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09 夢

 十三歳になった。さすがにこの年齢になると、徐々に女としての身体的特徴が現れてきた。体は少しだが丸みを帯び、ぺったんこだった胸も膨らんできている。そんな自分の体を見るたびに前世とは性別が違うということを、再認識させられる。髪の毛も、今では背中の中程まで長くなり、見た目だけは女らしくなってきた……と思う。


「うーん……やっぱりちょっと身長高いか」


 部屋に置かれた鏡を見て僕はそう呟く。そう呟いたのにもちゃんとした理由がある。

ここ数年で、自分でも驚くほどに背が伸びたのだ。小さい頃は小柄だったのに、どうしてこうなったのか。

この世界にもメートルという基準はあるらしく、物差しもちゃんと存在する。少し前に母さんに測ってもらうと167cmもあった。

……十三歳の女の子にしては少し発育が良すぎる気がする。このまま成長し続けて、大人になった時2mとかになったら嫌だな。


「ま、騎士を目指すのならこれくらいの方がいいのかも……うーん、でもなぁ」


 僕は部屋の窓を開け、青い空を眺めながら考え込んだ。

十三歳になった僕は、両親に騎士になりたいという夢を打ち明けたのだ。

最初は母さんに猛反対され、父さんも何か言いたげだったが、説得の甲斐あって無事に許可も下り、今は騎士学校に入るために勉学に励みながら、修行を積んでいる。

修行といっても、基礎体力作りの為に走ったり、剣の基礎を父さんから学ぶくらいの簡単なことしかしていないけど。

父さん曰く、小さい頃から鍛えすぎると発育に良くないらしい。走っている途中、父さんがあからさまに申し訳なさそうにしている事があるが、気にしない。何か後ろめたいことでもあるのだろうけど、父さんの事だ。またくだらない事に違いない。


 この身長の高さは少し気になる。

騎士になるなら身長はあった方がリーチも長くなるし、良いのだろうけど、背の高すぎる女の人は着る服が少ないみたいだし。


 物思いにふけていると、一階から、ドタバタと騒がしい足音とともに金髪の男が上がってきた。


「ねーちゃん、組み手しようぜ!」


 僕の部屋の扉を思い切り開いて進入してきたのは、弟だった。よく言えば野生的な顔つきをした父ではなく、母親に似た綺麗な顔に似てきていることが、最近になってわかり始めた。

髪も母さんによく似た綺麗な金髪で、少し羨ましい。

……僕はなんでこんな中途半端な髪色なんだろうな。


「ビート、女の子の部屋に入る時はちゃんとノックしなきゃ駄目だぞ」


 弟と接する時は少し口調を変え、名付けて"年上としての威厳を示す作戦"を常に施行している。小さい頃から年上への敬意を刷り込むことが、将来弟をグレさせない為のポイントだ。


「姉ちゃんが女の子って……ぷぷっ。部屋に入られるのを嫌がるような女の子は、男と汗かきながら組み手なんかしないと思うよ」


 とは思うのだが、どうも弟が歳を重ねるにつれ小生意気になっていってる気がする。数年前まではあんなに愛らしかったのに。今は今でこのやんちゃなところが十分可愛いけど。


「うっ……と、とにかく! 以後気をつけるように」


 僕もエルザからそう教えられた。たとえ同性でも、守らなければならないルールらしい。ましてや男が女の子の部屋に突撃するなど、言語道断ということだ。


「はいはい、気をつけまーす。って、そんな事より組み手!」


 七歳になったビートは、二年ほど前から僕のトレーニングに参加するようになった。そして時々、修行の成果を試すために僕に勝負を挑んでくるのだ。


「うーん……今日はそういう気分じゃないからパスで」


「えー」


 正直、ビートの相手になってあげてはいるが、最近は少し押される時がある。少しでも手を抜くと負けてしまうかもしれない。その上、ビートは剣術が体に合わないらしく、武器を持たず拳のみで僕と組み手をしているのだ。

歳も体格も上の僕相手に、武器さえ持たずにほぼほぼ互角の強さを見せる弟に少し劣等感を覚える。


弟は昔から飲み込みが早く、歩き始めるのも僕よりずっと早かった。天才肌というのだろうか。

自分の拳を保護するためのグローブも、必要な分の革を渡すとせっせと作り上げてしまった。父さんはそんなビートに物作りの才能を見出したようだが、ビートは鍛治師を目指すつもりは毛頭無いらしい。


「てか、ねーちゃんって騎士目指してるんでしょ? その事でずっと気になってたんだけどさ……」


 うーん、と唸り僕に何かを言いづらそうにしている。


「何? 遠慮しないでいいから姉ちゃんに言ってみ」


 姉と弟で遠慮なんてする必要は無い。七歳なら尚更だ。特にワガママを言ってこなかった僕が言うのもおかしいけど、遠慮を覚えるには早すぎる。


「んじゃ、言っていい?」


「いいぞ。ねーちゃんがなんでも答えてあげよう」


 ここは頼れる姉としてのイメージをしっかりと植え付けてやらねば。


「えっとさ、ねーちゃんって男なの?」


「何を言うかと思えば……この口か! この口がねーちゃんの悪口を言うのか!」


 よく伸びる弟の頬を左右に引っ張る。弟が生意気なことを言った時は、大体はこうやってお仕置きしている。弟の頬は餅のように柔らかくてぐにぐにと触るのがクセになる。そもそも、何度も僕と一緒に風呂入ったことがあるはずだ。もちろん裸も見たことがあるだろうし、男と女の区別がつかないなんて、七歳にもなってそんなはずは無い。


「ち、違うったら! なんで女なのに騎士を目指してるのかなって不思議に思ったから、確かめようと思って」


「別に女でもいいだろっ。何を目指すかは人の自由なんだから」


 夢を馬鹿にされたような気がして、流石に少しムッときた。弟だからといって、なんでも許されるわけじゃない。



「で、でもさ――」

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