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常世の国のシトラス  作者: くにたりん
第7章
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第78話 危うい二人

「なっちゃん、そんな顔しないでよ。もう少しで終わるから」


生き返ってから痛みというものを感じずにきた夏樹にとって久しぶりの痛覚。モノカミの手で炎に包まれた魂を丸く形どられている間、夏樹は眉間をグッと寄せ低くうめいた。同時に生きているという感覚が無性に嬉しかった。


「よく頑張ったね。もう終わったよ」


モノカミは差し込んだ両手をゆっくり抜き出すと、夏樹は痛みから解放された安堵の表情で、モノカミの腕に体を預けるように倒れこんだ。夏樹は少し上気したモノカミの頬に一雫の汗が流れる様を薄っすらと見つめながら、感じることのないモノカミの体温を思った。


「少し眠ったほうがいい。目が覚めれば、さっきより体はずっと軽くなってるはずだよ」


二人の様子を傍で見ていたクニヌシは柔らかいモノカミの髪を撫でてやると、モノカミは満足げに微笑み、うつらうつらと眠りにつきそうな夏樹を満足そうに見つめた。


「今日は帰るがよいぞ。お前の仕事はこれで終わりだ」


「アレですか。クニヌシ様まで僕らを色眼鏡で見ているんですか?」


クニヌシはモノカミの前に胡座あぐらをかき話をしようとする体勢に持ち込もうとするが、モノカミは反対に遠ざかるように夏樹の体ごと後ろへ下がった。


「そうではない。しかしだな、モノカミ」


「お説教は勘弁。これでも結構疲れてるんで」


大人しく見ていたウララが何か言いかけたが、姉のユリアに止められ口を閉ざした。困り顔のクニヌシと一歩も譲ろうとしないモノカミとの硬直状態が続く中、一同はクニヌシの説得力ある言葉を待っている。が、モノカミと夏樹に伝えるための明確な言葉が見つからない。ただ、周囲に映る二人は危ういことは確か。


だんまりを決め込んだモノカミの沈黙を破るように、それは当然やってきた。


「うっ(これは・・・)」


不意に流れ込んできた文乃の強い霊力にモノカミが驚いて声をあげた。充足感溢れる顔で一瞬ニヤリとした。時間は午後7時。モノカミが文乃に指定した時刻だ。


「どうした、モノカミ?」


「いや何も(あやのんナイス。ちょうど空っぽになりかけてたんだよね)」


文乃は自室で口にピアスを放り込み、一時の間、ピアスを通じてモノカミに霊力を吸い取られていた。あの晩と同じように力を奪われ意識が遠くなる快感を伴って。


居間では夏樹を抱えたモノカミが仏頂面のまま、文乃から伝わる高度な霊力を堪能していた。モノカミがほくそ笑みそうになるのを必死に我慢していることに、誰も気づいてはいないようだ。


「小言はまた今度にして晩飯でも食いますか」


淳之介はやれやれと溜息をつきながら、よっこいしょと言いながら一人立ち上がった。居間を離れ、隣の台所へ入っていく。


「ヌシ様、わたくしたちも参ります。岩場へ」


「今はナギ様のお姿はないだろうに」


双子に挟まれたクニヌシが姉のユリアに顔を向けると、ユリアは真珠の様に輝く白い小さな歯を見せて笑った。


「ええ。ヌシ様はナギ様の行方をご存知なのでしょう?いつお会いになったのですか?ユリアたちも話を聞いておきたいものですわ」


「まあ待て。ナギ様の件は少し先になろうぞ。夏樹を見送った後、常世の国で転生させる準備がある。梓の企みも阻止せねばならんし、兄上のこともある。どうしてこうコトが重なるのであろうな」


ウララはクニヌシの肩に頭をちょこんと乗せたまま、頑張り屋さんですこと、と可愛らしく呟いた。姉妹はまだ知らないことだが、ナギが神社の祠に戻るためには、淳之介と文乃の兄妹にはある決断をしてもらう必要があった。


「ではごきげんよう、ヌシ様」


ユリアと妹のウララはクニヌシからゆっくりと離れ、ふわりと衣を翻すと静かに姿を消した。ついに部屋にはクニヌシとモノカミ、そして死んだように眠っている夏樹の三人に。気まずい空気が漂う中、最初に口を開いたのはクニヌシだった。


「モノカミ。お前は何を思って夏樹を見ているのだ?」


チラッとクニヌシを一瞥したモノカミの表情からは何も読み取れない。台所からは淳之介が夕餉の膳を準備する音と美味そうな匂いがしてくる。そこへ、一仕事終えた文乃が居間に入ってきた。


「どうしたのですか?まるでお通夜のようですね」

読んでいただきありがとうございます。久しぶりの投稿になってしまいました。最後の章、最後まで宜しくお願い致します。

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