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常世の国のシトラス  作者: くにたりん
第四章
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第37話 モノカミ白書 後編

 僕らの家は、いわゆる木造の和風建築ってやつ。

 拓海の国で言うところのね。


 寝室、台所兼居間、あとはかわや

 川のせせらぎが聞こえる、結構ゆったりとした風呂場。

 それに地下室、といった構成になってる。


 地下室?地下室は僕の研究室だよ。

 誰に教えられたって訳でもなく、生前の能力を活かしているだけなんだけど。

 何を研究しているかは秘密。


 さてさて久しぶりの我が家に入ると、空気がすごく綺麗だ。

 ユズキが掃除を毎日してるのがよく分かる。


「僕、カンテラを持ってくるよ。モノカミはここで待ってて」


 僕は微笑んで、小さく頷いた。

 ユズキが戻ってくるのを僕は玄関口で待ってる。

 なんだろうね、とっても幸せな待ち時間だ。


 さっきも言ったけど、僕は目が見えない。でも、それは生まれつきではなくて、後天的なもの。子供の頃は見えていたんだけどね。大人になるにつれ、視力が落ちていき、ついにはゼロに。


 最初は見えていたのだから、ある日、緞帳どんちょうが目の前で落とされたように目の前が真っ暗になった時は、さすがの僕も怖くて、辛くて、悲しくって泣いた。


 若気の至りっていうのかな。見えないことの恐怖で随分荒れていた時代もあったりして。


 転生のにいた頃だけど、生意気で癇癪かんしゃく持ちで手のつけられない問題児だった。


 転機となったのは、クニヌシ様が姉さんたちと一緒にこの町に来た時だ。


 いやあ、あの三人が町を訪れた時の町人の騒ぎようったら。僕でも、三人の華やかな道中を想像できるほどだった。みんな口々に歓声をあげていたからね。


 でも、僕はどうせ見に行っても見えないんだから、どうでもいいやって気持ちになって、町の喧騒けんそうから外れたお気に入りの場所で一人座ってたんだ。


「ヌシ様、いましたわ、この子です」


「ユリアはなかなか足が速いのう。ほう、この子か」


 なんだか能天気な男と鈴が鳴るような美しい声の女のやりとりに、僕は正直、は?って感じだったよ。


 だって、僕をわざわざ探す人なんているはずないと思ってたから。


 「時間がないので率直に聞くが、お主、俺のために働いてみないか?」


 「僕?僕に言ってるの?」


 無愛想な僕にも、クニヌシ様は優しく応えてくれたんだ。


 あの時、僕はそっけない態度をとったけど、本当を言うと、すごく嬉しかった。必要とされたことがね。


 「そうだ。お前しかおらんだろ」


 「でも、僕は目が見えないし、お役目をもらっても・・・できないと思う」


 「そうか?」


 「そうだよ・・・僕のことは、ほっといて欲しいね」


 「五感を働かせてみよ。お前にしかできないことが必ずある」


 そんなふわふわした口上で賢い僕は納得できないよ。ただ、お前はやればできる子だ!(そこまで言われてないか)って言われてもピンとこないでしょ、普通。


「転生のには、僕よりできる子が他にいたはずだけど。なんで僕なの?」


「俺はお前が必要なのだ。それだけでは不十分か?」


今も変わらないけど、クニヌシ様は言葉が足りないっていうか。


「お前の生前の記録を読んだのだが、間違いなく、お前は俺が必要とする人材だ」


「僕の生前?どんな人間だった?」


「そうだな。マッドサイエンティストだ。あちら風に言うならば」


 何それ、よく分からないけどカッコイイ!って思ってしまって、僕はクニヌシ様の口車に乗せられたまま、永続的な契約をしたんだ。


 後悔はないよ。

 誰かに必要とされると人は変われるね。

 それからは、ずっと僕はハッピーだもの。


「足元に気をつけて、モノカミ、そこ、岩があるから。きゃああ」


「君の方が危なそうだけど。大丈夫か、ユズキ?」


「うん。お恥ずかしい」


 そうこうしてカンテラを手にして戻って来たユズキと二人で川へ下りていった。

 なんだかユズキがはりきっちゃって、僕の手を勇ましく引いてくれてる。

 可愛くてたまらないよ、本当に。


 「足元に気をつけて、モノカミ、そこ、岩があるから。きゃああ」


 「君の方が危なそうだけど。大丈夫か、ユズキ?」


 「うん。お恥ずかしい」


 結局、盲目の僕が先に斜面を下りながら、ユズキが足を滑らせないように手を握って支えてやっている。


 おかしいだろ?

