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常世の国のシトラス  作者: くにたりん
第四章
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第39話 バイトという名の 前編

「拓海、大学に行かなくていいのか?」


クニヌシは昨夜は拓海と仲直りした、とモノカミに言っていたが、拓海の方は二人には目もくれずにパソコンでバイト探し中。モノカミはと言えば、早く白鳥神社へ行こうと、しきりとクニヌシと拓海に言い寄ってるが、どちらも動く気配はない。


「ああ、もう夏休みに入ったからね。行かないよ。それに、俺にはバイト先を見つける、という課題があるから外出はできないぞ」


昨夜、梓が来ていたことを拓海は知らない。そのことに関して、密かにクニヌシはモノカミとそろそろ武闘派キャラ登場か、といった話をしていたところだ。拓海には気づかれないように。


「あいつなあ・・・実体化すると面倒だからな」


「そんなことも言ってられないでしょ、クニヌシ様?」


「モノカミ。お前、なんかツヤツヤしてるではないか。日常が充実してると、皆そうなるのか?」


二人して必死に、しかし非常に生き生きとした様子でパソコンを眺めている拓海に目をやった。


「たっくんは、なっちゃんにどうしてもプレゼントしたいんでしょ、制服ってやつを」


拓海は自分にもできるバイトを探していた。夏樹に残された時間は少ない。何かこう、すぐに金になる仕事はないのか、自分に売るものはないのか、と考えていた。


「そうじゃ、あるぞ、拓海。一つだけ方法が。お前には不本意かもしれんが」


脇目も振らず、マウスを動かしていた右手を止めて、拓海は画面からクニヌシの方を見た。どうせ、ロクでもないことを思いついたに違いない、と直感で思ったが、背に腹は変えられんと言って、真摯にクニヌシの言葉に耳を傾けることにした。


「話を聞いてやろう。で、その方法とは?」


聞く気になった拓海を歓迎するように、クニヌシは大袈裟に両手を開き、拓海に駆け寄った。拓海はうっとおしいと嫌な顔をしたが、そんなことはおかいまなくクニヌシは仲直りもしたのだから、と拓海を椅子ごと抱きしめた。


「いいから、で、何?」


「まず、松波小百合といったか、あの子を呼び出せ」


拓海は目を細めて、嫌な予感しかしないとクニヌシにはっきりと断ったが、クニヌシは夏樹には時間が・・・などと言い始め、拓海は一度だけ電話してみるが、本人と繋がらなかった場合は諦めるように、とクニヌシに釘を刺した。


「それでも良い。あいつは面白い奴だ。きっとバイトの話にも乗ってくれるぞ」


「いつの間に知り合ったんだよ!」


なんでも、拓海について大学へ行った際に、松波小百合の方からクニヌシに話しかけてきて、二人は意気投合したというのだ。拓海は黒縁眼鏡をクイッとあげると電話をしてみた。


なぜか、彼女には全く躊躇なく電話できるということに、密かに拓海自身が驚いていた。付き合いは浅いが、大学で会った時から拓海が緊張せずに話せるレアな人間だ。


「あ、でた。もしもし、松波?今、ちょっといい。クニヌシが話があるって」


思ったより簡単に電話に出た松波は何事か、と電話の向こうで興奮した様子が拓海にも伝わってくる。が、すぐにクニヌシに変わった。


「クニヌシだが。小百合、今日は暇か?実はな、こないだの話、拓海に受けさせようと思ってな」


「え?俺が何を受けるって?まだ内容を聞いてないんだが。それに小百合って・・・」


横でうるさいと、クニヌシが怪訝けげんな顔をして拓海をちらっと見た。


(今の何、すごくムカつく・・・しかし、何を約束したんだ、この男は!)


モノカミは何やら面白そうな展開にわくわくしながらクニヌシの横に来て、電話の話を聞こうと、ぴったりと寄り添っている。この二人は人の姿はしていても、感覚がどうにも拓海には相容れないものがある、と感じる時がある。二人には男女に対する性差がほとんどないことだ。可愛いものは可愛いし、美しいものは美しいのだから、どちらでも良いだろう、という感覚。


(今のご時世、確かにそんな考え方は珍しくはないけどさ)


「よし、後で小百合が我が家にやってくるぞ。お前のためを思って、同行者はならんと伝えておいた」


「クニヌシ様!お客人が来るんですか?女の子?うわー面白そう」


「面白くないよ!勝手にうちに呼ぶな!」


まだ、松波小百合がやってくるまでに時間がある。松波からの報酬とその内容はなんなのか、拓海はクニヌシに答えろと迫っていた。


「簡単なことだ。我々の日常のちょっとした話を聞かせてやるだけだ」


「話せないことばかりじゃないか・・・」


「もちろん、人の世のことわりを超えた話はできないが、些細な日々のエピソードとやらで良いとのことだったぞ。あと、我々の写真も資料として撮りたいとのことだ」


報酬は3万円だという。拓海は松波がその話のネタや写真をどう使うのかはおよそ検討がつく。だが、それを踏まえても予算の6万円の半分をすぐにゲットできるのは、拓海にとってありがたいこと。


「分かった。受けるかしかあるまい。って、人じゃないことがバレるようなことは絶対に話すなよ」


「気負うな、拓海」


「そうだよ、たっくん。これで予定の半分は獲得したことになるんだろ?早く制服を買ってさ、なっちゃんを迎えに行こうよ」


淳之介に嫉妬して、ふてくされたりしている場合ではないのだ。バイトでコツコツ貯めた頃には、夏樹の最後の赤い玉を飲み込む時間がやってくるかもしれない。場合によっては、間に合わない可能性の方が高いくらいだ。


「そうだな。早く迎えに行かなくちゃ・・・」


「よし。では、とりあえず掃除でもするか。拓海、昼食をとったら、ご婦人を迎えるべく準備をいたそう」

読んでいただきありがとうございます。後編に続きます。

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