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勇気を出してからの

 ジゼル様は目立った真似をしないだろうと予想していた数日後、ロゼッタさんがソフィー様の元取り巻きの皆さんに囲まれている場面を見つけてしまい、私は膝から崩れ落ちた。


 私がロゼッタさんと皆さんを見つけたのは偶然でもなんでもない。

 だって、皆さんは生徒の往来のある場所でロゼッタさんを囲んでいたのだもの。

 周囲にいた生徒も遠巻きに彼女達を眺めていた。

 どうして誰も声をかけないの? って思ったけれど、囲んでいるというだけで嫌がらせをしているという判断はできないわよね。

 ただお話をしているという可能性もあるもの。


 できれば、後者であって欲しいと思いつつ、私はコッソリと彼女達に近寄る。

 会話が聞こえる場所まで近づき、物陰に身を潜めた。

 盗み聞きなんて、やっちゃいけないけれど、嫌がらせをしているのなら放っておくことはできない。

 見て見ぬ振りは、もうしないと誓ったのだもの、と私は耳を澄ませる。


「確かロゼッタさんは男爵家の方でしたわね?」

「はい」

「ベイリー男爵といえば、稼業が傾いて大変だと伺っておりますが、よく学院に入学できましたわね。どなたかからお金を借りていらっしゃるの?」

「……きちんと父が支払ってくれました。家は、それほど裕福ではありませんが、食べるのに困るほどではございません」

「ですが、パーティーでは、いつも同じドレスをお召しだったではありませんか。新調するお金もないのかしらって私達はいつも申しておりましたのよ? 特に、あの方は貴女を見て笑っていらしたし」


 皆さんは一斉に、ロゼッタさんを小馬鹿にして笑っていた。

 間違いなく、これは嫌がらせの類いだわ。言われたロゼッタさんが下を向いてしまっているもの。

 手を握りしめて耐えているのが分かる。


「貴族令嬢として相応しくない振る舞いはお止めになったらいかが? ほら、身分を考えずに王太子殿下にお近づきになることとか」

「それは……」

「貴女の行動のせいで、傷ついた方がいらっしゃるのよ? 責任は感じませんの? 罪悪感もないのですか?」

「あら、下位貴族の彼女に恥の概念はないのでは? なんせドレスが一着しかないのですもの」


 それもそうでしたわね、と彼女達はクスクスと笑っている。

 嫌がらせだってことは分かったし、もういいわよね。

 私は、そっと物陰から出て彼女達に視線を向けた。


「もう、お止め下さい」

「誰!? って、アメリアさん」


 声をかけてきたのが私だったせいか、皆さんは明らかに安心しているようだった。

 私には何もできないと思っているのが良く分かるわ。


「止めるもなにも、私達は親切心でロゼッタさんに周囲の評価を教えて差し上げているだけよ」

「でしたら、笑う必要はございませんでしょう? それに、先ほど傷ついた方がいらっしゃると仰っておりましたが、あれはまさかソフィー様のことですか?」

「実際に傷ついていらしたでしょう? 嘘ではございません」

「すでにソフィー様から離れた皆さんが口にするのはおかしいと思うのですが。今、皆さんはジゼル様と仲良くされているではありませんか」


 皆さんは、もうソフィー様の取り巻きではない。

 彼女を引き合いに出して嫌味を言うなんて、とんでもないわ。


「あら、私達はソフィー様のためにジゼル様に近づいただけです。王太子殿下の婚約者は、これまでと変わらずソフィー様、ただお一人ですから」

「何を……」


 わざとらしく大声を出した令嬢は、周囲を窺うように視線を動かした。

 その行動に私は違和感を持つ。

 あれだけソフィー様を馬鹿にして離れたのに、今更彼女のためだなんて信じられないわ。

 何か裏がありそう。


「何を企んでおいでなのですか?」

「企むなどとんでもない! 私達は、あの方に命じられたので行動しているだけですもの」


 ちょっと! その言い方だとソフィー様が命じていると思われるじゃない!

