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6我儘目 アタシはなんなの?


 しばらく寝ていたと思ったら、部屋が変わっていた。


 周りの雰囲気は変わっていて、物置小屋みたいに埃臭くて――


「お札だらけだな……」


 奇妙な部屋。いるだけで気分が悪くなる。お札なんて一枚あれば肩にのしかかるような気味の悪さがあるのに、それが壁一面にびっしり貼ってあって、まるでアタシが封印対象みたいじゃん。


 アニメじゃあるまいし。なんだかバカにされている気分だわ。

 

 目もすっかり冴えたから、眠る前の出来事を思い出してみる。ここに連れてこられて、ゆっくりしろって言われて、お茶を飲んだら眠くなった。疲労からくるもんだと思っていたけど、薬が効いてどうのって言ってたよな?


 ってことはよ? アタシは監禁されているんじゃないの? 違う? え?

 

 臓器がバクバク音を立てて、血が煮えたぎる。

 開けろと叫んだって、はいどうぞと出してもらえるわけがない。なら自力で出るしかないわけじゃん。


 窓もない。物もない。あるのは布団と簡易トイレだけ。さっきは物置小屋だと思ったけど訂正。刑務所みたいに自由のないじめじめした部屋に独りぼっち。

 ここにいたら何をされるかわからない。アタシが何したってんだよ。


 不安は怒りに変わる。不安も最高潮になると、全身が熱くなって無意識に体を動かしてしまうらしい。


「開け!」


 地震で歪んだ扉は案外脆かったのか、蹴り1回で開いた。廊下に出たら人もいない。逃げるなら今。

 お父さんとお母さんには、神社の人に乱暴されそうになったから逃げたと言えばわかってくれるだろうし。


 音を立てないようにそっと廊下を歩く。


 でも、さっきは地震のおかげで出られた。けれど今度は地震のせいで木の床が軋み、体重の掛かった場所がギシギシ鳴る。


「やば」


 声も出しちゃった。口を塞いでも、吐いた言葉は戻らない。大したことがない音だと言い聞かせたけど、あれだけ大勢がいれば誰かは気づいちゃうもんらしい。


「部屋を出たのか!」

「義理子さん! 逃げてます!」


 アタシの脱走は伝言ゲームのように伝わって、あっという間に人が集まる。こういう時、あきらめないで突き進むのが映画の主人公だけど……アタシはおとなしく従う? 

 でも何されるかわかんない。逃げればよかったと後悔することにならないかな。


 考える間にも体は動く。運が少しでも向いているようで、近くには使っていない突っ張り棒が立てかけてある。ただ振り回すんじゃ勝てないけど、ひとりひとりを突いたら違うかも。

 いろいろされたんだから、小突くくらい許されていいはず。


 それにアタシは沖田だし。高校生の頃、居合道部で鍛えた技を使う時だ。


「どけ! アタシは家に帰るんだ!」


 無我夢中ってこういうこと。いくらわがままなアタシでも、人の「痛い」って声を聞けば手が止まる。


 突いて、弾いて、押し退けて。


 社務所の玄関を飛び出したら、外にも人がいる。いると思ってたけどさ、巫女やらスーツ姿の偉そうな人とか……どこかの偉い人がここにいるかのような厳重警備っていうか……。


「逃げた!」


 社務所の中の誰かが叫べば、皆の目の色が変わる。


「マジかよ……」


 迷ってる時間もなくて、階段を駆け降りる。転んだら終わりだと、もう戻れない。今更、やっぱり神社に居ますとも言えない。


 舗装の乱れた階段を暗いまま降りるのは賭けに近い。


「呪われてるんだ! 戻りなさい!」

「意味わかんないこと言うな!」


 他にもいろいろ言われている。でも全部に返事も相手もしてられない。


 後ろから浴びせられる言葉が孤独への恐怖を煽る。


 それでも――


「うるさい! アタシは家に帰るんだよ!」

 

 本音を叫ぶことしか出来ないんだ。


 逃げて、逃げて、逃げまくって。ボロっと涙が落ちる。そうしたらまた地面が揺れるけど、立ち止まれるもんか。


 助けてくれる人が必ず居る。アタシにはアイツしか居ないんだもん。


 いよいよ鳥居も見えるという時に、降ろされた白い布を捲られた。暗い空の下に人影。うわ、下にも人が居るんだ。


「沖田!」


 あれ……? 


 聞いたことのある声。両手を広げる影。思わず飛び込んでしまったけど、罠かもしれない!


 離せと藻掻けば力強く抱きしめられ、鼻には慣れ親しんだ匂いが心を落ち着かせてくれた。


「土方!? なんでここに?」 

「たまたまだ! たまたま!」


 土方の口元が笑ってる。たまたまでここに来れるもん?

 でもいい。アタシの願いが通じたんなら、それが偶然でも必然でも、そうじゃなくても。


 だからもう、増える追手も怖くない。手を引いて走ってくれる土方がいるんだもん。


「来ないで!」


 怒りをあらわに叫べば雷鳴が轟き、大きな鳥居に直撃して倒れた。アタシが雷を操ってるみたいだな……と厨二病めいたことを考える。


「今の沖田がやったのか!?」

「よくわかんないけど、さっきから偶然が多いだけじゃない!?」


 土方と走り続け、神社から少し離れた広瀬川の橋下へ身を潜めた。

 アタシはずっと泣きっぱなしだったみたいで、風で涙が乾いて少し痛い。


 土方が大丈夫と背中を摩ってくれて、落ち着きと同時に揺れも収まっていく。


 今までのことに説明を求められたけど、何が起きてるのかわかんない。だからそう言うしかないの。


 土方はアタシの顔色が良くないといって、着ていたアウターを体にかけ、手で腕を摩り、摩擦で温かくしてくれる。


 家に帰るまでは安心出来ないはずなのに、土方の匂いと、体が温かくなっていくので、すっかり安心しちゃう。


 瞼が降りてくる。今度はちゃんと、自分の意思で眠れそうだ。

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