。

 それはソフィー様にとって、良いことだわ。

 だって、王太子殿下と過ごす時間が増えることになるのだもの。

 メリットはあるけれど、ソフィー様のことを考えたら、やっぱり頷くことはできない。


「……申し訳ございません。ソフィー様を裏切ることはできません」


 深々と頭を下げると、頭上から盛大にため息を吐かれてしまった。


「まあ、君は王族よりもソフィーに忠誠を誓っているみたいだから、断られるのは仕方ないか。だから、君を信用できると思っているんだけどね」

「本当に申し訳ございません」

「ああ、いいよ。君の忠誠心に免じて兄上にはもう協力しないでおくから。俺は俺のやり方でソフィーを振り向かせることにするよ」


 顔を上げると、いつものように人の良さそうな笑みを浮かべるマリオン殿下がいた。

 のだけれど、なぜかしら? ちょっと嫌な予感がするのは、私の気のせい?


「無理矢理連れ込んで悪かったね。俺が言えた義理じゃないけれど、パーティーを楽しんでね」

「は、はぁ」


 あっさりと会話が終わり、呆気にとられていると、マリオン殿下とルーファス様は部屋から出て行ってしまった。

 何かしら? 問題なく終わったはずなのに、胸騒ぎがするわ。

 ああ、ダメダメ。後ろ向きなことを考えたら、その通りになってしまう。

 私も早く会場に戻らないといけないわね。

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