表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/36

様子を尋ねてみます

 お二人の話し合いの結果が気になりつつ登校すると、ソフィー様が今日は休みであると取り巻きの皆さんから報告を受けた。

 もしかして、昨日の話し合いが決裂して傷ついたから休んだの?

 こういう場合は、すぐにお屋敷に向かって慰めるべき? それとも時間を置いた方がいいの?

 ああ、分からない……!


「重いご病気でなければよろしいのですが……。ソフィー様のご様子をルーファス様に尋ねてみようかと皆さんと相談しておりましたの」


 彼女の言葉に、私はその手があった! とひらめいた。

 ルーファス様ならソフィー様がどうしているのか分かるはずだもの。

 お屋敷に伺っても大丈夫かどうかを確認しましょう。



 ということで、早速、私はルーファス様に話を聞くべく、放課後に彼の元へと向かう。

 一年生のクラスを遠目で見てルーファス様が出てくるところを待っていると、マリオン殿下と一緒に彼が教室から出てきた。

 でも、周囲に女子生徒達がいるから近寄りにくいわ。

 理由が理由だから非難はされないと思うけれど、ちょっと怖い。

 どうしようかと悩んでいる内に、お二人が女子生徒達と一緒に、こちらへ近寄ってくる。

 話しかける機会は今しかないでしょうし……明日にすると、絶対に今日と同じことになるのは目に見えているわ。

 ちょっとソフィー様の様子を聞くだけだもの。大丈夫よね。うん、きっと大丈夫。

 深呼吸をして気持ちを落ち着かせた私は、物陰からゆっくりと出た。


 私の姿を見つけたルーファス様は驚いた後に表情を緩め、マリオン殿下は目を見開いて私を見つめていた。

 周囲の女子生徒達はお二人の変化の原因が私だと分かったのか、訝しげにこちらを眺めている。

 回れ右をして逃げ出したくなるわ。でも、聞かないと……!


「ルーファス様。ソフィー様の件で伺いたいことがあるのですが、お時間はございますか?」


 用事がソフィー様のことだと分かり、女子生徒達の空気が少し和らいだのが分かった。

 そうです。ルーファス様に言い寄ろうと近づいたわけじゃないんですよ~、と示すため、私は人畜無害そうな笑顔を彼女達に向ける。

 だけど、好意的な感じだったルーファス様は、急に不機嫌そうになってしまった。

 これは聞いてはいけない話だったのかしら。


「…………分かった。いいよ。こっちに来て」


 マリオン殿下に断りを入れ、私とルーファス様は中庭へと向かった。

 不機嫌そうだった彼は移動中も無言でスタスタと歩いて行く。

 この反応からすると、あまり話題にして欲しくないことを言ってしまったということよね?


「あの、ルーファス様。ソフィー様の件を伺うのはいけないことだったのでしょうか? もし、そうであれば、配慮が足りず申し訳ございませんでした」


 途端に足を止めたルーファス様が物凄い勢いで振り返ってきた。


「はぁ!? いつ、僕が姉さんのことを聞くなって言ったの?」

「え? だって、急に不機嫌になっていらっしゃったではないですか」

「そ、それは……ちょっと、期待を裏切られただけだし!」

「期待?」

「こっちの話! そこに突っ込まないでくれる? 流してよ」


 えぇ! 気になる!

 でも、ソフィー様の話題がだめじゃなかったことにホッとしたわ。

 安心していると、ルーファス様はため息を吐き出した。顔に若干疲れが見えるのは私の気のせいかしら?


「……まあ、ここでいいよね。それで、姉さんの何が聞きたいって?」


 ルーファス様の顔をジッと見ていた私は、そこで本来の目的を思い出す。

 私は周囲に生徒の姿がないことを確認した。一応、小さな声で話した方がいいわよね。


「その前に、ルーファス様は昨日、ソフィー様の身に起こったことを御存じでしょうか?」


 もしも知らなくて余計なことを言ってしまったらまずいと思い、私が確認すると、神妙な顔つきになったルーファス様が迷いなく頷いた。


「王太子殿下とロゼッタ嬢のことでしょ。姉さんが父上達と話しているのを聞いていたから知ってる。てことは、あの場にアメリアもいたんだ?」

「ええ。そうなのです。昨日の今日でソフィー様がお休みされているので、話し合いが決裂してショックを受けて休まれたのではないかと心配になってしまいまして」

「ああ、それはないから安心しなよ」


 断言するルーファス様に私は拍子抜けしてしまう。

 ならば、どうしてソフィー様は休んだの?

 疑問が顔に出ていたようで、彼が面倒臭そうに口を開いた。


「ちょっと別の件で父上達と揉めてるだけ。揉めてるっていうか、姉さんが説得しているっていうか……。そこら辺は、解決したらアメリアに説明があるんじゃない? だから、終わるまで姉さんは学院に来ないよ」

「……ソフィー様は落ち込んでいらっしゃらないのでしょうか? 王太子殿下のあのような姿をご覧になったのに」

「全く落ち込んでいなかったよ。こっちがどうしたの? って言いたくなるくらいに元気だしね」

「空元気ということもございます。ですが、そのような事情であれば、私がバーネット侯爵家に伺うのは止めておいた方がよろしいですね」


 事情は良く分からないけれど、お屋敷で色々と大変そうなことになっているみたいだもの。

 私が行っても迷惑なだけだわ。

 それにしても、バーネット侯爵を説得しているだなんて、ソフィー様は本当に大丈夫かしら。


「やけにスッキリとした顔をしていたから、空元気ということはないんじゃない? 今は目的に向かってまっしぐらって感じだし。我が姉ながら、こうと決めたら突き進む姿は凄いと思うけどね」

