第七章 悪役令嬢の罪は、善意から始まった
村へ向かう準備は、
密やかに進められた。
公式には、
レインは
王都防衛任務に
就いていることになっている。
命令違反。
それを承知の上での
出立だった。
「……ここまでして、
本当に行くのね」
夜明け前、
城下の馬車溜まりで、
セリナが言った。
「行く」
レインの答えは
短い。
エリナは
薬袋を抱え、
不安そうに
二人を見ていた。
「私も……
行かせてください」
その声に、
セリナが
首を振る。
「だめよ。
あなたは、
ここに残るべき」
「でも――」
「これは、
私の罪なの」
セリナは
そう言って、
夜空を見上げた。
やがて、
静かに語り始める。
「……あの孤児院、
知っているでしょう」
エリナが
小さく頷く。
「王子殿下が
婚約候補を
探していた頃」
「私は、
王家に近い
立場にいた」
レインは
黙って聞いていた。
「孤児院の資金は、
王国の補助金だった」
「けれど、
戦争準備で
打ち切られた」
セリナの声は、
震えていなかった。
「子どもたちは、
行き場を失う」
「だから私は、
勝手に――
王家の予算を
流用した」
それは、
明確な罪だった。
「発覚すれば、
横領。
王権侵害」
「処刑は免れても、
すべてを失う」
セリナは
レインを見た。
「それが、
私の破滅」
エリナが
唇を噛む。
「でも……
それは……」
「善意?」
セリナは
自嘲するように
笑った。
「そうよ。
だから、
質が悪いの」
「王子は
正しかった」
「私は、
正しさを
壊した」
レインは
初めて、
口を開いた。
「……後悔は?」
セリナは
一瞬だけ
目を閉じ、
すぐに答えた。
「ないわ」
「子どもたちは、
救われた」
「だから私は、
裁かれる覚悟がある」
その言葉に、
レインの胸が
軋んだ。
――正しいが、
許されない。
それは、
王子と同じ立場だった。
「だからこそ」
セリナは
続ける。
「あなたには、
違う答えを
選んでほしい」
「力で押し切る
正しさでもなく」
「犠牲を
当然とする
正しさでもない」
彼女は
まっすぐに
レインを見据える。
「あなた自身の
答えを」
沈黙。
やがて、
レインは
小さく頷いた。
「……ああ」
その時、
遠くで
警鐘が鳴った。
村の方角からだ。
時間は、
もうない。
セリナは
馬車に乗り込む。
「行きましょう」
「罪人としてではなく、
一人の人間として」
夜明けの光が、
彼女の背を
照らしていた。
悪役令嬢は、
自分の罪を
理解した上で、
それでも
前に進んだ。




