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婚約するんですか?

 とんでもないことになったわ、と呆然としていると、私は手をガシッと掴まれてしまう。


「どうして仰ってくれなかったの!?」

「あの、ソフィー様? 何がでしょうか?」

「婚約の話よ! アメリアさんと義妹になれるだなんて……」


 ソフィー様は目をキラキラさせて、嬉しそうに私の手を痛いくらいに握りしめている。 ち、力が強いです!


「婚約はルーファス様の作り話です! 嘘です! ね? ルーファス様」

「いや、本当のことだけど? まだレストン伯爵家には話してないだけ」


 しれっと言われて、私は口をあんぐりと開けた。

 今、本当のことって言った? 


「うちの両親には話してあるんだ。近いうちにレストン伯爵家に打診するつもりだから、嘘は言ってないでしょ」

「ですが、陛下の許可が必要ですよね? まだ許可も頂いていないのに、婚約者などと公言なさるのはまずいのでは?」

「それなら大丈夫。姉上の件で王家はバーネット侯爵家に借りがあるからね。話がまとまればすぐに許可を出してもらえる」


 円満に婚約が解消になったとはいえ、王太子殿下がロゼッタさんを好きになってしまったのが原因ですものね。

 でも、さすがに家柄が釣り合わないと思うのよ。


「……あの、レストン伯爵家は普通の家ですよ? バーネット侯爵家の得にはならないと思いますが」

「得にはならないけど、損にもならない。うちはこれ以上家を大きくする必要はないし。僕が長男だったら話は別だけど」


 中位貴族だからこそ、バーネット侯爵は婚約話を受け入れたのかしら。

 話が急すぎて、戸惑いの方が大きいわ。

 すると、黙ってしまった私を見たルーファス様の顔がどんどん不機嫌になっていく。


「何? 僕と婚約するのがそんなに嫌なの?」

「いえ、そのようなことは」


 婚約話に驚きはしたものの、正直に言えば嬉しいわ。


「じゃあ何? 両親と離れるのが嫌だとか? だったら心配はいらないよ。僕がレストン伯爵家に入るからね」

「ええ!?」

「僕は次男だし。それに貰える予定の領地はレストン伯爵領から離れているから、アメリアが寂しがるかなって思って。なら、僕がレストン伯爵家に入った方が話は簡単でしょ?」


 サラッと言っているけれど、本当に本当なの?

 私を助けるために嘘を吐いて、真実にしようと気を使っているだけじゃないの?

 だって、他に好きな方がいるのよね?


「あの、私を助けるために勢いで仰ったのなら、まだ口から出任せだと説明すれば皆さんに納得してもらえると思いますが」

「はあ!? 僕がアメリアを助けるためだけに嘘を言う訳ないじゃない! どうして好きでもない女のために、そこまでしないといけないの!」

「そ、そうですよね!」


 思わず言ってしまった後で、私はルーファス様が『好きでもない女のために』と口にしたことに気付いた。

 え? まさか、そんな、と思いつつ、私は遠慮がちに口を開く。


「あの、もしやと思いますが、私の勘違いだったら非常に申し訳ないのですが、その、ルーファス様は私が、好き……なのですか?」

「そうだけど、文句ある!?」


 なんてことなの!? まさか、ルーファス様の好きな人が私だったなんて!

 あのルーファス様が! 天使のようなお顔をしたルーファス様が私を好き!?

 惚れ薬を使った記憶なんてないわよ!


「一体、いつから」

「初めからだけど!」

「え? 初めから?」

「そうだよ! 十年前に一目惚れをして、同一人物だと気付かずに姉さんと二人でいるときに、なんて可愛い子なんだろうって思ったのが切っ掛けだよ! 悪い!? 大体、なんで気付かないの!? 女に対して愛想がない僕が話しかけたり助けたりプレゼントしたり、二人で出かけたりしていたのに」

「で、ですが、私はマリオン殿下から、とんでもない美少女とお二人で出かけたことや、その女性を好きだということを伺っていたので、絶対に私はないと思っていたのです」

「それ、アメリアだから!」


 ……は? え、私!?

 とんでもない美少女だと噂されていたのは私だったの?


「だから可愛いって言ったでしょ! 他の奴の目に触れさせたくなくて、個室にしたってのに……」


 そんなこと言われても、あり得ないと思っていたのだもの。

 まさか噂の張本人が私だなんて気付きもしなかったし。あと噂って当てにならないってことがよく分かったわ。

 お母様の言葉にも全力で否定していたのに……まさか当たっていたなんて。


「で、婚約の話に戻るけど、アメリアは僕と婚約するのは嫌じゃないんだよね? たとえ、僕に恋愛感情を抱いていなくても、婚約している間に好きになるかもしれないし、結婚生活の中で好きになるかもしれないよね? だから、断らないよね?」


 断るなよ、という強い意志を感じるわ。

 婚約話を断るなんてとんでもないわ。

 ルーファス様はいつだって私を助けてくれたし、私の背中を押してくれた。

 他に好きな方がいると思っていたから、気持ちを隠していたのに、私が好きだなんて……。

 ということは、つまり、私とルーファス様って両思いってことよね?

 

「アメリア?」


 黙ってしまった私を心配するような声がした。

 でも、私は両思いだと知ったことで、すっかりのぼせ上がってしまっている。

 ボーッとしたまま、私は取りあえず返事だけをした。


「……何でもございません。婚約の話は……私から、両親に話します。お受けする方向で考えますので」

「本当に? 本当に婚約してくれるの?」

「はい」

「じゃあ、アメリアさんと義理の姉妹になれるのね! こんなに嬉しいことはないわ」


 弾んだ声がしたと思ったら、私はソフィー様に抱きしめられていた。


「ちょっと、姉上! うらやま、はしたないよ!」

「あら、貴方はそこで指をくわえてご覧になってなさい」


 ふふん、とソフィー様は挑発するようなことを言っている。

 婚約、婚約かぁ。私がルーファス様と。

 フワフワと夢見心地の私は、そのまま帰宅した。

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