「それがソフィー様の良いところだと思います」

「長所でもあり短所でもあると思うよ。あと、今の状態の家には来ない方がいいね。ピリピリしているから。今日も朝から父上と姉さんの口論でウンザリしてるんだよね。屋敷に帰るのが嫌になる」


 そこまで殺伐としているの? ソフィー様が心配になってくるんだけど。話を聞く限り、孤軍奮闘っぽいし。待つことしかできないって、落ち着かないわ。


「で、姉さんの件の話ってそれで終わり?」

「え? ええ。お時間を頂きまして、ありがとうございました」


 会いに行くのはダメって話だし、今の私にできることはソフィー様が学院に来るのを待つのみ。

 現在の彼女の様子が知れただけでも十分。落ち込んでいないということにも安心したし、私は彼女の決めたことを応援するだけよ。


「まあ、姉さんのことは大丈夫だから。何だかんだで何とかするのが姉さんだし、王太子殿下も王太子殿下でマリオン殿下に協力してもらって色々と動いているみたいだから、大丈夫なんじゃない? それよりも、前と比べて随分とアメリアの雰囲気が変わったんじゃないの?」


 柔らかい雰囲気になったルーファス様が目を細めて私を見ていた。

 美少年に微笑まれると、ドキッとしてしまう。勘違いしてしまいそうになるわ。

 勿論、ソフィー様の友人として見られているだけだと分かっているけれどね。それでも心臓に悪い。

 彼の視線を受け止めることに耐えかね、私はそっと視線を外した。

 顔が見えなくなったことで落ち着きを取り戻した私は、言われた言葉を思い返す。

 雰囲気が変わったとか行っていたわよね。

 なるべく背筋を伸ばして前を見るようにしているから、それのことかしら。


「僕の周りでも、アメリアってああいう人なんだって声が聞こえてくるようになった。好意的な声が多いよ。良かったじゃない。僕も嬉しいよ」

「好印象を持って頂けているようで安心しました。ちょっとした変化ではありますが、色々な方に話しかけて、交友関係を広げていこうかと思っております」

「……あんまり頑張りすぎないでよね。馬鹿の目に留まると厄介だから。ま、まあ、そうなっても僕が蹴散らすからいいんだけど」

「そうですね。目立ちすぎて目を付けられてしまったら、大変ですものね。気を付けます」


 グッと拳を握ると、ルーファス様が呆れたようにため息を吐き出した。


「ほんと、アメリアはアメリアだよね」

「どういうことですか?」

「これから苦労するだろうなって話。頑張らないといけないなって」

「……私、既に目を付けられているのでしょうか?」


 今のルーファス様の話からすると、そういうことよね。

 そんなに目立つ真似はしていないと思うのだけれど、やっぱり人から見たら違うのかしら。

 いずれ、呼び出しをくらって嫌味を言われたりするの?

 こ、怖い。

 ブルブルと震えていると、彼が慌て始めた。


「目は付けられてない! ていうか、そういう話じゃないから。アメリアが苦労するわけじゃないよ」

「では、どなたが?」

「…………言うわけないでしょ!」


 耳まで真っ赤にしたルーファス様が頬を膨らませる。

 美少年は頬を膨らませても美少年だわ、と関係ないことを私は考えていた。

 でも、目を付けられたわけじゃないのね。良かった。

 誰が頑張るのか、苦労するのかは教えてもらえなかったけれど、多分、悪い話ではないわよね。

 だったら、ルーファス様から忠告のひとつくらいあってもいいはず。

 優しい方だから、ソフィー様の友人でしかない私のことも助けてくれたもの。

 その彼が言うのだから、信じるわ。


「いつか、そのときがきたら言う」


 ポツリと呟かれた言葉に、私は目を瞬かせた。

 ルーファス様はとても真剣な表情を浮かべている。


「分かりました。そのときがきたら教えて下さいませ」

「うん。それじゃ、気が重いけど、僕はもう帰るよ」


 私の横を通り過ぎ、校舎に戻ろうとしているルーファス様に言っていないことがまだあったことに気付いた。

 振り返った私は、彼を呼び止める。


「あの、ルーファス様。ソフィー様に伝言をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「いいけど、何?」

「私は、いついかなるときでもソフィー様を応援しております。貴女様の望む結果となることを祈っております。幸せなお姿を拝見することだけが、私の望みです、と」

「……長いよ。覚えていられるか不安なんだけど」


 えぇ! そんなぁ。

 私が動揺していると、ルーファス様はフッと笑みを零した。


「嘘。ちゃんと姉さんに伝えるよ。じゃあね」


 軽く手を挙げたルーファス様はその場から立ち去って行く。

 彼でも冗談を言うのね。ヒヤッとしたわ。

 でも、ソフィー様に伝えてくれるみたいだし、良かった。



 なんて、思っていたのだけれど、結局ソフィー様は、それから半月経っても学院に来ることはなかった。

 そうして、ある日、学院内で私は彼女に関する話を取り巻きの令嬢から聞かされる。


『王太子殿下とソフィー様の婚約が白紙になった』


 と。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