 周囲の生徒達は、彼女の言葉を聞いてざわめき始めた。


「あの方って、まさかソフィー様が?」

「信じられないけれど、理由はございますものね」

「公平な方だと思っていたが、やっぱりソフィー様も他の女性と一緒なんだな」

「違います!」


 大声で否定するけれど、ソフィー様が命じていると信じている生徒達には届かない。

 混乱したまま、私が取り巻きの令嬢達に視線を向けると、彼女達は上手くいったといわんばかりに満足そうな表情を浮かべていた。

 

 違うわ。ソフィー様は嫌がらせをしろなんて命じない。絶対にしない。

 彼女達は嘘をついている。保身のためにソフィー様から離れたのは間違いないもの。

 じゃあ、彼女達の独断で? と考えたけれど、多分それも違う。

 だって、ロゼッタさんに嫌がらせをしても彼女達が得られるものは何もないもの。

 裏に誰かいるのは間違いないわ。


「……皆さんが仰った言葉は嘘だったのでしょうか?」

「私達が何か申し上げたかしら? 記憶にあって?」

「いいえ。何も。アメリアさんが勘違いをしていらっしゃるのでしょうね」

「私達の心はいつまでもソフィー様と共にありますもの」


 どの口がそれを言うのよ!

 何としてでも、ソフィー様に向けられている疑いを晴らさなければ!


「いいえ、私は確かに皆さんは仰いました。それに、ソフィー様は、その様なことは命じません。絶対にです。ありもしないことを仰るのはお止め下さい。皆様に貴族としての誇りがあるのであれば、後ろ暗いことはなさらないのが賢明だと思います。誰にも他者を傷つける権利などないのですから」

「ご立派ですわね。さすが、過去に笑われた方は仰ることが違いますわ。正義感で出しゃばると、また笑われる破目になりますわよ」

「過去に笑われたからこそ、笑われる側の気持ちは痛いくらいに存じ上げております。それに、私は笑われることは気にしておりません。側にいて下さる方がいらっしゃいますもの。私はもう、人の悪口を諫めもせずに聞き流すことはしたくないのです。それは同意していることと同じことですから。悪口を仰っている方と同じ、加害者です。ですから、私はもう逃げません。立ち向かいます。見て見ぬ振りは、もうしません」


 キッパリと言い切ると、取り巻きの皆さんがたじろいだのが分かった。

 私は臆病なままでいたくない。前を向くと決めたのよ。

 互いに無言になったことで、周囲が静まり返っていることに私は気が付いた。

 目立ってしまったけれど、構わないわ。

 それよりも、ソフィー様が命じていたという誤解をどうにかしなければ。


「とにかく! ソフィー様は命じておりません。皆さんの独断なのか、他のどなたかに命じられたのか存じ上げませんが、ソフィー様に濡れ衣を着せるのはお止め下さい」

「勇ましいことですわね」


 背後から静かな声が聞こえてきたことで、私が振り返ると、眉を寄せたジゼル様が不機嫌そうに立っていた。


「ジゼル様……」


 私の声を無視した彼女は、ゆったりとした足取りでロゼッタさんへと近づいていく。


「ああ、大丈夫でしたか? 皆様から酷い言葉を投げかけられたのでしょう? 助けが遅れてしまってごめんなさいね。もう、大丈夫ですわよ」


 ジゼル様は気遣うようにロゼッタさんの手を取って優しく微笑んだ。

 いつもの意地悪な姿からは想像もできないくらいの優しさだわ。


「……平気です。皆さんが仰っているのは事実です。私の愚かな行いのせいで傷つけてしまった方がいらっしゃいますから」

「そう。健気な方ですわね。嫉妬から彼女達に嫌がらせをしなさいと命じたソフィー様とは大違いですわ。婚約解消となったのだから、弁えて頂かないと。このようなことをなさってもクレイグ殿下のお心が戻るわけがございませんのに……。あまりに卑怯なやり方ですわ。ですが、ソフィー様は昔からご自分の手を汚さない方でしたから、こうしてご友人の皆さんにお願いしたのでしょうね」


 あまりに普段のジゼル様からかけ離れている言葉に違和感しかない。

 それに、ソフィー様に悪感情を抱かせるようなことばかり口にしている。

 大体、ソフィー様は自分の手を汚さない方ではないわ。ジゼル様の言っていることは嘘ばかり。

 嘘まで言ってソフィー様に罪をなすりつけるなんて……。

 と考えたところで、私はジゼル様が今来たばかりなのにソフィー様が嫌がらせを命じているということに何の疑いもせず、肯定していることに疑問を抱いた。

 同時に、ロゼッタさんに嫌味を言っていた皆さんが現在誰の取り巻きになっていたのかを思い出す。

 

 もしかして、これはジゼル様が考えたことなのでは?

