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常世の国のシトラス  作者: くにたりん
第四章
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第41話 夏の手習い

夏樹は見知らぬ部屋で目が覚めた。拓海がここで待っていろ、と言って去っていった白鳥神社。


あの日から数日が経ったが、夏樹はなかなか慣れないでいる。淳之介も文乃も、そして時々、様子を見にくるユリアとウララの姉妹も、夏樹によくしてくれているのだけど。ユリアとウララはクニヌシに仰せつかった、と夏樹の事情を淳之介と文乃に告げ、兄妹はその日が来るまで、責任を持って夏樹をもてなすと決めていた。


「夏樹ちゃん、僕らは学校に行くけど、心配はいらないよ。父には訳ありで夏樹ちゃんをしばらくの間、預かると話してあるから」


淳之介は朝食の後片付けをしながら、夏樹に言い聞かせた。夏樹は味の分からない朝食を済ますと、淳之介の言葉にうなずき、笑顔を見せた。


「文乃が午後早めに帰宅するはずだから、それまでゆっくりしててよ」


「ありがとう。でも、やっぱり何か手伝えることないかな?」


気遣い無用と淳之介は笑いながら行ってしまった。夏のセーラー服が眩しい文乃も、後でね、と言うと、颯爽と学校へ出かけてしまった。後に残された夏樹は思い切って外に出てみる。


外は夏晴れ。すると、兄妹に入れ替わるように、兄妹の父親、正嗣まさつぐが参道の階段をゆっくりと登ってくるのが見えた。


「おはようございます」


「おはよう。夏樹ちゃんだね。淳之介から聞いてるよ。もう体の方はいいの?」


「え?ああ、もう大分良くなりました。ありがとうございます」


「それは良かった」


正嗣はすでにキレイに掃除された境内を見渡し、ため息をついた。ナギの一件もあり、淳之介の両親は、長男に言われたように、一時的に神社の外で暮らし始めていた。事情は詳しくは知らされていない。夏樹は少し寂しそうな正嗣の横顔を見上げた。


「あの」


「ん?何?」


「何かお手伝いできることないですか?」


「平日は参拝者がほとんどいない小さな神社だからなぁ」


現時点での夏樹は16歳くらいの成長を見せているが、もともとの幼い顔立ちもあり、高校生というよりかは、まだ中学生くらいにしか見えない。まだ、平日の昼間に街に出る訳にもいかない。かといって、こうして神社の中でじっとしているのも辛い。拓海も迎えに来る気配はない。


「そうだ、ちょっと勉強してみるかい?」


正嗣は夏樹を社務所の方へ行こうと、背中を優しく押した。藤の紋が入った紫色の袴をはいている宮司の正嗣だが、自分は息子の淳之介に受け継ぐその時までのかりそめだという。代々、ナギと話ができるものが宮司を務めてきたのだが、ここ長い間、そう言った霊力を備えた者が生まれず、淳之介は一族にとっても、正嗣にとっても待望の長子である。


「聞いていると思うけど、淳之介にはナギ様も双子の方とも話をすることができる。私にも、爺さんにも出来なかったことだ。私には何の力もないが、この小さな神社を息子に渡すまで守り続けることは使命だと思っているよ」


「役目があるというのはいいことですね」


「うん。誰しも何かしらの役目を持っている。君もね」


まだ朝だというのに、夏の強い日差しに目がくらみそうだ。夏樹は自分の役目を探している。でも、ただこうして日々を過ごしているだけでは見つからない気がして、正嗣の言葉に頷けなかった。


社務所に着くと、正嗣は鍵を開け、中に夏樹を案内した。小さな古びた一軒家で、母屋とも外廊下で繋がっている。正嗣は電話台の下にある引き出しからリモコンを取り出した。ピッと押すと、部屋のエアコンが送風を始めた。


「数年前からエアコンを使ってるんだ。楽になったよ。この家屋の構造は取り付けが難しかったんだけど。今は昔の夏の暑さを超えてるから、死人が出る前にね。足は楽にしてどうぞ」


出された座布団に夏樹が正座をして座ると、勉強と言っても、この神社の話をするだけだから、と笑った。正嗣は書棚から一冊取り出し、手書きで書かれた紙の束を夏樹の前に置いた。


「これはね、現代の人間にも読めるように爺さんの父親、つまり淳之介の曽祖父が書き残してくれたものだ。元の巻物はここにはないけど、この訳された書物のおかげで私も淳之介も歴史を理解できたんだから助かってる」


「歴史?」


「家族の物語といったほうがいいかな」


「そう。うちはね、昔から神職だったわけではないんだよ。元は武家なんだ。どうして武家だった白鳥家がこうして神職を続けているか、という昔話があってね。淳之介が受け継いだ力の源になる話だよ」


生前はサラリーマンの一般的な家庭で育った夏樹には途方も無い話である。この週末にしかお守りを授与していない小さな神社にまつわる話に夏樹は興味がわいた。


「淳之介は神様と話ができる稀有な存在だ。淳之介以外にも、ごく稀にそういった高位な存在と向き合える人間はいるようだが」


(拓海もクニヌシやモノカミ、それに私は会っていないけどナギ様とも対話している・・・)


正嗣は姿勢を正すと、眉間にしわを寄せた夏樹に微笑みかけ物語を語り始めた。

読んでいただきありがとうございます。投稿を始めて、連載を止めてしまいました!書きたいことはたくさんあるのですが、、、、少し頭を休めてみました。引き続き宜しくお願い致します。

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