秘密ミッション
新しい試みとして、「同じ一文から始まる物語」のシリーズを始めます。
今回のお題は「荷物が届いた」。
謎のマーク、配達員との謎の会話、届いたノートパソコン、そして物語は転がり出します。
荷物が届いた。
「こちらにサインか印鑑をお願いします。」
僕は、いつでも使えるように玄関の靴箱に置いてある印鑑を取り出して、斜めにならないように、でも几帳面な男だと思われないように少し適当な雰囲気も出しながら、伝票に押印した。
点線で作られた丸の右下に、小さな鳥のマークがある。
「ありがとうございます。このあと土砂降りらしいですね」
「…そうなんですね、こんなに晴れてるのに土砂降りなんですね」
「傘一本じゃ足りないかもしれませんね」
「普通一本ですけどね」
「それでは失礼します」
「お疲れ様です」
僕は玄関のドアを閉め、サンダルを脱いで部屋に戻る。
配達員は台車に残った他の荷物を運び、隣の部屋のインターホンを押しているところだろう。
僕は、ため息をつく。
宛名を確認せずに、届いた荷物を開封する。
中には案の定薄型ノートパソコンが入っており、電源アダプタは入っていないのに、ご丁寧にイヤホンは同梱されている。
そんなに薄い壁の部屋に住んでいるつもりはないが、念には念を入れて、ということだろう。
今日の天気予報は晴れ、降水確率は0%、道行く人は誰も傘なんて持っていない。
彼は「土砂降り」で「傘一本では足りないかも」と言っていた。
どこの世界に傘を二本差す人がいるのか。
このままノートパソコンを開かずに遊びに行くこともできる。
できるが、そうするときっと遊びに行った先で、例えばカフェの店員さんとかに「このあと土砂降りらしいですね」と言われるのだろう。
こんないい天気なのに。
僕は諦めて、ノートパソコンを開き、ご丁寧に同梱してくれたイヤホンを挿して電源を入れると、映像がすぐに再生され始めた。
映像では、テーブルで俯き気味で深刻そうな顔をした短髪ひげ面の男が、顔の前で両手を組んで座っている。
『君がこの映像を観ているということは、僕はもう』
『そういうのいいんで早く』
『やってみたかったんだよ』
『うるさいです。このあと予定あるんで早くお願いします』
どうやら撮影者がツッコミ役のようだ。
画面の男が話を続ける。
『君がこの』
『切っていいですか?』
『あ、録画じゃなくて僕を物理的に?待って待って、ごめんごめん』
画面の端にナイフが映り、男が慌て始める。
早送りしたい。
『本題だ。今夜港に海外マフィアからのお届け物が届き、それを日本のかわいいやつらが回収しに行く。君には、その現場に赴いてもらって、そのお届け物を根こそぎ横取りしてほしい』
そんなの新人にやらせればいいのに。
『そんなの新人にやらせればいい、と思ったろ?それが、日本側がガード役に結構な手練と人数を揃えているらしく、新人の手に負えないと判断した』
画面の男は、「わかってるよ」という感情を隠さずにニヤニヤしている。
『もう一点、当然のことながら、この件の目撃者は"ゼロ"だ。掃除はあとで手配しておく。人数も多いから、念のため二丁送っておいたよ』
なるほど、「土砂降り」で「傘が一本では足りない」というのはそういうことか。
ノートパソコンが入っていた箱を見ると、底が二層になっていて、中から二丁の拳銃が出てきた。
『健闘を祈るよ。なお、このメッセージは5秒後に』
『消えないでしょ』
『廃棄しておくように』
公園でのんびりして、夜は映画のレイトショーでも観に行こうと思っていたのに。
二度目のため息をついて、僕は埠頭までの行き道を調べ始めた。
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