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変わり始めた私

 ルーファス様に宣言をした翌日から、私は下に向けていた視線を上げて背筋を伸ばして過ごし始めた。

 ついでに、私は同じクラスの生徒達にも話しかけるようにしたの。いきなりの行動に驚くかしら? と思ったのに、そんな人は誰もいなかったのよね。それだけ、存在感がなかったのかしら。

 でも、他の人に話しかけるようになってから声をかけられることが増えたのよね。

 意外と話しやすい方だったのね、とか、無口な方だと思っていたわ、とか好印象を持ってもらえたみたいで嬉しかった。

 勇気を出して前を向いて良かったかもしれない。

 ああ、それから、これまで取り巻きの皆さんの会話に相槌を打つだけだったのだけれど、積極的に皆さんの会話に混ざるようになったの。

 その些細な変化に気付いたのは、取り巻きの皆さん……ではなく、ソフィー様だった。

 彼女は背筋の伸びた私を見て、嬉しそうに目を細めていたの。

 何度も私を見て、満足そうにウンウンと頷いていた。

 完璧なソフィー様から、そんな風に見られるとなんだか恥ずかしくなってしまう。

 

 それにしても、意外と目立たないものだわ。

 地味で大人しくしていたのを変えたくらいで、他の人は私に注目したりしない。

 さほど他人に関心がないのか、それとも私に興味がないのか。まあ、両方だと思う。

 いきなり人から注目を浴びてしまう事態にならなくて安心したけれどね。

 多分、私の被害者意識がそうさせていたのよ。自意識過剰だったわ。

 私が思っているよりも、人は私に興味を持っていない。それが分かっただけでも良かった。

 改善できるところは改善していこう。魅力的な人にはなれないと思うけれど、少なくともソフィー様の隣にいても恥ずかしくないような人間になりたいから。

 皆さんの会話を聞きながら私がそんなことを考えていると、一人の令嬢がソフィー様に向かって口を開いた。


「最近、王太子殿下と過ごされていらっしゃらないようですが、何かございました?」

「いいえ、何もないわ。……元々、クレイグ殿下はお忙しい方でいらっしゃるから。私との時間を作って下さっていただけなの。忙しくなるだろうからと、私が気を使っただけよ」


 取り巻きの皆さんは口々に、さすがソフィー様だの、婚約者の鏡ですね、などと言って褒め称えている。

 裏の事情を知っている私は会話には混ざれずに愛想笑いを浮かべることしかできないわ。

 というか、ソフィー様は王太子殿下と距離を置いて今後のことを考えたいのかもしれない。

 このまま王太子殿下の婚約者のままでいるか、身を引くか。

 それに関係しているのか分からないが、マリオン殿下との手紙のやり取りは以前よりも増えているようだった。

 まあ、手紙のやり取りを楽しんでいるソフィー様を見るのが好きだから良いのだけれど。

 ソフィー様は相手がマリオン殿下だとは知らないから罪悪感もあるのよね、と思っていると、一人の令嬢が王太子殿下と過ごす時間が減ったと聞いて目を輝かせているのが見えた。


「そうだったのですね。実は王太子殿下と過ごされているので遠慮していたのですが、一度、ソフィー様を屋敷にご招待したいと思っておりましたの。お時間があれば、お越し下さいませ」

「あ、ずるいですわ! ソフィー様、私の屋敷にもいらして下さい!」

「あ、我が屋敷にもぜひ! うちの領地で取れたハーブティーは有名ですのよ? ソフィー様に飲んで頂きたいと思っておりますの」


 我も我もとソフィー様を屋敷に招待しようと皆さんは躍起になっている。

 肉食獣のような彼女達に私はドン引いていた。

 でも、あのアグレッシブさは凄いと思うわ。

 ドン引いている私とは違い、ソフィー様はどうしようかしら? と困り顔だ。

 皆さん、ソフィー様と仲良くなりたくて仕方がないのよね。目的が良い家の嫡男と結婚したいからっていうのが、あれだけど。


「……貴女はソフィー様をお屋敷に招待したくはありませんの?」


 隣に座っていた大人しめの令嬢から突然話しかけられ、私は目を瞠った。

 彼女は無表情で私をジッと見ている。

 何を考えているのか分からなくて、知らない内に目が泳いでしまうわ。


「いえ、私は」

「ああ、貴女は一度、お屋敷に招待されておりますものね」

「あれは、本をお貸ししただけですので」

「それでも、ソフィー様とお二人で過ごされたのでしょう?」


 羨ましいです、と言って悲しそうに目を伏せた彼女は、ゆっくりと紅茶を口にした。

 屋敷に招待どころか、お泊まりまでしているから、彼女の様子に申し訳なさを感じてしまうわ。


 そんなこんなで、私が隣の令嬢に気を取られている間に、ソフィー様は順に皆さんのお屋敷に伺うということになっていた。

 やや疲れたような表情を浮かべているソフィー様を見て、私は心の中でお疲れ様ですという言葉を送った。


 すると、始めにソフィー様を招待する令嬢が表情を綻ばせ、早速、我が屋敷に! と言ってのけたのである。

 え? 今日? と私が思っていると、彼女は自分の従者を呼び寄せ、ソフィー様がこれから伺うことを家族に伝えて欲しいと命じていた。

 こうして、呆れたように笑うソフィー様を連れて、令嬢はその場から立ち去って行った。


「では、私達も帰りましょうか」

「そうね。ソフィー様をおもてなしする準備を整えなければなりませんもの」

「いつまでもお一人だけに独占させるわけにまいりませんからね」


 彼女達は勝ち誇ったように私を一瞥すると、早足で行ってしまう。

 正直、私に張り合われても困るのだけれど……。

 勝手にライバル視されていることに私は項垂れた。

 だが、誰もいなくなったテーブルにいつまでも残っているわけにいかない。


「私も帰りましょうか」


 私が校門まで歩いていると、反対側の廊下を王太子殿下が急ぎ足で歩いているのが見えた。


「この時間に学院にいらっしゃるなんて珍しい」


 ソフィー様からは忙しいと聞いていたのに。

 それに、なんだか焦っているようにも見えたわ。おまけに、王太子殿下が向かっていたのは図書館の方向。

 途端に、私は数日前の泣いていたロゼッタさんの姿を思い出す。

 もしも、また王太子殿下がソフィー様を裏切ってロゼッタさんと会っていたら。


「あり得ないわ。だってお二人で会っていたなんて噂は全く聞かないもの」


 きっと、別の用事があったのよ。

 それに、図書館の方向に行っただけ。臆測で決めつけるのは良くないわ。


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