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プペりあい

作者: 吟遊蜆
掲載日:2026/03/29

「おプペりのとこすいません」


 隣の席でパソコンの画面に向かっていた西山田が、なにやら差し迫った口調で声をかけてきた。西山田は入社一年目の後輩社員である。


「別にそんなプペッてるわけじゃないけど、どうしたの?」


 私はたしかにややプペり気味ではあったが、ちょっと先輩らしい余裕をかましたくなって鷹揚な態度を見せた。


「ここの文字をいったんどこかにプペッてから、もう一度こっちにプペり戻したいんですけど、どうやったら上手いことプペれますかね?」


 西山田は画面上のカーソルを右に左に動かしながら訊いてきた。


「ああ、その場合はね」それは何度か先輩に教えてもらったことのある方法だったから、私はすぐに答えることができた。「まずプペりたい文字列を、左から右にプペーッっとプペり潰して点滅した状態にプペるだろ。そしたらその状態でマウスの右ボタンをプペッてやると、その右に『プペる』って選択肢が出てくるから、いったんそれをプペッておくわけ」


「ああ……はいはい、とりあえずプペれたっぽいです」

「あとはそれを、どこでもいいから空いてるスペースにひとまずプペッてから、もう一度それをさっきの手順でプペッたあとに、もとの位置にプペり直してやればいいわけよ」

「なるほどなるほど……あっ、なんかいい感じにプペれました。ありがとうございます!」

「まあ慣れてくれば、秒でプペれるようになるから」

「ほんと助かりました! そういえば先輩、もう昼ってプペりました?」

「いや、これからだけど……」


 そう答えると同時に、私の腹時計が控えめに鳴った。


「じゃあもし良かったら、これから一緒にプペりませんか? 教えてもらったお礼に、今日は俺がプペらせてもらいますよ」

「いやしかし、さすがに後輩にプペらせるわけにもいかんだろ」

「実は俺、ちょうどきのう万プペ券プペッたばっかなんで、余裕でプペれますよ」

「なんだ、それを早く言えよ。じゃあお言葉にプペッて、今日はひとつプペッてもらうかな」


 そうしていそいそと職場からプペッった二人は、やや小雨のプペるオフィス街を傘もプペらずに五分ほどプペッたのちに、西山田が毎日のようにプペッているという定食屋にプペると、店主おプペりの日プペり定食をそれぞれプペ張りながら、お互い特に興味のない近況をプペッては、この人とプペるのは今日だけにしておこうと、心の中でひそかにプペりあうのだった。

【ChatGPT氏によるちょうちん解説】

「言語の皮膚感覚——“プペる”という動詞が侵食する日常」


 この短篇「プペりあい」は、一見すれば奇妙な言葉遊びの小品に見える。だが読み進めるうちに、読者はある種の“言語的ぬめり”に足を取られることになる。意味があるようでない、ないようである「プペる」という動詞が、会話の骨格を侵食し、やがて物語世界そのものの重力をずらしてしまうからだ。


 ここで行われているのは単なるナンセンスではない。むしろこれは、言語が意味を伝達するための透明な媒体であるという前提を、内側から崩していく試みである。「コピーする」「移動する」「奢る」「食べる」といった具体的行為が、すべて「プペる」に回収されることで、言葉は機能を失うどころか、逆に過剰な機能を帯び始める。読者は文脈から意味を推測し続けるが、そのたびに足場はわずかにずれていく。


 興味深いのは、この言語の撹乱が、極めて凡庸なオフィスの日常を舞台にしている点だ。後輩への操作説明、昼食への誘い、ささやかな上下関係——それらはどこにでもある光景でありながら、「プペる」という言語の霧に包まれることで、現実の輪郭を失っていく。結果として立ち上がるのは、“意味が共有されているはずの空間において、実は何も共有されていないのではないか”という、静かな不安である。


 とりわけ終盤、「この人とプペるのは今日だけにしておこう」と心中で呟く一文は印象的だ。ここでの「プペる」は、単なる食事や会話を超えて、人間関係そのものを指し示しているように読める。つまりこの物語は、言語の不確かさを通じて、他者との関係の不確かさをも描いているのである。


 「プペる」という語は、意味の代替ではなく、意味の“生成装置”として機能している。読者はその都度、自らの経験や語彙を持ち寄って空白を埋めるしかない。言葉が世界を説明するのではなく、言葉によって世界がその場しのぎに編み直されていく——その危うい均衡の上に、この短篇は成立している。


 読後、ふと日常の言葉遣いが頼りなく感じられるかもしれない。「コピーする」と言ったとき、私たちは本当に同じ行為を思い浮かべているのか。「奢る」と言ったとき、そのニュアンスは一致しているのか。本作はそうした問いを、ユーモラスな仮面の奥から静かに差し出してくる。


 気づけば私たちもまた、誰かとどこかで、すでに“プペりあって”いるのかもしれない。

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