 王太子妃になりたいジゼル様がロゼッタさんとソフィー様を排除しようとしているのなら、辻褄が合うもの。

 一度に片が付くし。しかも、ソフィー様の元取り巻きの皆さんがロゼッタさんに嫌がらせすることで彼女が命じたと思わせることもできる。

 ……いえ、いくらなんでも、これは私の考えすぎよね。

 ジゼル様なら、やりそうだとは思うけれど。


「貴女の方から仰ることはできないでしょうから、私からソフィー様に申し上げておきますわ。安心なさって」

「いえ、私はソフィー様が命じたとは思っておりませんので、そのような気遣いは無用にございます」

「え?」


 ロゼッタさんの言葉にジゼル様は真顔になっている。

 このことから、私はジゼル様が裏で手を引いているという予想が合っているのではないかと思った。


「私は、どうしてもソフィー様が命じたとは思えないのです。それならば、もっと早くこうなっていたはずですから」

「それは、ご自分から目を逸らすためになさったのでしょう?」


 いいえ、とロゼッタさんは首を振る。


「私がクレイグ殿下と親しくさせて頂いていたせいで、皆様から私に向けられる視線が厳しいものだったのは理解しております。それでも、親しくし続けた私にソフィー様はただの一度も文句を仰ってきたことはございませんでした。厳しい目を向けられたこともございません。だからこそ、婚約解消になったという理由だけで命じたとは思えないのです」


 貴族令嬢として正しくあろうとしたソフィー様の行動のお蔭で、ロゼッタさんが疑いを持つことがなかったのね。

 本人から疑われていないことに安心したわ。

 

「ジゼル様。助けにいらして下さってありがとうございました。私は大丈夫ですので」


 失礼します、と言ってロゼッタさんは足早にその場を後にした。

 後ろ姿を眺めていたジゼル様が、ゆっくりと振り返り、憎悪を宿した目を私に向けてきた。

 ああ、やっぱり彼女が手を引いているのだわ。そうじゃなかったら、こんな目で私を見てこないもの。


「……貴女」

「あ、先生がきたよ!」


 口を開きかけたジゼル様は、先生が来るかもしれない状況に冷静になったのか、私を睨み付けた後で足早に立ち去っていく。

 慌てて彼女の後を追う取り巻きの令嬢達を見送った私は、安心したと同時に膝が震えてしまっていた。


「……こ、怖かった」

「無謀すぎるわ」


 振り向くと、心配そうな顔をしたソフィー様が私を見ていた。


「ソフィー様……」

「とっさにルーファスが先生がいらしたと口にしたけれど、ヒヤヒヤしたわ」


 え? さっき、声を出したのはルーファス様だったの!?

 だけど、周囲には彼の姿はない。キョロキョロと見回しているとソフィー様から声をかけられた。


「ルーファスは私との話が終わったら、貴女に話したいことがあるみたいで、少し離れたところで待っているの」


 話? でも、私もさっきのことのお礼を言いたいし、ちょうど良いわ。

 お礼を言うなら早いほうがいいもの。 


「私が出るとジゼル様を刺激してしまって収拾がつかなくなるとルーファスに言われてしまってね。弟を使ってでしか助けられなくて、ごめんなさいね」

「いえ、助かりました。ありがとうございます」


 あのままだったら、ジゼル様から色々と言われていたと思うもの。

 本当にルーファス様が声を出してくれて助かったわ。


「それにしても、思っていた通りの展開になってしまったわね。まさか、あの方達を利用なさるなんて」

「……落ち着いていらっしゃるのですね」


 濡れ衣を着せられそうになっているのに、ソフィー様は至って冷静。

 何でもないように口にしている。


「ジゼル様の仰ることをクレイグ殿下が信じるはずがないもの。表に出ていないだけで、私はクレイグ殿下とお話をして、お互いに納得した上で婚約解消したのだし。さすがに、一方からのお話だけで判断なさるとは思えないわ」

「それは、そうですが」


 ソフィー様の言葉も分かるが、この場にいた生徒達はソフィー様が命じていたと信じたようだったわ。

 そこから話が広まったら、さすがに王太子殿下といえども無視することはできないのではないかしら?

 気になった私は、そっと周囲を窺うと大半の生徒は立ち去った後だったが、何名かの生徒達は留まったままで私達の様子を眺めていた。

 野次馬という感じではなさそうだけれど、どうして留まっているの?

 不思議に思っていると下級生と思われる女子生徒二人が、こちらに近寄ってくる。


「あの、アメリア様」

「ア、アメリア、様!?」


 様付けで呼ばれることなど、使用人以外からはなかったので、私は心底驚いた。

 口を開けて無様な顔を晒している私に突っ込みをいれることもなく、二人は笑顔を向けてきている。


「先ほどのアメリア様のお言葉に感動致しました。見ているだけの者も加害者になる……全くその通りだと気付かされました」

「ロゼッタさんに嫌味を仰っている皆様に毅然とした態度で物申されている姿が格好良かったです!」

「ええ!?」


 もしかして野次馬じゃなくて、私に声をかけようとして留まっていたの!?


