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常世の国のシトラス  作者: くにたりん
第五章
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第50話 二度目の儀式 後編

「たっくん、話を戻すよ。それから、クニヌシ様、ここからは僕のお願いです」


「申してみよ、モノカミ」


「なっちゃんが承諾してくれたら、僕が住む樫の国で、彼女を転生させてもらえませんか?。僕とユズキが精一杯育てます」


(なんなんだよ・・・お父さん、娘さんをください的な、このモノカミの申し出は・・・)


当然ながら、拓海にはモノカミの話は理解できない。


モノカミは、自分が住む樫の国について話し始めた。神々に生前の技量を見込まれると、生前の記憶は失うが、生まれ変われること、そして、理不尽に踏みにじられた命の場合、技量がなくとも樫の国に生まれ変われる可能性がある、という学校では教えてもらえない別世界のことわりを。


「ここでの生活を終えた後、モノカミが親になって赤ん坊の夏樹を一から育てる、ということで合ってるか?」


「うん、たっくん。クニヌシ様が連れ帰っても、夏樹は悪霊にはならないし、魂はそのまま静かに眠ることが出来る。どちらを選んでも彼女が不幸になることはない、と約束できるよ。でも、許されるなら、彼女には新しい命で幸せな暮らしを経験させてあげたいんだ。ダメかな?」


「分かった。モノカミの希望を叶えてやろう。拓海と夏樹が承諾すればな」


「クニヌシ様!好き!」


モノカミは顔をほこらばせたが、反対に拓海は眉間にしわを寄せ、黒縁眼鏡をクイッと上げた。クニヌシとモノカミは最善の選択を二つも用意してくれている。どちらに転んでも、夏樹は悪霊となり、あの家で苦しむことはないのだ。


拓海がクニヌシに願い、夏樹を甦らせたのは無駄ではなかったということでもある。だが、モノカミの国で生まれ変わるということは、夏樹は拓海との記憶を全て失うことを意味する。


どちらにせよ、赤い玉の浄化力を完全に失う前に、夏樹は死ぬ必要がある点は共通している。どうやって死に至らされるのかは、拓海とって想像したくないことだが。


夏樹の過去の記憶を取るか、新しい命を取るか。分岐点でどちらを選ぶかは夏樹自身。


「二人とも、ありがとう。色々考えてくれて」


「じゃあ、たっくんは許してくれるんだね?」


「いや、その話はもう少しだけ待って欲しい。すぐには・・・返事できそうにないんでね。でも、あの儀式は今夜してくれないか?玉を使ってくれ。これ以上、夏樹を苦しめたくはない」


モノカミは無言で頷くと、静かにクニヌシの中に戻っていった。


「人って贅沢だよな。最初は一目、元気な夏樹に会いたい、それだけだったのに。今では離したくないと思ってる。モノカミのありがたい話も嫉妬しか感じないよ。正直に言うと、夏樹の新しい人生より、俺のことを忘れないでいて欲しい、と願わずにいられないんだ。自分勝手だよな」


「悲観することはない。大いに悩むがいいぞ。それから、今夜のことだが。今回は成長した夏樹に施すのでな、前回より霊力を多く必要とする。そこで、文乃に手伝ってもらおうと思う」


「文乃ちゃん?淳之介じゃないの?」


「淳之介の霊力も大したものだが、文乃は、そうだな。お前たちの言葉を借りるなら、神クラスだ」


実は少し霊力がありました、くらいの話だと思っていた拓海は驚いたが、あの凛とした立ち振る舞いと、白鳥神社で拓海が感じたオーラには納得させる言葉でもあった。


「そうなんだ・・・神クラスなんだ。まあ、ラスボス感あるよね、あの子・・・そうだ、また大学ノート使う?」


「物書きが出来れば何でも良い。あれは、モノカミがお前の代わりに行う術の一部始終を記載しておくのだ。モノカミとお前との間で交わされる契約書でもある。蘇りを望んだ本人の手によって術は本来行なわれるものだが、誰でも出来ることではないのだ。そこで、お前にモノカミが憑依することで、事を起こすことが可能となるわけだ」


「契約っていうのは、何かと引き換えになっているんだろ?そんな話を前もしたような」


「命だよ。モノカミが術の途中で力つきる時は、お前も命が尽きる。契約の中にそう書いてある。モノカミは上手くやってくれたがな」


確かに、クニヌシは命がけとなる、と話してはくれたが、本当に互いの命をかけての術だったとは。不思議と拓海に不安はなかった。とは言え、人の話はよく耳を傾けるべきだな、と拓海は真摯に反省する午後10時。


こうして、文乃を加え、モノカミによる夏樹の浄化が始まる。

読んでいただきありがとうございます。残りの玉が一つとなってしまいました。。。

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