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1我儘目 土方守という保護者(2)


 今日は午後からの講義もないようだし、一緒に帰ることにした。


 途中で飲みの誘いを受けた。土方を誘う女の子たちの視線が苦手だから目を逸らした。どうせ邪魔だなって思ってんでしょ。


 土方はアタシは人見知りだと言ってかばってくれたけど、その目は変わらない。女の敵は女。マジな話だよ。


 けど、今日は土方に本気で用事がある。アタシらしくないから切り出すには時間がかかる。


 今言おうと思っても、声帯が言うことを聞かない。


 下を向き、つま先を見つめるように歩いていたら、突然声が漏れたりする。


「あの、さぁ」

「ブーツは買わんぞ」

「まだ何も言ってないだろ!」


 心外だ! まだ何も言ってないのに!


「まるでアタシがいつもたかってるみたいだろ!」

「ああ」


 まさにその通り、そう思われるのは完全に日頃の行いだ――とでも言いそうな顔をしやがって!


 今回はホントに本気で不安で仕方がないのに。それがわからないなんて、0歳から一緒にいるくせに幼馴染の風上にも置けないヤツ。


 もう相談するのやめた! 


 フンと顔を背けたら、土方が歩きながら顔を覗き込む。


「何かあったのか?」


 なんだよ。わかってんじゃん。足を止めて、近くのガードパイプに寄りかかってブーツをせっせと脱ぐ。


 アタシの悩みは足にあるんだ。


「アタシの爪先にさ、痣があるじゃん。ずっとあるやつ」

「ああ」


 生まれつき、両足の爪先には青紫色の痣がある。この痣で悩んだことはないけど、最近急に痣が広がった。思わず隠したくなるくらい広く。青く、禍々しく。


「痣が広がってきてる気がするんだよ。ほら、見て」


 右足を上げて爪先を見せる。


 親指の付け根から小指の付け根まで広がっていたマーブル模様が、足首の方まで侵食されるかのように広がってるの。


 しかも両足。さすがに不安になる。


「聡さんと葵さんには言ったのか? 病院は?」

「言ってないし、行ってない。小言言われそうだもん。お父さんがハロワに行けってうるさいし」

「体に異変が起きてるんだぞ? ニートであることを怒られても、体調のことで小言は言わんだろ。今から病院行くか? 金なら立て替えて出してやるから」


 土方は携帯を出してすぐに検索をしてくれる。そのくらいアタシもやってるっての。

 でも、この痣はぶつけたとか、挟んだとか……そういうんじゃない。


 多分、オカルト的な信じがたいことが絡んでいる気がする。


 だって絶対、“あの本”が原因だもん。


 なんて言えるわけがない。


「行かない。別に痛くないし」

「放置していい範囲じゃないだろ! ほら、付き合ってやるから」


 土方が不安そうにすると、怖くなる。


 入院になったらどうしよう。何日入院するんだろう。その間に土方が他の沖田を見つけたら?

 そしたら、アタシいらなくなっちゃうの?


 だったら痣なんかどうでもいい。だから強く否定した。


「行かない! 絶対行かない! 行きたくない!」

「……はあ。そこまで言うなら……聡さんたちには言えよ。それから、少しでも変化が起きたら報告しろ。時間とか、気にしなくていいから」


 胸の奥で、じわっと何かがあふれた気がした。目の奥が熱くなって、土方の優しさが怖く感じるくらい嬉しい。


 ま、端から時間なんて気にしないけど。


「わかった。それは言うこと聞いてあげる。だから、ゲーセン行きたい」

「ゲッ……!? お前ってやつは相変わらず……」


 その後も思いつくだけのワガママを家に着くまで言ってあげた。手にはゲーセンでとってもらった唐揚げのクッション。


 めちゃくちゃ欲しいわけじゃなかったけど、土方がムキになって取ろうとするから、乗るように欲しがってあげたの。


 取れた時のドヤ顔ったら笑えた。


 確率が来て景品が取れただけのこと。自分の腕がよくて取れたんじゃないのに、何で得意げなんだか。


 明日のワガママも取り付けて、アタシが家の扉を閉めるまで見ていてくれる。


 土方を異性として意識はしていない。けど、絶対に離れてほしくない。


 毎日いると、話題がなくなるから。だからワガママに振る舞って、気を引いてるの。


 扉を閉めたら、土方のいない時間と向き合わなくちゃいけない。リビングの灯りが付いているから、お母さんが帰ってきているんだ。


 さっきまで穏やかだった心臓が、耳に届くほどの音量で脈を打つ。


「ただいま」

「……」


 お母さんは反射的にアタシを見てすぐに携帯に視線を変えた。無視は慣れたけど、この冷えた空気には何年経っても慣れない。


 テーブルに置かれた冷凍食品やレトルトはアタシの晩御飯だ。準備してもらってるだけ、ほありがたいんだと思う。


 自室のある2階に行こうと右足を動かしたら、お母さんは勢いよく椅子を引き、立ち上がった。


「働かないくせに無駄遣いばっかして」


 手に持っている唐揚げクッションを見て言っているんだ。


「こ、これ、土方が獲ってくれて」


 お母さんは私の言葉に被せて溜息を吐きながら、足音をわざと鳴らして2階へ行ってしまう。


 正論だから言い返せないし、そもそも逆らえない。だから他人みたいに頭を下げることしかできないんだよ。


 下を向けば向き合うべき現実がもう一つ。


 白い靴下には、うっすらと痣の影が見えた。


 言った方がいいかなと考えても、2階から激しく扉の閉まる音がして萎縮してしまう。


 会話も出来ないのに、足のことなんて伝える気になれないよ。

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