「それに、アメリア様が昔、話題になったピアノのお上手な方でいらしたなんて……。今まで存じ上げずに勿体ないことをしてしまいました」

「いえ、同年代の方に比べてというだけでしたので」

「とんでもございません! 貴族の間では有名でしたのよ? 十年前から話を聞かなくなって、どうなさったのかしらと思っていたのですが、まさかソフィー様のご友人でいらしたとは……。どうして今まで気付かなかったのでしょう」


 それは、私が目立たないように隠れて生きていたからじゃないかしら?

 でも、あの場面を見て、そう言ってもらえるのは、ちょっと恥ずかしいわ。あと、私はそこまで褒められるようなことはしていない。

 自分が行動しようと思ってしたことだもの。

 キラキラした眼差しで私を見てくる皆さんに何故か既視感を覚えていると、背後からソフィー様が、そうでしょう! と嬉しそうな声を上げた。


「本当にアメリアさんは、優しくて可愛らしくて素晴らしい方なのよ! 彼女の良さを分かって下さる方がいらっしゃるなんて……」

「ソフィー様!?」


 いきなり何を興奮気味に話しているのですか!

 失笑ものですよ! と思っていると、皆さんは口々に、ソフィー様の仰る通りですねなどと言い始めた。


「……お二人は、ソフィー様があのようなことを命じたとは思っていらっしゃらないのですか?」


 物凄く好意的にソフィー様に言葉を返しているけれど、あの場面を見ていたのよね?

 だったら、彼女が命じたと信じたのでは? という私の疑問にお二人は一様に首を振った。


「私達はソフィー様が嫌がらせせよと命じたとは思っておりません。これまでのソフィー様を拝見していたら、あの様な卑怯な真似をなさる方だとは思えませんから。むしろ、ご自分がお出になる方だと思っておりますもの」

「ええ。真っ直ぐな方でいらっしゃるのは、周知の事実でございます。それでも、信じる者がいるのが悲しいところですが」

「いいえ。それでも、私を信じて下さった方がいらっしゃるのは本当に嬉しいわ。ありがとう」

「勿体なきお言葉でございます」


 綺麗に礼をした彼女達は顔を上げると、何故か目がキラキラとしていた。


「あの、アメリア様! お許し頂けるのなら、これからもお声をかけて構いませんか?」

「え? はい。勿論です。とは申しましても、面白いお話は何もできないと思うのですが」

「いいえ。アメリア様とお話しできるだけで十分ですから」


 物凄く既視感があると思ったら、これ、あれだわ。

 ソフィー様に憧れている私と同じなんだわ。

 私って、こんな風にソフィー様から見られていたのね。

 彼女達の申し出は嬉しいけれど、身にそぐわないと思ってしまう。尊敬されるような身分じゃないのに。

 なんて、目をキラキラさせている彼女達には言えないけれど。


 結局、ひとしきりソフィー様と彼女達が私の話題で盛り上がった後で、解散となる。

 褒められ慣れてない私はひたすら、聞こえないふりをしてその場をやり過ごすしかなかった。


「では、後はルーファスに任せるわね」


 そう言って、ソフィー様が立ち去ると、入れ違いにルーファス様が私の側へとやってくる。


「無謀だと思わなかったの? 彼女は侯爵家の人間なんだから、相手は選ばないと」

「あれは不可抗力かと思いますが……。ですが、ルーファス様が声を上げて下さったお蔭で助かりました。ありがとうございます。私って、ルーファス様に助けられてばかりですね」

「別に助けてないし! 目の端に映っただけだし! あと姉さんが出たら、もっと揉めると思っただけだし!」

「そうですね。ありがとうございます」


 助けてないって言っているけど、きっと違う。

 ソフィー様のこともあったとは思うが、目の端に映っただけで声を上げただけとは思っていない。

 本当に、私はルーファス様に助けられてばかりだわ。


「まあ、でも、ちょっと格好良かったよ。……ちょっとだけね! ほんの少しだけ!」


 ルーファス様の言い方に、私は思わずクスリと笑みを零した。

 笑ったのが気に障ったようで、彼は頬を膨らませている。

 怒っているはずなのに、可愛らしいなんてずるい。


「何が可笑しいのさ」

「申し訳ございません。いつものルーファス様だと思って、安心してしまって」

「ふんっ。僕の変わらない態度に感謝しなよね」

「はい。感謝しております」


 素直に口にしたら、ルーファス様が絶句してしまったわ。

 この返答は予想外だったのかしら。


「本当に調子が狂う」

「また変な返答をしてしまったのでしょうか?」

「それはいつものことでしょ? 別にいいよ。それよりも、ようやく自分の評価が分かったんじゃないの?」

「評価ですか?」

「そう。十年前のアメリアは、皆から馬鹿にされていたわけじゃないってこと。ああして憧れていた奴もいたってことだよ。馬鹿にしていたのは一部の貴族だけだって分かったでしょ?」


