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第九章 正しさは、必ず何かを奪う


 戦闘は、

 想定よりも

 過酷だった。


 魔物の数が、

 多すぎる。


 影狼だけではない。

 甲殻を持つ

 突進型の魔獣。


 群れを率いる

 上位種が、

 咆哮を上げた。


「来る!」


 レインは

 前に出る。


 だが、

 一歩目で

 踏みとどまった。


 抑える。

 力を。


 ――約束だ。


 剣が閃く。

 速さは

 落とさない。


 だが、

 一撃で

 終わらせない。


 時間を稼ぐ。

 包囲を

 分断する。


 その間、

 エリナが

 動いた。


「右、

 毒です!」


 負傷した村人に

 駆け寄り、

 薬を塗る。


 震える手。

 だが、

 止まらない。


「次!」


 声が、

 少しだけ

 強くなっていた。


 セリナは

 後方で

 指示を飛ばす。


「東側、

 避難路を優先!」


「レイン、

 三体来るわ!」


 視界の端で、

 子どもが

 転んだ。


 魔獣が

 迫る。


 ――間に合うか。


 レインは

 全力で

 踏み込んだ。


 剣が、

 甲殻を

 砕く。


 だが、

 同時に。


「……あ」


 エリナの

 声が

 途切れた。


 彼女の足元で、

 影が動く。


 小型の影狼。


 気づくのが、

 一瞬

 遅れた。


「エリナ!」


 叫ぶ。


 剣を振る。


 斬れた。


 だが――


 遅かった。


 影狼の牙が、

 彼女の肩を

 掠める。


 血が、

 散った。


 エリナは

 倒れなかった。


 歯を食いしばり、

 立ったまま、

 薬袋を

 落とす。


「……まだ、

 終わって

 ません」


 その声は、

 震えていた。


 レインの胸が

 締め付けられる。


 抑えた力。

 分けた役割。


 正しい判断。


 ――それでも、

 守れなかった。


 セリナが

 叫ぶ。


「撤退線を

 引いて!」


 戦況が、

 傾いていた。


 村の端、

 最後の家屋が

 崩れる。


 魔物の群れが

 薄くなった。


 レインは

 判断した。


 ――ここだ。


 抑えていた力を、

 解放する。


 一閃。


 風圧が

 地面を

 削り、

 上位種が

 倒れる。


 群れが、

 逃げ始めた。


 戦闘は、

 終わった。


 勝利だった。


 だが、

 誰も

 歓声を

 上げなかった。


 エリナは

 地面に

 座り込んだ。


 肩の傷から、

 血が

 滲んでいる。


「……ごめんなさい」


 彼女は

 俯いて

 言った。


「私、

 足を引っ張りました」


 レインは

 首を振った。


「違う」


 短く、

 だが

 強く。


「選んだのは、

 俺だ」


 守らせた。

 立たせた。


 それが

 彼女を

 傷つけた。


 ――正しさには、

 必ず

 代償がある。


 王子の

 切り捨ても。


 セリナの

 罪も。


 そして、

 自分の選択も。


 すべて、

 同じ重さだと、

 この時、

 理解した。


 遠くで、

 王都の方向から

 角笛が

 鳴った。


 追手だ。


 命令違反の

 代償が、

 来る。


 レインは

 立ち上がり、

 二人を

 振り返った。


「……帰ろう」


 勝者としてではない。


 選択の

 責任を

 背負う者として。


 朝日が、

 焼け跡の村を

 照らしていた。


 救われた命と、

 傷ついた心を、

 等しく照らしながら。


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