逆さま
短編です
※ある一定の行動を想起させる内容となっています
閲覧注意です。
ある日、俺は泳げなくなっていた。
ベッドから起き上がって、適当に朝食でもと足をふみだそうとして、転んだ。足に力が入らなかった。
懸命に頑張っていたのに、どうして俺が?
疑問は疑問を呼んだ。
医者に行くと、何やら小難しい診断名を告げられたけど、そんなものは関係ない。会社に行かなくては。
でもやっぱり体が動かない。それどころか、体が、頭が拒否反応を示しているようで、胃の中がグルグルと気持ち悪くなってきて、朝食を吐き出してしまった。
会社に連絡すると、「もう来なくて良い」と言われ、俺のカラダから一気に力が抜けた。
俺は、今まで何をしていたんだろう。俺は、いったい、何のためにあんなに頑張ってきたんだろう。
鏡を見れば、くたびれてやつれたおっさんが映る。こんな小汚いおっさんを献身的に支えようなんて思ってくれる人なんかいるはずもない。俺はそもそも、恋愛ごとにも向いてない。俺には仕事しか、なかったのに。たった一つの仕事すら奪われたら、俺はどうやって生きていけばいいんだろう。
医者に言われて、カウンセリングというものを受けた。
「今は流れに身を任せて、自由に、のんびり過ごしてみてください」
なんともぼんやりとしたアドバイス。俺は今まで、抗うことしか知らないまま生きてきた。そんな俺が、流れに身を任せる?簡単に言われても困る。
朝起きて、ただコーヒーを飲んで、何もしないまま家で過ごす。別に見たいテレビがあるわけでもない、趣味があるわけでもない。
俺には、何も、何もない。
「時には外に出て、空気を吸ってください」
外に出ても、ビルばかり、自然もくそもない、こんな都会で、心休まる場所なんてありはしない。
とぼとぼと歩くと、大きなビルが目に入った。そうか、高い所なら風を感じられるかもしれない。エレベーターで最上階を押して、しばし待つ。
最上階は、ただのオフィス。何もない。つまらない。階段を見るとまだ上がある。行ってみよう。
うち鍵を開けて、外に出た。あぁ、屋上だ。高いビルから見る町は、なんとも小さくて、人が蟻のようにセカセカと歩いていく。
あぁ、俺もこの中にいたんだなぁ。
あの流れに、俺も乗っていたんだなぁ。
流れに逆らって歩く若者は、通行人を邪魔していることに気づかない。少し羨ましくも感じた。
あの流れに、重力に、逆らわないでみようか、なんて、思いが浮かんでいた。
——重力に惹かれて——
空からビルが生えているみたいだ




