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1我儘目 土方守という保護者(1)


 アタシは、土方守ひじかたまもるを振り回して生きてきた。


 男女の幼馴染というだけで、付き合っているだの、将来結婚するだの勝手に騒がれた。


 アタシもそうだと思ってる。


 根拠のない噂と偏見のおかげで、確実な居場所を手にしたつもりでいるの。


 だって「土方と沖田」だよ? 新撰組のあの2人、その名前を持って生まれたがゆえの宿命だよ。


 沖田家と土方家がたまたま隣同士で、たまたまかの有名な新撰組のあの2人と苗字が同じというだけでこの有様。


 ちなみにアタシ達は新撰組の2人の子孫でもなんでもないんだけど。


 あ、土方は違うかもだけど、アタシはもしかしたら沖田総司の生まれ変わりかもしれないな。


 まあ、どっちでもいいけど。とにかく、土方はアタシの隣にいなくちゃダメ人間なの。そう、神が言ってるに違いない。


 でも他の“沖田”が現れたら? 


 そうならないように、毎日見張ってるから大丈夫。


 土方はアタシから離れられないんだから。


 そんな土方は大学生。いっちょ前に国立大になんか合格しちゃって、翻訳家を目指して毎日お勉強中。


 アタシは大学に行かせてもらえなかったから、絶賛ニート中。


 だから土方がちゃんと勉強して、悪い虫に憑かれてないか毎日確認しに行ってるってワケ。


 どこにって? そりゃもちろん大学だよ。


 学食なら誰でも入っていい。アタシはルールは守るもん。学生たちを掻き分けて、土方を探す。いつも窓側の席にいるからすぐ見つかるはず。


 藍にも見える黒髪、無駄に高い背。それが土方。ほらね、やっぱり窓側にいる。

 食べてるのは学食のホットサンドとホットコーヒーでしょ。ただの土方のくせに、気取ってやんの。


 でも、アタシはここにご飯を食べに来ているわけじゃないから。駆け寄って行くわけないじゃん。あっちから来させんの!


「ひ、じ、か、たァ!」


 でかい声で呼んでやる。もちろんアタシを、みんなが見る。でも、他人の目なんて気にしない。


 だって土方はアタシのだって、見せしめに来てるんだもん。土方と目が合うけど、渋い顔してくる気配がない。


 だからもう一回、癇癪気味に呼んでやるの。


「ひぃじぃかぁたぁ!」


 ――ほら、やっと来た。怖い顔して向かって来る。それでね、手の届く距離に入った瞬間、額に一発デコピンを食らわせてやるの。

 身長が高くてつま先立ちして、わざわざね。


 舌打ちみたいな「痛い」を吐いて、同時に額を抑えてる。やりすぎたかな。


 でも、後には引けない。


「遅い! アタシが呼んでんだからさっさと来いっつぅの! ほら、唐揚げ定食のお金! 払って!」


 会いに来たなんて言いたくないから、お昼ご飯をカツアゲするの。アタシは唐揚げが好きだし、この大学の唐揚げは美味しいし。


 学生でもないのに通う理由としては十分でしょ。


「何が払って、だ! 大学は関係者以外立ち入り禁止だって何度も言ってるだろ!」

「こっちも何度も言うけどね、学食は誰でも入れんの! このくらい常識だろ、常識。どうせ図書館も入れるの知らないんだろ? 相変わらず頭カチンコチンなんだなぁ……勉強ばっかりじゃダメなんだぞ! ふ、く、ちょ!」

「ったく、お前って奴は!」


 怒ってるけど、ちゃんと財布を出してくれる。申し訳ないなあと思ってるよ。一応、ね。でも、大学生って飲み会とか旅行にすぐ行きたがるから。


 財布の中も管理してあげないと、悪い虫が付くからね。


 これが不自然にならないのは、幼馴染という呪縛のおかげ。この苗字だし、なおさら強固なものになる。


 大学に入るなとか、毎日奢らせるなとか怒られるけど気にしない。ご飯を食べて、そのまま午後の講義が終わるまで待ってあげるんだから優しいでしょ。


 束縛だとか思うなら、勝手に思えばいい。なんやかんや言っても、土方はアタシを見捨てないからね。


「結構可愛いよな」

「毎日いるから連絡先聞いてみれば?」


 例えば、こんな風に近くから下心丸出しのひそひそ声が聞こえてくる。体を舐めるように見られて、嫌な視線。


 自画自賛だけど、アタシは可愛いしスタイルもいいから声をかけられるのも驚くことじゃないもんね。ま、美人の義務ってヤツだわな。


 容姿がいいと嫌な思いもするけど、土方が守ってくれる。だからそんな言葉に動じないし、怖気づいたりもしない。


「やめとけ。沖田は俺にしか扱えない。無闇に近づくな。破産するぞ」


 ほらね。束縛したいのはアタシだけじゃないの。男女の関係じゃなく、沖田と土方の間には何人たりとも入っちゃいけないし、入れない。


 アタシは何も気にしないフリをして、窓側の席に着いた。そして、定食の唐揚げに箸をつけて、もうひとワガママ言ってやる。


 嬉しくて余計なこと言いたくなるってこと、誰にでもあるでしょ?


「ねぇ土方! レモン持って来てよ! 緑のキャップのやつ!」


 溜息をつかれるけど、次のセリフもわかっている。アタシ、ホントは唐揚げにレモンかけるの嫌いだからね。


「加減がアホだから、びしゃびしゃにするだろ! 衣が濡れて気持ち悪いとか言って残して俺に食わせてくるんだ。俺はレモンはかけないんだよ! どうせならソースかけろ、ソース!」

「今日はレモンかけたのが食べられる気がするんだよ! そういう気分なの!」


 怒りながらも持ってきてくれる。そうしてレモン汁をかけた唐揚げはしっかり残す。


 定食もあんまり食べられない。じゃあなんでたかるかって?


 土方はちゃんとご飯を食べないから。


 勉強やバイトでパソコンばっかり見て、空腹にも気づかないんだよ。だから定食を半分こしてあげてるってワケ。


 バイト代がなくなるのはアタシのせいかもしれないけど、それはそれだからいいの!

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