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常世の国のシトラス  作者: くにたりん
第7章
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第76話 白鳥神社の階段にて

クニヌシと拓海の一夜が明けた翌日のこと。


夏樹は双子の姉妹と出掛けた先で、偶然にも明日香と遭遇するも意気投合という快挙。一方、神社ではクニヌシの帰りをダラダラと待っていたモノカミは、文乃から日に三度も霊力を受け取る約束を取り付ける事に成功。


上手くいっているようだが、拓海の父、梓と夏樹が幽霊屋敷を浄霊したことで、夏樹の残り火は後4日、いや、3日と一晩と極端に減っていた。


すでに覚悟を決めている夏樹は、明日香からの誘いを丁寧に断り、予定どうりユリアとウララと共に家路を急いでいた。


ここまでで拓海と喧嘩別れしてから丸一日が経過。拓海は昔から威勢はいいが、すぐに大粒の涙を流すので、その度に夏樹が叱りつけ明日香が慰める、という二段構えで拓海を支えてきたが、今回は隣にも前にも横にも誰もいない。


誰が悪いわけではないのだが、夏樹には出かけている間も拓海の様子がずっと気になっていた。


(まだ誤解してるのかな。泣いてなきゃいいけど。本当に全然変わってないんだから、困ったものね・・・)


「夏樹〜?率直に尋ねるけど、あなたは拓海とモノカミ。どちらが好きなの?」


突然のユリアからの質問に、夏樹の小さくため息がもれる。この姉妹まで、とがっくり肩を落としたところで、夏樹はある場所を通り過ぎようとしていた。


(あ、ここって)


夏樹はゆっくりと足を止め、脳裏に浮かぶ遣る瀬無い記憶に思わず下唇を噛んだ。


「どうしたの?ここに、何かあるのかしら?」


ユリアは辺りを見渡すが、取り立てて変わったものもなく、ただの空き地にしか見えない。空き地の隅に立っている大きな銀杏の木を夏樹がゆっくりと指差した。姉妹は不思議そうに木の方へ目を向ける。


「よくね、あの辺りで拓海は喧嘩してたんです。いじめられてたっていうのかな。今思えば、子供たちも最初はほんの悪戯心だったかもしれない。でも、多勢に無勢なのに、拓海は泣きながら怒って向かっていっちゃうんです。それが導火線みたいに子供たちの悪ふざけを徐々に加速させて。気づけば拓海はボコボコに・・・」


加減を知らない子供たちが怒り狂った結果、倒れて動かなくなるまで拓海を痛めつける。リアリティを感じた瞬間に、子供たちは悲鳴を上げながら逃げる。そんな光景を夏樹は思い起こしていた。


「助けてあげられなかった。いつも私は威張ってたくせに、そんな時だけ声も出なくて怖くて隠れてしまったんです。すごく・・・後悔してる」


「人の子ならばそういうこともありましょうよ」


かつて拓海が倒れていた場所を見つめている夏樹の側で、ユリアがそっとささやいた。隣でウララも微笑んで頷いている。夏樹は頭を切り替えるように、空き地から帰り道の方へ向き直した。


二人からの質問を、もう一度思い出しどう答えるか考えてみる。夕暮れの中、少ししんみりとした面持ちで夏樹は黙ったまま歩き始めた。


「いいこと、夏樹。どちらを選んでも正解ではないし、間違いでもないのよ」


「拓海。他に答えようがないもの。私は子供の頃からずっと拓海が大好きです」


「そう。声に出して言ってみるとモヤモヤが晴れたんじゃなくて?」


人魚のように優雅に宙でゆるりと空を舞うように飛ぶ双子は、まるで夏樹を祝福する天使のよう。実際は鬼なのだが。そんな姉妹にとびきりの笑顔を見せた夏樹。迷っていたわけではないが、感情を言葉にして言ってみると、確かに不思議と夏樹の心は軽くなっていた。


そうこうしている内に、神社の入り口まで三人はたどり着いた。夏樹には味覚も痛覚も、冷たい、暖かい、気持ち良い、すべての感覚がない。疲労を感じることもないのだが、燃料が少なくなった機械のように動きが鈍くなっているのを感じていた。


(ガス欠寸前ってこんな、感じなのかな)


足取りが重く、時々、小休止を必要とする状態になっていた。察しの良い妹のウララは姉ユリアに向かってコクリと頷くと、先に神社の方へと飛んで行ってしまった。


「さ、夏樹。ここで良い子にして待っていましょう。ウララが下僕を連れて戻って来るから」


(良かった・・・すごく助かる。ありがとうユリア様、ウララ様)


素直に同意した夏樹はその場に座り込んでしまった。しばらくすると、ユリアに下僕と呼ばれた淳之介がやってきたが、急いで来たらしく、Tシャツに短パン、足元は淳之介らしからぬ健康サンダルという姿。


「これは大丈夫じゃなそうだね。どれ、細マッチョな僕が上まで背負いますよ!さあどうぞ!」


夏樹は笑う気力もなく小さな声で淳之介に礼を言うと、スタンバイ中の淳之介の背中に体を預けた。夏樹のことだから、一度は遠慮するものと淳之介は思っていたが、素直に背負われたところをみると状態は深刻であると理解した。

読んでいただきありがとうございます。ただいま、海外出張につき、投稿が遅れております。。。時差のため、いつもの夜10時台の投稿は厳しいのですが、少なくとも、今日から3日間は続けて投稿していきますので、よろしくお願いいたします。でも、投稿時間は日本時間の午後3−6時の間になるかと。。。ちょっと早い時間帯ですが。これから数話はモノカミ中心になりますので、ご贔屓に!

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