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ソフィー様の戸惑い

 マリオン殿下とソフィー様の手紙のやり取りが行われている中、私と彼女が放課後に二人で話す機会は最初の頃よりも減っていた。

 というのも、ここ最近は放課後にソフィー様は王太子殿下と二人で過ごしているから。

 自分の話ばかりせずに、王太子殿下の話をジックリと聞くようにしたら、自然と二人で過ごす機会が増えているのだそう。

 ロゼッタさんと会っているという噂は全く耳にすることがなくなったので、王太子殿下もこのままではマズイと思い始めたのかしら?

 お話しする機会が減ったのは寂しいけれど、ソフィー様が嬉しそうにしているのを見るだけで幸せだわ。

 

 と、思っていた私の許に久しぶりにソフィー様から放課後のお誘いがあった。

 お話しできるのは嬉しいけれど、何か話したいことがあるのかしら? と私は彼女の誘いに乗り、人気のない場所でソフィー様とベンチに腰を下ろす。


「お久しぶりですね。昨日も王太子殿下と一緒に帰宅されていましたが、お話は弾みましたか?」

「え? ……ええ」


 肯定しているはずなのに、ソフィー様はあまり嬉しくなさそう。

 何かあったの?

 理由を聞こうかと考えていると、彼女が言いにくそうにしながら「あのね」と口にした。


「アメリアさんは昆虫はお好き?」

「はい?」


 思わず変な声が出てしまったわ。

 だって、突然昆虫が好きかなんて聞かれたら誰だって驚くわよ。

 でも、どうしてソフィー様はそんなことを知りたいの? 何か理由があるのかしら?

 ソフィー様があまりに真剣な表情を浮かべていたから、冗談とか世間話ではないことは分かったけれど。

 なんて考えている場合じゃないわね。聞かれたことに答えなくちゃ。


「嫌いではありません。領地は田舎ですので、昔から昆虫類はよく見ておりましたし、触るのも平気ではありますが、好きというわけではありませんね」

「そう、そうよね……」


 ふぅ、と息を吐いたソフィー様は遠くを見つめている。


「あの、いきなり昆虫がお好きかどうかなんて、どうなさったのですか? 何かあったのでしょうか?」

「あ、いえ。偶然、昆虫の話で盛り上がっている男子生徒の会話が耳に入って、男性は皆さん、お好きなのかしらと思っただけなの。それで、私は昆虫が苦手なので、他の女性はどうなのかしらと聞いてみただけなのよ」

「ああ、そのような事情でしたか。いきなり昆虫の話をされて驚きました」

「た、確かに唐突だったわね。ごめんなさいね」


 ソフィー様は話題の切り出し方がいけなかったと思っているのか、珍しく動揺している。

 いきなりだったけれど、他人の悪口や私が言いにくいことを聞かれたわけではないのだから、そこまで動揺しなくてもいいのに。

 それにしても、昆虫の話で盛り上がる男子生徒がまだいるなんて。

 田舎の領地出身なら分かるけど……。それでも子供っぽいわ。

 幼少時に卒業しているものでしょうに。


「昆虫の話で盛り上がるなんて、少々子供っぽいですよね」

「そうよね……! 子供っぽいと思うわよね!」


 身を乗り出したソフィー様は私の言葉に何度も頷いている。

 一体、どうしたというの? 今日のソフィー様は様子がおかしいわ。


「私だけではないということに安心したわ」


 ソフィー様はホッと胸を撫で下ろしている。

 何に安心しているのか、私には分からない。

 そんなに同意が得られたのが嬉しかったのかしら。


「あ、そうだわ。その男子生徒達は甘い物がお好きだとも話していたの。レースやフリルなどもお好きなのですって」

「甘い物、は男性でも好きな方はいらっしゃいますね。父も甘党ですから。ですが、レースやフリルは……珍しいですよね」


 他人の趣味や嗜好をとやかくいうつもりはないし、言う権利もないけれど、一般的な男性から当てはめると珍しいと思う。

 女性と話は合いそうよね。そういった趣味の男性がいたら面白いでしょうけれど。


「……それが普通の感想よね」


 息を吐き出したソフィー様は、そっと目を伏せた。

 落ち込んでいるような様子に、私は本当にどうしたの? と思ってしまう。

 落ち込むほど、その男子生徒達の会話が衝撃的だったのかしら。

 王太子殿下以外の人の話に一喜一憂するような方ではないはずなのに。


「も、もしかしたら、一般的な男性というのはレースやフリルがお好きで、でも世間体を考えて隠していらっしゃるのかしら? アメリアさんは王族であっても、そうだと思う? 身分に関係なくレースやフリルがお好きだと思う?」


 うん? ソフィー様、今、王族であってもって言った?

 まさか男子生徒達の会話を聞いて、男性が全員そうなんじゃないかって思ったのかしら。だから、王太子殿下もそうなんじゃないかって思ったの?

 だったら、杞憂だわ。あの男らしい王太子殿下がレースやフリルに興味を持つなんて考えられないもの。

 どちらかというと剣とかの方に興味があるんじゃない?


「え~と、私は男性ではないので存じ上げませんが、少なくともレースやフリルがお好きな男性を見たことがありません。隠していらしたのなら、判別はつきませんけれど」


 人と積極的に関わろうとしていなかった私に聞くのは間違っていると思うのよね。

 それこそ、他の友人の皆さんに聞いた方がいいと思う。

 恋愛小説のことは分かっても、現実の人間に関して私は役立たずだわ。


「もしも、ソフィー様が男子生徒達の会話を聞いて王太子殿下もそうだと思われているのであれば、それはいらぬ心配だと思いますよ。王太子殿下は同年代の男性よりも大人でしっかりとされていますし」


 私の言葉にソフィー様は一瞬だけビクッとした後で、気まずそうに視線を逸らした。

 どうやら、本当に王太子殿下もそうだと思っていたみたいだわ。

 彼女は落ちつかない様子で体を動かしている。


「違うのよ……! クレイグ殿下がそうだとは一言も! ただ、私は」

「存じ上げております。不安なようでしたら、ルーファス様に尋ねてみてはいかがです? 私などよりも同じ男性であるルーファス様にお聞きした方が安心できると思いますよ」

「ル、ルーファスに? あの子に尋ねても何も変わらないと思うわ。だって」


 そう言って、ソフィー様は口を閉ざしてしまう。

 何やら事情がありそうだけれど、詳しく聞くのはさすがにマズイわよね。


「でしたら、王太子殿下を間近でご覧になっているソフィー様の目を信じて下さい。ご自分の目に映るものが真実だと思いますから」

「私が見ているものが、真実」

「はい。ソフィー様は王太子殿下と良くお話ししていらっしゃるではありませんか。王太子殿下のお話をお聞きしているはずですから、どのような方なのかはソフィー様がよく御存じのはずです」

「……だから困っているのだけれどね」


 ポツリと呟いた言葉は、断片的にしか私の耳に入ってこなかった。


「あの、ソフィー様」

「話を聞いて下さって、ありがとう、アメリアさん。私のことも含めて、もう少し考えて見ようと思うわ」


 話を遮ったソフィー様は、そのまま立ち上がると、では、と言って立ち去っていってしまう。

 残された私は、ただただ今の出来事に首を傾げることしかできなかった。


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