壮年狼の獣人とお人好しな義理の娘
ウォルツは年数を積み重ね、ようやく商人として軌道にのった。これから店を大きくしていこうと考えている。これまでなかなか商売が出来なかったのは、定住の地を探しながら売り歩いていたこと、辺境の人々から獣人が忌み嫌われていたことにある。しかし王都には様々な種族がいたため、狼人族である自分を何の偏見もなく受け入れてくれた。転々としてきた地とくらべて、居心地が良かった。それは娘にも言えるようで、同性の友人を作って日々楽しそうにしている。そんな娘の明るい顔を見ていると、王都に移り住んでよかったと思える。店の裏口のドアから開く音がした。娘が帰ってきたようだ。出迎えに行くと、娘の後ろに薄汚れた男が立っていた。
「お義父さん。この方に暴漢から助けていただいたの」
笑顔でほにゃんと笑う義理の娘に、頭が痛いような気がした。娘のことだから、男が後ろで目をギラギラさせていることなんて気づいていないんだろう。
「そうか。父さん、ちょっとこの人と話があるから、お前はあっち行ってような」
「はーい」
素直な娘は自分の部屋に行ったようだ。そこでようやく、狼人族特有の威圧感をもって、男を睨む。
「それであんた、盗賊団で見たことある顔なんだが」
「す、すいませんっしたぁ!」
娘は変な男に引っかかりやすい。まったく、目が離せない。娘がいい相手を見つけるまでは、目を光らせておかないとな。だから、男を追い払いのは娘のためだと、自分に言い聞かせた。
数日後、娘がとんでもない格好で家に帰ってきた。
「お義父さん、ただいま」
「お帰りユリーシャ。お前、その格好は?」
娘は来た時よりも装飾が少なく、下着同然の服装になっていた。
「寒いって言ってる子がいたから、服とアクセサリーをあげたの」
「それでお前が風邪ひいちゃ、意味がないだろ」
自分の着ていたジャケットを、娘の細い肩にかける。娘は温もりの残ったジャケットを嬉しそうに羽織って、襟元を引き寄せた。
「やっぱりお義父さんは世界一かっこいいわ」
「よせよ、世界一だなんて」
「だって、私にとってはそうだもの」
娘に褒められて、つい赤面してしまう。何と言ったらいいか分からなくなって、沈黙した。そんな姿に娘はクスっと笑って、彼に擦り寄う。
「お養父さんの毛皮、とっても暖かい」
「そ、そ、そ、そうか」
「ええ。それにふかふかで気持ちいいわ」
胸元の毛に埋もれる娘の愛らしい顔に、理性がグラっと揺らぐ。駄目だ、まだ16歳。それに義理とはいえ娘なんだ。手を出しちゃいけない。そう脳内で何度も繰り返して自身を納得させる。
「どうしたの?」
頭をかしげる娘のきょとんとした瞳に、限界だと手で赤面した顔を覆い隠す。それでも色づいた耳が頭上で見えてしまっているので、娘は目を柔らかく細めた。
「お養父さん、大好きよ」
背に回された手は、娘には後ろまで届かなかったらしく途中で余った。抱きついてくる娘の柔らかさに、俺はいつまで我慢できるんだろうと気が遠くなった。娘はそんな彼の葛藤も知らず、せわしなく揺れるシッポを見て、頬をゆるめていた。
「お養父さん、今年の春は一緒にいてもいい?」
「駄目だ駄目だ。発情期の狼人族の危険さをお前は知らないだろう。落ち着いたら迎えに行くから、大人しく待ってなさい」
「そんな……私、お養父さんならいいのに」
すりっと胸元の毛にすりよってくる娘に、心臓が落ち着かない。
「ユリーシャァアアア!? お前は、な、何を言ってるんだ。父親思いなのはいいが、ほどほどにしなさい!」
「いつもそうやってはぐらかして、ひどいわ。それなら、どうして私にお養父さんの匂いをつけるの? 私知ってるんだから」
じっと詰問するように見つめられると弱い。彼の耳がみるみるうちにペタンと倒れた。しっぽも、床にしなっと落ちた。バレていたのか。こっそりユリーシャが寝ている時に、マーキングしてたんだが。
「うっ……それはだな、お前が心配だから」
「私聞いたもの。狼人族の雄が匂いをつけるのって、つがいだけでしょう? 私、お養父さんにつがいだと思われてるの?」
誰だ、よけいなことをユリーシャに吹き込んだのは。もはや、言い逃れできない。
「言ってくれないのね。……お養父さんは、私をつがいにしてくれないの?」
そう言った娘の表情は色っぽく、知らない女に見えた。娘から香る匂いも果実のように甘く、体の曲線も十分熟していた。食べごろの雌、それも自分がつがいに望んでいる娘の言葉に、理性がガラガラと崩れていく。
衝動のまま、娘の首元に噛みついた。甘噛み程度の強さで、娘の白い肌に歯形を残す。白い首筋に残る鬱血した痕を見て、自分の中の雄が満足した。だが欲望のままに動いたため、娘の視線が怖い。おそるおそる彼女を見ると、娘は柔らかく目を細めて、痕を撫でた。
「お養父さん、印をありがとう」
「おう」
そっけない返事でありながら、しっぽは雄弁に喜びを語っていた。彼は娘を抱き上げ、腕に座らせる。視線をしっかりと合わせて、娘に問いかけた。
「家族にならないか?」
「家族じゃなかったの?」
「こう言えば分かるか。俺のつがいになってほしい」
「嬉しい! 待ってたもの」
娘が喜びを体中で表し、太い首に腕を回して抱きつく。
「そうか、待たせてごめんな」
「いいわ。これから、お養父さんが私を幸せにしてくれるのでしょう?」
狼人族の大きな口の先に、ちょこんと小さなキスをした。彼は顔を赤くしながら、ニッと笑う笑い返した。
「ああ、もちろんだ。まずはお養父さんをやめるか」
「ふふ、分かったわ。ウォルツさん」
ユリーシャの笑顔にあてられて、彼女の髪に頭をうめた。鼻腔が彼女の香りで満たされていく。胸が温かい気持ちで満ちていくのを感じながら、彼女にマーキングを重ねた。
後日、揃いの指輪をしていることを目ざとく見つけられ、とうとうくっついたかとからかわれることになる。これは、とあるつがいの話。
照れ屋な壮年の人外とお人好しな義理の娘のカップルに出会った。
http://shindanmaker.com/107154
この診断メーカーから、書こうと決めました。