 でも、僕はできるんだなあ。

 ユヅキも僕を必要としてくれる大切なパートナーだ。


 「よし、着いたぞ、ユズキ。カンテラの火には気をつけろ」


 「うん。ここの斜面に階段を作ろうか?」


 「階段が必要なのは僕じゃなくてユズキの方だけどな」


 意地悪な僕に口を尖らせているユズキが目に浮かぶ。


 川からは豊かな水が流れる音がする。

 全てが心地よい。


 僕らは素っ裸になると、手をつなぎ転ばないように川へ入った。手頃な丸っこい岩を見つけ、二人で腰掛けた。


 いい具合に川の水が腰のあたりまで、ゆっくりと流れてくる。

 極楽、極楽。


 「ねえ、モノカミ。さっきの続きを聞かせてよ」


 「え?ああ、そうだな。ここで話そうか」


 川の流れる音も、煌めいているであろう夜空の星も、時折、優しく吹き抜けていく風も、全てが僕らを癒してくれていることを身体中で感じる。


 それに、岩に置いた僕の右手の下にあるユズキの華奢きゃしゃな手。

 いつだってその温かさが僕の心を満たしてくれる。


 「最初に確認するけど、ユズキは僕と死ぬまでずっと一緒にいてくれるんだよね?」


 「もちろん。一緒に暮らそうって二人で話した時に、約束したもの」


 風が吹いて、ユズキの髪が僕の肩にそよいでいる。


 僕はユズキの肩に手をまわすした。

 きっと不思議そうに彼は僕を見上げているだろう。

 迷わず、僕はユズキの額にキスをすると、彼は甘えるように僕の胸に頭を傾けた。


「じゃあ、家族を一人増やしてもいい?ユズキと僕とで、女の子を育ててみない?」


 「僕たちの子?」


 「うん、とっても可愛い子なんだ。君に顔や雰囲気が似ているらしいよ」


 ユズキは僕にしがみつくように両腕を僕の体に回してきた。

 嫌なのかな?

 まだ早かったかな、子供を持つなんて話。


 「嬉しい!モノカミが大切に思ってる子なんでしょ?僕も一緒に育てたい!」


 やっぱり、僕はユズキが好きだ。

 こんな風に彼はいつだって、僕をときめかせてくれる。


 少し先の話になるけど、ユズキと僕は彼女が承諾してくれたら、転生後に僕らの子として育てようとなった。


 赤ん坊のための部屋も作らなくちゃね、とユズキはもう明日からでも準備を始めるつもりらしい。


 「ユズキは気が早いよ。まずは本人の気持ちを聞かないと」


 「僕らの子供になるのを拒否する子なんていないよ」


 「どうかな。折を見て、彼女には話そうと思ってるけど。そうだといいね」


 「なんて名前の子?楽しみだなぁ」


 ユズキがあんまり可愛いことばかり言うものだから、ユズキの顔を僕の方へ強引に引き寄せると、今度は唇に少し長いキスをした。


 この子には何も能力も技もない。

 転生してきたってことは、不遇な人生を送ったということなんだろう。

 今度こそ、僕がユズキを幸せにしてやりたいと思っている。


 「その子の名前はね、夏樹っていうんだ。いい子だよ」


 おっと、もう時間だ。

 僕の語りはここまで。

 ユズキが作った夕食も待ってるんでね。


 僕からの話はまた機会があれば、ってことで。

 それでは、またあちらの国で。

読んでいただきありがとうございます。次からは、またお話が本編に戻ります。クニヌシがあの方とご対面です。

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