 いやぁ、それはどうかしら。

 愛想笑いを浮かべた私を見て、ルーファス様は呆れたようにため息を吐いた。


「本当に他人から向けられる好意に疎いよね。素直に受け取りなよ」

「そうなのですが、本当に私を!? という気持ちの方が強くてですね」

「姉さんの元取り巻き達にあれだけ言っておいて、よく言うよ。前よりも行動的になっているってちゃんと自覚してよね」

「見て見ぬ振りはしたくなかったので。あと、あれだけ注目を集めるとは思っておらず」


 だって、まさかジゼル様が出てくるなんて思わなかったのだもの。

 彼女達だけだったから、出られた部分もあるわ。中位貴族の私が上位貴族のジゼル様に面と向かって物申すのは、やってはいけないこと。

 それぐらいの分別はついている。


「まあ、あれのお蔭で良い方向に行ったからいいけどね。ということで、この話はこれでお終い。後さ、ちょっとアメリアに相談があるんだけど」

「え? 相談ですか?」


 私に? と聞き返すと、ルーファス様はニコリと微笑んだ。


「今回のことがあって、さすがに姉さんも落ち込んでるじゃないかと思って、元気づけたくてさ。それで何か贈ろうかと思っているんだけど、その……プレゼントを選ぶのに付き合ってくれない?」

「私がですか!? 私でよろしいのですか?」

「だって、姉さんの好みは近くにいるアメリアが良く知っているでしょう?」


 まあ、確かに一番近くにいるのは私よね。

 う~ん。ソフィー様の好み……好みねぇ。といえば、あれしかないわよね。


「でしたら、恋愛小説を贈られてはいかがでしょうか?」

「却下」

「えぇ!?」


 即座に却下された!

 どうして!? ソフィー様はきっと喜んでくれるはずなのに!


「何で、ものの数秒で正解を出すの!? もうちょっと、こう……何にするか悩んでくれないとすぐに終わっちゃうでしょ! すぐに帰るつもりなの!?」

「え? 私と長時間一緒にいらっしゃるのですか!? つまらないと思いますよ?」

「違うし! 別に一緒にいたいとか思ってないし! 浮かれてもないし! ……あああああ!」


 雄叫びを上げてルーファス様が膝をついてしまったわ。

 大して面白い話もできないから、つまらないと思っただけなのに。


「……あの、大丈夫でしょうか?」

「大丈夫なように見えるの?」

「いえ……」


 ごめんなさい。全く大丈夫なように見えません。


「やはり、別の方にお願いされた方が」

「嫌だ。アメリアが良い」

「恋愛小説でよろしいではありませんか」

「それだと味気ない。アメリアは、僕と出かけるのが嫌なの?」


 困り顔で見上げられ、私はあまりの可愛らしさに言葉に詰まる。

 その顔でその言葉は反則よ。断れないじゃない。


「……嫌では、ありません」


 私が答えると、ルーファス様は真顔になって素早く立ち上がった。


「なら、次の休日に屋敷まで迎えに行くから。いい? 僕と出かけるんだからね。バーネット侯爵家の次男と出かけるんだからね。綺麗な格好で来てよね」

「そのように念を押さずとも分かっておりますから! ただ、期待はしないで下さいね」

「どういう評価を下すのかは僕が決めるから、心配はしなくていいよ。あと、やっぱり行かないとかいうのは却下だから。分かった?」


 いいね! と言われて私が頷くと、ルーファス様はニヤリと笑った。

 

 ……屋敷に地味じゃない服はあったかしら?

23話と24話が同じ話になっておりました。

いつから同じだったのか分かりませんが、ご迷惑をお掛けしてしまい申し訳ありません。

教えていただき、ありがとうございました。

また、いつも誤字脱字、間違いなどを指摘していただき、とても助かっています。ありがとうございます。

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[一言] 「いいえ、私は確かに皆さんは仰いました」←前後の文脈からすればおかしいですね。 「いいえ、皆さんは確かに私に仰いました」が正しいものになるかと。
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